著者
後藤 拓也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.145-165, 2016-07-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

本稿では,カゴメ(株)を事例に,大企業が広域的な農業参入をどのように進め,それが地域にいかなる影響を与えるのかを,地理学的な視点から検討した.カゴメは1990年代の早い時期から生鮮トマト栽培に参入し,リスク分散や周年生産を重視しながら多元的・広域的に生産拠点の形成を進めてきた.特にカゴメは,西日本の中山間地域に多くの直営農場を設立したが,これらは過疎に悩む自治体からの誘致によるものである.実際,高知県三原村では,村が多額の予算を投じてカゴメの農場建設を支援していた.カゴメの進出によって,三原村では農業生産額が大きく伸び,若年層が従業員として周年雇用されるなどの効果が認められる.しかし三原村の事例からは,農場立地に伴う地域農業への波及効果は乏しく,また農場の従業員は大半が村外から雇用されるなど,カゴメ誘致の効果が必ずしも自治体や地域農業に還元されていないという問題点も明らかになった.
著者
後藤 拓朗 村田 尚道 前川 享子 神田 ゆう子 小林 幸生 森 貴幸 宮脇 卓也 江草 正彦
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.209-216, 2013-12-31 (Released:2020-05-28)
参考文献数
29

【目的】カプサイシンは赤唐辛子に多く含まれる成分で,嚥下反射の促進効果が認められている.咽頭の知覚神経からサブスタンスP(以下SP)を粘膜中に放出させ,SP濃度が上昇することによって反射が惹起されやすくなるとされている.現在,嚥下障害のある患者が容易に摂取できるように,フィルム形状のオブラートにカプサイシンを含有させたカプサイシン含有フィルムが市販されている.しかし,摂取後の嚥下反射促進効果については,十分検討されていない.そこで,本研究では,カプサイシン含有フィルム摂取後の嚥下反射と咳嗽反射への効果,および唾液中SP 濃度への影響について検討した.【方法】対象は,20 歳から40 歳までの成人男性(17 名)とした.カプサイシン含有フィルム(カプサイシン含有量1.5 μg/枚)とプラセボフィルムを用い,クロスオーバー二重盲検法にて行った.フィルムを摂取する10 分前の安静時の値を基準として,摂取後10 分ごとに6 回の嚥下反射および咳嗽反射を評価した.嚥下反射の評価として,簡易嚥下誘発試験による嚥下潜時を測定した.咳嗽反射の評価は,1% クエン酸生理食塩水を用いて咳テストを行った.さらに,摂取前10 分,摂取後10,20 分に唾液を採取し,ELISAキットにて唾液中SP 濃度を測定した.プラセボフィルム摂取時の値をコントロール群,カプサイシン含有フィルム摂取時の値をカプサイシン群として,両群を比較した.統計学的分析はFriedman test およびWilcoxon の符号順位和検定を用いて行った.【結果】カプサイシン群では,摂取前と比較して摂取後40 分で嚥下潜時の短縮を認め,コントロール群では差は認められなかった.また,コントロール群と比較して,カプサイシン群は嚥下潜時が摂取後20,40 分で有意に低値を示していた.その他の時間および他の評価項目では,有意差を認めなかった.【結論】カプサイシン含有フィルム摂取により,嚥下反射の促進効果が,摂取後40 分に認められた.
著者
後藤 拓也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.457-478, 2002-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
3 2

