著者
小玉 雅晴 田邊 雄太 中山 真義
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.372-379, 2016 (Released:2016-10-27)
参考文献数
25
被引用文献数
6 13

アジサイの多くの品種は土壌条件によって花色が変化する.このアジサイの花色変化は,土壌からのアルミニウム吸収と発色器官であるがく片の液胞へのその蓄積量の違いによって生じる現象であると考えられている.本研究では,花色を安定に発色する技術を発展させるために,花色発現の安定性および可変性をもたらす要素を明らかにすることを試みた.今回は,酸性土壌およびアルカリ性土壌の異なる土壌条件下において,赤色あるいは青色を安定的に発色する品種,および土壌条件によって色が赤色と紫色に変化する品種を 10 品種用いて,がく片の pH,アントシアニン,アルミニウム,5-O-caffeoylquinic acid,3-O-caffeoylquinic acid について,土壌条件と花色の安定性および花の色彩の関係を解析した.花色安定品種の変化は可変品種の変化よりも小さかったものの,いずれの品種もアルカリ性土壌で栽培した場合に比べて,酸性土壌で栽培した場合に青色の色調が強くなった.花色安定品種と可変品種では,同じ要素の変化が土壌条件に対応して生じることで,花色の変化が発現すると考えられる.2 種類の土壌条件で比較した場合,可変品種の一つである‘HH2’の delphinidin 3-glucoside および赤色安定品種の一つである‘HH19’の 3-O-caffeoylquinic acid 以外,アルミニウムイオンの量を含むいずれの要素についても統計的に有意な差が認められた要素はなかった.アルミニウムイオンの着色細胞の液胞への局在性が変化した可能性が残っているものの,我々はリン酸などのアルミニウムイオンとキレートする化合物量の土壌条件に対応した変化が,発色に影響を与えている可能性を考えている.花色に基づいて比較した場合,青色安定品種においてアルミニウムイオンと 5-O-caffeoylquinic acid の含有量が,他の品種に比べて高い傾向が認められたものの,統計的に有意な違いは認められなかった.一方で,過去の報告と同様に,3-O-caffeoylquinic acid の含有量が低いことが,アジサイにおける青色発色の必要条件になっている可能性が示された.
著者
大久保 直美 鈴木 一典 近藤 雅俊 谷川 奈津 中山 真義 柴田 道夫
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.183-187, 2007 (Released:2007-04-23)
参考文献数
15

沖縄産ヒメサザンカ野生種13系統,芳香性ツバキの花粉親の一つであるヒメサザンカの系統1118(海外経由系統),芳香性ツバキ4品種の香気成分の比較を行った.ヒメサザンカの香気成分について,新たにリモネンおよび6種の芳香族化合物,安息香酸ベンジル,オイゲノール,サリチル酸メチル,o-アニス酸メチル,フェニルアセトアルデヒド,ベンズアルデヒドを同定した.沖縄産野生種13系統の香気成分量は,ほとんどのものが海外経由系統より多く,特に系統3と36が多かった.この二つを比較すると,花様の香調の2-フェニルエタノールやフェニルアセトアルデヒドの割合が多い系統36の香りの方が強く感じられた.ヒメサザンカを花粉親とする芳香性ツバキ‘姫の香’,‘港の曙’,‘春風’,‘フレグラントピンク’の香気成分の組成もヒメサザンカとほぼ同じであったが,組成比は品種ごとに大きく異なり,花様の香調を持つ成分の割合の多い‘姫の香’,‘港の曙’で香りが強く感じられた.
著者
福田 直子 大宮 あけみ 伊藤 佳央 小関 良宏 野田 尚信 菅野 善明 鈴木 正彦 中山 真義
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.380, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

