著者
大隈 一裕
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.34-38, 2011
参考文献数
27
被引用文献数
3

本稿では,澱粉糖である,ぶどう糖や異性化糖,水あめ,マルトデキストリン,更に,加工澱粉の製造方法について述べるとともに,我が国における,それらの利用の現状について述べる。また, 澱粉は,ヒトにとって重要なエネルギ-源であるが,近年,特に,糖類をはじめとした栄養素の過剰摂取がもたらす把満がメタボリツクシンドロームの引き金となることが明らかにされ,国をあげて,その対策が採られている。そんな中,抗肥満素材も,また,澱粉から生産されようとしている。今,注目される澱粉由来の低カロリー素材や抗肥満機能を有する素材についても解説する。
著者
今野 宏
出版者
日本応用糖質科学会
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.90-97, 2019 (Released:2019-10-11)

アミノ酸度と清酒の品質の間には負の相関がある。米の主要な蛋白質はグルテリンである。これが麹の蛋白質分解酵素で分解されてアミノ酸になる。アルギニンは清酒中のアミノ酸の中では2番目に多い。アルギニンは苦味を呈して後味が悪く清酒中のアルギニン含有量の低下は品質向上に有効であるので,グルテリンを基質とした総合ペプチダーゼ活性測定法を開発し,醸造適性の優れた麹菌株をスクリーニングし,アルギニンを対照酒に比べて10分の1まで低減化させた。味噌には多くの生理機能が知られており,抗変異原性物質もその一つである。これらの抗変異原物質の生成や構造変化には麹菌の生成する酵素が密接に関与する。味噌抽出液の抗変異原性をAmes試験のプレインキュベーション法によりスクリーニングしたところ,AOK139を用いた抽出液の50%阻害濃度は対照株での値の1/3となり,有意な差が確認された。抗変異原性については脂質分解との関与が認められ,高いリパーゼ活性及びその分解物である遊離脂肪酸及び脂肪酸エチルエステルの生成が認められた。
著者
安東 竜一 影嶋 富美 高田 正保 中村 保典 藤田 直子
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.168-174, 2015

米澱粉における変異遺伝子と澱粉の利用特性との相関を解明することを目的として,既報のモチ性変異体米系統に続き,澱粉生合成関連アイソザイム(スターチシンターゼIIIa(SSIIIa),SSIVb,枝作り酵素IIb(BEIIb))が欠損したウルチ性変異体米系統(<i>ss3a</i>, <i>be2b</i>, <i>ss3a</i>/<i>ss4b</i>, <i>ss3a</i>/<i>be2b</i>)から得た澱粉の食品への利用特性について分析し,ウルチ性の野生型である日本晴と比較した。日本晴≪<i>be2b</i><<i>ss3a</i>≪<i>ss3a</i>/<i>ss4b</i>≒<i>ss3a</i>/<i>be2b</i>の順で糊化・膨潤し難い物性を示し,特に二重変異による糊化・膨潤の抑制が顕著であった。be2bの消化率は,未糊化状態では48.4%と難消化性を示したが,糊化状態では日本晴と同等であった。鶏唐揚げ衣への利用適性評価では,日本晴と比較して,変異体米澱粉の食感は調理直後では好ましかったものの,保存後では劣る傾向にあった。しかしながら,澱粉にまで精製せずに,米粉として用いることで,二重変異体米において保存後の食感が改善された。
著者
吉崎 由美子
出版者
日本応用糖質科学会
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.225-227, 2012 (Released:2013-07-11)
著者
伊吹 昌久 福井 健介 Mine Yoshinori
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.105-112, 2015
被引用文献数
1

