著者
小川 雅弘
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.149-161, 2015-09

ピケティ『21世紀の資本』の日本における評価と批判を概観。ジニ係数ではなく所得上位層シェアを格差指標とする理由は,税務データを資料としたことにある。歴史的推計では税務データを資料とせざるをえない。日本の論者が,南亮進らによる戦前の所得分布推計に言及しないのは不可解である。
著者
永冨 陽子
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.243-248, 2016-01

本論文は,ハラスメント体験を端緒とするストレッサーの生起過程の因果モデルを構成し,その妥当性の検証を通してストレッサーの生起過程を明らかにすることを検討した。共分散構造分析の結果,ハラスメント体験をした労働者が,まず「職場の人間関係」のストレッサーを生起し,次に仕事の要求度が高くなり,仕事の裁量度が低くなる結果,高いストレス反応を引き起こすという因果モデルは生起順序の一つの答えであると言える。つまりストレッサーの生起過程において順序があるということは,各ストレッサー発生段階において,次のストレッサーを予見し対処することが可能であるということが示唆された。今後,具体的かつ有効な対処などをさらに検討することが必要である。
著者
西山 豊
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.1-19, 2017-09

笹子トンネルの真相を探る会(代表:三宅勇次)は,2017年4月17日,笹子トンネルの内空調査を実施し,2012年12月2日に起きた天井板崩落の大惨事は,上り線の大月側L断面区間内の非常駐車帯(A-3)の設計,施工が大きく起因していることを突き止めた。以下,順を追って説明していく。この論考は国土交通省の「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」(以後「事故調」とよぶ)の報告書と資料集(2013年),建設当時の設計・施工の概要を述べた周佐光衛氏の論文(1974年),崩落事故以降に発表した私の論文(2013年~2017年)を基本にまとめた。
著者
黒坂 真
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.27-41, 2014-09

金日成はかつてスターリンとソ連,中国を礼賛していた。金日成の著作ではその後この部分が削除,修正されていった。本論はこの史実と金正日の「社会政治的生命体論」「革命的首領観」の関係およびその資源配分上の意味を考察する。金日成のチョサクの記述修正は金正日による何らかの決済を経てなされたと考えられる。映画や音楽に造詣のあった金正日は,金日成を首領とする「社会政治的生命体」の一員として首領と一体化しているという陶酔感に人々を浸らせることが独裁体制を強固にするために重要であると考えていた。金正日は「革命的首領観の確立」により,崇拝労働の効率を向上させようとした。モデル分析により崇拝労働結晶物の効率が向上すると,財の生産労働を減らし,崇拝労働を増やす場合があることがわかった。財の生産が減少すると,独裁体制を支える層の消費が減少し独裁体制の存続が困難になりうる。金正日による「贈り物政治」が困難になる。
著者
吉川 富夫
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.117-137, 2017-05

ミクロ経済学では市場取引のみならず,時間と所得の制約の中で効用を最大化するという疑似市場を想定しながら,人間の行動を解明することができる。本論は,戦後日本経済の大きな担い手であった,団塊の世代が人生の各局面(学歴社会,会社社会,家族形成社会など)でどのような価値観をもって,人生を選択してきたか,そして世代を超えて今を残そうとしているのかを,分析対象としたものである。ここで論理構成の礎としているのは,ミクロ経済学の前提であるが,もちろんそこには「情報の非対称性」とか「限定合理性」といった完全市場からのかい離要因が存在し,それが理論上の市場均衡(予想した人生の「帰属意識」)と結果としての市場成果(総括すべき人生の「帰属意識」)のかい離を生み出し,それがそれぞれの人の人生の自己評価に現れてきているという認識がある。新卒一括採用・長期雇用・年功賃金というパッケージが,日本的雇用慣行として日本経済の成長を支えてきたのであるが,今日,技術革新要因,人口要因,市場拡大要因の変化によって大きな転換を迫られている。こうしたなかで,団塊の世代という日本経済高度成長期の労働力の主たる担い手が,どのように人生を総括しているのかという社会現象を,ミクロの経済理論(労働経済学)を適用して解き明かしてみたい。
著者
永冨 陽子
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.393-398, 2015-11

本論文は,職場におけるハラスメント体験の有無によって,労働者のストレス要因,ストレス反応,ソーシャルサポート及び満足感の自覚に違いがあるかを検討したものである。正規雇用者300名を対象とした分析の結果,ハラスメント体験の有無は,仕事の量的・質的負担ではなく,職場での対人関係,情緒的負担,役割葛藤,仕事のコントロール,仕事の適性及び仕事の意義と強く関連していることが明らかになった。また,ハラスメント体験は,深刻な心理的ストレス反応につながる可能性があることが示唆された。今後,ハラスメント体験に起因するストレッサ―の発生過程などをさらに検討することが必要である。
著者
永冨 陽子
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.223-233, 2015-05

本論文は,職場におけるハラスメントとメンタルヘルスに関する研究動向と課題について述べたものである。既存の国内の研究報告をレビューした結果,ハラスメントの状況調査が主であり,ハラスメントがメンタルヘルス不調に至るプロセスについての詳細な検討は未だなされていないことが明らかとなった。また、ハラスメントを測定する尺度整備の遅れ,さらにハラスメントを測定すること自体の概念的問題もあることが示された。これらの知見を踏まえ,今後,ハラスメントとメンタルヘルスの因果関係を検証し,ハラスメントがメンタル不調に至るプロセスの精査が必要と考えられた。
著者
Nishiyama Yutaka
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.7-16, 2017-01

Japanese schools hold field-day events in spring and autumn, and large gymnastic formations are frequently performed at these events. Over 8,000 accidents related to these formations occur each year, one in four of which involves bone fractures. One factor behind these accidents is attempts at increasingly high human pyramids and towers. This paper calculates the structual loads involved in such human pyramids and demonstrates the dangers involved.
著者
小川 雅弘
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-22, 2016-05

国民経済計算SNA方式の国内総生産・国民総所得についていくつかの誤解―「国民」とは国籍を意味するとの説明,93SNAから国内概念が主になった等―が見られる。国内概念を国民概念へ変換する際の海外との受取・支払い所得が,68SNAまでの要素所得から93SNAで第1次所得に変った。その背景にはSNAの生産要素・要素所得に関する考え方がある。国民総所得は,国民=国内居住者による生産への貢献分でもなく,経常的支出の源泉所得でもなく,国民総生産と国民可処分所得に比べてあいまいな概念である。
著者
德永 光俊
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.205-218, 2016-01

本稿では,日本農法史からみる農業の未来についてお話ししたいと思います。最初に農業をどのように見ていくか,次いで江戸農書の概要と特徴,そして日本農法の大まかな流れをお話しします。自然の循環に従う天然農法から,人間の力で自然を変えていこうとする人工農法,そして自然の循環を人間の力で再復興しようとする,天然と人工を融合させた天工農法へという流れです。さらには現在の状況と有機農業の位置づけをお話しして,最後にこれからの日本農業の展望を私なりに述べてみたいと思います。