著者
河野 銀子
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.127-143, 2003-02

本稿は, アメリカの大学における'First-Generation'(大学第1世代)への関心や調査研究を略説し, 日本の大学生に対して筆者が実施した調査をもとにしながら, 日本における'First-Generation'の諸特徴を捉え, 大衆化する大学教育のあり方および高校と大学の接続問題を検討する素材を提供することを目的としている。 第一章では, アメリカの状況を述べる。アメリカの大学は, 大衆化の対策として, 'First-Generation'への学業支援を行っている。'First-Generation'とは両親が, 高校卒業後の教 育歴をもたない学生のことである。かれらは, ポストセカンダリーへの進学や在籍中の学習継続や修了について, そうでない学生より劣っている。NCES は'First-Generation'のポストセカンダリーでの成功は, 高校での充分な学業準備や親なども関与した進路選択のあり方にあるとしている。 第二章では, 日本の大学における'First-Generation'について報告する。P大学教育学部学生を対象として実施した質問紙調査を分析した。'First-Generation'学生は回答者の6割強であった。 'First-Generation'学生は, 女子より男子に多く, P県内に実家があり, 教員免許取得を義務付けられていない課程に多い。調査の結果, NCES が報告したように, 'First-Generation'学生が成功していないと言うことはできないことがわかった。かれらは, 高校からの学業支援や受験アドバイスなどを受けて大学へ入学し, 入学後の学生生活もそれほど困難にはみえない。しかしながら, 大学からの離脱につながりやすい傾向が見うけられる。それは授業で使う言葉を, 理解できる'First-Generation'学生は, 'non First-Generation'学生より少ないこと, 退学を考えたり, 勉学での悩みももっているのは'First-Generation'学生に多いことなどにあらわれている。 第三章では, 日本における教育達成と社会階層などの家庭環境に着目した先行研究の特徴を述べ, 今後, 'First-Generation'学生にも注目することが必要だと指摘した。
著者
竹田 隆一 長尾 直茂
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.145-162, 2003-02

剣道の技術に関する名辞は, 非常に難解であり, 円滑な技術指導の障害となることも考えられる。しかし, それは, 剣道のもつ身体観や技術観などの文化的特性のあらわれととらえることができる。そこで, 剣道技術指導書の先行形態である近世の武芸伝書を取り上げ, 技術に関する名辞を考察することによって, 剣道の文化的特性を明らかにすることを目的とした。 本稿では, 一刀流の伝書である『一刀斎先生剣法書』取り上げたが, それは, 一刀流が現代剣道の源流の一つに数えられるためである。ただ, 流祖伊藤一刀斎みずからが書いた伝書というものは現在伝わらず, 一刀流を理解するためには, その門人達の伝書によるしかないのである。そこで, 一刀斎の門人古藤田俊直を祖とする唯心一刀流の伝書『一刀斎先生剣法書』を現代語訳し, 技術に関する名辞をスポーツ教育の視点から考察することにした。その結果, 従来から使用されている「事理」, 「水月」,「残心」,「威勢」の意味内容が明らかになった。なお, 今回の考察は, 全16章のうち5章までである。In this report, we gave the modern Japanese translation to "Ittousa sensei kenpousyo (「一刀斎先生剣法書」)" from chapter 1 to 5, which was written by KOTOUDA Toshisada (「古藤田俊定」), and also regarded as the precedene form of the modern kendo instruction, And we tried to examine the meaning and content of the term of the technology in "Ittouryu (「一刀流」)". 1."Waza (「事」)" does not mean some technic, but shows the movement or motion to achive the maximum result. 2. "Kotowari (「理」)" is the theory which constitutes the movement showing the maximum mastering. Then, it can be shown by the metaphor "Suigetu (「水月」)", which means the relation of the surface of the tranquil water and the Moon. Here "Kotowari (「理」)" is not limited like "Waza (「事」)" to the world of the kendo. 3. "Zirihuhen (「事理不偏」)", which means the situation combined "Waza (「事」)"and "Kotowari (「理」)", seemed to be the automatic movement or motion. 4. "Zansin (「残心」)" means the situation reflected the figure of the enemy to himself. It is different from the meaning of the term of the present kendo. 5. "Isei (「威勢」)" is composed of "I (「威」)" and "Sei (「勢」)". "I (「威」)" incluides "Sei (「勢」)", similarly "Sei (「勢」)" incluides "I (「威」)". "Isei (「威勢」)" also potentially receives the theory of the Chinese Taoism (「道家」).
著者
Das Happy Kumar 河野 銀子 Islam Azharul
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.173-185, 2008-02