本稿はカゴメ株式会社を事例に,食品企業が農産物流動の国際化にどのように関与しているのかを明らかにした。日本のトマト加工品輸入量は1972年以降急増し,早くから国際的な農産物流動を経験してきた.その輸入地域は,1980年代までは台湾に依存していたが,1990年代以降は著しく分散化し,空間的変化が顕著である.輸入地域の1980年代以降の変化は,基本的には原料のコスト要因に規定される傾向にある.しかし,輸入量の約50%を占めるカゴメの海外調達戦略が,輸入地域の空間的変化に大きな影響を与えていた.そこでカゴメを事例に,企業単位で海外調達のメカニズムを検討した.その結果,カゴメが1980年代以降に海外調達提携先の多元化を進め,調達地域を著しく分散化させてきたことが確認された.カゴメによる海外調達先の分散化は,調達用途の多様化,調達のリスク分散,調達の周年化を進める上で重要であり,低コスト調達のみを追求した結果ではない.事実,カゴメの調達組織では,海外産地に対し多面的な評価を行っている.一方,カゴメによる海外調達の進展は,国内調達にも大きな影響を与えた.カゴメは,自らの国内産地を輸入原料で代替困難なジュース専用産地に位置付ける必要があり,国産原料をジュース専用品種へ全面的に転換したのである.これは,カゴメが海外調達で進めてきた用途別調達,分散調達,周年調達が,国内調達と連動していることを端的に示している.
著者
後藤 拓也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100308, 2017 (Released:2017-05-03)

インドにおいては、1990年代以降の経済発展によって食肉生産量が顕著に増加し,全国的に畜産地域の形成が進んでいる。このような趨勢は,インドにおける「緑の革命」や「白い革命」になぞらえて,研究者らによって「ピンク革命」と呼ばれる。なかでもインドでは,牛肉や豚肉に比べて宗教的制約を受けにくい鶏肉の生産拡大が著しく,鶏肉部門は2005年に水牛肉部門を抜いて,インド最大の食肉部門へと成長した。このような状況にもかかわらず,インドの鶏肉産業についての研究は,インド人研究者らによる南インドを対象とした経営学的研究や,USDAによる報告などにとどまり,地理学的な視点に基づいた実証的研究は,いまだ十分に得られていないのが現状である。先行研究によれば,インドの鶏肉産業には南北で大きな地域的差異があり,養鶏業に適した諸条件を持つ南インドに比べて,養鶏業に有利でない北インドでは産地形成が遅れているという認識が一般的であった。ところが2000年代以降,北インドでも急速に産地形成が進み,ハリヤーナー州では全国的にも突出したブロイラー飼養羽数の増加率が認められる。   本研究では,①インドの鶏肉産業がどのようなメカニズムで発展し,南北間の地域的差異が形成されたのか,②もともと養鶏業に有利でないとされる北インドのハリヤーナー州において,いかなるメカニズムで鶏肉産業が発展したのか,③北インドの鶏肉生産を支えるハリヤーナー州のブロイラー養鶏地域(および養鶏農家)は,どのような存立基盤のもとで成り立っているのか,という3点を地理学的視点から明らかにしたい。  1990年代以降,インドの鶏肉産業を主導してきたのは,Hatcheriesと呼ばれる大手孵卵企業群である。これら大手孵卵企業は,Improvedと呼ばれるブロイラーの改良品種を1980年代に相次いで開発し,それらが1990~2000年代にインド全土に普及した。なかでも,インド最大手の孵卵企業Venkys社が開発した新品種Vencobbは,現在インドで生産されるブロイラーの約65%を占める。Venkysの支社が立地するハリヤーナー州ではこのVencobbの普及率が高く,これがブロイラー農家の生産性や収益性を向上させ,1990年代以降の急速な産地発展につながったことが窺える。   さらに,北インドの鶏肉産業が発展した背景として重要なのは,1992年におけるデリーでの鶏肉卸売市場(ガジプール市場)の開設である。このガジプール市場では現在,87の鶏肉卸売業者がブロイラーの生鳥集荷に携わっている。2015年12月に実施した聞き取り調査によれば,それら業者の大半がハリヤーナー州からの生鳥集荷に依存しており,ハリヤーナー州はデリー首都圏への鶏肉の一大供給拠点となっている。しかし多くの業者は,ナシックやムンバイなど1,200kmも離れた産地からブロイラーを集荷するなど,市場の集荷圏がきわめて広範囲に及んでいることも判明した。   ハリヤーナー州におけるブロイラー養鶏地域の実態を把握すべく,デリー近郊のグルガオン県に所在するブロイラー養鶏農家に対し,2016年2月に聞き取り調査を行った。その結果,殆どの農家がVenkys社の新品種Vencobbを導入しており,しかも多くの農家がこれまで複数回にわたって品種を変えるなど,生産性や収益性を求めて試行錯誤を行ってきたことが明らかになった。また対象農家の殆どが,2010年頃まではガジプール市場に生鳥を全量出荷していた。しかし近年,多くの農家がより良い販売条件を求めてローカル市場(グルガオン県マネサール)に出荷先をシフトしている。さらに,対象農家の殆どが州外からの出稼ぎ労働者にブロイラー飼養を担当させ,自らは野菜栽培に専念するなど,ブロイラー飼養が農業経営の一部に巧みに組み込まれていることが判明した。
著者
後藤 拓也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.369-393, 2001-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33

