著者
杤原 篤
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.30-36, 2009 (Released:2019-09-15)

本論文では、心霊治療という現象を解明するため、心霊治療者 A氏(60才女性)にインタビューを実施し、得られた事例を考察 した。その結果、事例の説明は、ユング心理学の概念を使うのが 比較的妥当と考えた。また、総合考察として以下の3点を得た。 ①心霊治療は、相談者の深い無意識にある元型に触れることで行 われる。その際に“墓”や“祖先”という元型に通じるイメージ を使う。また“儀式”それ自体が元型である可能性も考えた。② 心霊治療と心理治療の相違点は、前者は「対処策を指示する」が、 後者は「主体性を尊重する」点。また、前者は「特定の神話」を 提供するが、後者は「個人の神話」を模索する点である。共通点 は、両者とも意味を感じ取る見守り手が存在して共時現象が起 こっている点である。③A氏の直観は、いわば「元型への共感」 であり、心理療法家にも必要な能力かもしれない。共時現象の検討は今後の課題とした。
著者
巻口 勇一郎
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.50-75, 2020 (Released:2022-10-29)

本稿では、ユング、デュルケムやプラトンらの思想をもとに、クンダリニー症候群と統合失調症の異同について思想的、臨床的な理解をすすめ、理想的な対応についても検討した。霊的覚醒は平たんな道ではなく、クンダリニー覚醒のもつ険しい側面が伴いうる。ユングによれば、自我が健全でありぜい弱でなくても、あまりに強い無意識的原型であるクンダリニーが覚醒すれば病的と評価される状態が生じうる。クンダリニー覚醒は、洗礼の泉をくぐるような苦痛を伴う霊的経験であり、しばしば統合失調症と誤診される。しかし、プラトンによれば知恵によって肉体的な楽から離れる こと、すなわち苦はよい魂の道であり、デュルケムによれば苦痛こそ我々が依存する俗物との紐帯を断たれ、秘儀へ参入する段階にある証である。目覚めたクンダリニーが苦痛を生み出すことから単純に症候群や病気と評価され薬物のみによって抑圧されれば、その経験が熟さないだけでなく身体の発熱や硬直などの悪性症候群等を招く可能性がある。発熱などの身体症状を伴う統合失調症は本来、気づきや悟り、解脱へ向けて開かれた宿命的苦行であるという立場から、その対応には薬物療法のみならず仏法的アプローチ、ユング心理学的アプローチが重要であると主張する精神科医もいる。また筆者の経験などを参照すると、ヒンドゥーにおけるナーガパンチャミープジャやラーフ・ケートゥ(カール・サルプ)シャンティー星供養、ルドラ・アビ シェーカム儀式、プラーナ経典(ヴァラハ・サハスラナーマ等)読誦やヨーガ、ヒマラヤのディクシャなどが滞ったクンダリニーエネルギーを効果的に開放し、シヴァとシャクティー(=ラーフとケートゥ)というように二分された、本来一如のエネルギーを再統合に導くことができうるので、誤診された統合失調症例に今後それらを用いることを検討する価値があると考えられる。
著者
ホルヘ・フェレール 中川 吉晴 吉嶋 かおり
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.73-89, 2012 (Released:2019-08-08)

本論文は、身体化されたスピリチュアリティ(embodied spirituality)の意義について論じたものである。身体化 されたスピリチュアリティは、身体と性をふくむ人間の属性をすべて統合したものにもとづいている。また本論文は、 身体化されたスピリチュアリティを、身体から切り離された(脱身体化された)スピリチュアリティと対比して論じ ている。脱身体化されたスピリチュアリティは、身体からの分離や昇華にもとづいており、人類の宗教史のなかに蔓 延している。さらに本論文は、生きたパートナーとしての身体にアプローチし、それによって自分の霊的生(spiritual life)を共創造(co-create)するとはどのようなことなのか、ということについて述べている。そして、完全に身体 化されたスピリチュアリティの10の特徴を概観する。最後に論文を締めくくるにあたって、身体化されたスピリチュ アリティの過去・現在と未来の可能性について、いくつかの考察を付しておく。
著者
黒木 賢一
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.38-48, 2012 (Released:2019-08-08)

四国遍路は、弘法大師空海の信仰を基にした八十八 カ所の札所を巡る巡礼である。 四国四県をつなぐ遍路道は、密教の「胎蔵界曼荼羅」 で説かれている「四転説」による4つの道場として位 置づけられている。徳島県は「発心の道場」、高知県は 「修行の道場」、愛媛県は「菩提の道場」、香川県は「涅 槃の道場」として仏道修行の場である。 筆者は、2007年10月から2008年の間、歩き遍路で「結 願」した。四国遍路における歩き体験は、非日常の時 空間に滞在し、長時間歩くことで意識を変性させ、聖 なる次元へと押し上げる。その体験は心理療法の体験 過程と類似している。聖なる次元について、ユングの 「自我と自己軸」とウィルバーの「意識のスペクトル論」 を用いて説明する。
著者
深尾 篤嗣 村川 治彦
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.48-55, 2011 (Released:2019-08-28)