同一花弁において着色組織と白色組織が存在する覆輪花弁は、色素生合成の活性化・不活性化の機構を理解するために極めて有効な材料であると考えられる。トルコギキョウの覆輪形成に関与するフラボノイド系色素の生合成について解析した。 先端着色品種では、花弁の成長初期から着色組織にフラボノイドの蓄積が認められ、開花直前からアントシアニンが合成されたのに対し、白色組織では花弁のすべての生育ステージにおいてフラボノイドとアントシアニンの蓄積は認められなかった。一方、基部着色品種では先端着色品種と異なり、花弁の成長初期には全ての組織においてフラボノイドの蓄積が認められたが、花弁の成長に伴い白色組織のフラボノイドは減少していった。両品種とも開花花弁の着色組織と白色組織においてchalcone synthase (CHS)遺伝子の転写産物の蓄積に顕著な差が認められ、白色組織においてCHS遺伝子の転写が特異的に不活性化されていた。トルコギキョウにおいては、CHS遺伝子の組織特異的発現が、覆輪の形成に深く関与していると考えられる。花弁の成長に伴うフラボノイドの蓄積パターンから、先端着色品種ではCHSの不活性化は花弁の成長の初期から起こるのに対し、基部着色品種では花弁の成長に伴いCHSの不活性化が起こると考えられる。それぞれの品種において、CHSの不活性化には、異なる機構が機能していることが示唆された。
著者
岸本 久太郎 中山 真義 八木 雅史 小野崎 隆 大久保 直美
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.175-181, 2011 (Released:2011-04-22)
参考文献数
16
被引用文献数
10 22

現在栽培されている多くのカーネーション(Dianthus caryophyllus L.)品種では,芳香性が低下傾向にある.強い芳香や特徴的な芳香をもつ Dianthus 野生種は,非芳香性品種に香りを導入するための有望な遺伝資源であると考えられる.我々は,花き研究所に遺伝資源として保持されている Dianthus 野生種の中から,芳香性の 10 種と,それらとの比較のためにほぼ無香の 1 種を選び,嗅覚的評価に基づいて 4 つにグループ分けした.GC-MS を用いた解析の結果,Dianthus 野生種の花の香りは,主に芳香族化合物,テルペノイド,脂肪酸誘導体に属する 18 種類の化合物によって構成されていた.最も強い芳香をもつグループ 1 の甘い薬品臭は,芳香族化合物のサリチル酸メチルに由来した.グループ 2 の柑橘様の香りは,テルペノイドの β-オシメンや β-カリオフィレンに由来した.グループ 3 の青臭さは,脂肪酸誘導体の (Z)-3-ヘキセニルアセテートに由来した.ほぼ無香のグループ 4 では,香気成分がほとんど検出されなかった.これらの花における放出香気成分の組成と内生的な香気成分の組成は異なっており,蒸気圧が高く沸点の低い香気成分が効率的に放出される傾向が認められた.また,グループ 1 の D. hungaricus の主要な芳香族化合物は花弁の縁に分布し,グループ 2 の D. superbus の主要なテルペノイドやグループ 3 の D. sp. 2 の主要な脂肪酸誘導体は,花弁の基部や雄ずい・雌ずいに分布した.この結果は芳香性に寄与する花器官が,Dianthus 種によって異なることを示している.本研究において,嗅覚的に良い香りで,芳香性に対する寄与が大きいサリチル酸メチルや β-オシメンや β-カリオフィレンを豊富にもつグループ 1 やグループ 2 の Dianthus 野生種が,カーネーションの芳香性育種に重要な遺伝資源であることが示唆された.
著者
藤原 隆広 中山 真義 菊地 直
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.796-804, 2002 (Released:2011-03-05)

