- 著者
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田中 秀明
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, 2002-03-20
2000年3月期決算から, わが国では国際会計基準と同様な会計基準の導入が本格的に始まった。時価会計(部分時価会計), 連結会計, 年金会計など一連の会計基準の改定はこれまでの日本の会計を大きく変えるだけでなく, 日本型経営システムを大きく揺さぶるものである。2000年12月には, 主要各国の会計基準設置主体により構成される共同作業部会(ジョイント・ワーキング・グループ-JWG)によって, 原則としてすべての金融資産と金融負債を公正価値で測定し, その変動をすべて損益計算書に計上することを骨子とする, 国際会計基準の公開草案「金融商品及び類似項目」が公表されている。これがいわゆる全面時価会計導入案である。本論文では全面時価会計の導入を視野に入れた銀行ALM(Asset Liability Management)の手法として, 金融資産と金融負債の相関関係に注目したサープラス・アプローチによるALMを研究の対象としている。第1章では, 2000年4月(2001年3月期)からスタートした金融商品の時価会計(部分時価会計)について概観し, それが銀行経営に及ぼした影響を確認する。ここでは(1)配当可能利益(2)自己資本比率(BIS規制)という2つの観点から考察を行なっている。第2章では, 全面時価会計を念頭においたALMを研究するうえで, まず全面時価会計の概略についてまとめている。ここでのポイントは, 負債の時価評価の問題である。負債の時価評価に注目する理由は, 銀行の資金調達が多様化しているからである。近年では預金以外に, 普通社債, 転換社債, 劣後社債等の中長期での資金調達が活発化しており, 負債の時価会計への対応に今後十分用意していく必要がある。第3章では, バランスシート型ALM(サープラス・アプローチ)の理論を展開する。サープラス(Surplus)とは, 「余剰」という意味であるが, ここでは, 資産の時価評価から負債の時価評価を差し引いたものをいう。サープラス・アプローチでは, 資産の時価評価から負債の時価評価を差し引いたサープラスの変動をサープラスのリスクと捉える。サープラスのリスクの定義から, 資産と負債のリターンの相関係数ρ_ALが大きくなるほど, サープラスの分散は小さくなる。資産だけで考えるアセット・アプローチでは, 各資産のリターンの相関関係が低くければ, リターンを得るためのリスク低減効果が期待できる。一方サープラス・アプローチでは, 資産と負債のリターンの相関関係が高くなるほど, リスクが低減するのである。第4章では, サープラス・アプローチにおける最適ポートフォリオの問題について採り上げる。効率的フロンティア上で, どのポートフォリオを選択すべきかというが, ポートフォリオの最適化問題である。ここで述べる手法は, ショートフォールする確率を一定以下に抑えるという条件(ショートフォール制約条件)を課した上で, 最適ポートフォリオを求めるというものである。ここでは目標自己資本比率の達成をショートフォール制約条件とするALMモデルを定式化している。終章では, 全面時価会計に向けて現在邦銀がかかえている金利上昇リスクについて述べる。2001年3月19日の日本銀行金融政策決定会合により, 金融市場の調節方式の変更と一段の金融緩和が実施され, 実質ゼロ金利政策が復活した。しかしさまざまな要因によって, 長期金利は上昇リスクを孕んでいる。景気回復を伴わない金利上昇リスクは, サープラスを減少させることで, 不良債権処理で体力の弱まっている銀行にとって, さらなる打撃を与える可能性がある。