プロセス指向心理学(POP)は、問題を普段の意 識状態(一次プロセス)が不都合で否認したい自分 の一部(二次プロセス)と葛藤を起こした状態と捉 え、より大きな存在からの大切なメッセージとして 扱う。西洋的自我が「完全性」を目標とするのに対 して「全体性」を目標とする。強迫性障害の症例を 基に、心身医療へのPOP導入の意義について考察し た。 【症例】30歳代女性。前医で薬物療法とカウンセリン グを受けても症状が持続していた。X-13年、職場の派閥争いを機に強迫性障害を発症。SSRI治療にても 改善不良のため、X+3年9月よりPOPを導入。面接や ワークを通じて徐々に患者は、「完璧主義、潔癖症」 という一次プロセスの半面、「関係性」という二次プ ロセスの存在に気づき、全体性の回復がみられた。 X+6年現在、患者の完全主義、潔癖症は改善し、結 婚、出産や社会貢献を望むように変わっている。 【結論】POP導入により、完全性と全体性、cureと healingを両立させる新しい医療へのパラダイムシフ トが促される。
著者
深尾 篤嗣 村川 治彦
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-41, 2010 (Released:2019-08-31)

ドッシーは医学・医療を歴史的に、第一段階の身体医学・医療、 第二段階の心身医学・医療、スピリチュアリティの介在を認める 第三段階の医学・医療に分類している。一方、池見はbio-psychosocio-eco-ethical medical modelを提唱し、心身医療のゴールは実 存的な目覚めであり、自我を超えたスピリットへの超越と東西心 身アプローチ融合の必要を説いた。 我々は、プロセス指向心理学による「身」に対する多次元的ア プローチ(レインボー・メディスン)を導入することで第三段階 医学・医療を試みている。「自我」主体の「因果性」に基づく西洋 的心身医療と、「気づき」主体の「共時性」に基づく東洋的身心ア プローチを融合することにより、「心(マインド)」と「身体(ボ ディ)」の相関を扱う「心身医学」から、「魂(スピリット)」と 「身」の相関を扱う“魂身医学”へのパラダイムシフトが実現され ることが示唆された。
著者
村上 祐介
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.56-70, 2011 (Released:2019-08-28)

本稿の目的は、「子どものスピリチュアリティ研究」 の、近年の動向を紹介することである。第一に、子 どものスピリチュアリティが注目を集めている背景 として、人生の意味やつながりの感覚に焦点をあて ることの重要性の認識や、発達の段階理論への反論 などがあることを論じる。第二に、本領域の最近の 研究動向を概観し、(a)20世紀後半では宗教体験や ピーク体験など子どものスピリチュアルな体験に、 (b)近年では、「関係意識」(Hay & Nye, 2006)に関 心が向けられ、これらの研究の多くは、成人への回 想法や子どもへのインタビューなど質的研究に依拠 していることを明らかにする。第三に、子どものス ピリチュアリティに対する、従来の心理学からの懐 疑的見解を概観する。最後に、本領域における研究 手法や定義づけの問題や、わが国における今後の方 向性として、質的研究方法の精選、尺度開発、東洋 思想における子ども観についての文献研究を挙げる。
著者
中島 達弘
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.42-46, 2010 (Released:2019-08-31)

20世紀のアメリカ文化を顧みるとき、現代芸術家でありトラン スパーソナル占星術師、詩人であり思想家でもあったデイン・ル ディア(1895-1985)のユニークな生涯と業績はそのままアメリ カの移民社会、脱土地化の歴史、複合文化・人種混合・多宗教・ 多言語のマルチチュードを一元化するアイデンティティー形成の 問題を特徴付けている。本論文ではルディアの自/伝記を調査す る。人間性占星術とトランスパーソナル占星術の差異、また変容 のトランスパーソナルな過程についても探求する。
著者
小室 弘毅
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.75-92, 2013 (Released:2019-08-07)

本研究は、心理療法において重要なテーマの一つで あり、ロジャーズが「神秘的で霊的な次元」、あるいは 「変性意識状態」と呼ぶ「プレゼンス」の問題について、 ハコミの「ラビング・プレゼンス」概念を検討するこ とを通して考察している。まず、ハコミの特徴と構造 を明らかにし、クルツが「癒しの関係性」と呼ぶセラ ピストとクライエントとの関係性に焦点を当てた。そ のことによりハコミが二人称の心理療法であることを 明らかにした。その上で、「ラビング・プレゼンス」を 心理療法の技法としての側面とセラピストの人格的成 長のための側面に分けて考察し、その機能を明らかに した。そして、「ラビング・プレゼンス」を支えている ハコミの、「有機性」と「ユニティー」の原理、そして「ト ラッキング」と「コンタクト」というテクニックにつ いて検討し、「ラビング・プレゼンス」の全体像を明ら かにした。そのことにより、「プレゼンス」は二人称的 視点から理解される必要があり、関係性の次元で、技 法として語られうるものであることを明らかにした。