選択的拡大部門における拠点開発的な産地形成論は,わが国の周辺地域に「周辺型食料生産基地」の形成を促した.輸入農産物の急増によって,これち周辺型食料生産基地が著しい再編成を迫られることが,既存研究でたびたび予測されてきた.こうした議論に対する実証的回答を得るべく本稿は,国際化による顕著な再編成がいち早く現れた南九州ブロイラー養鶏地域を事例に,その再編成メカニズムを検討したものである. 1973年り畜産危機以降も垂直的統合を維持した一部的総合商社は,南九州を解体品供給地域と位置づけ,南九州養鶏地域の肥大化を促進してきた.しかし,輸入鶏肉急増による解体品価格の下落で, 1990年以降の南九州養鶏地域は急速な再編成を迫られる.南九州のうち宮崎県では1990年以降,全国有数のプロイラー飼養過密地域である児湯地域が急速な衰退を呈するが,それを規定した三つの要因が地域レベルで確認された.それは(1)飼養過密性に起因する生産低下,(2)大手ブロイラー処理場による集鳥戦略の変化,(3)低収益性と施設資金償還に起因する児湯地域内236農家の顕著な対応分化であり,これらの複合的作用が地域的差異を伴う再編成を進行させたのである.その一方,養鶏地域形成を主導した総合商社は,再編成において必ずしも中心的役割を果たさなかった.このように,国際化による南九州養鶏地域の再編成は,輸入鶏肉にに因する解体品価格の下落が,地域レベルに内包されていた低生産性を顕在化させるという,複層的メカニズムとして解釈できる.っまり・周辺型食料生産基地の再編成は国際化によって一面的に起因されるのではなぐ,地域レベルにおける飼養過密性の問題と,それに対処せざるを得ない処理場による集鳥戦略の変化が,きわめて重要な役割を果たしたと指摘できる.
著者
後藤 拓也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.37-39, 2021-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
4
著者
後藤 拓也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.20-46, 2007-01-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
41
被引用文献数
1

本稿は, 飼料産業をアグリビジネスの一部門ととらえ, 日本の飼料企業における立地戦略の変化について地理学的な視点から分析を試みた. 1970年代前半まで, 日本の飼料企業は商系・全農系にかかわらず, 自社工場を全国的に配置するという立地戦略によって発展を遂げてきた. しかし, 畜産地域が国土周辺部へ立地移動したことや, 畜産物自由化に伴う飼料需要の減退によって, 飼料企業は立地戦略の大幅な転換を迫られるようになる. そこで, 商系企業の大手10社に着目し, 各社の立地戦略がどのように変化したのかを分析した. その結果, 各社とも1980年代後半から (1) 合弁工場の設立, (2) 他企業への委託など, 企業間提携を重視した合理化を進めたことが確認された. それに対して, 農協組織である全農は自らの組織内で合理化を進め, (1) 系列飼料企業の集約化, (2) 飼料供給圏の広域化など, 産地との関係を合理化する方向で飼料供給体系の再編成を図ったことが判明した. しかしながら, 全農は自らの抱える独自の組織体質によって立地戦略の円滑な転換を阻まれており, 商系企業とのシェア獲得競争において苦境に立たされていることが明らかになった.
著者
城野 靖朋 金井 秀作 後藤 拓也 原田 亮 藤高 祐太 谷出 康士 長谷川 正哉 大塚 彰
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.533-537, 2013-08-20

