著者
齋藤 弘樹 川原 晋
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.5, pp.35-43, 2012-03

地域振興とスポーツ普及を一体として考える「ホームタウンスポーツ」が地域に果たす役割を考察するため、少年サッカーの普及を母体として設立されたプロクラブを有するという特徴を持つ東京都町田市のサッカーを事例として、次のことを明らかにした。まず、町田市の少年サッカーは、地域社会教育の一環として小学校教員や保護者等の地域コミュニティが支えて普及したこと、その指導者やOBを母体としてプロクラブFC町田ゼルビアが設立されたことで関係者に基本的理念が共有されている強み生かし、少年サッカーと共に、①子どもの教育の場の役割、②子どもの夢や目標を創出する役割、③地域の賑わいを創出する役割を果たしてきたことである。また、今後はそれらに加え、④地域コミュニティの再構築や郷土意識の醸成の役割への期待を受けていることも明らかになった。最後に、これまでに蓄積された潜在的人材や運営経験等を明らかにした上で、町田市ならではの「ホームタウンスポーツ」形成の方策を提言した。
著者
下田 雅己 清水 哲夫
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.157-165, 2013-03

韓国の首都ソウルでは2004 年から公共交通の共通運賃制度が導入され,2007 年にはソウル近郊の都市圏である京畿エリア全体に拡大された。これは,鉄道・地下鉄とバスについて運営事業者はそれぞれの企業体のままで,距離制による共通運賃を実現するものであった。交通機関ごとの乗降ではなく,起点から終点までの移動をワントリップととらえるもので,利用者にとっての利便性は極めて高いものである。従来,初乗り運賃をそれぞれに徴収してきた事業者にとっては減収になるが,その部分は自治体の財政によって補填を行うものである。ソウル都市圏において,この制度を導入した背景には,バス及び自動車の交通機関別分担率が高い構造の中で,民間バス会社間の過当競争やサービスの悪化,渋滞や大気汚染,交通事故などの問題を解決するという切実な必要性があったからで,バスの改革に鉄道網も組み込んだという流れであった。これを支えるハード・ソフト両面の技術的側面も機能した。東京圏においても,仮にこの仕組みを導入すれば利用者の利便は向上するであろう。しかし,東京圏では鉄道の交通機関別分担率が高く,しかも鉄道事業者が数多く存在している現状があり,新たな財政支出の可能性を含めて,簡単には同様な仕組みを導入することはできない。しかし,インバウンド観光の推進をはじめ,少子・高齢化社会への対応,環境問題などの観点から,公共交通の役割を高めるために,ソウル都市圏での実践と経験から学ぶべきことがあるのではないか。
著者
下田 雅己 清水 哲夫
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.157-165, 2013-03-30

韓国の首都ソウルでは2004 年から公共交通の共通運賃制度が導入され,2007 年にはソウル近郊の都市圏である京畿エリア全体に拡大された。これは,鉄道・地下鉄とバスについて運営事業者はそれぞれの企業体のままで,距離制による共通運賃を実現するものであった。交通機関ごとの乗降ではなく,起点から終点までの移動をワントリップととらえるもので,利用者にとっての利便性は極めて高いものである。従来,初乗り運賃をそれぞれに徴収してきた事業者にとっては減収になるが,その部分は自治体の財政によって補填を行うものである。ソウル都市圏において,この制度を導入した背景には,バス及び自動車の交通機関別分担率が高い構造の中で,民間バス会社間の過当競争やサービスの悪化,渋滞や大気汚染,交通事故などの問題を解決するという切実な必要性があったからで,バスの改革に鉄道網も組み込んだという流れであった。これを支えるハード・ソフト両面の技術的側面も機能した。東京圏においても,仮にこの仕組みを導入すれば利用者の利便は向上するであろう。しかし,東京圏では鉄道の交通機関別分担率が高く,しかも鉄道事業者が数多く存在している現状があり,新たな財政支出の可能性を含めて,簡単には同様な仕組みを導入することはできない。しかし,インバウンド観光の推進をはじめ,少子・高齢化社会への対応,環境問題などの観点から,公共交通の役割を高めるために,ソウル都市圏での実践と経験から学ぶべきことがあるのではないか。
著者
河東 宗平 雨宮 尚弘 梶山 桃子 川嶋 裕子 塩川 さとこ 有馬 貴之 菊地 俊夫
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.189-194, 2013-03

