著者
高峰 啓 飯田 哲郎 大隈 一裕 何森 健
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学 : 日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.37-42, 2016

アルロース(プシコース)は,脂肪蓄積抑制作用を持つことが報告されており,現代社会において問題視される肥満を予防・改善する甘味料として期待されている.本技術開発は,Lobry de Bruyn-Alberda van Ekensteinの転位反応として知られるアルカリ異性化反応を利用したアルロース等の希少糖を含むシロップの製造方法を確立した.この方法によって得られた希少糖含有シロップの糖組成を定量分析によって明らかにし,生理活性試験を行った.ラットでの8週間摂取試験では,内臓脂肪蓄積抑制が確認された.さらに,軽度肥満(BMI25以上30未満)を含む健常成人34名を対象にした12週間長期摂取試験を行った結果,ヒトにおける体脂肪低減効果が明らかとなった.現在,α-グルコシダーゼ阻害作用や食後血糖上昇抑制作用に関して,鋭意研究を進めている.本製品は,砂糖や異性化糖等と同様に甘味料として使用することが可能であり,2012年の販売開始から現在までに800以上の食品に採用されている.
著者
眞鍋 史乃
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学 : 日本応用糖質科学会誌 = Bulletin of applied glycoscience (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.231-233, 2012-11-20
参考文献数
8

生理活性を持つ糖鎖の中には,抗血液凝固剤であるヘパリンや抗生物質など1,2-cis糖アミノ構造を有するものが多い。有機合成化学による糖鎖合成はこの20年間に非常に大きく進歩したが,1,2-cisアミノ糖の合成は,選択性などの点からいまだ問題がある。我々は,2,3-transカーバメート基を持つ糖供与体が,非常に高い1,2-cis選択性を示すことを見出し,ピロリ菌増殖抑制が期待される糖鎖の合成に成功した。また,弱い酸性条件において,1,2-trans体から1,2-cis体への異性化反応を起こすことを見出し,ピラノシドにおいてのendocyclic cleavage反応の存在を明らかにした。
著者
熊谷 明夫
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学 : 日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.228-230, 2012-11-20

セルロースはグルコースがβ-1,4-グルコシド結合した直鎖状のホモポリマーで,地球上に最も豊富に存在する天然高分子である。一般的には植物細胞壁や植物繊維の主成分として知られているが,一部の動物や多くの微生物もセルロース生合成能を有しており,原索動物であるホヤの体を覆う被嚢と呼ばれる膜や,バクテリアが分担する細胞外多糖などによって構成されているバイオフィルムなどにもセルロースが含まれている。中でもバクテリアが生産するセルロースはバクテリアセルロース(BC)と呼ばれ,純粋なセルロースからなる微細繊維が複雑な三次元網目構造を形成していることから,高強度,高弾性,高保水性といった植物由来のセルロースにはみられない物理的特性を示す。一般的に知られるBCとしては,セルロース生産能の高い酢酸菌Gluconacetobacter xylinusを利用して生産されるナタデココが有名であるが,食用としてだけでなく,その優れた物理的特徴を活かした新素材としての利用が期待され,産業・医療分野において応用研究が進められている。また,G. xylinusは応用分野に限らずセルロース生合成機構解明のモデル生物として基礎研究にも利用されており,特に遺伝子工学分野では植物に先行して研究が進められ,セルロース生合成に関わる遺伝子とタンパク質,その合成機構の関係について多くの知見を与えてきた。バクテリアによるセルロース生産はG. xylinusが代表的であり,セルロース生産が直接確認されているバクテリアは少ない。しかし,ゲノム解析が盛んに行われるようになり,既知のセルロース生合成に関わる遺伝子との相向性が高い遺伝子の存在が確認され,多くのバクテリアがセルロース生産能を有することが示唆されている。また,バクテリアにおけるセルロースの役割は完全には明らかになっていないが,例えば植物に対して病原性をもつアグロパクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)においては植物への吸着,バイオフィルムを形成する大腸菌(Escherichia coli)においては凝集に関わっているのではないかと考えられている。このようにバクテリアのセルロース生産についていくつかの研究が報告されている中,我々は酢酸菌から新規のBC生産菌をスクリーニングするため,酢酸菌に属するAcetobacter属,Gluconacetobacter属,Asaia属,Kozakia属から選抜した菌株を液体培地で静置培養し,気液界面への薄膜形成からAsaia bogorensis がBCを生産することを見出したの。ここではA. bogorensisが生産するBCと遺伝子解析の結果得られたセルロース生合成関連遺伝子の特慣をG. xylinusとの比較を交えながら紹介する。
著者
舟根 和美 川端 康之 鈴木 龍一郎 藤本 瑞 北岡 本光 木村 淳夫 小林 幹彦
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学 : 日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.179-185, 2011-04-20