本研究では,ヤシ油搾油残渣であるコプラミールから得られる,酵素処理コプラミール(MCM)とこれに含まれる主要なマンノース化合物であるβ-1,4-マンノビオース(MNB)の免疫機能への影響と成長促進作用,抗炎症作用を調べることにより,飼料用抗生物質の代替としての可能性について調べた。その結果,MNBを含有するMCMを鶏に給与すると,IgA分泌促進がみられ,抗原提示およびインターフェロン関連因子を含む免疫防御関連遺伝子の発現量の増加が認められ腸管免疫賦活化することが示唆された。また,鶏のマクロファージ細胞(MQ-NCSU)におけるサルモネラ菌殺傷能力も高めた。さらにMCMが鶏腸管の形態学的変化を引き起こすことによって栄養素の吸収能を高め,成長を促進することが示された。以上の結果からMCM/MNBは抗生物質代替の可能性が示された。また腸管炎症を起こさせた子豚に対してMCMを投与すると,腸管炎症の治癒が観察され,炎症性サイトカインの抑制がみられた。これらのことからは,MCM/MNBは抗炎症作用もあることが示唆され畜産業界に広く利用される可能性が考えられた。
著者
浦島 匡 福田 健二
出版者
日本応用糖質科学会
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.155-163, 2018 (Released:2018-08-22)

人乳には常乳で12~13g/Lの濃度でミルクオリゴ糖が含まれている。ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)は若干の例外を除いて,還元末端にラクトース(Gal(β1-4)Glc)を含み,それにガラクトース(Gal),N-アセチルグルコサミン(GlcNAc),フコース(Fuc),N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が結合した化学構造を有する。人乳には240種類ものHMOsの存在が報告されているが,現在までに162の化学構造が決定されている。それは母乳栄養児の小腸内で大部分は消化・吸収を受けないで大腸に到達し,そこで有用性腸内細菌の増殖・定着を促進する,病原性細菌・ウイルスが宿主腸管上皮に付着するのを防止する,腸管バリア機能を持つ,壊死性腸炎を予防する,などの機能を発揮する。また一部のHMOsは吸収され,血液とともに体内循環する過程で,免疫を調整し抗炎症性を発揮する,脳神経系の成分の合成材料として利用される,などの機能も報告されている。HMOsと同一の化学構造を有するオリゴ糖を産業レベルで利用するためには,大量に合成する技術がネックとなっていたが,近年少数のHMOsのグラム単位での合成方法が開発された。それに伴って,合成HMOsを使用したin vivoでの機能探索研究を行った論文が多数報告されるようになり,糖質科学の中でもっとも活発な研究領域になっている。合成2'-フコシルラクトース(2'-FL)を添加した育児用調合乳の製造販売も開始され,今後HMOs関連糖質を使用した食品素材や医薬品素材の開発によって新たな産業が立ち上がってくることが予想される。本総説では,近年報告されたHMOsの機能研究の中でも,脳神経機能への刺激,腸管での吸収と体内動態,腸内細菌叢の調整に関わる例とともに,少数のHMOsを添加した人工調合乳を摂取させたヒト乳児への介入試験例を紹介する。その中で,HMOsの機能研究や利用に関わる将来を展望する。
著者
今井 亮三 島 周平 藪内 威志 加藤 英樹 松井 博和
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.147-152, 2011-04-20 (Released:2017-12-15)
参考文献数
33
被引用文献数
1

トレハロースはグルコースがα,α-1,1結合した二糖であり, 微生物や昆虫では, エネルギー源や乾燥等からの生体膜やタンパク質の保護物質として働くことが知られている。一方, 植物においてはトレハロースの検出が困難であったことから, 長い間トレハロースの生合成は否定されてきた。90年代後半に植物から初めてトレハロース生合成遺伝子が単離され, 高等植物中にもトレハロースが存在することが明らかになった。しかし, 植物中の蓄積量は極微量であり, 貯蔵糖やストレス保護物質であることは考えにくい。最近の研究で, トレハロースの生合成が植物の発生やストレス応答において重要な調節機能をもつことがわかってきた。特にトレハロース6-リン酸が植物の糖代謝において重要なシグナル物質であることが明らかになりつつある。本稿では, 植物においてトレハロース生合成が示すユニークな機能を紹介する。
著者
安東 竜一 影嶋 富美 高口 均 奥田 茜 藤村 岳史 相沢 健太 高木 洋平 高田 正保 中村 保典 藤田 直子
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.213-221, 2013
参考文献数
14
被引用文献数
3

