著者
林 琢也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.635-659, 2007-10-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
39
被引用文献数
8 8 4

本研究は, 遠隔地農村において農業と地域の振興を図るために進められた観光農業の発展要因を, 青森県南部町名川地域 (旧名川町) を事例に考察した. 旧名川町は青森県最大のサクランボ産地であり, 町は1986年からサクランボ狩りを核とした観光事業を進めてきた. こうした活動の推進に際しては, 観光農業における先駆的農家と周囲の農家の組織化を促すほか, 補助事業を積極的に活用することで, 観光農業の充実を目指した地域リーダーの功績が大きかった. また, 集落レベルでの観光農業の普及においては, 専業的な果樹栽培農家に加え, 農外就業経験を有する帰農者の参加や, 集落内とその近隣地域から供給される労働力の存在も重要であった. このように, 多くの住民の協力体制の確立が, 遠隔地における観光農業の発展にとって不可欠であることが明らかとなった.
著者
山澤 德志子 小林 琢也 呉林 なごみ 村山 尚
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.157, no.1, pp.15-22, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
33

骨格筋のCa2+放出チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)は,骨格筋の興奮収縮連関時に筋小胞体からCa2+を放出する重要な役割を果たしている.RyR1の遺伝子変異は,過剰にチャネルを活性化して悪性高熱症(MH)を惹き起こし,一部の重度熱中症にも関与している.1960年代に開発されたダントロレンは,唯一承認されている治療薬である.しかし水溶性が非常に悪く,血中半減期も長いという欠点がある.そこで我々は,オキソリン酸誘導体のRyR1阻害物質である6,7-(methylenedioxy)-1-octyl-4-quinolone-3-carboxylic acid(化合物1,Cpd1)を開発した.Cpd1の治療効果を調べるため,新規MHモデルマウス(RYR1-p.R2509C)を作出し,イソフルラン吸入麻酔により誘発されたMH症状がCpd1投与により改善されることを明らかにした.また,このマウスは外気温の上昇による熱中症を引き起こしたが,Cpd1の投与は熱中症に対しても延命効果を示した.さらに,Cpd1は水溶性が高く,血中半減期が短いことが明らかとなり,ダントロレンの欠点を大きく改善した.本稿では,新規MHモデルマウス(RYR1-p.R2509C)と,Cpd1の治療効果を中心に概説する.
著者
林 琢也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.125, 2010

