著者
飯塚 遼 矢ケ﨑 太洋 菊地 俊夫
出版者
東京都立大学大学院都市環境科学研究科観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The International Journal of Tourism Science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.14, pp.87-96, 2021-03-15

摘要 本研究はフランス・ノール県ダンケルク郡を事例としてビールツーリズムの展開にともなうロカリティの再編について考察することを目的としている。ダンケルク郡におけるビールツーリズムは農村景観や集落景観などの農村を構成する要素が観光資源となり,それらが観光プロモーションプログラムを通じて結合されることにより存立していた。また,ダンケルク郡におけるビールツーリズムの空間は,同様のプログラムが設定されているベルギー側のウェストフーク郡にまで広がりをみせていた。そこでは,両地域の文化の共通性が観光資源に内包されていた。いわば,ダンケルク郡でフランスという国家的枠組に組み込まれたことで失われつつあったフランデレンのロカリティが,ビールツーリズムを通じて回復されていた。
著者
矢追 錬 直井 岳人
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The international journal of tourism science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.9, pp.109-118, 2016-03

本研究は工場景観が観光対象に変容する過程を分析することを目的とする。本研究における調査では,「新聞記事に見られる,『工場を利用した観光』を振興する目的と背景」と「新聞記事,工場景観写真集,及び自治体の発行する観光パンフレット中の,工場景観を修飾する語と句」の出現頻度の時系列変化が分析された。その結果,工場景観の観光対象としての認識の急速な広がりと,観光対象としての工場景観の特性が産業観光のそれとは異なる可能性が示唆された。
著者
坂口 豪
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.147-156, 2013-03

東京大都市圏は宅地化などの開発が高度経済成長期に行なわれ,緑地が少なくなった。しかし斜面林地は開発が行いにくく緑地として残されていることが多い。世田谷区の西部を流れる野川の東側には国分寺崖線が続き,崖線上の一部には斜面林が残されている。このような樹林は都市的土地利用が広がる都市近郊域では貴重な自然環境である。そこで,本研究では国分寺崖線上に位置する世田谷区立成城三丁目緑地を調査地とした。本緑地は2001 年に世田谷区により設立された。現在,どのような緑地管理が行なわれているか市民ボランティアに聞き取りを行ない整理した。また現地調査は植生を基にしたエリア区分けごとに行ない,土壌硬度,土壌水分量,リター層の厚さの計測をした。また各エリアで土壌採取を行ない,土壌pH,全炭素量と全窒素量の値を測定しC/N 比を出した。成城三丁目緑地における管理活動については,現在,荒廃した雑木林とならぬように,市民ボランティアが下草刈りや倒木の処理を行っている。土壌性状については,土壌硬度の垂直分布は,地形条件により大きく異なる。斜面下部の表層部の硬度が低くなる傾向がみられた。土壌の化学性については,樹林地内ではほとんどの地点でpH5.5-6.0 であった。造成地ではアルカリ化が進んでいた。また管理により,土壌の性状が異なることが明らかになった。落ち葉掻きにより,C/N 比は下がり,pH は上がることが分かった。ただし,その影響は小さいことが分かった。
著者
齋藤 竜太
出版者
東京都立大学大学院都市環境科学研究科観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The International Journal of Tourism Science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.14, pp.43-50, 2021-03-15

摘要 地理学を志すきっかけと,東京都立大学地理学科で学んだことを振り返るとともに,高等学校地理教科書の編集という仕事のなかで実際に行った地域調査の事例と,その際に製作した主題図を紹介する。具体的には,2000年度の卒業論文における地域調査の事例,および,2009年(平成21年)に告示された高等学校の学習指導要領のもとで発行した,2冊の地理A教科書に掲載した4つの地域調査事例をもとに,地域調査における地図制作の手法と,地域資源の発掘方法の変遷について考察している。これらの事例をもとに,地理教育における地域調査により,地域資源を発掘する経験がもたらす教育的な効果について,GISなどの技術的な進歩も踏まえて展望を記した。
著者
杉原 創 本田 武義 藤井 一至 舟川 晋也 岩井 香泳子 小﨑 隆
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.9, pp.125-129, 2016-01-31