Bacillus circulans T-3040株由来の環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ(CITase,EC2.4.1.248)は,デキストランから環状イソマルトオリゴ糖および環状イソマルトメガロ糖(両者あわせてサイクロデキストラン,CI)を合成する酵素であり,中でもグルコース8分子から成るCI-8を最も多く生産する。部位特異的変異導入によりN末端領域(Ser1-Gly403)に在るAsp145,Asp270,Glu342が触媒活性に重要な役割を果たすことが示唆された。C末端領域を4つ(R1,Tyr404-Tyr492;R2,Glu493-Ser596;R3,Gly597-Met700;R4,Lys701-Ser934)に分け欠失変異導入を行った結果,R2およびR3はCITaseに必須,R1およびR4は糖質結合モジュールであり,R1はCI-8生産特異性と酵素の安定化にも関与することが示唆された。CI-Taseは,生産菌をデキストランを炭素源として培養した場合に生産誘導されると考えられていたが,T-3040株のCITaseはデンプンを炭素源として培養した場合にも生産誘導された.これまでのCI生産にはショ糖からデキストランを生産する菌株を必要としていたが,1菌株でデンプンからCIを生産する系が存在することが示唆された。
著者
今井 亮三 島 周平 藪内 威志 加藤 英樹 松井 博和
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学 : 日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.147-152, 2011-04-20
参考文献数
33

トレハロースはグルコースがα,α-1,1結合した二糖であり,微生物や昆虫では,エネルギー源や乾燥等からの生体膜やタンパク質の保護物質として働くことが知られている。一方,植物においてはトレハロースの検出が困難であったことから,長い間トレハロースの生合成は否定されてきた。90年代後半に植物から初めてトレハロース生合成遺伝子が単離され,高等植物中にもトレハロースが存在することが明らかになった。しかし,植物中の蓄積量は極微量であり,貯蔵糖やストレス保護物質であることは考えにくい。最近の研究で,トレハロースの生合成が植物の発生やストレス応答において重要な調節機能をもつことがわかってきた。特にトレハロース6-リン酸が植物の糖代謝において重要なシグナル物質であることが明らかになりつつある。本稿では,植物においてトレハロース生合成が示すユニークな機能を紹介する。
著者
今井 亮三 島 周平 藪内 威志 加藤 英樹 松井 博和
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.147-152, 2011
参考文献数
33
被引用文献数
1

トレハロースはグルコースがα,α-1,1結合した二糖であり, 微生物や昆虫では, エネルギー源や乾燥等からの生体膜やタンパク質の保護物質として働くことが知られている。一方, 植物においてはトレハロースの検出が困難であったことから, 長い間トレハロースの生合成は否定されてきた。90年代後半に植物から初めてトレハロース生合成遺伝子が単離され, 高等植物中にもトレハロースが存在することが明らかになった。しかし, 植物中の蓄積量は極微量であり, 貯蔵糖やストレス保護物質であることは考えにくい。最近の研究で, トレハロースの生合成が植物の発生やストレス応答において重要な調節機能をもつことがわかってきた。特にトレハロース6-リン酸が植物の糖代謝において重要なシグナル物質であることが明らかになりつつある。本稿では, 植物においてトレハロース生合成が示すユニークな機能を紹介する。