本報告は近年外国人観光客が増加する箱根の強羅地区を事例として,外国人観光客への取り組み状況の現状を把捉することを目的としたものである。調査は案内板調査,アンケート調査,動線調査,聞き取り調査の4つを行った。強羅における案内板は,そのほとんどが日本人観光客を意識したものであり,英語併記等の案内板は全くみられなかった。強羅における外国人観光客の増加自体は近年の現象であり,その割合も日本人観光客の割合には遠く及ばない。そのため,現状では外国人観光客への取り組みは,箱根の他地域と比べも大きく進展している状況ではなかった。しかしながら,強羅での就業者は外国人観光客を拒んでいる訳ではなく,むしろ迎え入れる意識を高く持っていた。2,3 年前から外国人を意識した接客を始めた施設が多い強羅ではあるが,今後,新たな取り組みがみられる可能性が高いと判断された。
著者
菊地 俊夫 山本 充 キクチ トシオ ヤマモト ミツル Kikuchi Toshio Yamamoto Mitsuru
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.4, pp.15-27, 2011-03-30

本論文はドイツ・バイエルン州における農家民宿に注目し,農村空間の商品化にともなうルーラルツーリズムの発展をプルーリアクティビティ(多就業形態)と関連づけながら検討した。バイエルン州では,農村の景観や農牧業,および生活文化が農家民宿の発展と相互に関連しながら維持され,それらのアトラクションの商品化を促進させることで農村観光の発展が図られてきた。農村空間の商品化は農村の景観や農牧業,および生活文化を維持することに貢献し,そのことが農家民宿や農村観光のさらなる発展につながった。バイエルン州ではプルーリアクティビティが機能し,酪農や林業,および農家民宿が行われることで,すべての土地基盤にわたって農村資源が利用されるようになり,そのことによって農村景観が維持される。農村景観は農家民宿の利用者や農村観光の訪問者のアトラクションとなり,農村空間の商品化が決定づけられた。
著者
清水 哲夫
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.5, pp.45-57, 2012-03

本稿は,イタリアのインフラ整備と管理の計画と制度に着目し,これらの現状と課題を解説し,日本の交通政策に対して示唆を与えることを目的とする。イタリアの地理的条件や社会経済・政治情勢,あるいは交通流動の概況を整理した上で,①イタリアの交通インフラ整備計画の内容とその実現プロセス,②イタリアの道路管理制度,③イタリアの鉄道事業経営と許認可の制度,について,日本との差異や共通点に触れながら解説している。イタリアは20世紀末から地方分権と民間開放を通じて国が管理していた交通インフラサービスを地方自治体や民間会社に移譲してきた点が特徴であり,その成果や問題点について,インタビュー調査,各種文献調査,実際のインフラ利用体験をベースに論じている。
著者
坂口 豪
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.147-156, 2013-03

