著者
市川 誠一
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 = Bulletin of Nagoya City University School of Nursing (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.49-51, 2016-03

1980年代初めにエイズが登場して30年を過ぎた。世界には3690万の人々がHIV/ADSと共に生きている。日本では、HIVが混入した非加熱性の血液凝固因子製剤の使用により多くの血友病の方たちが感染した「薬害エイズ」が大きな問題となった。また、エイズは男性同性愛者にみられた病気として発表されたために男性同性愛者に特有の病気であるとの誤解を招き、死に至る感染症として怖れられ、感染者・患者への偏見・差別が広がるなど、多くの課題をもたらした。しかし、この新たな感染症に取り組む中で、感染者・患者やその周囲の人たちの人権や生活権を尊重することの大切さが強調されるようになった。そして、長年にわたって続いた届出・隔離を軸とする伝染病予防法等の法律は廃止され、代わって「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)が1999年に施行された。この法律では、感染症患者の人権に配慮し、治療を中心とした対応を行うことが示されている。人々の感染症や感染者・患者に対する偏見や差別を無くすことは容易なことではない。そのため看護教育においては、対象となる人々の人権と生活権を軸にした保健医療を提供する人材の育成が大切なことと考える。
著者
金子 さゆり
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 = Bulletin of Nagoya City University School of Nursing (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.19-25, 2014-03

本研究は急性期病棟で働く看護師の抑うつ傾向の実態を明らかにし、抑うつ傾向にある看護師の離職意図ならびに医療安全への影響について検討することを目的に、臨床研修病院5施設に勤務する病棟看護師1197名を対象にCES-Dを用いた自記式調査を実施した。病棟看護師の54.0%が抑うつ傾向にあることが示され、経験年数別比較において抑うつ割合に差がみられた。抑うつ傾向による医療安全への影響を検討した結果、抑うつ傾向の有無とインシデント・アクシデントレポート提出数や有害事象発生と関連はみられなかった。一方、抑うつ傾向にある場合はない場合に比べて、薬剤関連のエラーやニアミスを起こす確率が約2倍に、トラブル遭遇頻度は2倍強に高まる可能性が示唆され、さらに離職意図は約2倍に高まることが示唆された。安全な医療を提供していくためにも、看護師の抑うつ状態についてスクリーニングを行い、抑うつ状態にある看護師へのメンタルサポートを充実させていく必要がある。
著者
薊 隆文
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 = Bulletin of Nagoya City University School of Nursing (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-8, 2015-03

高地での低酸素環境に対応するため、ヒトは様々に適応している。その一つが酸素の利用効率を高めるための酸素解離曲線の移動である。当初右方移動が有利と考えられていたが、左方移動の優位性が示されつつある。この混乱を解消するためには、右方移動と左方移動の選択基準が、動脈と静脈の酸素飽和度の較差を維持することと静脈血の酸素分圧を維持することにあると考えると理解しやすい。ヒトは右方移動と左方移動を低酸素の程度によって使い分けていると考えてもよいだろう。
著者
山本 喜通
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 = Bulletin of Nagoya City University School of Nursing (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-7, 2011-03

血管内皮細胞による血管運動調節では、内皮細胞から放出された液性物質がpharmacomechanical couplingによって血管平滑筋の収縮に影響する機構がまず発見されたが、内皮細胞の膜電位変化により平滑筋の膜電位が変化し、それがelectromechanical couplingにより収縮・弛緩を引き起こす機構も存在する。アゴニスト刺激によって内皮細胞内Ca2+濃度が増加するとCa2+活性化K+チャネルが素早く、Ca2+活性化非選択性陽イオンチャネルが徐々に開き、前者によりまず膜の過分極が、後者により遅発性の膜の脱分極が生じる。この内皮細胞の膜電位変化が平滑筋一内皮細胞間ギャップ結合を通って平滑筋に伝わる。平滑筋の電位依存性Ca2+チャネルは過分極によって閉じ、脱分極によって開くので、これによって平滑筋の細胞内Ca2+濃度が変化し、収縮が制御される。この膜電位による血管運動調節は薄い平滑筋層を持つ細動脈で特に有効で、その部で決定される末梢血管抵抗の調節に重要と考えられる。
著者
松山 旭 丸山 仁司 鈴木 康文
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 = Bulletin of Nagoya City University School of Nursing (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-7, 2008-03

本研究の目的は、要介護者への電気刺激による筋力増強効果と安全性を検討することである。要介護者8名に対して、両大腿四頭筋への電気刺激を4週間行い、筋力は膝伸展筋力で、安全性を循環反応、皮膚症状、疼痛で検討した。患肢においては有意差が認められ、筋力増強効果がみられた。また、筋力の低い症例についても増強効果の可能性が考えられた。安全面の検討においては、電気刺激前後で血圧、心拍数に有意な差はなく、皮膚状態の異常、疼痛もみられなかった。これらから、筋への電気刺激を安全に施行できる可能性が示唆された。今回の研究において、要介護者への電気筋力刺激による増強効果と、安全に行える可能性が示唆されたが、今後、疾患の検討や、刺激中のモニタリング等を含め、症例数を重ねていくことが課題として挙げられた。