著者
山野 嘉久
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.31, 2009 (Released:2009-10-21)

HTLV-1は主にT細胞に感染し、感染者の一部にHTLV-1関連脊髄症(HAM)、別の一部に成人T細胞白血病(ATL)を発症する。しかし、HAM(炎症)とATL(白血病)といった対照的な疾患の発症を選別する機序に関しては不明である。 HAMの獲得免疫系は他の自己免疫疾患と同様に異常に活性化している。HAM患者ではHTLV-1特異的CTLの異常な増加が知られており、我々はCD4+CD25+T細胞が主感染細胞で、CTLの増殖を促進していることを示した。ところが、CD4+CD25+T細胞は、免疫抑制作用を有する制御性T細胞(Treg)を含んでいるため、HTLV-1とTregとの関係について調べたところ、HTLV-1taxによるTreg特異的マーカーFoxp3の発現抑制作用と、HAM患者のCD4+CD25+T細胞におけるTregの量的機能的な減少が明らかとなった。 一方、ATLの獲得免疫系はHAMとは対称的で、HTLV-1特異的CTLは極端に少ない。興味深いことに、ATL患者におけるCD4+CD25+T細胞ではTregが腫瘍性に増殖しており、本来の制御性機能を発揮して宿主に低免疫応答状態を来している。 最近我々は、両疾患においてCD4+CD25+T細胞の中でもケモカイン受容体CCR4陽性細胞(CD4+CD25+CCR4+T細胞)が共通の感染細胞であることを示した。健常者ではCCR4陽性T細胞はTh2、Treg、Th17細胞から構成されているが、ATL患者ではTregが多く、一方、HAM患者では健常者に滅多に存在しないIFN-γ陽性Foxp3lowT細胞が極めて異常増加していた。 以上の結果は、HTLV-1がTregの増殖や分化に作用し、感染T細胞をHAMでは免疫促進的に、ATLでは免疫抑制的な細胞に変化させ、両疾患の対称的な病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆する。
著者
河野 肇
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第39回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.37, 2011 (Released:2011-08-20)

自己炎症性症候群CAPS(Cryopyrin-associated periodic syndrome)の責任遺伝子としてNLRP3 (NLR family, pyrin domain containing 3, NALP3, cryopyrin)は同定された。NLRP3はcaspase 1活性化機構である多分子複合体インフラマソームの構成分子の一つであり、機能亢進型変異によりインフラマソーム活性化を通じてIL-1β産生過多を来たし、自己炎症性疾患を引き起こす。またNLRP3インフラマソーム活性化はpyroptosisによる細胞死を導く。最近の研究の進展により、NLRP3インフラマソームはウイルス、細菌、真菌に対する生体防御機構としてIL-1β活性化に重要な役割を果たしていることが判明した。さらに、尿酸結晶やピロリン酸カルシウム結晶に対する急性好中球性炎症に必須であることも明らかとなった。また、βアミロイドによる急性炎症反応にも関与しており、さらには動脈硬化における粥状硬化巣において形成されるコレステロール結晶を認識し、炎症を惹起する機構に関与することや、高血糖によるストレス反応に重要な役割を果たすことなども判明し、動脈硬化や2型糖尿病などの慢性炎症性疾患においてもその病態への関与が示唆されている。このように、自己炎症性症候群CAPSの責任遺伝子NLRP3は、我々の生体に危険が及ぶ際には、外敵のみならず内因性の異常をも覚知しインフラマソーム活性化を通じてIL-1β依存性炎症を惹起する分子であることが明らかとなってきた。
著者
渡邉 幹夫 中野 愛子 飯田 貴雄 松塚 文夫 宮内 昭 岩谷 良則
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第34回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.27, 2006 (Released:2006-09-01)

【目的】以前我々は、自己免疫性甲状腺疾患(AITD)患者の甲状腺組織内においてCD4+細胞の比率が減少し、CD4+細胞上のFas発現が増加していることを見出した。今回、特にCD4+CD25+調節性T細胞(Treg)がAITDの甲状腺内でアポトーシスによって減少している可能性を考え、CD69とFoxp3を用いたより厳密なTregサブセットを解析した。【方法】バセドウ病患者15名、橋本病患者5名、健常人10名を対象とし、治療目的で摘出したAITDの甲状腺組織より分離した甲状腺浸潤単核球と、同一患者および健常人の末梢血より分離した単核球を用いて、Tregサブセットの解析およびアポトーシス細胞の検出をflow cytometryにより行った。【結果】AITDにおける甲状腺浸潤CD4+CD25+細胞の比率は末梢血と比べて低下しており、さらに厳密なTregサブセットであるCD4+CD25+CD69-細胞やCD4+CD25+Foxp3+細胞の比率も甲状腺内でに低下していた。甲状腺浸潤CD4+細胞には末梢血に比しアポトーシス細胞が多く、特にCD4+CD25+細胞にアポトーシスがより高頻度に誘導されていた。【結論】AITDの甲状腺ではTregがアポトーシスによって減少している可能性があり、甲状腺内におけるTreg比率の減少が、AITDの発症や病態に関係している可能性が示唆された。