米澱粉における変異遺伝子と澱粉の利用特性との相関を解明することを目的として,結合型スターチシンターゼI (GBSSI) に加えて他の澱粉生合成関連アイソザイム(スターチシンターゼI (SSI) ,SSIIIa,枝作り酵素I (BEI)) が同時に欠損あるいは活性が低下したモチ性変異体米系統 (ssl<sup>L</sup>/gbssl,ss3a/gbssl,bel/gbssl) の澱粉の食品への利用特性について分析し,GBSSIのみ欠損した変異体 (gbssl) と比較した。ssl<sup>L</sup>/gbsslは粘度上昇温度が上昇したが,ピーク粘度は低下した。ss3a/gbsslは平均粒径が小さくなり,粘度上昇温度が低下し,ピーク粘度が低下した。bel/gbsslはピーク粘度が上昇した。ssl<sup>L</sup>/gbsslとbel/gbsslでは加熱膨潤度が増加した。ss3a/gbsslとbel/gbsslではアセチル化アジピン酸架橋を施した後に吸水率が増加した。団子のタレによる利用評価では,ss3a/gbsslが保形性と口溶けのバランスに優れて良好な利用適性を示したものの,酸性フルーツソースでは澱粉粒の崩壊が促進され,保形性が大きく低下した。アセチル化アジピン酸架橋を施したモチ性変異体米澱粉では,酸性条件下での澱粉粒の崩壊が適度に抑制され,タレ・ソース用途において,保形性と口溶けの向上を両立させることができた。
著者
伊藤 友美 森田 恭徳 三島 隆 久松 眞 山田 哲也
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.236-240, 2012-11-20 (Released:2017-12-29)
参考文献数
13
被引用文献数
5 1

小麦澱粉を乾熱処理し,その物理特性を調べた。加熱条件は200℃で0.5~2.0時間行った。表面上は,何れの乾熱処理澱粉も澱粉粒子の変化はほとんどなかった。X線回折と酵素感受性はコントロール(生澱粉)と乾熱処理1,2時間との間に違いがみられた。DSCパターンは乾熱処理時間が長くなるほど糊化温度が低温側に移行した。RVAによる粘度測定では,すべての乾熱処理澱粉でコントロールより著しく低下しており,極限粘度も同様に低下していたことから,乾熱処理により外観では変化がみられないが,内部では分子が著しく崩壊し,低分子化が起こっていることが推察された。
著者
大坪 研一
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.93-102, 2014-05-20 (Released:2018-01-22)
参考文献数
60
被引用文献数
2

米の食味などの品質評価,品種判別および加工利用に関する研究を行った。米の食味を物理化学的に評価する方法として,テンシプレッサーによる一粒炊飯測定方法,RVAによる米の物性および老化性の推定方法および米飯の外観,香り,味,粘り,硬さの各評価を理化学的測定で行った結果を多変量解析することによる食味の多面的理化学評価方法を開発した。米の酵素阻害タンパク質RASIのアミノ酸配列を決定し,3種類の酵素阻害タンパク質やアビジンの遺伝子を導入した虫害抵抗性稲を作出した。米品種の判別方法として,精米を試料として鋳型DNAを抽出精製し,適正なプライマー共存下でPCRを行う方法を開発した。鋳型DNAの調製方法として,酵素法およびその改良法を開発することにより,試料が米飯,米菓,日本酒などの場合においても,PCRによる原料米の判別を可能にした。米の消費拡大を目的として,新形質米を中心に,膨化玄米,発芽玄米,米粉パンなど各種の機能性米加工食品の開発に取り組んだ。