著者
結城 伸泰
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.61, 2009 (Released:2009-10-21)

ギラン・バレー症候群(GBS)は、風邪をひいたり、下痢をしたりした1、2週後に、四肢の筋力低下が始まり、1、2週にわたって進行し、腱反射が消失する。ポリオ根絶を目前とした現在、急性発症の弛緩性運動麻痺を呈する疾患のなかでもっとも頻度が高く、人口10万人あたり年間2人の発症が推定されている。興味深いことに、その診断基準は、1976年米国で行われた豚インフルエンザ予防接種後に多発した患者の疫学調査のため緊急で作製された経緯がある。演者は、平成元年に下痢を前駆症状としたGBS患者を受け持ち、その先行感染因子が下痢症や食中毒の主要な起因菌のCampylobacter jejuniであることを突き止めた。C. jejuni腸炎後に、GM1ガングリオシドに対するIgGクラスの自己抗体が上昇し、ミエリンではなく、軸索が傷害される、GBSのサブグループが存在することを報告した。下痢を前駆症状としたGBSから分離されたC. jejuniの菌体外膜を構成するリポオリゴ糖(LOS)がGM1類似構造を有することを明らかにした。GM1、C. jejuniLOSをウサギに感作し、臨床的にも、免疫学的にも、病理学的にも、ヒトの病気と一致する疾患モデルを樹立することに成功し、新しい治療法の開発に役立てることができるようになった。これまで自己免疫病発症における分子相同性の研究は、ペプチドに対する自己反応性T細胞に主として目が向けられていたため、分子相同性仮説の立証には至らなかった。しかしながら、疫学的な関係が確立しているC. jejuniとGBSで、糖脂質の糖鎖に対する自己抗体という別の着眼点から切り込むことにより、完全に証明することができた。糖鎖相同性により自己免疫病が発症し得るという新しい概念が、他の原因不明の自己免疫病の解明にも役立つことを期待している。時間が許せば、インフルエンザワクチンの副作用を減らすために調べておくべきことを提言したい。
著者
荒浪 利昌 佐藤 和貴郎 山村 隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.13, 2009 (Released:2009-10-21)

熱ショック蛋白(HSP)は、温熱のみならず、生体に対する様々なストレスの際に誘導され、ストレス蛋白とも呼ばれる。その役割はストレスにより障害された蛋白を修復し、蛋白、細胞の恒常性を保つことにある。多発性硬化症(MS)は原因不明の中枢神経系慢性炎症性疾患であるが、Th1やTh17細胞が病態成立に重要な役割を果たす自己免疫疾患であると考えられている。近年MS病巣のマイクロアレイ解析において最も高発現する遺伝子としてaB-crystallin (CRYAB)が報告された。CRYABは、HSPファミリー蛋白であるが、通常は中枢神経系に発現は認められず、MS、アルツハイマー病、パーキンソン病などでその発現が誘導されると報告されていたが、詳細な機能は不明であった。今回我々はMS患者末梢血に認められるCD28陰性T細胞がCRYAB反応性T細胞を多く含むことを見出した。HSPの中にはToll-like receptors (TLR)に結合し、抗原提示細胞(APC)を活性化させる機能を有するものが報告されていたが、CRYABもAPCを刺激し、IL-6、TNF-a、IL-10、IL-12といった種々のサイトカイン産生を、MYD88非依存性に誘導することが判明した。CRYABはまた、T細胞からのIFN-γ産生を増加させた。CRYABによるIFN-γ産生促進機能に関与するサイトカインを解析したところ、IL-12ではなく、IL-27であることが判明した。IL-27はTh17細胞反応や過剰な慢性炎症を抑制する働きが報告されている。しかし、CD28陰性T細胞がCRYAB反応性にIFN-γを産生した場合、CRYABの免疫修飾作用が障害され、慢性炎症に繋がる可能性が考えられる。このようなCRYABの免疫修飾作用とCRYAB自己免疫が、MS病態形成に重要な役割を果たしていると考えられる。
著者
濱野 貴通 高橋 俊行 中島 翠 佐野 仁美 須藤 章 福島 直樹 西川 秀司 武内 利直
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.158, 2009 (Released:2009-10-21)

好酸球性胃腸炎は,消化管壁への著明な好酸球浸潤による消化器症状を認め,末梢血好酸球が増加する稀な疾患である。 今回,抗アレルギー剤の投与にて治療しえた小児好酸球性腸炎の1例を経験した。 症例は5歳女児。半年前からの繰り返す水様性下痢を主訴に当科を受診した。検査所見にて著明な好酸球増加(WBC 18800 /μl, Eos 54 %),鉄欠乏性貧血,低蛋白血症,便潜血陽性を認め,好酸球性胃腸炎の疑いで入院となった。 入院後,IgE RASTにて卵白,リンゴが陽性であり食事制限を行なったが,症状の改善はなく,検査所見にてWBC 21200 /μl(Eos 76 %) と増悪傾向を認めた。消化管内視鏡検査にて十二指腸球部の粘膜に発赤があり,病理像にて著明な好酸球の浸潤を認めた。 好酸球性胃腸炎と診断し,トシル酸スプラタスト投与を開始したところ,水様性下痢は消失し,7日後にはWBC 11800/μl(Eos 33.0 %)と改善傾向を認め,外来経過観察とした。 経過観察中,再びWBC 13300 /μl(Eos 42.0 %)と上昇傾向を認め,クロモグリク酸ナトリウム投与を追加した。投与2ヶ月後,WBC 5600 /μl(Eos 6.0%)となり,鉄欠乏性貧血,低蛋白血症状も改善した。投与4ヶ月後,便潜血陰性となった。 抗アレルギー剤の投与によって本疾患を治療しえたことは意義があると考え,報告する。
著者
岡本 能弘 田中 麻優里 福井 貴史 増澤 俊幸
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.78, 2009 (Released:2009-10-21)

