著者
中 秀平 金子 康子 松島 久
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.590, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

埼玉大学周辺から単離した数種のミカヅキモを寒天培地上で培養したところ、増殖に伴い著しく移動する種と、1ヶ所で塊として増殖する種に分かれた。著しく移動する種はいずれも細胞外への粘液分泌に方向性があるなどの特徴が見られた。移動の著しい種であったClosterium acerosumを用い、走光性により寒天培地上を一方向に移動する際の粘液分泌と細胞内構造の変化を観察することを目的とした。寒天培地上にミカヅキモを1個体置き、7日間16時間明期、8時間暗期下で培養した。この時、ミカヅキモは約20細胞に増え、様々な方向へ移動していた。ここで、1方向からのみ光を当てると、ミカヅキモは走光性を示し、光の方向へ移動した。走光性により一方向へ移動しているミカヅキモの粘液分泌、ゴルジ体、液胞等の細胞内構造の局在と変動を明らかにするために、細胞の方向性を維持したまま、カルコフロール、キナクリン、DiOC6ニュートラルレッドなどで染色し、蛍光顕微鏡、光学顕微鏡を用いて観察した。粘液は進行方向に対し後方に向かって勢いよく噴出しており、前方では明らかに分泌量が少なかった。さらに寒天培地上で、走光性の方向を維持したまま化学固定した試料を樹脂包埋し、切片を作成した。この切片上で過ヨウ素酸‐ヘキサミン銀法により多糖成分を染色し、透過電子顕微鏡を用いて粘液の分泌過程の観察を行った。
著者
本間 環
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S25, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

現在、スギ花粉は日本の春先における代表的なアレルギー疾患となっている。これはまさに植物が他生物(動物)に対して影響を与えている例である。スギ花粉症を解決するためには医学的あるいは植物生理学的な対策が必要とされている。しかし、現在でもスギ花粉症の有効な治療や発生源の対策は実用化されていない。スギの材は建築材や家具材として価値が高い。そのために、スギは日本の有用樹木として盛んに植林されてきた。この際に必要となったのは、安定した種子の供給であった。種子生産の技術として植物ホルモンの一種であるジベレリン(GAs)を処理することで花芽形成の誘導が行われていた。しかし、植物ホルモンとスギの花芽形成のメカニズムとの関連は不明であった。そこで、スギに含まれる内生植物ホルモンの分析を行った。その結果、花芽形成の直前にGA3の含有量が著しく増加することが明らかとなった。このことから、GAsはスギの花芽形成に関与していることを示唆している可能性が示された。このことは、スギ花粉の発生源の対策としてGAsを制御すればスギの花芽形成を抑制できる可能性をも示唆していた。そこで、GAsの生合成阻害剤の処理を行った。その結果、スギの花芽形成は顕著に抑制された。ここでは、植物の成長調節を用いてスギ花粉の飛散防止を目的とした研究について、実験室レベルからフィールドレベルへの応用および実用化について紹介する。
著者
岩科 司
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S23, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

フラボノイドは陸上植物のコケ類、シダ類、裸子および被子植物に広く分布する化合物群で、これまでに5,000種類近くの物質が報告されている。しかしながら、植物におけるこれらの成分の機能についてはほとんどわからないままであった。唯一古くから知られていた機能は色素として花に含まれるアントシアニン系フラボノイドの花粉媒介のための昆虫や鳥の誘引作用であった。これらの昆虫誘引についてはその後、アントシアニンばかりでなく、フラボンやフラボノールのような、ほとんど可視域に吸収をもたないフラボノイドも昆虫の誘引に役立っていることが判明している。しかし、花以外の葉や根などに存在するフラボノイドの機能については長い間あまり知られていなかった。近年、やっとこれらの機能に関する研究が本格的になり、フラボノイドがそれを合成する植物と他の生物との間に重要な機能を果たしていることがわかってきた。例えば、カンアオイ類やミカン科植物に含まれるフラボノイドのチョウに対する産卵刺激作用、クワの葉などのフラボノイドの昆虫に対する摂食刺激作用、マメ科植物の根などのフラボノイドの根粒菌誘引作用、またその逆の抗菌作用などである。さらには最近、生物間の作用ではないが、葉に含まれるフラボノイドについて、生物に有害な紫外線から植物を保護する機能も実証された。本講演では、これまでに判明しているフラボノイドの植物における機能について紹介する。
著者
福田 直子 大宮 あけみ 伊藤 佳央 小関 良宏 野田 尚信 菅野 善明 鈴木 正彦 中山 真義
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.380, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

同一花弁において着色組織と白色組織が存在する覆輪花弁は、色素生合成の活性化・不活性化の機構を理解するために極めて有効な材料であると考えられる。トルコギキョウの覆輪形成に関与するフラボノイド系色素の生合成について解析した。 先端着色品種では、花弁の成長初期から着色組織にフラボノイドの蓄積が認められ、開花直前からアントシアニンが合成されたのに対し、白色組織では花弁のすべての生育ステージにおいてフラボノイドとアントシアニンの蓄積は認められなかった。一方、基部着色品種では先端着色品種と異なり、花弁の成長初期には全ての組織においてフラボノイドの蓄積が認められたが、花弁の成長に伴い白色組織のフラボノイドは減少していった。両品種とも開花花弁の着色組織と白色組織においてchalcone synthase (CHS)遺伝子の転写産物の蓄積に顕著な差が認められ、白色組織においてCHS遺伝子の転写が特異的に不活性化されていた。トルコギキョウにおいては、CHS遺伝子の組織特異的発現が、覆輪の形成に深く関与していると考えられる。花弁の成長に伴うフラボノイドの蓄積パターンから、先端着色品種ではCHSの不活性化は花弁の成長の初期から起こるのに対し、基部着色品種では花弁の成長に伴いCHSの不活性化が起こると考えられる。それぞれの品種において、CHSの不活性化には、異なる機構が機能していることが示唆された。
著者
明石 欣也 横田 明穂
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S4, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

乾燥ストレスは、植物の生産性を律速する主要な環境要因の一つである。一方、自然界には乾燥ストレスに極度に強い野生植物が存在し、多様な適応戦略でストレスに対処していることが知られている。それらの耐性を担う分子生理機構を解析するに当たり、我々はアフリカ・ボツアナ共和国のカラハリ砂漠に自生する野生スイカに注目している。この植物は、乾燥条件下において水分をほとんど失わずに生存する能力を持ち、また強光傷害の回避機構に優れているが、興味深いことに一般に乾燥に弱いとされるC3型の光合成代謝を営む。この野生スイカはストレス下において極めて特殊なアミノ酸代謝制御を行い、葉内にアルギニン生合成経路の中間体である新規適合溶質シトルリンを約300 mMまで高蓄積する。このシトルリンは、反応性の高い活性酸素種であるヒドロキシル・ラジカルを消去する能力に驚異的に優れている。また野生スイカにおいては、乾燥ストレスに際して他の一般植物とは異なるシグナル情報伝達が行われ、DRIP-1、メタロチオネイン、シトクロムb-561などの新規タンパク質を誘導する。これらのタンパク質のいくつかは、野生スイカにユニークなストレス耐性機構に寄与していることが示唆される。野生スイカを用いた研究は、植物の乾燥応答を理解するにあたり、モデル植物の研究では得ることのできない有用な知見を提供しており、その応用を図る上でも興味深い。