本論文では,日本有数の酒米生産地である兵庫県を対象に,地質が異なる地域で栽培された酒米を比較することで,酒米と栽培土壌の化学的性質がどのように関係するか,生産地域の土壌特性が酒米の品質にどの程度影響を与えるかに関して検討を行った。土壌試料は,堆積物地帯,玄武岩地帯,蛇紋岩地帯の地域から土壌(計20地点)を採取し,土壌中の全塩基含量,無機成分含量,および可給態窒素含量と全リン含量を分析した。酒米に関しては,堆積物地帯,玄武岩地帯の玄米の試料(計16地点)を採取し,土壌試料と同じ項目を分析した。その結果,堆積物地帯の土壌と比べ,玄武岩地帯,蛇紋岩地帯の土壌はマグネシウム,マンガン,亜鉛,鉄含量が多く存在し,その影響を受け,酒米も同様の成分が高い傾向にあることが判明した。このことは,酒米栽培土壌の地質の違いが,酒米の化学的性質の違い,ひいては日本酒の地域性を生み出す重要な要因の1つであることを示唆している。
著者
櫻澤 明樹 保坂 哲朗 沼田 真也
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.8, pp.125-131, 2015-01-31

北海道の帯広市では市によって公営競技であるばんえい競馬が運営されている。ばんえい競馬は単なる公営競技ではなく、北海道の文化遺産に登録され、帯広市の主要な観光資源の一つである。しかし、近年は馬券(勝馬投票券)売り上げの減少により、存続が危ぶまれている。本研究ではばんえい競馬に訪れる来場者に注目し、彼らの馬券購入を含む消費行動を明らかにするためにアンケート調査を実施した。調査結果から、時期によって異なるタイプの観光客が来場しており、勝馬投票券の購入金額も異なることが明らかになった。特に、夏季(8月)は性別や年齢などの属性によって使用額に有意な差が見られたが、冬季(12月)はばんえい競馬に対する愛着の度合によって使用額に有意な差が見られた。これらの結果を踏まえ、観光客のばんえい競馬への愛着度合いを考慮して、夏季、冬季で異なる取り組みを行うことが有効であると考えられた。
著者
駒木 伸比古
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.4, pp.29-38, 2011-03-30

本研究は,大店法末期において地方都市郊外に計画されたショッピングセンターを事例として,大型店問題を出店者である企業の経営状況や事業主体である地元自治体,そして地元小売業者といった主体の多面的な利害を踏まえつつ検討した。対象としたのは,大店法に基づき出店の届出が行われたが出店調整の勧告を機に計画が撤回されたのち,ほぼ同規模・同機能のショッピングセンターの出店届出が大店立地法に基づき異なる企業により行われ,出店したケースである。それぞれの出店計画および調整の過程における企業の経営状況,自治体の対応,そして地元小売業者の反応を検討し,法規制の緩和も含め,各主体がどのような利害関係に基づき行動したかを比較・考察した。その結果,①土地区画整理事業に関連する大型店の誘致・出店をめぐる自治体の対応,②出店者の経営状況とそれに関連する法的手続きの利用,③大型店を誘致せねばならない自治体とドミナントエリア拡大をめざす出店者との利害の一致,④大店法の廃止・大店立地法の施行に伴う地元小売業者の大型店出店調整に対する認識の刷新,⑤中心市街地を有する自治体と郊外自治体とでのショッピングセンター出店に対する意識の違いの5点が,本事例の出店プロセスに大きく関わっていることが明らかとなった。
著者
片桐 由希子 梶山 桃子 東 秀紀
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.8, pp.61-69, 2015-01-31

