著者
白井 純
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.11, pp.41-60, 2016-03

旧松本藩の藩版に兵法書「兵要録」がある。「兵要録」はまず活字本が出て藩校教育に用いられた後、度重なる本文校訂を経た決定版が整版として大量に印刷され、書肆が流通を担当することで広く普及した。この「兵要録」活字本二種を、信州大学人文学部の日本文学・日本史学・日本語学分野が共同で行っている長野県木曽郡王滝村御嶽神社の文献史料調査の際に発見したが、そこには木曽山村氏の家臣であった大脇自笑による緻密な本文校訂が豊富な書き込みとして残されており、その内容を読み解くことで、木曽福島と中津川を中心に活動した兵法家を中心とした専門学術ネットワークの存在が浮かび上がってきた。大脇自笑は、江戸時代の兵学として著名な長沼流の兵法家である。長沼流兵法は松本藩出身の長沼澹齋が創始した合理性を重んずる兵法で、江戸時代には主要な二つの流派を中心に伝授されていたが、著者による写本や版本は残らず、流派を反映した異なる本文が乱立する状態にあった。大脇自笑はそうした伝授関係からみれば末流に過ぎないが、数多くの長沼流兵法家の名前と異文を引用しており、豊富な情報を収集し得たことが見て取れる。御嶽神社蔵「兵要録」は、僅かに残存するに過ぎない活字本の完本二種であるということに留まらず、木曽の人、大脇自笑による原典主義を基盤とする考証学的な本文校訂の姿を伝える貴重な文献である。
著者
菊池 聡
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.4, pp.47-78, 2008-12
被引用文献数
1

90年代終盤以降、 「秋葉原」は「おたく」の聖地として、急激に変貌を遂げてきた。この「秋葉原」という地域ブランドの確立は、日本の文化・経済状況の変化がもたらした「おたく」ステレオタイプの変容と拡散に、深い関連があると考えられる。本論文では「おたく」ステレオタイプと「秋葉原」の関連を明らかにするために、大学生(N-368)に対して調査を行い、 1998年の調査と比較した。その結果、ネガティブな「おたく」ステレオタイプが、ややポジティブな方向へ変化してきたことを明らかにした。また「おたく」概念についての自由記述の分析から、 98年の段階ではほとんど見られなかった、 「秋葉原」という表現が、特有のファッションや趣味と結びついて多く出現していることを見いだした。これらをもとに、日本を代表する地域ブランドとなった「秋葉原」の特徴を考察した。Since the end of the 1990s, Akihabara has been radically changed and made into a sanctuary for otakus, establishing "Akihabara" as a placebrand.This is apparently related to the diffusion and transformation of otaku stereotypes caused by cultural and economical changes in Japan.In this study, the questionnaire was first administered to 368 undergraduate students, in order to examine the relationship between the transformation and the diffusion of otaku stereotypes. The data of its research also revealed the relationship between otaku stereotypes and Akihara as a place-brand, then these analyses were compared with the data of the precedent one (Kikuchi, 2000). One of the things this study reveals is that last ten years the negative image of otaku stereotypes has been decreased. Another important change is observed in the analysis of the answerers' free comments on otaku stereotypes. In the new research, the word, Akihabara is frequently used to talk about typical otaku fashions or hobbies though such tendency was not recognized in the 1998 research. Considering these changes, this study further discusses the characteristics of Akihabara as a representative place-brand in Japan.
著者
村山 研一
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-29, 2009-12-31

平成の市町村大合併によって市町村数は半数近くに減少した。多くの市町村名称が消えると共に、多くの新市町村名が生まれた。本稿では、特に新設方式をとった市町村がどのように新市町村名称を選択したかを分析した。命名方式をいくつかに分類してみると、50%近くは従来の市町村名を継承し、40%近くが地域の地名(広域名、地域の通称名、自然地名等)を採用した。しかし、合成地名と創作地名という変則も10%近くあった。ただし、変則的命名は、明治の大合併と比較して比率が高くなっているわけではない。特に合成地名の比率は低くなっていると推測できる。しかし、少数であっても変則の範囲が拡大し、さらに、かな使用の市町村名称が急増しているということが、新たな現象および問題として指摘できる。論文の最後で、市町村名の機能について検討したが、変則的な命名は、一般的には市町村名が果たす機能を弱体化するものと判断せざるを得ない。
著者
水原 俊博
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-11, 2015-03-31

