著者
中島 光好
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.229-235, 2001-04-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
30

多くの抗不整脈薬がQT間隔を延長しそしてときにtorsades de pointesをおこすことはよく知られている。最近, 心臓疾患を対象としない治療薬が問様にQT間隔を延長し, torsades de pointesをおこすことが数多く報告されている。向精神薬, 抗高血圧薬, 抗ヒスタミン薬, 抗真菌薬, 抗菌薬などである。近年特に, キノロン薬に注目が集まっている。Torsades de pointesは多形性心室性頻拍を起こし, 死に至ることもある重大な副作用である。キノロン薬のなかではsparfloxacin, grepafloxacinで, 少ないがlevofloxacinでも報告されている。非心臓薬によるQTc延長は通常起こり得ない現象で, 特にtorsades de pointesのような致死的なものはまれである。わずかな人しか対象としない第I~III相試験ではおこりそうもない, しかし市販後多くのさまざまな病態の患者に使用されると出現する。これを開発段階でいかに早くみつけるかその努力が求められる。そのためにはQT間隔延長をおこすメカニズムを明らかにし特殊なイオンチャネルに作用する化合物の構造活性相関の研究を行うと共に, QT間隔延長作用を持つか否かを調べる非臨床試験のin vivo研究方法の標準化, このようなQT間隔延長作用があると非臨床試験でわかった薬については臨床第I, II, III相試験のデザインを慎重に行う必要がある。
著者
石黒 正路
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.361-366, 2004-07-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
8

β-ラクタマーゼの変異による広範なβ-ラクタム剤への親和性と基質分解能の向上, そして変異によるPBPのβ-ラクタム剤への親和性の低下によってβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性が獲得されており, β-ラクタム剤にはこれらの耐性を克服できる新しい誘導体の開発が望まれる。すなわち, 変異したPBPに対して高い親和性を示し, 変異したβ-ラクタマーゼ (ESBL) に抵抗性を有する構造をもつβ-ラクタム剤がデザインされる必要がある。X線結晶解析により, PBPおよび多くのβ-ラクタマーゼの結晶構造が明らかとなり, またMRSAのPBP2aやβ-ラクタム系抗菌薬の親和性が低下したPBP2xのミュータントの立体構造も明らかにされている。このような構造情報から得られる重要なアミノ酸残基の役割の解明とコンピュータによるドッキングシミュレーションを組み合わせることによって, β-ラクタム剤の加水分解機構を解明でき, これをもとにMRSAに対して親和性を有し, β-ラクタマーゼに安定な5, 6-シスペネム化合物などのデザインが可能となっている。
著者
古久保 拓
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.462-466, 2008-07-10 (Released:2011-08-04)
参考文献数
9

ニューキノロン系合成抗菌薬のpazufloxacin mesilate (PZFX) の腎不全患者における体内動態に関する検討は十分でない。今回, のう胞腎感染症と診断された4名 (年齢65.3±9.7歳, 体重49.0±4.1kg, 男1名) の血液透析 (HD) 患者を対象として, PZFX 300mgを週3回HD後に投与し, 体内動態を評価した。初回投与時のPZFXのCmaxは10.47±2.19μg/mL, AUC(0-∞)は421±175μg・h/mLであり, 腎機能正常者に比べ消失の著しい遅延が認められた。一方で, 3回目投与時の投与終了2時間後の血漿濃度は11.12±2.30μg/mLであり, この値は健常成人に常用量を反復投与した成績と同レベルであり, 消失の遅延から予測される程度には上昇していなかった。HD除去率は4時間のHDによりみかけ上58.7±7.7%であったが, HD終了1時間後までに認められた平均13.5%のリバウンド現象を考慮すると45.2±5.9%と算出された。全例において治療期間内に血漿濃度依存的な毒性は認めなかった。以上より, HD患者におけるPZFXの消失は腎機能正常患者に比べ大幅に遅延しているものの, HD除去性が高いために血漿濃度の蓄積性は小さいと考えられ, 毎HD後の投与が合理的であると考えられた。
著者
内納 和浩 山口 広貴 安藤 友三 横山 博夫
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.321-329, 2006-07-10 (Released:2011-08-04)
参考文献数
13