観光立国の実現や2020年の東京オリンピックに向け,行政では観光地としての受入体制の向上に取り組んでいる。本研究は,アンケート調査を通じて地域の生活者側の視点からゲストハウスの宿泊者との交流の実態を捉え,着地型観光における観光インフラとしてゲストハウスの可能性を考察した。台東区のゲストハウスtoco.の事例では,ゲストハウスが提供する非宿泊者と宿泊者との交流の場が,周辺地域での宿泊者の観光体験の充足ともに,地域における観光客の存在と観光対象としての地域の価値を非宿泊者に意識させ,コミュニケーションスキルの向上につながるなど,多様化する個人旅行客に対する受け皿としての環境の構築を支え得るものであることが示唆された。
著者
賀 佳惠 川原 晋 岡村 祐
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The international journal of tourism science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.11, pp.19-25, 2018-03

本研究は、観光地化する歴史的町並み地区において、地域外資本の店舗が過度に入ることにより個性が喪失する問題に注目し、次のことを明らかにした。第一に、観光地化の進行する重要伝統的建造物群保存地区をねらって出店する、伝建チェーンと名付けた企業5社の存在を確認した。第二に、川越一番街商店街を対象とした調査から、地域内の様々な組織の主活動が町並み保全か、商業振興か、観光振興かの違いが、どのような店舗を外部資本店舗と捉えるかに違いがあること、第三に、外部資本店舗に対して、地区の個性を損なわないように誘導し、むしろ支える側の役割を期待する地域側の巻き込みが見られ、これに外部資本店舗も協力する「外部資本店舗の地域化」と考えるべき状況が見られたことである。
著者
洪 明真 太田 慧 杉本 興運 菊地 俊夫
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.11, pp.35-43, 2018-03-15

本研究は東京都台東区上野地域おける行楽行動の要素を歴史地理学的な観点から検討したものである。江戸期にわたって刊行された名所案内記の挿絵と錦絵を用い,これらの視覚史料に描かれた江戸期の上野地域の描写対象を分析した。江戸上野地域は,新しい都市となった江戸を象徴する建造物を建設するため,地形的・文化的条件が合致する場所であった。そして,為政者による江戸の都市施設と遊覧場所として計画された上野地域の「東叡山」とその周辺には,当時の人々の行楽行動が現われていた。江戸上野地域の視覚史料から描写対象としての「人的要素(女性)」と「物的要素(衣食住関連の商業活動)」に注目したところ,江戸上野地域の行楽行動の要因は「東叡山」と「桜」は江戸上野地域における行楽行動の重要な要素となっていた。
著者
櫻澤 明樹 保坂 哲朗 沼田 真也
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.8, pp.125-131, 2015-03

北海道の帯広市では市によって公営競技であるばんえい競馬が運営されている。ばんえい競馬は単なる公営競技ではなく、北海道の文化遺産に登録され、帯広市の主要な観光資源の一つである。しかし、近年は馬券(勝馬投票券)売り上げの減少により、存続が危ぶまれている。本研究ではばんえい競馬に訪れる来場者に注目し、彼らの馬券購入を含む消費行動を明らかにするためにアンケート調査を実施した。調査結果から、時期によって異なるタイプの観光客が来場しており、勝馬投票券の購入金額も異なることが明らかになった。特に、夏季(8月)は性別や年齢などの属性によって使用額に有意な差が見られたが、冬季(12月)はばんえい競馬に対する愛着の度合によって使用額に有意な差が見られた。これらの結果を踏まえ、観光客のばんえい競馬への愛着度合いを考慮して、夏季、冬季で異なる取り組みを行うことが有効であると考えられた。
著者
延東 洋輔
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.7, pp.21-27, 2014-03

本研究では,日本の耐久消費財メーカーであるパナソニック,ソニー,トヨタ自動車が東京都内において運営する企業ショウルームを採り上げる。これらの施設は,産業遺産や実際に稼働する産業施設を対象とする産業観光の事例であり,それを運営する企業側の主体性を加味した評価が求められる観光資源でもある。本稿は,耐久消費財メーカー3社が運営する企業ショウルームについて,既存のマーケティング理論と照らし合わせて現状分析を行う。この結果を踏まえて,企業戦略によって決まる施設運営の方向性について考察し,観光資源としての可能性や,求められる観光産業との連携など,実学的な産業観光について試論する
著者
土居 利光
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.61-76, 2013-03-30

