著者
斉藤 くるみ
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.193-209, 2022-03

What is“Orality and Literacy”for hearing impaired people, especiallyfor Deaf people whose native or primary language is a sign language? What is“Orality and Literacy”for visually impaired people, especially for those who aretotally blind? Can Deaf people have orality and/or literacy? Blind people haveorality, but can they have literacy? Is Braille character(s) or letter(s)? Thisarticle examines the relationship between orality and auditory sense, and betweenliteracy and visual sense.Chapter 1 reviews the present definitions of“Orality and Literacy”and discussestheir problems. Chapter 2 examines what literacy is for the visually impaired andwhat Braille and reading-aloud are for them. Chapter 3 examines what oralityis for the hearing impaired and whether sign language(s) can have literacy ornot. We have considered orality as voice, and literacy as visual letters, which isnot correct. Sign linguistics has already proved that the true nature of languagewas not voice. It is necessary to redefine“Orality and Literacy”without beingconfused with modality.音声言語を聞くことのない聴覚障害者、特に手話を母語、または第一言語とするろう者や、既存の文字を読み書きすることがない視覚障害、特に全盲の人にとって、オラリティとリテラシーはどういうものなのか。ろう者はオラリティとリテラシーを持ち得ないのか?全盲の人はオラリティは持てても、リテラシーは持てないのか。点字は文字ではないのか。本論文では 1 でオラリティとリテラシーのこれまでの定義やその問題を述べ、2で視覚障害者にとって、リテラシーはどのようなものかを、点字や音読を通して考察する。3では聴覚障害者にとって、手話という言語にオラリティとリテラシーはあり得るのかを検証する。そして長きに渡り、当然と思っていた「オラリティとは音声、リテラシーとは視覚記号」という考え方は言語の本質を考えたときに、不十分であったということを明らかにする。モダリティにまどわされず、オラリティとリテラシーを定義しなおす必要がある。
著者
北場 勉
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.3-37, 2009-02

方面委員とは、大阪府が、1918(大正7)年の米騒動を契機に、同年10月に、創設したものである。方面委員は、行政機関から委嘱を受け、地域の社会調査、医療保護、職業紹介、乳児の保護などを行った。東京では、1918年に救済委員、1920年に方面委員が創設された。 東京へは、継続して人口が流入したが、日露戦争後、及び、第一次世界大戦後に人口流入が激化した。人口流入により、都市問題が発生し、中心部の人口が停滞し、周辺地域の人口が増加した。一方で、従来の社会的絆は崩壊の危機を迎えていた。 大都市は自治権が弱く、財政力もなかったため、住民自ら問題を解決しなければならなかった。こうして、大正期に地域の住民で組織する「町内会」が激増する。行政も町内会の設立を望んだ。この町内会との密接な関連の下に、方面委員制度が生まれてくる。方面委員の職業は自営業で、明治期に来住した者が多く、地付きの名望家ではない。 大正期には、都市での人口定着が顕著になり、中心部から周辺部への人口移動がみられた。Homeniin System was founded, after the rice riot, by the government of Osaka prefecture on Octorber 7th, 1918. Homeniin had been appointed by the government, and had conducted regional social servey, offered health protection, introduced a job and afforded protection to infant. In Tokyo, Kyusaiiin System was founded in 1918, and Homeniin System was founded in 1920. Population flow to Tokyo was always continuing. After Japanese-Russo War and World War Ⅰ, population flow had gathered volume. Population flow had caused urban problem. Population of central portion had grown stagnant, and population of neighboring part had experienced an increase. On the other hand, traditional social ties had been disrupted. Because of weak autonomy and financial difficulties of big city, inhabitant had to resolve urban problem by their own abilities. Thus "Neighborhood Association" organized by inhabitants of the district had drastically increased in the Taisho era. The government had also hoped to organize "Neighborhood Association". With close relationship of "Neighborhood Association", Homeniin system had been born. Occupation of the person who had been appointed to Homeniin was mainly self-owned business. And he/she was incomer in the Meiji era, not the native of high standing. In the Taisho era, incomer had eminently come to stay in Tokyo. Demographic shift from central portion to neighboring part had been observed. Homeniin had gave aid to the poor who had got left behind of this demographic shift.
著者
末森 明夫 斉藤 くるみ
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.109-125, 2022-03

