著者
大槻 一雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.191-199, 1971

5'-Nは筋アデニール酸から燐酸を分解する酵素で,一般のAIPと別の特異性が認められている。私は子宮の良性変化,および癌について本酵素の組織化学的検索を行なった。子宮の手術摘出,および試験切除組織615例についてドライアイス・アセトン混合液を含むビーカー外壁で凍結し,-20℃のクリオスタット内で,厚さ10〜15μの切片を作成し,Mc Manus-Lupton et Harden 法により染色した。1)5'-N活性は,上皮細胞にはほとんど陰性であるが,上皮下組織には陽性で,正常扁平上皮下組織に比べ,腺糜爛および各種変化上皮下組織では活性の高進がみられる。2)癌実質細胞の本酵素活性は,一部の角化部と壊死部を除き陰性を示し,壊死部に見られる比較的強い本酵素活性は,遊走細胞(主として白血球)の浸潤と関係があると考えられる。3)癌間質における本酵素活性は,癌実質細胞の未熟,成熟とはほとんど関係がなく,癌浸潤度と関係があることが認められた。α型およびβ型の一部では活性の強いものが多く,γ型では著明に活性が低下していた。4)性周期に伴う子宮内膜の本酵素活性は,排卵期前後に腺上皮において活性の高進がみられる。また,間質は増殖期に活性が強く,分泌期に活性が低下する。5)5'-N,A1P,ATPアーゼの三者を比較すると,その陽性部位にかなりの差異が認められる。
著者
佐藤 匡司
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.907-911, 1959-07

生体内の燐酸エステルの有する代謝上の意義は甚だ大きいが, phosphorylaseによる無機燐酸からのエステル形成は別として燐酸化合物からの燐酸転位はKinase作用によりnucleotide等の高エネルギー燐酸化合物から行われることは周知のことである。所がp-nitrophenyl燐酸が酸性phosphomonoesteraseにより水解される時グリセリン,アルコールのようなOHイヒ合物が共存すると,それ等の燐酸エステルが形成されることがAxelrodやAppleyardにより初めて報告された。また他方アルカリ性酵素でもMeyerhof及びGreenは高エネルギ一燐酸化合物を供与体として用いた際に行われる燐酸転位量は供与体のエネルギー荒に比例することを報告したが, Axelrod, Oesper, Mortonの酸性酵素及びアルカリ酵素を用いての成績によると,そのよぅな比例関係は必ずしも成立しないことを,これと前後して西堀は燐酸転位が諸型monoesteraseによりても行われることを認め,その転位機序を論している。p-nitrophenyl燐酸ethylesterがdiesteraseによりp-nitrophenolとethyl燐酸とに水解されるときもOHイヒ合物が共存するときにはそのOH化合物とethyl燐酸との結合せるdiesterが形成される。これ等の現象はp-nitrophenyl燐酸またはそれのethylesterが酵素に対し強い親和性を有し,また水解され易いに比し酵素表面における転位反応により形成される新モノエステルまたジエステルよりは酵素に対する親和性と被水解とにおいて劣ることによると説明された。したがつて燐酸転位が行われるには,まず燐酸の活性化を要すると考えられるので,私はphosphosalicyl酸を燐酸供与体として共存OH化合物の燐酸エステル化を試験した。この化合物を供使したのは,その等moleのsalicyl酸と燐酸とを生ずる自家水解がpH 5.6にて極大でありこのpH 5.6における自家水解はCu^<++>により促進され,他方自家水解を被り難いpH 2の水溶液中にてFe^<++>が顕著なる水解促進を示すとの前報告の所見にもとずき,これらの水解反応において遊離する燐酸が新たなエステルを形成するか,すなわち燐酸転位が行われるかを験し,これと酵素的に営まるべきphosphosalicyl酸からの燐酸転位とを比較した。
著者
山岸 亜人
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.237-247, 1971

イヌ卵巣の外来神経についてのオスュミウム酸染色と各種動物卵巣の鍍銀染色を行ない,神経組織学的にそれらを比較検討し,つぎの結果を得た。1.イヌ卵巣支配の外来神経には卵巣動脈神経叢から来るものと骨盤神経叢に由来するものとがある。神経線維の平均総数は前者で120本,後者で84本であった。また有髄線維の含まれる割合は前者では神経線維総数の29.2%であるのに対し後者ではわずかに3.6%過ぎ|なかった。一方無髄神経線維(交感神経性)は両方の神経系においてほぼ等量に含まれていた。2.血管をとりまきながら卵巣門から卵巣内に進入した神経線維束は次第に血管から離れ互いに分岐,交錯して髄質から皮質にかけて一次神経叢を形成する,この神経叢からさらに数本の自律神経線維と知覚神経線維が分かれ皮質stromaで細かい二次神経叢(autonomic aroundplexus)を作る。後者は髄質より皮質に豊富である。3.知覚性の神経線維がヒト(成人),ネコ,マウスに多く認められ,特に成人の皮質stromaではところどころ神経密度の高い部分があった。ヒト(胎児)の神経線維は成人と比べて走向は直線的であり,形態は単純で,知覚神経線維の形態形成が未完成の状態にあった。4.皮質stromaには拡散型分岐性終末,単純型分岐性終末,および小体様終末などの知覚終末が認められた。5.Autonomic groundplexusはヒト(胎児,成人),ネコの皮質stromaなどに認められたが,そのなかには自律神経線維ばかりでなく知覚神経線維も混じていた。またイヌ,ネコの皮質stromaにおけるautomic groudplexusのまわりにはinterstitial cellsの存在が顕著であった。6.ヒト(胎児)の原始卵胞の外膜,ネコ,マウスの二次卵胞,黄体の外膜外層に神経線維が認められたが量は少なく,卵胞,黄体との支配関係は明らかでなかった。7.卵巣内に神経細胞は証明できなかった。
著者
佐々木 哲丸
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.113-126, 1954-07-28

我国に於て,小児期に恐れられている疾患の中代表的な者として,乳児脚気と赤痢,疫痢がある。乳児脚気は小児衛生の進歩に依り,昭和の初期頃から其重症な者は殆ど見る事が無い様になつた。之は小児に対して非常に幸な事である。所が赤痢,疫痢の流行状況を見ると,今なお多数の患者並びに死亡者を出している現況であり,甚だ遺憾に堪えない。昨年度も10万余の罹患者が有り,死亡者も1万以上を算している。小児は成人に比し赤痢,疫痢に罹患し易く,而も小児では屡々重篤な症状を発し,其予後は著しく不良であり,年々多数の小児が其生命を失い,死亡者の大部分を占めている現況である。伊東教授に依り疫痢が発表されてから今日迄約50年の歳月が流れ,其間多くの研究者に依り検索が行われて来たにも拘らず,其本態は今日尚充分には明らかで無く,諸家各々其所見に基いて異なる意見を発表されている。然し近年に於ては,疫痢は赤痢菌簇の腸管内感染を基調として小児に現われる特殊な症候群であると一般に認められている。此本態論とは別に多くの臨床家に依て治療法が考究され,多数の臨床経験よりして次第に有効な方法が実証されている。〓に余等の教室にて実施しつゝある治療方法及び其根拠とする所の事項を少しく述べ度いと思う。