1. はじめに<BR> アグリツーリズムとは農園内での農作業や収穫体験を観光と結びつけたもので,農産物の販売促進を図るため,戦略的に多数の観光客を受け入れる農業経営および観光活動を指す.<BR> 日本の観光農園は,高度経済成長にともなう所得向上や余暇・レクリエーション需要の増大,自家用車の普及とともに大都市近郊や既成観光地周辺の農村で発展してきた.また,1980年代後半以降は,地域振興と結びつき,全国各地に多様な形態を生み出している.観光農園の経営は,その時々の社会情勢や都市住民のニーズに合わせながら成立・発展してきたといえ,甲府盆地や多摩川流域,静岡市久能地域,長野盆地北部は,先駆的な観光農園の集積地帯である.観光農園の全国的な展開が進む昨今,先進地における経営戦略や性格の変化,農園の適応過程を検証することは,アグリツーリズムの可能性を展望する上でも重要な意味をもつ.そこで,本研究では,長野市内を南北に走る国道18号線(通称アップルライン)沿いに樹園地を有するリンゴ農家を事例に観光農園および農家直売所の経営戦略の変化について考察することを目的とする.<BR><BR>2.アグリツーリズムの成立と変化<BR> 長野盆地におけるアグリツーリズムの成立には,善光寺参詣者やスキー客の存在(既成観光地への近接性)と高度経済成長期(1966年)に国道18号がリンゴ生産の核心地域を縦断するように開通したことが影響している.それによって,長野市長沼地区(赤沼)から旧豊野町,小布施町と続く国道18号線沿いにはリンゴのもぎ取り,直売,全国発送(宅配)を営む観光農園(売店)が多く立地した.開設当初は,リンゴ狩りや直売の需要は非常に大きく,看板を設置し営業すること自体が大きな利益を生み出していた.例えば,ピークとなる1970年代から1980年代には40戸以上の観光農園が沿道に立地し,観光バスや運送トラック,個人観光客が訪れた.多くの農園は組合(アップルライン事業組合)に加入し,市の観光協会と連携し,様々なイベントを企画し,関東地方の団体ツアーや北陸方面からの個人客に対応した.<BR> 農園の経営方針に変化が生じてくるのは,1990年代に入ってからの上信越自動車道の開通である.これにより人やモノ,車の流れが変化し,単に観光需要に応えるだけの経営では収益の維持が困難になったのである.また,スキー人口の減少も拍車をかけ,沿道に立地していたドライブインなども撤退を余儀なくされた.こうしたなかで,アグリツーリズムの性格も変容していった.その最たるものが,一見客や滞在時間に制約のある団体客から農園の経営理念や農作物へのこだわりを理解し,支えてくれる個人客の獲得を重視した経営に方針転換を図っていったことである.また,それに伴い,農園の側も栽培のこだわりや安全性の提示,他の農園との差別化を強調するようになっていった.さらには,顧客単価の高い客の確保や価値観を共有する地域外の生産者との連携も進んだ.換言すれば,画一的な観光農園経営から個々の農園の自助努力や工夫を提示するようになったともいえる.それに伴い販売方法に占める宅配の比率が増し,直売やリンゴ狩りの比率は低下し,農園の看板を掲げることの意味は,一見の客に農園をみてもらい,その後の継続的な取引(個人消費や贈答用の注文)を促すための交流やきっかけ作りを図ることへと変化していったのである.<BR><BR>3.現在の問題点と発展の可能性<BR> 現在,長野盆地のアグリツーリズムが抱える主な課題として,以下の3点が挙げられる。まず,宅配比率の高まりに伴う労力の増大である.次に,人気の高い「ふじ」に集中する労力の分散を図るため,品種の多様化を図ったが,他品種を高値で売ることが難しく,結果,「ふじ」頼みは不変というジレンマの存在である.さらに,長年,贔屓にしてくれた顧客の高齢化もみられる.3点目については,プルーンなどの新品目を加え,女性客や若年齢層の取り込みを図る事例や珍しいリンゴや自らの農作物に貼るラベルを商標登録することで他の農園と区別を図る農園も一部に確認できた.<BR> また,発展の可能性については,長野市の中心部に近接する立地条件を生かし,アパートや駐車場に土地を供出することで不動産収入を得る農家や農外就業する子ども世代(後継者予備軍)の同居がみられる点が挙げられる.このことは,農外所得が世帯収入の安定化に貢献するという面が強いことを示している.これらは,暗黙知的な要素の強い栽培技術を日常的に修得していくという意味では技術の伝承が進まない弊害を内包しているが,世帯の収入安定と農業の現状維持に貢献しているという面では,次代を担う人材の確保に寄与している.こうした農外就業者の経験や知識,人的ネットワークを活かしていくことが,今後ますます求められてくるといえる.
著者
林 琢也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1.研究目的<br> 観光農園とは,都市住民を対象に農業者の生産した農産物の収穫体験や鑑賞,直接販売等を行うために整備した農園を指す。農村の自然環境と農業生産をレクリエーションの対象として利用している点に特徴がみられ,農村空間の商品化を体現する典型的な農業経営といえる。本研究では,岐阜市長良地区のブドウ狩りを例に観光農園経営の展開を検討し,その有効性と課題について考察することを目的とする。<br> <br>2.「長良ぶどう」の誕生と発展,ブドウ狩りの衰退<br> 岐阜市長良地区のブドウ栽培は,山梨県より移住した窪坂宗祐氏らが1922(大正11)年に長良河畔の農地にブドウを植栽したのが始まりである。当地域では,当時,養蚕が盛んで,桑園が広がっていた。ブドウの栽培が面的に拡大していくのは,昭和に入ってからで,高度経済成長の最中の1961年8月にブドウ狩りは開始された。最盛期の1964年には「長良川畔観光園芸組合」の会員数は54戸に達した。名鉄と提携し,市や農協,観光協会,バス会社等の支援を受け,大々的に行われていた。しかし,ブドウ狩りの人気は長くは続かず,集客力の低下した1970年代半ば以降は,沿道でのブドウの直売の方が販売方法の主流となっていった。さらに,生協との取引や農協の運営する直売所への出荷,住宅地への近接性を活かし,庭先や農地に幟を立てた簡易型の直売などの方法を重視する農家も増えていった。その結果,1990年代にはブドウ狩りに対応する農家は6戸となり,2017年現在,「長良ぶどう部会」には39戸が加入しているものの,ブドウ狩りを行う農家は2戸となっている。<br> <br>3.ブドウ狩りの再興<br> 1980年代~2000年代にかけて観光農園数は減少し続けたものの,その間も一定程度の需要は存在していた。こうしたなか,2008年以降,ブドウ狩りの入園者数は増加傾向に転じ,再び活況を呈するようになった。この変化に大きな影響を及ぼしているのが,同年より開始されたタウン誌への割引券の添付である。これによって,身近な地域の住民に「長良ぶどう」を再認識させるとともに,新たな観光需要を喚起することが可能になったのである。こうしたタウン誌は地元の飲食店や観光・レクリエーションに関する情報が多数掲載されているため,小さな子どもをもつ親や孫の手を引いた祖父母の入園を促すことに効果を発揮した。また,旅行専門雑誌にも長良地区のブドウ狩りの記事が掲載されている。こうした雑誌への掲載は,岐阜市および周辺地域からの入園だけではなく,「一宮」や「名古屋」ナンバーに代表される愛知県北部からの自家用車での訪問も増加させている。インターネットやSNSを通じて全世界に情報を発信可能な時代ではあるものの,長良地区のブドウ狩りは,岐阜・愛知周辺の住民が日常的に目を向ける多種の情報誌を上手く活用することで,身近な地域の潜在的な観光需要を実際に入園してくれる現実の観光客に転換させることを可能にしたのである。<br><br> 4.長良地区における観光農園経営の意義<br> 岐阜市長良地区のブドウ栽培は市街化区域内に多くの農地が包摂されているため,規模も小さく,ローカルなブドウ産地に過ぎない。ただし,周辺には競合するブドウ産地もなく,岐阜市から名古屋市に至る地域に居住する都市住民の観光レクリエーション需要を一手に引き受けることが可能なため,農園数やキャパシティ(受け入れ可能人数)に比して,需要過多の状態にある。ただし,現時点で観光農園経営に新たに参入する意思をもった農家はおらず,需要はあるのに,供給が足りないという状況に陥っている。これは,市街地に近接し,就業先にも恵まれ,通勤も容易なことから農家子弟にとって,農業での利潤の最大化を追求する必要性に迫られていないことも影響していよう。その一方で,沿道や庭先で直売のみを行う農家直売所では,販売量が停滞傾向にある農家も少なくない。<br> 両者の差異はどこにあるのだろうか。ここでは,ブドウの生産現場を訪問し,ブドウを自ら収穫し,その場で消費するという行動自体に依然として大きな需要が存在し,それが,新鮮な農産物の購入や生産者との交流を目的とする直売や朝市よりも代替のきかない重要な存在となっていることを示している。<br> その意味では,日本において人々の生活や日常から農業にまつわる活動が縁遠いものとなっていることが,観光農園のニーズを高めているといえるが,根本的には,担い手の問題等が改善しなければ,人々の求める農業生産(物)や農村景観を維持することは難しく,観光農園による農村空間の商品化自体も刹那的なものになりかねないといえる。農村空間の商品化という視点は,単なる余暇やレクリエーション需要への対応のみならず,都市住民に「農」の価値を考えてもらうきっかけづくりの場としても機能させていくことが重要である。
著者
久保田 将史 小林 琢也
出版者
岩手医科大学歯学会
雑誌
岩手医科大学歯学雑誌
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.51-68, 2015