〔目的〕本研究の目的は,運動課題と認知課題の二重課題練習において,注意に関する指示の影響を明らかにすることである.〔対象〕健常成人60名を対象とした.〔方法〕二重課題練習で注意を運動課題に向ける条件,認知課題に向ける条件,注意の指示を与えず自由選択できる条件,練習を実施しない条件を設定し,練習前後の各課題パフォーマンスを評価した.〔結果〕dual-taskの運動課題パフォーマンスおよび高難易度運動課題パフォーマンスは,練習期の注意配分を自由に選択できる条件で向上した.〔結語〕健常成人を対象にした本研究では,注意の指示を与えない二重課題練習が,運動課題パフォーマンス向上に効果的である可能性が示唆された.<br>
著者
後藤 拓也
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.114-126, 2018-10-28 (Released:2019-09-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿では,1990年代以降のインドにおける農業空間構造の変化を示す事例として,「ピンクの革命」と称されるほど急速な発展を遂げているブロイラー養鶏産業に着目し,その産地形成プロセスを考察した。インドのブロイラー養鶏産業は,多くの大手養鶏企業が立地する南インドで先行的に産地形成が進むなど,伝統的に「南高北低」の地域性を特徴としてきた。しかし1990年代後半以降,それまで養鶏産業の立地が進まなかった北インドにおいて急速な産地形成が認められる。そこで,北インドのなかでも新興産地の代表例であるハリヤーナー州において現地調査を行った。その結果,調査対象地域では1990年代以降,多くの農家がブロイラー養鶏に新規参入し,大規模な「2階建て鶏舎」を相次いで建設するなど,従来の穀倉地帯が大きく変容していることが確認された。しかし調査対象地域におけるほとんどの農家は,ブロイラー養鶏を始めるに当たって,ハード面(鶏舎の建設資金)およびソフト面(飼養技術の習得)において十分な政策的サポートを受けていないことが判明した。そのため,調査対象地域におけるブロイラー養鶏農家の技術的水準は総じて低く,鶏病などの疫病リスクに対して脆弱な産地構造をもっているという課題が明らかとなった。
著者
後藤 拓也
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.337-356, 2006 (Released:2018-01-06)
参考文献数
45
被引用文献数
2 2

The purpose of this paper is to clarify the restructuring mechanism of the rush production area in Kumamoto Prefecture, which represents the restructuring of an agricultural production area under a development import by Japanese agribusiness. The results of this analysis are summarized as follows.The number of rush mats imported into Japan has increased after 1985, and the rush production area in Japan has declined remarkably. In 2002, the Rush Mat Importers’ Association (RMIA) was organized, so the author examined the characteristics of its members. As a result, more than 60% of RMIA members are the rush mat wholesalers located in four rush production areas of Okayama, Hiroshima, Fukuoka, and Kumamoto Prefectures. Namely, it is clear that Japanese rush mat wholesalers have played very important roles in importing rush mats into the Japanese market.The import activities by Japanese rush mat wholesalers have had a great influence on the rush production area in Kumamoto Prefecture. The behavior by the rush mat wholesalers is examined, taking the cases of the wholesalers dealing with Kumamoto Prefectural Federation of Agricultural Cooperatives. Clearly, most of the rush mat wholesalers from the other three production areas have engaged in import activities and participated in RMIA. This behavior has caused the fall in prices of low-grade rush mats produced in Kumamoto Prefecture after the mid-1980s.As a result of these changes in the rush mat distribution system, the rush farmers in Kumamoto Prefecture have reacted rapidly. From a survey in Sencho Town, the farmers who own stable agricultural foundations have clearly continued rush production after 1990. However, many farmers have reduced rush cultivating areas, whereas a few farmers have expanded rush cultivation by introducing high-grade rush and dealing with the rush mat wholesalers directly. The farmers cannot easily switch their management to other crops because of the agricultural conditions in Sencho Town, so they are forced to continue rush production under the influx of imported rush mats.Consequently, the behavior by the rush mat wholesalers has given rise to restructuring of the rush production area in Kumamoto Prefecture. This means that a small agribusiness like that of Japanese rush mat wholesalers has changed the behavior and influenced agricultural production areas, in a similar manner to that of large agribusinesses like general trading firms and food processors in Japan.
著者
岡田 哲弘 水上 裕輔 林 明宏 河端 秀賢 佐藤 裕基 河本 徹 後藤 拓磨 谷上 賢瑞 小野 裕介 唐崎 秀則 奥村 利勝
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.302-312, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
58
被引用文献数
3 2