This paper describes a morphonological analysis of compound signsconnecting with fingerspelling-letters in Japanese Sign Language. The criticalanalysis revealed that fingerspelling–letters connected with signs indicatedfunctions like phonetic complements, which are observed in the hieroglyphs orthe Mayan scripts. Interesetingly, the patterns of fingerspelling-letters are alsosimilar to sutegana observed in written Japanese in the early modern ages. Theanalysis of mechanisms of compound signs connecting with fingerspelling-lettersuncovered that an initial Kana of a Japanese word corresponded to a certain signis connected before the sign as the phonetic complement, whereas a terminalKana is connected after the sign, suggesting the bi-linearity of fingerspellingletters as the phonetic complement, which is considered to derive from writtenJapanese. The initial fingerspelling-letter connected before a sign tends tobe subsequently converted to a handshape of the sign, however, the terminalfingerspelling-letter is not converted to the handshape of the sign, suggestingthat the bi-linearity of the initial and terminal fingerspelling-letters as thephonetic complement differs each other.本稿では日本手話語彙にみる指文字を含む複合語群の音韻形態論的分析をおこない、複合語群に含まれる指文字が聖刻文字やマヤ文字にみる音声補字に該当する機能を持つことを明らかにした。またこの形式は近世書記日本語にみる捨て仮名ともよく似ていることが窺われた。指文字を含む複合語群の造語機序については、手話単語に対応づけられた日本語の語頭に位置する仮名は手話単語の前につなげられるのに対し、日本語の語尾に位置する仮名は手話単語の後につなげられるという顕著な傾向があり、書記日本語にみる線条性が指文字を含む複合語群にも存在することが窺われた。尤も手話単語の前につなげられた指文字が、手話単語と指文字の空間的共起ないし手話単語の構成要素[手形]への変換を示す傾向を見せたのに対し、手話単語の後につなげられた指文字にはそのような傾向はみられなかった。
著者
北場 勉
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.5-29, 2012-03

本論文の目的は、1874年に制定された恤救規則の意義を検証することである。先行研究により成立過程は一応明らかにされているが、同規則それ自体の意義については様々な見解が存在している。本論文の特徴は、次のとおりである。一つ目は、資料として、主に、明治政府の行政書類であり、救済関連の行政文書が含まれている太政類典を用いたことである。二つ目は、明治初期を日本の国民国家の形成期の一部とみなしたことである。三つ目は、救済関連行政文書と何度も改組された救済担当行政機関との対応関係を分析したことである。その結果、恤救規則は、各地域を国家に統一する国民国家形成の過程において、政府による救済策のうち、個人救済に関する全国的規則として成立したものであることが明らかになった。
著者
千葉 和夫
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.95-107, 2012-03

私はかねてより高齢者が住みなれた地方での生活を離れ、子どもたちとその家族が生活している都市部へ移住することによる心の不安や体調の悪化、新たな友人関係を構築することの困難さに着目していました。 そのような折に東日本大震災が発生しました。私は大学社会福祉学部教員であると同時に「福祉レクリエーションワーカー」でもある立場から、いかに行動を起こすか?を考えましたが、今の自分にできることは何かを優先すべきであると思慮し、先に述べたような観点から本研究ノートを執筆することとしました。 論考の主軸は、コミュニティ・サロン&エンカウンターグループ・リハビリテーション・TRS(セラピューティックレクリエーションサービス)・ジェネリックソーシャルワークに設定しました。こうした論点から、被災された高齢者の心の復興を再学習しようとしたからです。 本研究ノートの執筆により、私の教育者・研究者・実践者としての基本的スタンスが僅かではありますが鮮明化されたように感じています。そして多くの福祉レクリエーションワーカーらとともに、被災された高齢者やそのご家族の方々の心の復興に少しでもお役に立てることができれば幸いと思っています。