高齢者人口の増加に伴い,味覚障害患者が増加している.味覚障害の病態と原因は多岐にわたり,歯科領域では口蓋を被覆する床義歯を装着した患者がしばしば味覚障害を訴えることがある.しかし,その因果関係は未だ明らかでない.本研究で義歯装着による味覚障害の原因を明らかにすることを目的に,従来までの主観的評価による検討ではなく,上位中枢より客観的評価が可能な非侵襲的脳マッピング法の1つであるfunctional Magnetic Resonance Imaging (fMRI)を用いて,口蓋の被覆が味覚応答に及ぼす影響を脳機能応答の観点から検討した.実験は,口蓋単独での味覚応答を脳機能応答として捉えるため,右利き健常有歯顎者15名を対象とし,口蓋に限局した味刺激を与えた.次に,口蓋被覆が味覚応答に及ぼす影響の検討を行うため,右利き健常有歯顎者14名に口蓋を被覆しない状態(コントロール)と口蓋を被覆した状態(口蓋被覆)で味刺激を与えた.両実験は,味刺激試液として各被験者の認知閾値に設定したキニーネ塩酸塩,洗浄用試液として人工唾液(25mM KCl, 25mM NaHCO_3)を用いた.本研究より,口蓋へ限局した苦味刺激により一次味覚野の島と前頭弁蓋部に賦活が認められた.また,口蓋被覆時の刺激では,コントロールと同様に一次味覚野の島と前頭弁蓋部,そしてさらに二次味覚野の眼窩前頭皮質に賦活が認められた.しかし,両条件間の脳活動範囲と脳活動量を比較したところ,口蓋被覆により一次味覚野と二次味覚野での賦活範囲は有意な減少が認められ,脳活動量においても一次味覚野で有意な減少が認められた.以上より,口蓋での味覚刺激応答が上位中枢で行われていることを客観的に捉えることができた.また,義歯による口蓋粘膜の被覆が,脳内の味覚応答を低下させることが明らかとなり,床義歯装着が味覚障害を惹起させることが示唆された.
著者
櫻庭 浩之 小林 琢也
出版者
岩手医科大学歯学会
雑誌
岩手医科大学歯学雑誌
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-13, 2014