動物園及び水族館は,動物を収集し展示し公開することによって利用される施設であり,関係者の間ではレクリエーション,自然保護,教育,研究の四つ役割を持つとするのが定説となっている。本論では,野生動物との関わり,都市における資源,組織などの視点から動物園及び水族館を捉えるとともに,立地環境である都市の課題を解決するための手段に位置づけて,その意義及び役割の検討を行った。結果として,動物園及び水族館は,人工エネルギーを利用する現代的な存在であるとともに,その組織は人的システム,物的システム,交換システムから構成されており,現代の社会生活とそれを支える社会組織を成り立たせるための空間である都市において,自然への共感を呼び起こす場及び地域の核としての意義を持ち,その役割は教育や普及啓発を含めたメッセージの発信にあるとした。
著者
坂口 豪
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.147-156, 2013-03-30

東京大都市圏は宅地化などの開発が高度経済成長期に行なわれ,緑地が少なくなった。しかし斜面林地は開発が行いにくく緑地として残されていることが多い。世田谷区の西部を流れる野川の東側には国分寺崖線が続き,崖線上の一部には斜面林が残されている。このような樹林は都市的土地利用が広がる都市近郊域では貴重な自然環境である。そこで,本研究では国分寺崖線上に位置する世田谷区立成城三丁目緑地を調査地とした。本緑地は2001 年に世田谷区により設立された。現在,どのような緑地管理が行なわれているか市民ボランティアに聞き取りを行ない整理した。また現地調査は植生を基にしたエリア区分けごとに行ない,土壌硬度,土壌水分量,リター層の厚さの計測をした。また各エリアで土壌採取を行ない,土壌pH,全炭素量と全窒素量の値を測定しC/N 比を出した。成城三丁目緑地における管理活動については,現在,荒廃した雑木林とならぬように,市民ボランティアが下草刈りや倒木の処理を行っている。土壌性状については,土壌硬度の垂直分布は,地形条件により大きく異なる。斜面下部の表層部の硬度が低くなる傾向がみられた。土壌の化学性については,樹林地内ではほとんどの地点でpH5.5-6.0 であった。造成地ではアルカリ化が進んでいた。また管理により,土壌の性状が異なることが明らかになった。落ち葉掻きにより,C/N 比は下がり,pH は上がることが分かった。ただし,その影響は小さいことが分かった。
著者
倉田 陽平 相 尚寿 真田 風 池田 拓生
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The international journal of tourism science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.9, pp.103-108, 2016-03

本研究ではWeb上で地域の「仮想ツアー」を作成・発信できるツール「だれでもガイド!」を開発した。このツールでは,GoogleストリートビューやWeb上の任意の画像に案内役キャラクター,セリフ,効果音を付加し,紙芝居形式で観光案内を行うことができる。ブラウザ上で動くGUI 形式の編集ツールを用意し,利用可能な案内役キャラクターや効果音を予め用意するなどの工夫を行い,徹底的にコンテンツ作成の敷居を下げた。学生を対象とした実験の結果,本ツールの評価は概ね良好であり,バラエティに富むコンテンツが得られた。本ツールは観光教育の現場で学生が企画した観光コースの発信や,駐車場や施設への道案内,マラソンコースやハイキングコースの案内などへの応用も期待できる。
著者
相 尚寿 前澤 由佳 本保 芳明 阿曽 真紀子
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The international journal of tourism science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.9, pp.83-91, 2016-03

