- 著者
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高津 芳則
- 出版者
- 大阪経済大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
フランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」は、フランス憲法において、国歌であると条文で定められている。フランス小学校では、学習指導要領(現行2002年版)で、国歌を教えるものとされている。ところが、2005年9月の新学期から、法律上、小学校で教えることが義務となった。これが、新自由主義が必然的にともなう新保守主義の現れと見ることができるか、検討をおこなった。国歌の教育を義務づける法律は、政府が提案したものではない。2005年1月に政府が提出した、通称フィヨン法の審議の過程で議員立法の形で登場した。政府は、義務化法を政府提案には含めず議会の多数決に任せた。政府の本音は不明である。下院は、さしたる議論もなく多数決で可決した。上院では、修正案が出され議論となった。しかし、ナショナリズムを指摘し、批判する議論はまったくなく、ラ・マルセイエーズの歌詞の一部に残酷な部分があること、子どもの教育にふさわしくない内容を含むことが論点となった。結局上院では、ラ・マルセイエーズを、単なる音楽教育に終わらせることなく、それが生まれた歴史の文脈を含んで学習することを義務づける修正案が可決された。それが現行法となる。すでに、フランス文部省は、社会党のジャック・ラング文相のとき(2002年)、『ラ・マルセイエーズ』(全60頁)という教師用教材を全国の小・中・高校に配布している。そこでは、ラ・マルセイエーズの歴史が簡潔に叙述されており、ゲンスブールのレゲエ・バージョン事件についてもふれている。学校で国歌を教える義務があるとしても、教育行政が特定の価値観(解釈)を上から押しつけるのではなく、相対的な視点を養う大切さにも配慮するフランスの特徴といえるだろう