膵癌のゲノム解析では,4つの遺伝子異常(KRAS,CDKN2A,TP53,SMAD4変異)を高率に認める.最近の研究により,ゲノム,遺伝子発現,タンパク,代謝などの様々なレベルでの異常が明らかとなり,これらのプロファイリングによる個々の患者の発癌や進行パターン,治療効果予測に応用されることが期待される.2019年に適切な薬物治療の提供を目的とした遺伝子パネル検査が保険収載され,本格的なゲノム医療の時代を迎えた.このような新しい診断技術を早期膵癌の発見や遺伝素因など高い発癌リスクを有する人々の発病予防を目指した医療へと拡大するには,多様な分子異常の検出方法の確立が求められる.これら膵癌の分子診断には,膵内の多発病変の存在と腫瘍内の不均一性,癌のクローン進化の理解が重要となる.本稿では,膵癌の発生過程でみられる分子異常を概説し,診療への活用が期待される最新の技術革新について紹介する.
著者
後藤 拓
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.90-98, 2022 (Released:2022-08-31)
参考文献数
35

目的:妊娠期・育児期の父親の関与についてのアセスメント項目を明らかにすること.方法:1980年から2020年までに公表された和文献4件,海外文献16件,計20件の文献をレビューマトリックス方式で分析した.結果:20件の文献から,妊娠期9件,育児期12件の2つの時期の尺度が確認された.妊娠期の尺度からはアセスメント項目として【パートナー】,【育児】,【胎児】などの9カテゴリが抽出された.育児期の尺度からは【家庭】,【父親自身】,【パートナー】などの9カテゴリが抽出された.考察:妊娠期・育児期の父親の関与についてのアセスメント項目は,子どもの世話だけでなく,家事やパートナーとの関係も含んだ複数のカテゴリから構成された.また,宗教上の考え方などを含めて,使用されている国の文化を反映している項目もあった.
著者
後藤 拓也
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.137-157, 2021 (Released:2021-07-14)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本稿は,インド北部における大手養鶏企業の進出にともない,ブロイラー養鶏がどのように受容されたのかを検討した。インド北部はもともと養鶏業に不向きな諸条件を有する地域であり,南部に比べてアグリビジネスの進出が遅れてきた。しかし2000年代以降,インド北部に大手養鶏企業が進出し,改良品種や契約取引を普及させたことで,ブロイラー養鶏の産地化が進んだ。ハリヤーナー州における調査の結果,総じて社会階層が高く土地所有規模の大きな農家層にブロイラー養鶏が受容されたことが判明した。これは,ブロイラー養鶏に多額の鶏舎建設費と一定の鶏舎用地が必要なことによる。これらの農家がブロイラー養鶏の経営を維持できたのは,①改良品種の導入,②直接取引・契約取引へのシフト,③飼養労働者の雇用によって,インド北部の養鶏業に不向きな諸条件を克服できたためと考えられる。このうち,農家による改良品種の導入に寄与したのが,大手養鶏企業に系列化された個人経営の孵卵業者であり,この点は企業が産地化に主導的な役割を果たすインド南部と状況が異なる。しかし一方で,大手養鶏企業は若年農家層を中心に契約取引を進めるなど,インド南部と同様の産地化もみられる。すなわちハリヤーナー州では,大手養鶏企業がインド北部の養鶏経営に適応した系列化と,南部で進めてきた契約取引を組み合わせることで産地化を進め,それがブロイラー養鶏の受容に寄与したといえる。
著者
後藤 拓
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.752-757, 2016-09-10

