著者
桝田 信彌 福田 香織 矢口 行雄 本間 環
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.298-305, 2007 (Released:2007-11-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

マングローブ林を構成する木本植物の効率の良い造林を行うための苗木の大量生産を目的とした基礎的研究として,メヒルギ胎生種子の植え付け深さの違いによる発根現象を調査した。その結果,胎生種子のシュート伸長成長は深く植え付けるほど促進効果がみられ,サンゴジュやモモなどの他の樹種のさし木の発根におけるこれまでの報告と同様の結果が得られた。植え付け前に根源体の形成がみられた下部発根は,植え付け深さの違いによって下部根の発根部位や発根本数には違いがみられなかった。しかし,植え付け後に根源体の形成された上部発根は,深く植え付けたものほど発根部位が拡大し発根本数も増加した。これらのことから,メヒルギ胎生種子の上部発根は,植え付けたことによる培地との接触が刺激となって根源体が形成されたと考えられる。また,上部発根と下部発根との間には約 2 cmの無発根の部位がみられた。
著者
本間 環
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S25, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

現在、スギ花粉は日本の春先における代表的なアレルギー疾患となっている。これはまさに植物が他生物(動物)に対して影響を与えている例である。スギ花粉症を解決するためには医学的あるいは植物生理学的な対策が必要とされている。しかし、現在でもスギ花粉症の有効な治療や発生源の対策は実用化されていない。スギの材は建築材や家具材として価値が高い。そのために、スギは日本の有用樹木として盛んに植林されてきた。この際に必要となったのは、安定した種子の供給であった。種子生産の技術として植物ホルモンの一種であるジベレリン(GAs)を処理することで花芽形成の誘導が行われていた。しかし、植物ホルモンとスギの花芽形成のメカニズムとの関連は不明であった。そこで、スギに含まれる内生植物ホルモンの分析を行った。その結果、花芽形成の直前にGA3の含有量が著しく増加することが明らかとなった。このことから、GAsはスギの花芽形成に関与していることを示唆している可能性が示された。このことは、スギ花粉の発生源の対策としてGAsを制御すればスギの花芽形成を抑制できる可能性をも示唆していた。そこで、GAsの生合成阻害剤の処理を行った。その結果、スギの花芽形成は顕著に抑制された。ここでは、植物の成長調節を用いてスギ花粉の飛散防止を目的とした研究について、実験室レベルからフィールドレベルへの応用および実用化について紹介する。
著者
本間 環
出版者
日本農薬学会
雑誌
Journal of Pesticide Science (ISSN:1348589X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.545-551, 1995-11-20 (Released:2010-08-05)
参考文献数
34
著者
谷口 真吾 本間 環 山本 福壽
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.350-354, 2003-11-16
参考文献数
18

樹木の開芽の生理機構を明らかにすることを目的として,トチノキ(Aesculus lurbinata)休眠芽(頂芽および側芽)の伸長,開芽ならびに新条件発達に及ぼす10種類の植物成長調節物質処理の影響を調べた。頂芽の伸長はジベレリン(Gas)処理で著しく促進された。一方,2種のジベレリン生合成阻害剤(AMO1618,ウニコナゾール.P : UCZ-P)の処理区では抑制された。また側芽の伸長はGas処理で促進されるとともに,エスレル(ET),ジャスモン酸(JA-Me),AMO1618およびUCZ-P処理でも促進された。さらに頂芽と側芽の開芽はGasおよびJA-Me処理によって促進された。これらの結果,既定芽タイプであるトチノキの芽の伸長にはジベレリンが重要な役割を果たしているものと考えられる。また,開芽にはジベレリンとジャスモン酸が関与している可能性が高い。
著者
丹下 健 益守 眞也 坂上 大翼 山本 福寿 本間 環
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

常緑樹の葉は、冬季であれば低温障害を受けることのない低温や降霜によって秋や春には甚大な被害を受けることが知られている。これは常緑樹が周囲の温度環境の変化に応じて樹体の低温耐性を変化させていることを示している。本研究では、暖温帯を主な生育地域とするスギを材料として、周囲の温度環境をどのように感知し、葉の低温耐性を高めたり低めたりしているのかを明らかにすることを目的に、実験的に地下部と地上部の温度環境を別々に制御して葉の水分特性がどのように変わるのかを調べた。葉の膨圧を失うときの水ポテンシャルは、秋から冬にかけて低下し、特に気温が5℃以下で急激に低下する季節変化を示す。この水分特性値の変化は、凍結温度の低下や細胞外凍結時の細胞内水の減少に対する耐性を高めるものである。このような季節変化が、地温を下げることによって早まり、暖めることによって遅れること、水分特性の変化には1週間程度の時間がかかることを明らかにした。この時、飽水時の浸透ポテンシャルの低下は明瞭でなかった。また、地温が5℃以下の時に葉を暖めても葉が低温耐性を失なわず、苗木全体を暖めることによって低温耐性を失う(可逆的な変化)ことを明らかにした。地温の低下に伴う葉の水分特性値や糖濃度の変化を検討し、膨圧を失うときの水ポテンシャルの低下に寄与しているのは、細胞内溶質の増加よりも、体積細胞弾性率(細胞壁の堅さ)の増大の方が大きいことを示した。以上の結果から、秋から冬にかけての地温の低下に応答して、スギの葉が低温に対する耐性を獲得することを明らかにした。季節はずれ降霜(晩霜、早霜)の害は、気温に比べて地温の季節変化が穏やかであり、急激な気温の低下に樹木が応答できないために発生すると考察した。
著者
本間 環 山口 五十磨 中嶋 正敏 室伏 旭 右田 一雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.358-365, 1995-07-01
被引用文献数
1

スギ(Cryptomeria japonica D. DON)の伸長成長および花芽形成は、他の針葉樹と同様にジベレリン(GAs)の投与によって促進される。このことは、これらの生理現象が内生GAsによって調節されている可能性をも示している。しかし、針葉樹の内生GAsに関する知見は少ない。これまでに、針葉樹の内生GAsの報告はマツ科の4種に限られている。一方、スギのジベレリン様物質は矮性イネ「短銀坊主」によるバイオアッセイにより確認されているものの、その同定は末だ報告されていない。本研究では、内生GAsとスギの生理学的および形態学的変化との関連を解明する研究の第一段階として、花粉に含まれる内生GAsの分析を行った。その結果、高速液体クロマトグラフィーにより精製した試料を「短銀坊主」によるバイオアッセイおよびエンザイムイムノアッセイ(ELISAs)を用いて分析し、GA_1および/またはGA_3、GA_4、GA_9、GA_<12>、GA_<15>の存在を推測した。それらのうちGA_9、GA_<12>およびGA_<15>をガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)により同定した。しかしながら、ELISAによりその存在が示唆されたGA_1および/またはGA_3とGA_4については、含有量が少ないためにGC/MSあるいはGC/SIMのいずれにおいても同定することはできなかった。これらの結果から、スギの花粉にはearly-non-hydroxylation pathwayが主要な生合成経路として機能している可能性が示された。