東京大都市圏は宅地化などの開発が高度経済成長期に行なわれ,緑地が少なくなった。しかし斜面林地は開発が行いにくく緑地として残されていることが多い。世田谷区の西部を流れる野川の東側には国分寺崖線が続き,崖線上の一部には斜面林が残されている。このような樹林は都市的土地利用が広がる都市近郊域では貴重な自然環境である。そこで,本研究では国分寺崖線上に位置する世田谷区立成城三丁目緑地を調査地とした。本緑地は2001 年に世田谷区により設立された。現在,どのような緑地管理が行なわれているか市民ボランティアに聞き取りを行ない整理した。また現地調査は植生を基にしたエリア区分けごとに行ない,土壌硬度,土壌水分量,リター層の厚さの計測をした。また各エリアで土壌採取を行ない,土壌pH,全炭素量と全窒素量の値を測定しC/N 比を出した。成城三丁目緑地における管理活動については,現在,荒廃した雑木林とならぬように,市民ボランティアが下草刈りや倒木の処理を行っている。土壌性状については,土壌硬度の垂直分布は,地形条件により大きく異なる。斜面下部の表層部の硬度が低くなる傾向がみられた。土壌の化学性については,樹林地内ではほとんどの地点でpH5.5-6.0 であった。造成地ではアルカリ化が進んでいた。また管理により,土壌の性状が異なることが明らかになった。落ち葉掻きにより,C/N 比は下がり,pH は上がることが分かった。ただし,その影響は小さいことが分かった。
著者
駒木 伸比古
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.4, pp.29-38, 2011-03-30

本研究は,大店法末期において地方都市郊外に計画されたショッピングセンターを事例として,大型店問題を出店者である企業の経営状況や事業主体である地元自治体,そして地元小売業者といった主体の多面的な利害を踏まえつつ検討した。対象としたのは,大店法に基づき出店の届出が行われたが出店調整の勧告を機に計画が撤回されたのち,ほぼ同規模・同機能のショッピングセンターの出店届出が大店立地法に基づき異なる企業により行われ,出店したケースである。それぞれの出店計画および調整の過程における企業の経営状況,自治体の対応,そして地元小売業者の反応を検討し,法規制の緩和も含め,各主体がどのような利害関係に基づき行動したかを比較・考察した。その結果,①土地区画整理事業に関連する大型店の誘致・出店をめぐる自治体の対応,②出店者の経営状況とそれに関連する法的手続きの利用,③大型店を誘致せねばならない自治体とドミナントエリア拡大をめざす出店者との利害の一致,④大店法の廃止・大店立地法の施行に伴う地元小売業者の大型店出店調整に対する認識の刷新,⑤中心市街地を有する自治体と郊外自治体とでのショッピングセンター出店に対する意識の違いの5点が,本事例の出店プロセスに大きく関わっていることが明らかとなった。
著者
土居 利光
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.61-76, 2013-03-30

動物園及び水族館は,動物を収集し展示し公開することによって利用される施設であり,関係者の間ではレクリエーション,自然保護,教育,研究の四つ役割を持つとするのが定説となっている。本論では,野生動物との関わり,都市における資源,組織などの視点から動物園及び水族館を捉えるとともに,立地環境である都市の課題を解決するための手段に位置づけて,その意義及び役割の検討を行った。結果として,動物園及び水族館は,人工エネルギーを利用する現代的な存在であるとともに,その組織は人的システム,物的システム,交換システムから構成されており,現代の社会生活とそれを支える社会組織を成り立たせるための空間である都市において,自然への共感を呼び起こす場及び地域の核としての意義を持ち,その役割は教育や普及啓発を含めたメッセージの発信にあるとした。
著者
坂口 豪
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.147-156, 2013-03-30

東京大都市圏は宅地化などの開発が高度経済成長期に行なわれ,緑地が少なくなった。しかし斜面林地は開発が行いにくく緑地として残されていることが多い。世田谷区の西部を流れる野川の東側には国分寺崖線が続き,崖線上の一部には斜面林が残されている。このような樹林は都市的土地利用が広がる都市近郊域では貴重な自然環境である。そこで,本研究では国分寺崖線上に位置する世田谷区立成城三丁目緑地を調査地とした。本緑地は2001 年に世田谷区により設立された。現在,どのような緑地管理が行なわれているか市民ボランティアに聞き取りを行ない整理した。また現地調査は植生を基にしたエリア区分けごとに行ない,土壌硬度,土壌水分量,リター層の厚さの計測をした。また各エリアで土壌採取を行ない,土壌pH,全炭素量と全窒素量の値を測定しC/N 比を出した。成城三丁目緑地における管理活動については,現在,荒廃した雑木林とならぬように,市民ボランティアが下草刈りや倒木の処理を行っている。土壌性状については,土壌硬度の垂直分布は,地形条件により大きく異なる。斜面下部の表層部の硬度が低くなる傾向がみられた。土壌の化学性については,樹林地内ではほとんどの地点でpH5.5-6.0 であった。造成地ではアルカリ化が進んでいた。また管理により,土壌の性状が異なることが明らかになった。落ち葉掻きにより,C/N 比は下がり,pH は上がることが分かった。ただし,その影響は小さいことが分かった。
著者
倉田 陽平
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.5, pp.159-165, 2012-03
被引用文献数
2