本稿は松本市の委託を受けて2014年に信州大学人文学部が実施した多文化共生調査の概要、日本国籍住民調査の結果を検討したものである。本稿ではまず、多文化共生を多文化主義、同化主義と関連させて概念整理する。その上で、松本市による多文化共生の理念、これまでの取り組みを紹介する。続いて、松本市による多文化推進プランの策定、見直しの基礎資料を目的に、信州大学人文学部が地域貢献のひとつとして受託しておこなった多文化共生調査の概要について紹介する。2010年、2014年に実施された本調査は日本国籍住民を対象とした大規模質問紙調査、外国籍住民を対象とした大規模質問紙調査・聴取調査の3つからなる。そして、本稿後半では、2104年調査のうち日本国籍住民調査の概要について説明し、調査結果の検討をおこなう。
著者
水原 俊博
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.11, pp.15-26, 2016-03

本稿は多文化主義、とくに、文化の承認、シティズンシップの承認に対する人々の意識や態度がどれほどのもので、どのような社会的要因がそうした意識や態度に影響をあたえているのかについて、社会調査データを用いて検討することを目的とする。社会的要因については、ナショナリズム、外国人・外国文化接触経験を取り上げる。扱うデータは、2014 年に長野県松本市で実施した社会調査によって収集したものである。データ分析ではまず、尺度構成によって、多文化主義については文化の承認の前提となる「交流志向」、さらに、「シティズンシップ承認志向」の2因子、ナショナリズムについては「排外志向」「純化志向」「愛国志向」の3因子を抽出した。その上で、多文化主義尺度である「交流志向」「シティズンシップ承認志向」をそれぞれ従属変数とし、社会的属性(基本属性)、外国人・外国文化接触関連の変数、ナショナリズム尺度を独立変数とした重回帰分析をおこなった。以上の分析の結果、多文化主義の意識や態度は総じて低調で、多文化主義尺度のうち、「交流志向」「シティズンシップ承認志向」いずれに対しても、「排外志向」が負の影響をあたえる一方、外国人知人数、海外渡航経験が、「交流志向」に対して正の影響をあたえていることが明らかとなった。
著者
村山 研一
出版者
地域ブランド研究会
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.2, pp.29-56, 2006-12

本稿では、北海道の美瑛町と小樽市の二事例を取り上げ、地域の知名度と価値的なイメージがどのようにして形成されるかを取り上げる。美瑛町は、かつては知名度の低い場所であった。また、小樽には「斜陽の街」というマイナスのイメージがっきまとっていた。しかし、1980年代の終わり頃から、美瑛は「丘の街」として、小樽は「運河と硝子細工の街」として知られるようになり、多くの観光客を集めるようになった。この2つの地域において生じた出来事とその意図せざる結果について、プロセスを追いながら地域のブランド化が達成されるために必要な諸条件(特に視覚的シンボルの重要性)と諸課題について論じる。 / In this essay, I take two cases of place branding and consider how positive images of places are created. Biei is a small town in Hokkaido, situated in farm areas, but formerly few people knew Biei. But it is now well-known as the Town of Hills and many tourists visit to Biei. Otaru was known as an example of sunset city, but now is well-known as the City of Canals and Glassblowing and a tourist spot. I analyze the process of changing or creating the images of them, and indicate the importance of visual symbols (icons) witch visualize and typify the positive elements of those places.
著者
中嶋 聞多 木亦 千尋
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.5, pp.31-51, 2009-12

本研究は、近年、注目を集めているB級ご当地グルメといわれる地域独自の「食」を活かした地域ブランドの構築モデルを検討したものである。B級ご当地グルメは、地域ブランドという観点からみると、いまだ発展途上の段階にあるものが多い。本稿では、まず既存のブランド論や地域ブランド論について批判的に検討し、B級ご当地グルメの特殊性を考慮しながら、B級ご当地グルメの地域ブランドの構築モデルを作成する。そのあと、B級ご当地グルメの代表例として、富士宮やきそばをとりあげ、フィールド調査等を通して得られた知見と比較することにより、モデルの説明能力について検討を加え、精緻化を図る。
著者
沢木 幹栄
出版者
信州大学
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.95-99, 2005-12-04
著者
村山 研一
出版者
信州大学
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.5-32, 2005-12-04

日本では、高度成長期において、地方を発展させるために工業開発の手法が導入されてきた。すなわち、行政が基盤投資を行って工業の誘致・導入が図られてきた。しかし、グローバル化の進展は、工業空洞化状態を作り出し、これまでの工業開発戦略を採用し続けることは困難になった。今日、地域の活性化を図るためには、内生的な発展の手法を検討する必要がある。本論文で提唱するのは、内生的発展の一手法としての「地域ブランド」である。ブランドはマーケッティング分野で近年重視されるようになってきた。本稿では、ブランド化の考え方を「場所」に対して拡張する。地域社会が内在的に持つ諸資源を拾い上げながら、一つのシンボルに集約させ、地域に新しい魅力を作り上げることが地域ブランドの手法である。地域ブランドは、私的ブランドとは異なり、地域の社会財としての意味を持つ。それゆえ、ブランド化の手法においても異なったアプローチが必要となる。本稿では、そのための提言がなされている。