38℃以上の咽頭炎. 扁桃炎, 急性気管支炎を対象としたlevofloxacin (LVFX) の特別調査症例8,856例のうち, 感染症以外の合併症・基礎疾患を有さない7,597例について昨ステロイド性消炎鎮痛薬 (nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs) 併用時の安全性を検討した。NSAIDsの併用率は64.4% (4,890/7,597) で, 「併用注意」と記載されているフェニル酢酸系・プロピオン酸系NSAIDsと併用率は37.2% (2,828/7,597) であった。NSAIDs併用有無別の中枢神経系副作用発現率は, NSAIDs非併用群で0.04% (1/2,707), フェニル酢酸系・プロピオン酸系NSAIDs併用群で0.07% (2/2,828), その他のNSAIDs併用群で0.10% (2/2,062) であり, NSAIDs非併用群とNSAIDs併用群との間に有意差は認められなかった。中枢神経系副作用の種類は, めまいが2例, ふらつき感不眠, 眠気が各1例報告されたが, 痙攣は認められなかった。LVFXの1日投与量別の中枢神経系副作用発現率は, 200mg分2/日投与群で0% (0/458), 300mg分3/日投与群で0.07% (4/5,716), 400mg分2/日投与群で0.10% (1/1.031), 600mg分3/日投与群で0% (0/65) であり, 4群間に有意差は認められず, NSAIDs併用の有無で層別した結果でも有意差は認められなかった。年齢別の中枢神経系副作用発現率は, 65歳未満で0.06% (4/7,088), 65~74歳で0.28% (1/358), 75歳以上で0% (0/151) であり, 有意差は認められなかった。さらにNSAIDs併用の有無で層別した結果でも有意差は認められなかった。以上の結果より, 基礎疾患・合併症を有さない症例においてLVFXに対するNSAIDsの影響はきわめて小さいことが示唆された。
著者
今井 博久
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.135-142, 2007-03-10 (Released:2011-08-04)
参考文献数
14

性器クラミジア感染は, これまでは医療機関を受診した有症状の感染者の有病率が明らかになっていたが, 感染の大半を占める無症候患者の感染状況は十分に明らかにされていなかった。また, 近年, 性交し始める年齢が低くなりティーンエイジャーにおける感染の蔓延が懸念されているが, そうした疫学情報もなかった。そこで, 高校生を含む若年者を対象とした無症候性クラミジア感染症の大規模スクリーニング調査研究が開始された。本論文では,(1) 先行して実施した大学生や専門学校生の調査,(2) 高校生を対象とした大規模調査, この2つの調査について説明し, これらの調査結果をふまえながらティーンエイジャーにおけるクラミジア感染症の蔓延とその予防について述べたい。大学および専修職業学校に在関する無症候の性交経験を有する18歳以上の男女学生における性器クラミジア感染症の有病率は8.3%(女性9.1%, 男性7.0%) であった。特に, 年齢別にみると女性では18~19歳でla4%の感染率を示し, ティーンエイジャーへの感染が深刻な状態にあることを示唆していた。ティーンエイジャーの中心層である高校生における感染拡大が懸念され, 高校生を対象にした大規模調査が実施された。その結果, これまでに5,000名を超える高校生の対象者を得て, わが国において初めて高校生の無症候性クラミジア感染の感染状況が明らかになってきた。感染率は女子高校生では13.1%, 男子高校生では6.7%であった。ティーンエイジャーにおける蔓延は間違いないことが明らかにされた。米国では39%(カリフォルニアの女子高校生2003年), スウェーデンでは21%(ウプスラの女子高校生1994年) などであり, わが国はおそらく先進諸国のなかで最も感染が拡大していることが考えられた。一連の調査結果から具体的な対策を考察すると, 性感染症の蔓延防止対策の実施に向けて (1) 蔓延予防対策の焦点を当てるべき対象者をティーンエイジャーとすべきである,(2) 性別, 年齢, 危険因子が明らかになったので, こうしたデータに基づいた蔓延予防対策の施策を実施することが要請される,(3) 今後は各省庁や地元医師会, 関係学会, 学校教育関係者等が協力し合って緊急に対策を講じる, といったことが必要となろう。