著者
淺井 良亮
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.71-83, 2011-03-01

本稿の目的は、嘉永六年六月から七月にかけて実施された、徳川公儀有司による江戸湾巡見の実態を理解することにある。同年のペリー艦隊の来航と江戸湾侵入・海岸測量強行は、江戸湾警衛体制に大きな衝撃を与えた。艦隊の浦賀退帆後、有司は海防充備を模索するため、江戸湾周辺地域の巡見を企図した。それが、本稿で取り上げる、嘉永六年の江戸湾巡見である。二つの新出史料から浮かび上がった巡見の実態は、実地見分や直接体験に基づく、極めて実効性の高いものであった。巡見者が起案した海防策は、以後の海防路線の基軸となる、海上台場築造案と軍船導入案であった。巡見で得られた知見は、海防路線を大いに規定したのであった。
著者
渡邊 大門
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.167-182, 2011-03-01

美作国は古くから「境目の地域」と言われており、戦国期以降は尼子氏、毛利氏そして織豊期には織田氏などの大勢力の侵攻をたびたび受けていた。そして、何よりも美作国には、強大な領主権力が存在しなかったことが知られている。南北朝期以降、主に山名氏や赤松氏が守護として任命されたが、その関連史料はほとんど残っていないのが実状である。本稿で述べるとおり、美作国には中小領主が数多く存在し、各地で勢力を保持していた。彼らは判物を発給し、配下の者に知行地を給与するなど、一個の自立した領主であった。その勢力範囲は居城を中心としたごく狭い範囲に限られていたが、交通の要衝に本拠を構え、流通圏や経済圏を掌握したものと考えられる。近年における戦国期の領主権力の研究では、一国あるいは数ケ国を領する大名はもちろんであるが、一郡あるいは数郡程度を領する領主にも注目が集まっている。しかし、美作国ではそれらを下回る一郡以下を領する例が豊富である。そこで、本稿では斎藤氏、芦田氏の事例を中心とし、その所領構成や在地支配また地域社会との関わりを分析することにより、戦国期美作国における中小領主の特質を明らかにすることを目的とする。
著者
館 和典
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.15-29, 2012-03-01

江戸期の浄土宗では念仏によって三毒の煩悩が滅するかどうかについて論争が交わされていた。それに関する記録を纏めたのが、『念佛三毒滅盡不滅盡之諍論筆記』である。そこには、増上寺第十二世源誉存応、黒谷金戒光明寺第二十六世盛林、東漸寺隠居團誉、弘経寺善慶と善導寺幡隋意の「念仏による滅罪」に関する論争が記録されている。本稿では主に存応と盛林の念仏滅罪論について考察した。
著者
陸 艶
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.203-212, 2012-03-01

私は主に日本近代文学の蘇州との関わりを研究している。蘇州と係わった著名な文学者には、芥川龍之介や司馬遼太郎などが居るが、本論では昭和一三年に従軍記者として中国に渡った小林秀雄の紀行文「蘇州」について考察する。当該作品は戦時下の検閲によりその一部が削除されている。記事にした蘇州の状況と、その一部が削除されたことが小林秀雄に対して、どのような影響を与えたのかを探ってみた。
著者
坪井 直子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.169-179, 2012-03-01

中国では古来より親孝行の実践例を説くために、しばしば孝子説話を集成した教訓書が編纂されている。それらは、およそ唐代以前の孝子伝、宋代以降の二十四孝に大別することが出来、広く流布して周辺の諸国にももたらされた。日本でも室町時代以降、二十四孝は盛んに享受されたが、その普及の中心的役割を担ったのが、御伽草子『二十四孝』である。これは元の郭居敬が撰した全相二十四孝詩選に基づくとされているが、必ずしもそうではなく、張孝張礼条の説話本文については千字文注にも拠っている。本稿では、御伽草子『二十四孝』張孝張礼条の説話本文が千字文注に拠っていることを確認するとともに、その理由を考察し二十四孝詩選の説話本文が千字文注に近似するためと考えた。また、二十四孝詩選の張孝張礼説話は、趙孝趙礼説話の変化したものと考えられているが、二十四孝系統間においては、二十四孝詩選が、孝行録系二十四孝の趙孝趙礼説話から千字文注に由来する張礼説話へ、説話を替えた可能性があることを指摘した。