地方の人口減少や産業構造の変化に対する活性化策として観光振興が注目されている。特に、外国人旅行者の誘致は日本人旅行市場が縮小傾向にあるため、重要性を増している。本研究では外国の旅行会社やメディア関係者を観光資源に招き、旅行商品造成やメディア露出増を期待するファムトリップに着目し、いかなる施策が効果的なのかを議論する。対象地は近年全国傾向以上に訪日外国人宿泊者が増加している岐阜県とし、県職員へのヒアリングによる施策の整理、他の自治体や旅行会社へのアンケートを通じた岐阜県の施策の特徴づけと評価を行ったところ、岐阜県は他の自治体においても実践されている各種の施策を、その一部を深化させ徹底することにより戦略的、総合的に実施している点において先進性を有し、それが外国の旅行会社からも評価を得ていることが明らかとなった。
著者
倉田 陽平
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.5, pp.159-165, 2012-03
被引用文献数
2

筆者らは「訪日外国人に対する旅行サービスの高度化」を目指した研究プロジェクトに東京大学・JTBとともに取り組んでいる。本稿では,このプロジェクトの一環で開発された「旅行プラン作成支援システム」について報告する。このシステムでは,地図上に表示された旅行プランを見ながら,訪れたい/訪れたくない観光資源を指定したり,プラン全体の性格を指示したり,滞在時間や起終点を調整したりして,探索的かつ能率的に各自の好みにあった旅行プランを作成していくことができる。このシステムによってインターネットを介していつでもどこでも多様な言語によって旅行プランの相談ができるようになるため,日本を訪れる外国人旅行者にとって有用なツールとなることが期待できる。
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-8, 2011-03-30

本論文では,英国全土において法に基づき一律に運用されている屋外広告物コントロールの体系を把握した上で,当該行政施策としての時事的話題として,第一にグラスゴー市やダンディー市において実施されている違法屋外広告物を対象とした誘導的手法によるコントロールの取り組み実態を解明し,第二に2012年のロンドン五輪開催を控え,各地で設置が進められているパブリックビューイング用大型デジタルスクリーンが引き起こした諸問題とそのコントロールの取り組み状況を俯瞰した。こうした英国における屋外広告物コントロールには,ガイダンスや事例集等の作成によって事業者や市民への周知・教育が徹底している点,視覚および聴覚の側面を範疇に入れた都市空間・環境の質(=アメニティ)の概念が広範にわたる点等,英国における都市空間・環境のコントロールの本質を垣間見ることができる。
著者
有馬 貴之 和田 英子 小原 規宏
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-63, 2009-03-30
被引用文献数
1

観光空間は人々に対して非日常性を経験させる空間であるとされている。例えば,ある地域にとって独特で特有な自然や文化は観光資源として捉えられ,日常では経験できない非日常性が観光者に提供されている。そのような一般的な観光空間の性格を踏まえ,本研究は茨城県水戸市の偕楽園を事例に若者のレクリエーション行動を考察し,若者の観光空間における非日常性と日常性の関連や差異について検討した。また,本研究はレクリエーション行動をビデオカメラで調査しており,行動やそれに基づく空間把握の新たな研究方法の開発としても位置づけることができる。観光ガイドブックや雑誌の記事の一般的な傾向では,偕楽園は主に梅によって非日常性を演出された観光空間として捉えられてきた。しかし,若者のレクリエーション行動を調査した結果,梅を主な対象とする非日常性は偕楽園における若者の移動ルートや視線には認められたが,それは春のみに限定され,秋では日常的な資源が若者の観光空間を大きく性格づけていた。さらに,若者のレクリエーション行動の最中における会話を分析した結果,会話は春と秋ともに梅の非日常性に大きく依存することはなく,日常的な会話が多く交わされていた。これらの結果から,本研究では、若者のレクリエーション行動は所与の観光資源を受身的に享受するのではなく,自ら新たな資源を探し出しながら能動的に空間を利用するものであることが明らかとなった。したがって,若者は偕楽園を非日常的な空間として享受するのではなく,より柔軟で自由に利用できる日常的な空間,あるいは日常性の延長線上にある空間として享受している。本研究は非日常性で性格づけられる観光空間だけでなく,日常性を重視した観光空間づくりの可能性を示唆している。