要旨 : 国連ミレニアム開発目標に基づき、2015年までに世界中の全ての人々が基礎的な初等教育を受けられる環境の整備が進められている。バングラデシュは、1991年に初等教育を義務化したものの、基礎教育を受けられない者が依然として存在する。特に、都市部と農村部の識字率の格差は大きく、政府やNGOは「万人のための教育(EFA : Education for All)」活動に取組んでいる。本稿では、同国においてノン・フォーマル教育の提供に重要な役割を担ってきた主要NGOであるプロシカに注目する。プロシカは、1990年より初等一般教育のプログラムを実施してきた。 本稿では、プロシカの実践を対象とし、学習者の基礎教育の習得度を明らかにするとともに、社会経済的要因が学習者の基礎教育習得にどのような影響を与えているかについて考察する。調査は、ラジャヒ地区(農村部)とダカ地区(都市部)の第4学年以降の子どもを対象とし、「読み・書き・計算・生活上のスキルと知識」の4分野の習得度について実施された。調査の結果は、学校の類型別、性別、地区別ごとのクロス集計や多変量解析によって処理した。基礎教育習得度に対する社会経済的要因に関するおもな知見は次のとおりであった。 ・両親の学校教育経験は、都市部では影響があったが農村部ではなかった。 ・生活保護受給の程度は、都市部の女子においてのみ影響があった。 ・土地所有面積が大きい方が、習得度が高い傾向が見られた。 ・都市部では、世帯の月収による差が習得度に影響していた。 ・テレビへのアクセスはすべての子どもの習得度に影響があり、ラジオへのアクセスは都市部でのみ正の影響を与えていた。 以上のような分析から、プロシカの学校における基礎教育の習得度には、社会経済的要因の影響があることが明らかとなった。こうした社会経済的要因に関する格差を踏まえて、「万人のための教育」の取り組みが行われる必要がある。
著者
大神 訓章 長門 智史 葛西 太勝
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.451-459, 2009-02
被引用文献数
1

要旨 本研究は、Y大男子バスケットボールチームの2007年に開催された公式17ゲームを対象に、オフェンス力及びディフェンス力について、中でもオフェンス判断力を加味した詳細な戦力の分析を試みたものである。これまで研究継続中である「マルコフ過程」の数学的手法を用い、攻撃回数、核、ブレ、オフェンス判断力及びディフェンス力を数量化し、Y大チームの戦力を分析した。その結果、Y大は、攻撃回数の平均値は、85とやや高めであり、また、ブレが大きく、自チームの理想とする攻撃回数、オフェンスの判断ができていないゲームが多く認められた。シュート成功値(A)について、得点比率(r) の2分の1を下回る値が見られるゲームが17ゲーム中4ゲームであり、ディフェンス力の強化が必要であることが示唆された。また、チームの理想とする攻撃回数や一回の攻撃に費やす時間など、オフェンス遅速に関わる的確な判断により、勝利する可能性が高くなるものと考えられ、今後のチーム指導に客観的な資料が提供された。
著者
高橋 大輔 鈴木 隆 加藤 良一
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-20, 2010-02

要旨 : 植物性食品の抗菌性を簡便に調べることができる実験教材として、(A)YEB寒天培地又はPYG寒天培地の中央に直径10mmの穴を開け、腐葉土からの2倍希釈の上澄み液を培地表面に0.5ml塗布し、その中央の穴に抗菌性食品を約0.3g入れ、それらをシャーレで24時間培養する方法、(B)YEB寒天培地又はPYG寒天培地の中央に直径10mmの穴を開け、納豆からの5倍希釈の上澄み液を培地表面に0.5ml塗布し、その中央の穴に抗菌性食品を約0.3g入れ、それらをシャーレで24時間培養する方法、及び(C)6枚切り又は8枚切りの食パンの耳の部分を切り落とし、さらに1枚の食パンをほぼ均等に4つの四角形の切片にし、その切片の片面のみ腐葉土からの5倍希釈の濾液に浸し、その切片の中央に約0.3gの抗菌性食品を置き、それらを密封容器で5日間培養する方法の3つが簡便で分かりやすいものとして示された。
著者
竹田 隆一 陳 民盛 黒須 憲 斎藤 浩二
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.441-451, 2001-02

要旨 : 中国武術は,戦争に勝つための格闘術だけが変化したものではなく,それ以外の多様な文化の影響を受け,現在の運動形態を形成したものである。このような中国武術の成立について,他領域の文化との融合に着目し,中国武術のもつ固有の文化的側面を考察した。 中国武術の構造は,表層,中間層,深層に三区分することができる。武術の中核となる表層は,武術の運動形態であり,そこには,功法運動,套路運動,格闘運動が含まれている。套路運動は,武術運動が芸術表現の中に取り入れられることにより形成され,後に実戦性が加わえられ成立したものである。また,格闘運動は,先秦時代の野蛮な闘争形態の蛮闘段階,秦漢唐宋時代の技術性を重視した功闘段階,明清時代の文化的遊戯性に満ちた太極推手を主流とした戯闘段階と経緯し,現在に至るものである。さらに,武術の運動形態は,主に身体の増強のために,伝統的運動文化である養生功法や雑技技法の訓練形態を参考にして成立したものである。 このように,中国武術には,芸術表現,養生功法,雑技技法などの多様な文化的側面が,融合されているのである。
著者
渡辺 修身
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.67-78, 2002-02

近年,我が国におけるオペラブームに伴って,各地で市民オペラの活動が盛んになってきている。また教育の現場においてもオペラやオペレッタ,ミュージカル等(創作物も含める),舞台公演を行う機会が増えている。「総合舞台芸術」とも呼ばれるオペラを公演するには,多大な労力と時間が費やされる。本研究では,オペラ公演にいたるまでの音楽スタッフ,特に「コルペティトア(練習ピアニスト)」そして彼らの使用する楽譜「ヴォーカルスコア」に焦点をあて,いかに効率よく練習を進めていくかを考察する。 In recent years, musical performances have become more popular in Japan. In particular, the number of opera, operetta and musicals staged by professional groups and by amateurs at the collegiate level has increased. This is most encouraging since it indicates renewed opportunities for such an event to take place. Opera is a comprehensive stage art. It is time consuming and labor intensive to produce. In this report, efficient and effective ways by which the rehearsals for such a production can be carried out is analyzed. The roles of Korrepetitor, the practice pianist and the ways in which he utilizes musical notes and vocal scores is discussed in depth.