筆者らは「訪日外国人に対する旅行サービスの高度化」を目指した研究プロジェクトに東京大学・JTBとともに取り組んでいる。本稿では,このプロジェクトの一環で開発された「旅行プラン作成支援システム」について報告する。このシステムでは,地図上に表示された旅行プランを見ながら,訪れたい/訪れたくない観光資源を指定したり,プラン全体の性格を指示したり,滞在時間や起終点を調整したりして,探索的かつ能率的に各自の好みにあった旅行プランを作成していくことができる。このシステムによってインターネットを介していつでもどこでも多様な言語によって旅行プランの相談ができるようになるため,日本を訪れる外国人旅行者にとって有用なツールとなることが期待できる。
著者
飯塚 遼
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.5, pp.107-115, 2012-03

近年,人々の「食」に対する関心の高まりを背景として,農産物や伝統食品を対象としたフードツーリズムが発展してきている。そこで,本論文は,スコットランドの農村集落であるクライゲラヒ村を対象として,伝統産業としてのウィスキー製造をテーマとしたウィスキーツーリズムの現状について検討する。現地での聞き取り調査や文献調査を行った結果,クライゲラヒ村では,ウィスキー製造に関連する観光資源それぞれが,地域の伝統的な生活文化の異なる側面を有しており,その役割を分担することによって多様化する観光客のニーズに応えていることが明らかになった。さらに,それら観光資源の有機的な結び付きによって,観光資源のネットワークが形成されていた。クライゲラヒ村におけるウィスキーツーリズムは,そのようなネットワークのもとに存立しているのである。
著者
伊ヶ崎 健大 田中(髙橋) 美穂 佐々木 夕子 小﨑 隆
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.127-134, 2013-03

日本人は砂漠化問題に関する関心が低いとされる。しかし、世界規模で取り組むべき砂漠化問題に個人が関心を持ち、それを理解することは、砂漠化に関連する食料安全保障や気候変動の問題に対する理解と環境保全活動に参加する人材の育成にも繋がることから極めて重要である。そこで本研究では、文献調査および2度の現地調査を通して砂漠化問題や現地の人々の生活、文化、価値観に対する日本人の理解を促進するための環境教育教材としてニジェール共和国を舞台にしたエコツアーおよびそれを補佐するプロモーションビデオとガイドブックを作成した。エコツアーについては、「最新の砂漠化対処技術の開発を目的した研究への参加」、「対象国自身が実施している砂漠化対策の視察」、「砂漠化に脅かされる野生動物の生態調査」、「現地の生活体験」、「現地ステークホルダとの討論」をコンテンツとして組み込んだ。また、プロモーションビデオおよびガイドブックについては、基本的にエコツアーの流れを重視して作成した。プロモーションビデオおよびガイドブックの教育教材としての有効性を検証した結果、ガイドブックを用いた講義およびプロモーションビデオの上映により、環境意識の高い日本の大学生および大学院生に対しては、砂漠化という現象およびその原因についてある程度正しく伝達することができ、また彼らの砂漠化問題、ひいては環境活動に対する興味を高めることができることがわかった。今後の課題としては、エコツアー自体の有効性の検証が挙げられる。この際、単に本研究で作成したエコツアーをモニターにより評価するだけでなく、既存の植林ツアーやエコツアーが有する教育効果との比較も不可欠である。