プロポリスは、ミツバチが外敵から巣を守るためにハーブの新芽や樹脂から作る物質であり、フラボノイド、各種ビタミン、ミネラルなど、健康維持に有用な成分が豊富に含まれ、抗炎症作用を有することがこれまでに報告されている。従って、プロポリス摂取により関節リウマチの発症やその症状を緩和する可能性が考えられる。しかしながら、プロポリス継続摂取の関節リウマチへの効果についての科学的根拠は皆無である。今回、プロポリス継続摂取の関節リウマチ病態に及ぼす影響についてコラーゲン誘導関節炎モデルマウスを用いて評価した。 プロポリスエキス(山田養蜂場みつばち健康科学研究所より提供)含有飼料を実験期間を通して継続自由摂取させたマウス(DBA/1J)は、対照群に比較し、コラーゲン誘導関節炎の症状の悪化が抑制される傾向が見られた。しかしながら、3群(対照群、プロポリスエキス6.7mg/g含有餌摂取群、20mg/g含有餌摂取群)の間に統計学的有意差は検出できなかった。プロポリス投与群マウスの脾臓細胞、リンパ節細胞のサイトカイン産生能、産生細胞数を解析したところ、対照群に比較し、インターロイキン17((IL-17)の産生が低下していた。従って。プロポリス摂取による関節炎症状抑制傾向はIL-17産生抑制作用に基づく抗炎症作用が寄与していることが示唆された。 なお本研究は2008年度 山田養蜂場 みつばち研究助成基金による研究成果を含んでいる。
著者
中山 俊憲
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.14, 2009 (Released:2009-10-21)

アレルギー疾患の発症に関してTh2細胞が重要な役割を果たすことはよく知られているが、たとえば、スギの花粉症患者では、患者の体内にあるスギ花粉特異的なメモリーTh2細胞が反応し、アレルギー性炎症が上気道に起こる。このメモリーTh2細胞の寿命はかなり長く、半減期は1年半にも及ぶことが分かっている。従って、メモリーTh2細胞の形成や維持の分子機構の解明と制御法の開発なしには、根治治療の確立は望めない。私たちは、メモリーTh2細胞の形成、維持に関わる分子機構の解析を行ってきた(Nakayama et al. Curr.Opin.Immunol. 2008, Nakayama et al. Seminars in Immunol. 2009)。転写記憶に関与するといわれている、トライソラックス分子やポリコーム分子の関与を明らかにしてきた。トライソラックス分子のmllはメモリーTh2細胞の機能の維持に必須であること、ポリコーム分子のbmi1はメモリーT細胞の生存に必須であることなどを報告してきた。このシンポジウムでは、これらの制御機構の巧妙さをご紹介したい。
著者
山野 嘉久
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第37回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.31, 2009 (Released:2009-10-21)

HTLV-1は主にT細胞に感染し、感染者の一部にHTLV-1関連脊髄症(HAM)、別の一部に成人T細胞白血病(ATL)を発症する。しかし、HAM(炎症)とATL(白血病)といった対照的な疾患の発症を選別する機序に関しては不明である。 HAMの獲得免疫系は他の自己免疫疾患と同様に異常に活性化している。HAM患者ではHTLV-1特異的CTLの異常な増加が知られており、我々はCD4+CD25+T細胞が主感染細胞で、CTLの増殖を促進していることを示した。ところが、CD4+CD25+T細胞は、免疫抑制作用を有する制御性T細胞(Treg)を含んでいるため、HTLV-1とTregとの関係について調べたところ、HTLV-1taxによるTreg特異的マーカーFoxp3の発現抑制作用と、HAM患者のCD4+CD25+T細胞におけるTregの量的機能的な減少が明らかとなった。 一方、ATLの獲得免疫系はHAMとは対称的で、HTLV-1特異的CTLは極端に少ない。興味深いことに、ATL患者におけるCD4+CD25+T細胞ではTregが腫瘍性に増殖しており、本来の制御性機能を発揮して宿主に低免疫応答状態を来している。 最近我々は、両疾患においてCD4+CD25+T細胞の中でもケモカイン受容体CCR4陽性細胞(CD4+CD25+CCR4+T細胞)が共通の感染細胞であることを示した。健常者ではCCR4陽性T細胞はTh2、Treg、Th17細胞から構成されているが、ATL患者ではTregが多く、一方、HAM患者では健常者に滅多に存在しないIFN-γ陽性Foxp3lowT細胞が極めて異常増加していた。 以上の結果は、HTLV-1がTregの増殖や分化に作用し、感染T細胞をHAMでは免疫促進的に、ATLでは免疫抑制的な細胞に変化させ、両疾患の対称的な病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆する。