不適切な下顎位で補綴治療が行われると, 咬合の不調和を引き起こし咬合接触の異常や下顎運動の異常を生じ, ひいては全身機能に影響を及ぼすとされている. 下顎偏位がストレス反応を介して, 不快や痛みのネットワークを賦活させることはこれまで報告されているが, その偏位方向や運動の種類による賦活の差に関しては検討されていない. そこで本研究は, 下顎偏位が脳機能に及ぼす影響を明らかにするために, 下顎を水平的偏位させた状態で Tapping 運動と Clenching 運動を行い, 非侵襲的脳マッピング法の1つである functional Magnetic Resonance Imaging ( fMRI ) を用いて脳機能応答の変化を観察した.<br> 実験は右利きの健常有歯顎者10名に咬頭嵌合位 (コントロール) と前方,左方および右方の下顎偏位条件でTapping運動とClenching運動の2種類の課題を行わせた. 画像解析を行い賦活部位の同定を行った後, コントロール条件と偏位条件での脳活動量の比較を行った. その結果, Tapping 運動時に,下顎偏位条件ではコントロール条件で賦活が認められなかった扁桃体に賦活が認められた. 扁桃体における脳活動量を比較すると, コントロールと比較して各水平的偏位条件で有意に活動量が増加していた. 一方, Clenching運動時には,下顎偏位条件ではコントロール条件で賦活が認められなかった腹内側前頭前野と扁桃体に賦活が認められ, これらの部位における脳活動量もコントロールと比較して各水平的下顎偏位条件で有意に増加していた.<br> これらの結果より,下顎の水平的偏位は偏位方向や運動の種類によらず不快を引き起こし, とりわけClenching運動においてより強い不快応答を伴うと推測される.
著者
林 琢也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.635-659, 2007
被引用文献数
8

本研究は, 遠隔地農村において農業と地域の振興を図るために進められた観光農業の発展要因を, 青森県南部町名川地域 (旧名川町) を事例に考察した. 旧名川町は青森県最大のサクランボ産地であり, 町は1986年からサクランボ狩りを核とした観光事業を進めてきた. こうした活動の推進に際しては, 観光農業における先駆的農家と周囲の農家の組織化を促すほか, 補助事業を積極的に活用することで, 観光農業の充実を目指した地域リーダーの功績が大きかった. また, 集落レベルでの観光農業の普及においては, 専業的な果樹栽培農家に加え, 農外就業経験を有する帰農者の参加や, 集落内とその近隣地域から供給される労働力の存在も重要であった. このように, 多くの住民の協力体制の確立が, 遠隔地における観光農業の発展にとって不可欠であることが明らかとなった.
著者
林 琢也
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.143-154, 2010-03-30
被引用文献数
1

都市住民の農業・農村体験,農産物の直接購入の需要を満たす観光農園の経営は,農家にとっては,労力の軽減や所得向上のための大きな手段となる。本稿では,同一品目を主な「商品」とする観光農園の入園料が地域において大きく異なる点に注目し,YAHOO!JAPAN のキーワード検索において「サクランボ狩り」で上位100件に挙げられた地域を取り上げ,価格設定と集客圏,所得の関係を考察した。その結果,価格設定は,食べ放題の時間制限と入園料により「短時間・低価格」と「短時間・高価格」,「長時間・低価格」の地域に分類できた.さらに,価格と集客圏となる地域の所得水準の高低は総じて比例関係にあるとともに,低価格地域の多くは,大都市(圏)から離れた地域にみられた。すなわち,観光農園の入園料は,集客圏とする地域の所得や大都市(圏)との距離に大きく影響を受けており,それによって同じ品目を「商品」として利用する場合でも価格設定をはじめとする経営内容に差異を生み出すことが明らかとなった。