「妊娠から出産,子育てまでの切れ目ない支援」が全国的に求められている現在,母子保健行政に期待される役割は大きい。母子保健行政の指標の1つとして乳児死亡率があり,厚生労働省の調査では,2013(平成25)年には出生千対2.1(1947[昭和22]年は同76.7)となっている。このような状況で,「母子保健が世界一の水準にあるのは,戦後の公衆衛生活動の成果であることは疑う余地がない」1)と言われている。 一方で,母子保健行政の課題は児童虐待,発達障害,思春期保健等の広範囲にわたっており,児童福祉部門や教育部門等の他の行政部門との連携も重要である。しかし,その取り組みにおいては「保健が『児童虐待は福祉の仕事であり,福祉主導の方針に受身的に役割を果たす』立場をとることでは済まなくなっている」2)とも言われている状況である。また,地方分権の流れとして,2013年の母子保健法の改正により,基礎自治体が母子保健行政の全面的な実施主体となっている。
著者
後藤 拓也
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.150-171, 1998-04-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
64
被引用文献数
3 2

In recent years, the producers of agricultural processing products in Japan havebeen forced to reorganize their contract farming areas under the influence of trade liberalization and the overproduction of agricultural products. This paper attempts to make clear the changes in the vertical integration of agricultural production under these impacts, taking the case of contract farming of processing tomato, from a viewpoint of economic geography.Affected by the trade liberalization of agricultural products during the 1960s, the import of tomato raw materials (tomato-paste and tomato-puree) was liberalized in 1972. After that, in addition to the increase of inexpensive foreign raw materials, the excess of raw materials in stock became notable in the latter 1970s, with the declining demand for tomato products. Such a situation forced tomato processing makers (especially Kagome &Co., Ltd. and Japan Del Monte & Co., Ltd.) to undertake drastic reorganization of their domestic producing areas.Because tomato processing makers were obliged to reduce the cost of raw materials with the increasing inflow of foreign raw materials and the overproduction of domestic raw materials, they purchased inexpensive raw materials from abroad and drastically reduced their dependency on expensive domestic raw materials. At the same time, they reorganized their producing areas in three aspects, that is, the reorganization of (1) processing tomato collecting zones, (2) processing plants, (3) contract price. The spatial consequences of these actions were, (1): processing makers withdrew from the prefectures with low productivity and the prefectures distant from the intensified processing plant, (2): processing makers concentrated processing tomatoes to the main tomato juice manufacturing plants, (3): processing makers introduceds a discriminative strategy in contract price based on the transporting cost to processing plant. In short, processing makers carried out the reorganization high-handedly, attaching great importance to cost reduction. However, at the prefectural level, the Prefecture Affiliated Organs of Agri-Coop-Ass'ns played an important role in the control of organizing contract farming areas.Against such behavior by processing makers, contract farmers responded to the situation by abandoning processing tomato cultivation. However, there are considerable regional differences in the decrease of tomato producing areas. A quantitative analysis of 41 processing tomato producing areas in Nagano prefecture revealed that processing tomato cultivation tended to be maintained relatively in areas with unstable agricultural producing conditions, and given up in areas with stable agricultural producing conditions. This is attributed to the characteristics of contract farming:“price stability”, “low profit” and“lack of speculation”. The result is ironic for processing makers, since they always desire stable production of the raw materials.After all, it is shown that the reduction of domestic production by processing makers resulted in production under more unstable farming conditions. In fact, the ageing of contract farmers is very serious and has led to the abandonment of cultivation after the last reduction of producing (carried out in 1988). As a result, domestic raw materials have been short in supply since 1990. Taking this existing situation into consideration, it seems contract farming areas of processing tomato will not be retained over an extended period of time.
著者
後藤 拓也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.34, 2005 (Released:2005-11-30)

