著者
白川 優治
出版者
千葉大学国際教養学部
雑誌
千葉大学国際教養学研究 = Chiba University journal of liberal arts and sciences (ISSN:24326291)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.87-102, 2020-03

[要旨] 本稿は、質問紙調査に基づいて、現代日本における大学の学費水準についての社会意識を検証するものである。一般市民、高校校長、自治体首長、大学学長を対象に行った質問紙調査をもとに、現在の日本の大学の学費水準が「高い」と評価されているのか、「安い」と評価されているのかを確認するともに、どの程度の学費水準が妥当であると考えられているのかを検証した。その結果、現在の大学の学費は「高い」と認識されており、その認識は、妥当であると想定されている金額を上回っているためであることが明らかになった。特に、一般市民において、大学の学費水準に対してシビアな評価がされていたことから、一般市民の大学の教育費負担に対する意識がどのように形成されているかを検証した。因子分析の結果、大学の教育費負担の在り方に対する意識には、3つの因子が析出され、特に、公費による教育費の負担軽減に対する評価(賛否)と、学費の自己負担をどのように考えるかが背景にあることが示された。また、重回帰分析により大学の授業料水準に対するの評価を規定する要因を探索したところ、教育費負担の軽減をどのように評価するかが共通して影響していた。また、経済格差や地域格差などの日本社会全体の課題をどのように考えるかなど、日本社会の在り方をどのように考えるかが大学の学費水準に対する評価に影響していることが示された。
著者
周 飞帆
出版者
千葉大学国際教養学部
雑誌
千葉大学国際教養学研究 = Chiba University journal of liberal arts and sciences (ISSN:24326291)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.39-55, 2017-03

[要旨] 本論文は、中国国内における都市-農村間の人口移動(「都市新移民」)に焦点を当てた研究、中でも欧米の先行理論に基づいた「社会融合」(social integration)研究を批判的に分析・検討するものである。いわゆる「都市新移民」とは、従来は「盲流」、「農民工」などとして語られる出稼ぎ農民であるが、近年、都市滞在期間の長期化や、滞在方法の多様化、集団内部の分化など、国際移民に似た側面をもつことから、「都市新移民」と呼ばれるようになった。また「新型の都市化政策」を推進する中国の政策を背景に、どのように都市の新住民として定住・吸収するか注目され、近年様々な研究が展開されている。しかし、人種、民族が異なる人々を社会的に統合することを目標とする欧米社会と違って、中国の都市新移民は抱える課題は果たしてそうした理論を援用することができるか、またその際どのような研究課題があるのかといった課題が未解明のままとなっている。本研究では、政治学、社会学、人類学を中心とした「都市新移民」に関する研究をレビューし、社会的排除、同化理論や「分節された同化理論」の応用、コミュニティ理論に触れつつ、現在展開されている中国の研究現状と課題についてと考察した。
著者
泉 利明
出版者
千葉大学国際教養学部
雑誌
千葉大学国際教養学研究 = Chiba University journal of liberal arts and sciences (ISSN:24326291)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-17, 2019-03

[要旨] バルザックの小説の文体については、出版当初より、多くの批評家から悪文だと非難されてきた。しかし、フランスの社会状況は古典主義的な言語美学が支配していた時代から大きく変化した。とりわけバルザックのような写実的な小説という文学形式においては、「正しく美しいフランス語」ではない語彙も数多く導入される。本論では、そうした語彙の多様性の意味を、まず、言葉に含まれる時間性という観点から分析し、古語や新語の利用がどのような意図よってなされているかを探る。続いて、空間的に見たときの言語の相違や、職業あるいは階層ごとに特徴的な語彙の使用に着目し、俗語や隠語の効果について検討する。最後に、登場人物間での言語的交流が行われてる箇所を取り上げ、規範にそぐわない語彙の使用が小説の中で生み出している効果について論じる。
著者
和田 健
出版者
千葉大学国際教養学部
雑誌
千葉大学国際教養学研究 = Chiba University journal of liberal arts and sciences (ISSN:24326291)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.65-79, 2019-03

[要旨] 本稿では地域振興施策として提唱される「二地域居住」や「移住」による新旧住民の関係を構築する民俗学的方法の可能性について検討したい。具体的には、転入する側(新住民)が、転入する場であるむら(村)における民俗慣行をどう捉えるべきかを検討する。また古くからそこに住む人たち(旧住民)が、今まで伝承してきたむらの運営を新住民にいかに理解してもらえるかについても考える。新住民にとって、旧来の民俗慣行で懸念となるのが、近隣のつきあいに関わる暗黙のルールである。特に草取りや水源の清掃などの共同作業を欠席する場合、どのような罰則(出不足金の金額など)があるのかなどは気になるといわれる。しかしそれぞれのむらで行われている罰則内容をデータとして考えるのではなく、そのむらの「村柄」を理解し有機的なつきあいの中でその意味を考えるべきである。村柄を理解する民俗学的方法の可能性について、千葉県鴨川市川代区を事例に若干の考察を試みたい。
著者
土肥 充
出版者
千葉大学国際教養学部
雑誌
千葉大学国際教養学研究 = Chiba University journal of liberal arts and sciences (ISSN:24326291)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.123-137, 2017-03

[要旨] 本研究は、2016年度から千葉大学の新入生を対象に実施することとなった TOEFL ITPについて、2016年4月の1回分、2,359名への実施結果について分析したものである。得点の分布、学部別平均点の比較、学科別平均点の比較のいずれを見てもばらつきが大きいことが判明した。全学の平均点は461点で全国の大学生平均に近い数字であったが、CEFRのB2レベル以上に相当する543点以上が3.1%で、正規留学等が可能な実用レベルに達している学生は少ないと結論した。3つのSectionの比較をしてみると、全学的に同じ傾向を示すのではなく、学科別の傾向が異なることが判明した。また、TOEIC L&R IPを全学的に実施した場合と比較して、TOEFL ITP ではSection別の理論上の最低点を取る学生が多いことを問題点として指摘した。最後に、土肥・張(2014)が提案したTOEFL ITP と TOEIC L&R IP の換算式について、今回のデータと過去のデータも比較しながら多面的に検証し、妥当性と問題点について論じた。