著者
飯塚 遼
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.5, pp.107-115, 2012-03

近年,人々の「食」に対する関心の高まりを背景として,農産物や伝統食品を対象としたフードツーリズムが発展してきている。そこで,本論文は,スコットランドの農村集落であるクライゲラヒ村を対象として,伝統産業としてのウィスキー製造をテーマとしたウィスキーツーリズムの現状について検討する。現地での聞き取り調査や文献調査を行った結果,クライゲラヒ村では,ウィスキー製造に関連する観光資源それぞれが,地域の伝統的な生活文化の異なる側面を有しており,その役割を分担することによって多様化する観光客のニーズに応えていることが明らかになった。さらに,それら観光資源の有機的な結び付きによって,観光資源のネットワークが形成されていた。クライゲラヒ村におけるウィスキーツーリズムは,そのようなネットワークのもとに存立しているのである。
著者
鈴木 晃志郎 鈴木 亮
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.85-93, 2009-03-30

首都大学東京の南側斜面にある松木日向緑地は、十分な維持管理が行われていないため近年ササや竹林が繁茂し、荒廃が進んでいる。この背景には、大学側が管理のための予算を継続して取ってこなかったこと、維持管理のための組織体制が学内で統一できていないことが関係している。松木日向緑地は、大学移転前までは地域の里山であり、人々の生活と密接に関わりのある入会地的性格をもった緑地であった。しかし大学側は、移転当初から地域住民の立ち入りを禁止し、圃場のみ技術職員を配置して維持管理にあたらせた。これに熱心な教職員の緑地保全活動も加わった。しかしながら、こうした大学側の対応は、地域住民の生活から松木日向緑地を遠ざける結果へと結びついた。大学側の対応は、植生の維持管理についても、業者への委託によって不定期におこなわれる下草刈りにとどまった。自発的な緑地の維持管理主体を喪失したことが、現在の状況を生み出す要因になったといえる。今後は、教職員・学生のみならず、エコロジーに対する意識の高い地域住民を取り込み、三者が一体となった組織的かつ持続可能な緑地保全の在り方を探っていく必要があろう。
著者
伊ヶ崎 健大 田中(髙橋) 美穂 佐々木 夕子 小﨑 隆
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.127-134, 2013-03

日本人は砂漠化問題に関する関心が低いとされる。しかし、世界規模で取り組むべき砂漠化問題に個人が関心を持ち、それを理解することは、砂漠化に関連する食料安全保障や気候変動の問題に対する理解と環境保全活動に参加する人材の育成にも繋がることから極めて重要である。そこで本研究では、文献調査および2度の現地調査を通して砂漠化問題や現地の人々の生活、文化、価値観に対する日本人の理解を促進するための環境教育教材としてニジェール共和国を舞台にしたエコツアーおよびそれを補佐するプロモーションビデオとガイドブックを作成した。エコツアーについては、「最新の砂漠化対処技術の開発を目的した研究への参加」、「対象国自身が実施している砂漠化対策の視察」、「砂漠化に脅かされる野生動物の生態調査」、「現地の生活体験」、「現地ステークホルダとの討論」をコンテンツとして組み込んだ。また、プロモーションビデオおよびガイドブックについては、基本的にエコツアーの流れを重視して作成した。プロモーションビデオおよびガイドブックの教育教材としての有効性を検証した結果、ガイドブックを用いた講義およびプロモーションビデオの上映により、環境意識の高い日本の大学生および大学院生に対しては、砂漠化という現象およびその原因についてある程度正しく伝達することができ、また彼らの砂漠化問題、ひいては環境活動に対する興味を高めることができることがわかった。今後の課題としては、エコツアー自体の有効性の検証が挙げられる。この際、単に本研究で作成したエコツアーをモニターにより評価するだけでなく、既存の植林ツアーやエコツアーが有する教育効果との比較も不可欠である。
著者
林 琢也
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.143-154, 2010-03-30
被引用文献数
1

都市住民の農業・農村体験,農産物の直接購入の需要を満たす観光農園の経営は,農家にとっては,労力の軽減や所得向上のための大きな手段となる。本稿では,同一品目を主な「商品」とする観光農園の入園料が地域において大きく異なる点に注目し,YAHOO!JAPAN のキーワード検索において「サクランボ狩り」で上位100件に挙げられた地域を取り上げ,価格設定と集客圏,所得の関係を考察した。その結果,価格設定は,食べ放題の時間制限と入園料により「短時間・低価格」と「短時間・高価格」,「長時間・低価格」の地域に分類できた.さらに,価格と集客圏となる地域の所得水準の高低は総じて比例関係にあるとともに,低価格地域の多くは,大都市(圏)から離れた地域にみられた。すなわち,観光農園の入園料は,集客圏とする地域の所得や大都市(圏)との距離に大きく影響を受けており,それによって同じ品目を「商品」として利用する場合でも価格設定をはじめとする経営内容に差異を生み出すことが明らかとなった。