キャベツセル成型育苗において、根鉢を乾燥させずに、地上部に適度な水ストレスを与える方法として、育苗後期にNaClを施用する方法を考案し、その実用性について検討した。NaCl処理により、根鉢の浸透ポテンシャルを低くすることで、灌水量を制限せずに育苗時の地上部水ポテンシャルを低く推移させることができた。NaCl処理によって、乾物量を減少させずに草丈と葉面積を抑制し、乾物率の高い苗を生産することができた。また、NaCl処理によって抑制された苗の葉面積は定植後1週間程度で対照区に追いつき、NaCl処理による収量の減少は認められなかった。NaCl処理によるNa含有率の増加に伴い減少したK、CaおよびMg含有率は定植後1週間程度で回復した。NaCl処理によって、クチクラ表面のワックス量が約20%増加し、定植後の苗の水分損失が抑えられた。NaCl処理開始後2日目から気孔コンダクタンスの低下、苗の蒸散量の抑制、水利用効率の向上が認められた。以上の結果、キャベツセル成型育苗における育苗後期のMaCl施用は、根鉢を乾燥させずに、苗の徒長的生育を抑制でき、乾燥ストレス耐性の付与も可能であることから、実用的な技術になりうることを明らかにした。
著者
中山 真義
出版者
一般社団法人 植物化学調節学会
雑誌
植物の生長調節 (ISSN:13465406)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.85-93, 2009-05-31 (Released:2017-09-29)
参考文献数
29

花の模様は多く場合,アントシアニン色素の生合成活性が花弁上の位置によって異なることによって形成される.花の模様は,アントシアニンの生合成に関わる遺伝子のみを対象とした,組織分化の極めて単純な系である.従って組織分化を導く「自立的な」,「部位特異的な」,遺伝子の活性化・不活性化の機構を解明するための,極めて優れた研究対象である.花の模様は多様であり,境界領域を形成する細胞の色の変化にも様々な違いが認められる.星型や覆輪型など品種として安定して発現する模様の形成には,内生的な転写後抑制が関与していることが示されつつある.一方で,不規則に発現する模様の形成にはトランスポゾンが関与していることが理解されつつある.模様を変化させる環境条件や化合物についての情報も得られており,これらは模様の形成機構を解明するための有力な手がかりになると期待される.
著者
栁下 良美 原 靖英 中山 真義
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.125-130, 2013 (Released:2013-07-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

日本で施設切り花栽培に用いられる日長反応が中性のスイートピーの冬咲き性品種は,花色などの多様性がヨーロッパで利用されている長日性の夏咲き性品種に比較して小さい.我々は冬咲き性品種の多様性を拡大するために,夏咲き性品種に特有の花弁に斑の入る形質の導入を試みた.最初のステップとして斑入り形質の遺伝様式と着色性や開花習性との連鎖について検討した.斑入り花と全着色花,全白色花との交雑による後代での花弁着色の表現型の分離比から,斑入り形質は劣性の1遺伝子により制御されており,斑入りの表現型は着色性を制御する遺伝子により劣性上位で抑制されていることを明らかにした.また既存の報告と同様に,現在日本で栽培されている冬咲き性も1つの劣性遺伝子により制御されていることを明らかにした.さらに斑入り形質,着色性および開花習性は互いに独立して分離していることを示した.これらのことから,冬咲き性は表現型が発現した世代で固定が完了する一方で,斑入り形質はその自殖後代で全白色花が現れない世代で固定が完了すると考えられる.
著者
北畑 信隆 早瀬 大貴 Bisson Melanie M. A. 湯本 弘子 中野 雄司 中山 真義 Groth Gerog 浅見 忠男
出版者
植物化学調節学会
雑誌
植物化学調節学会研究発表記録集 (ISSN:09191887)
巻号頁・発行日
no.46, 2011-10-03

The gaseous hormone ethylene plays important roles in many physiological and developmental processes in plants. To regulate ethylene signaling, we screened novel chemicals with ethylene mimic activity that induce triple response phenotype of etiolated seedlings. Finally we identified a compound with ethylene mimic activity, named HJ2. Ethylene biosynthetic inhibitor did not suppress HJ2-induced phenotype. On the other hand, ethylene insensitive mutant, ein2, suppressed HJ2-induced phenotype. Moreover, antagonist of ethylene receptor, STS, suppressed HJ2-induced phenotype in dose-dependent manner. These results suggested that HJ2 is an agonist of ethylene receptor. To improve ethylene activity of HJ2, we designed and synthesized HJ2 derivatives. As a result, we developed more effective ethylene agonists. At present, we examine binding of these chemicals to ETR1 protein in detail.