近年,「食」をめぐるグローバル化の進展は著しいものがあり,それに対する地理学の分析枠組みも再検討を迫られている。そのような状況下で,農業・食料部門のグローバル化を捉える分析枠組みとして欧米の地理学者に注目されているのが,「フードレジーム論(Food Regime Theory)」である。実際,1990年代以降における欧米の地理学では,このフードレジーム論に依拠した実証分析が相次いで蓄積されている。しかしながら,日本の地理学においては,これまで農業・食料部門のグローバル化を捉える理論的な枠組みとして,このフードレジーム論が十分に導入・活用されているとは言い難く,その有効性と限界について議論する必要があろう。そこで本報告では,欧米やわが国におけるフードレジーム論の展開を整理し,それが「食」の地理学へどのように適用が可能なのかについて検討を行うことを目的とする。 フードレジーム論とは,アメリカの農村社会学者であるFriedmannやMcMichael(1989)が提唱した概念である。この概念は,国際的な農業・食料システムの変化を歴史的観点から説明しようとする枠組みであり,現在までに3つのレジームが確認されている。具体的には,イギリスが基軸となる農産物貿易を特徴とする第1次レジーム,アメリカに基軸が移行する第2次レジーム,日本や欧米など先進諸国の多国籍企業が農産物貿易に主導的役割を果たす第3次レジームから成り,現在は第3次レジームへの移行期であるとされる。このフードレジーム論を実証する上での重要なキー概念となるのが,「NACs」と呼ばれる新興農業国の出現である。「NACs」とは,成長著しいアジアや南アメリカの農産物輸出国を総称した概念であり,中国・タイ・ブラジル・アルゼンチン等が該当するとされる。この「NACs」の出現において重要な役割を果たしているとされるのが,日本や欧米など先進諸国のアグリビジネスであり,その企業活動の空間的展開,農産物の調達戦略、現地での農産物調達拠点の形成行動が,フードレジーム論を「食」の地理学へ導入する重要な論点になり得るものと考えられる。 これまで日本の地理学において,フードレジーム論の枠組みに基づいて国際的な農産物貿易に言及した論考は,管見の限りでは高柳(2005)が先駆的な論考といえる。しかしながら,第3次のフードレジームで重要な役割を果たしているとされる日本のアグリビジネスが,どのように中国や東南アジアの「NACs」化を進めてきたのかは未解明であり,日本のアグリビジネスによる海外進出状況を包括的に整理した論考さえも未だに得られていないのが現状である。本報告では,日本の食品企業による1980年代以降の海外進出状況を整理し,日本の農業・食料部門においてフードレジーム論や「NACs」概念がどの程度当てはまるのかを検証したい。
著者
城野 靖朋 金井 秀作 後藤 拓也 原田 亮 藤高 祐太 谷出 康士 長谷川 正哉 大塚 彰
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.47-51, 2013 (Released:2013-10-08)
参考文献数
21

本研究では運動課題にタンデム立位保持課題,認知課題にストループ干渉課題を用いて,各課題パフォーマンスが受ける二重課題干渉効果について検討した。健常成人60名を対象とし,タンデム立位保持課題を重心動揺で評価し,ストループ干渉課題を正答数で評価した。それぞれ単一課題で評価した後,同時遂行課題で評価した。二重課題干渉効果で運動課題パフォーマンスは向上し,認知課題パフォーマンスは低下した。このことから本研究の課題設定では,運動課題の高いパフォーマンス発揮のために,多くの注意資源は必要でないことが示唆された。