著者
中島 利博 山野 嘉久 八木下 尚子 樋口 逸郎 赤津 裕康 川原 幸一 上 昌広 丸山 征郎 岡田 秀親 荒谷 聡子
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

われわれがリウマチ滑膜細胞より発見した小胞体関連E3ユビキチンリガーゼ シノビオリンは遺伝子改変動物を用いた研究により、少なくともマウスにおいては関節症発症の必要十分因子であることが証明されていた。また、関節リウマチの新薬である抗TNFα製剤の感受性を決定するバイオマーカーの可能性も示されている。一方で、シノビオリンの完全欠損マウスは胎生期において致死であることも明らかとなっていた。したがって、これまで成獣における同分子の生理機能の解析、並びに関節症における分子病態を明らかとすることが不可能であった。そこで、本研究事業により、同分子のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、これらの点を明らかにすることを目的とした。その結果、シノビオリンのコンディショナルノックアウトマウスは胎生致死でのみならず、出生後に同遺伝子をノックアウトした場合でも致死であることを発見した。さらに、その過程で線維化・慢性炎症に非常に密接に関与することが示されている(論文準備中)。現在、その恒常性維持にシノビオリンが必要と考えられる関節などの臓器特異的なコンディショナルノックアウトマウスの解析を行っている。上記のようにシノビオリンの機能制御は関節リウマチのみならず、線維化・慢性炎症を基盤とする疾患の創薬標的であることは明白であろう。われわれの有するシノビオリン抑制剤がマウスにおける関節炎モデルに有効であることを証明した(論文投稿中)。さらに、本テーマは橋渡し研究として米国のユビキチンに特化した創薬系ベンチャー プロジェンラ社との創薬開発プロジェクトへと進展した。
著者
山野 嘉久
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.1404-1409, 2017-07-10 (Released:2018-07-10)
参考文献数
11

HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は,ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)感染に起因する両下肢痙性対麻痺を主徴とする神経難病であるが,その症状・経過には個人差が大きく,疾患活動性に応じた治療が必要であり,そのバイオマーカーとして髄液中ネオプテリンやCXCL10の測定が重要である.現在,ステロイドやインターフェロン(interferon:IFN)αによる治療が主軸であるが,近年,病因であるHTLV-1感染細胞を標的とした抗体療法の治験が実施されており,新規治療法として注目されている.
著者
山野 嘉久
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.31, 2009 (Released:2009-10-21)

HTLV-1は主にT細胞に感染し、感染者の一部にHTLV-1関連脊髄症(HAM)、別の一部に成人T細胞白血病(ATL)を発症する。しかし、HAM(炎症)とATL(白血病)といった対照的な疾患の発症を選別する機序に関しては不明である。 HAMの獲得免疫系は他の自己免疫疾患と同様に異常に活性化している。HAM患者ではHTLV-1特異的CTLの異常な増加が知られており、我々はCD4+CD25+T細胞が主感染細胞で、CTLの増殖を促進していることを示した。ところが、CD4+CD25+T細胞は、免疫抑制作用を有する制御性T細胞(Treg)を含んでいるため、HTLV-1とTregとの関係について調べたところ、HTLV-1taxによるTreg特異的マーカーFoxp3の発現抑制作用と、HAM患者のCD4+CD25+T細胞におけるTregの量的機能的な減少が明らかとなった。 一方、ATLの獲得免疫系はHAMとは対称的で、HTLV-1特異的CTLは極端に少ない。興味深いことに、ATL患者におけるCD4+CD25+T細胞ではTregが腫瘍性に増殖しており、本来の制御性機能を発揮して宿主に低免疫応答状態を来している。 最近我々は、両疾患においてCD4+CD25+T細胞の中でもケモカイン受容体CCR4陽性細胞(CD4+CD25+CCR4+T細胞)が共通の感染細胞であることを示した。健常者ではCCR4陽性T細胞はTh2、Treg、Th17細胞から構成されているが、ATL患者ではTregが多く、一方、HAM患者では健常者に滅多に存在しないIFN-γ陽性Foxp3lowT細胞が極めて異常増加していた。 以上の結果は、HTLV-1がTregの増殖や分化に作用し、感染T細胞をHAMでは免疫促進的に、ATLでは免疫抑制的な細胞に変化させ、両疾患の対称的な病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆する。
著者
石塚 賢治 山野 嘉久 宇都宮 與 内丸 薫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.666-672, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
14

Human T-lymphotropic virus type-I (HTLV-1)は成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL),HTLV-1関連脊髄症/熱帯性痙性脊髄麻痺などの原因ウイルスで,主に授乳や性交渉によって感染が成立する。本研究では国内4施設におけるHTLV-1感染者(キャリア)対応の実態を調べた。キャリア外来標榜施設では,献血時もしくは妊娠時の検査でHTLV-1感染を知り,HTLV-1関連疾患発症の有無についての検査やHTLV-1感染に伴う不安への説明や相談,関連疾患に対する説明を希望し受診する場合が多かった。受診者の約半数はHTLV-1感染を2年以上前に告知されており,近年のHTLV-1やキャリア外来への社会での認知から,キャリア自身の意識が変わったことが受診につながったものと考えられる。一方で,HTLV-1高度浸淫地域においてはかかりつけ医によって十分な対応がなされている可能性が高いと考えられた。HTLV-1非浸淫地域にある2施設ではHTLV-1キャリアと診断された受診者の50%以上が両親とも出生地は九州以外であり,HTLV-1キャリアは九州出身者に多いとされてきた事実の変貌が明らかになった。今後HTLV-1キャリア数は減少するものの,居住地の偏在は少なくなると考えられ,医療ニーズに適切かつ効率よく対応する体制の構築が重要である。