著者
西野 精治
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-SL2, 2021

<p>私は、大阪医科大学大学院4年在学時の1987年に、早石修学長 (当時) の早石生物情報研究所共同研究員としてスタンフォード大学睡眠研究所に留学することになった。その後34年にわたり、スタンフォード大学で睡眠研究を続けている。その間、東北大学にはヒスタミンの国際シンポジウムなどで度々訪れる機会があった。本学術総会では、ヒスタミンにちなんで脳内マスト細胞と睡眠に関する研究成果を報告する。ヒスタミン神経のみならず、マスト細胞由来のヒスタミンは覚醒系の伝達を担い、ストレス性不眠、不眠による脂肪細胞等における炎症や耐糖能異常などにも関わるという結果が動物実験で得られた。次に、新型コロナウイルス感染症と睡眠に関する疫学的調査の結果を報告したい。2000年初頭より新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が猛威を振るい、全世界で多くの死亡者を出す事態となった。COVID-19の広がりによって人々の生活習慣や労働様式から睡眠習慣まで大きな影響がみられ、今後、新型コロナウイルスとの共存を考える上で生活変化・職場での生産性の分析は重要である。2020年4月に行った1,000人規模の調査では、コロナ禍の下で特にリモートワークにより睡眠時間は長くなったが、就寝時間が後ろ倒しになり、睡眠の質が低下したケースも多いことがわかった。さらには、コロナ禍が約一年経過した2021年2月には調査対象者10,000人規模で睡眠状態やコロナ感染についての疫学的調査を行い、「マスクをせずに外出(OR 7.01, 95% CI: 4.50, 10.92)」などがCOVID-19のリスク因子として認められた。また調査対象者10,323名中、新型コロナウイルス感染を認めなかった8,693名のうち睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の既往歴がある者は231名(2.7%)であった一方、新型コロナウイルス感染者144名の中でSAS既往者は51名(35.4%)に及んだという衝撃的な結果が得られた(OR 4.93, 95% CI: 2.81, 8.63)。新型コロナウイルスの感染者はインフルエンザの感染リスクも高く(OR 6.30, 95% CI: 3.79, 10.49)、SAS既往者では双方の感染リスクが高いことも分かった。最後に、谷内学会会長より研究成果のみならずスタンフォードでの研究生活やシリコンバレーでの生活も紹介していただきたいとの依頼を受けたので、米国での研究室の主宰者としての研究生活についても紹介させていただきたい。</p>
著者
花岡 正幸
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-S05-1, 2021

<p>薬剤性肺障害は、「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの」と定義される。薬剤は医師が処方したものだけでなく、一般薬、生薬、健康食品・サプリメント、さらに非合法薬などすべてを含む。また、呼吸器系の障害とは肺胞・間質領域病変だけでなく、気道病変、血管病変、胸膜病変などが含まれ、さらに器質的障害から機能的障害まで様々である。</p><p>薬剤性肺障害の診断は、「すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があり、薬剤投与中のみならず投与終了後にも発生することを常に念頭に置く」ことから始まる。すなわち、多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、肺に異常陰影の出現をみた場合、必ず鑑別しなければならない病態である。</p><p>薬剤性肺障害のうち、肺胞・間質領域に病変の主座を認めるものを「薬剤性肺炎」と呼ぶ。薬剤性肺炎の被疑薬として、抗悪性腫瘍治療薬、関節リウマチ治療薬、漢方薬などが多く、大部分は薬剤の投与開始から120日以内に発症する。中高年の男性に多い傾向があり、喫煙歴や既存の肺病変などリスク因子が存在する。国際比較により、海外よりも国内(日本人)での発生頻度が高いことが知られている。自覚症状は咳嗽、呼吸困難、発熱が多いが、その臨床病型は多彩で非特異的である。診断の手がかりは高分解能(HR)CT所見であり、画像パターンと既報告との類似性の評価が重要となる。薬剤性肺炎の画像パターンは、びまん性肺胞傷害(DAD)、過敏性肺炎(HP)、器質化肺炎(OP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性好酸球性肺炎(AEP)の5つに大別される。現在までのところ診断の決め手はなく、除外診断となる。鑑別診断としては、呼吸器感染症、既存の肺病変の悪化、および心原性肺水腫が重要である。</p><p>治療の原則は被疑薬の中止であり、重症度に応じてステロイド治療を考慮する。さらに、呼吸不全やDAD型肺障害を呈する症例は、ステロイドパルス療法を含めた集学的な治療が必要となる。予後は比較的良好であるが、一般的にDAD型肺障害は治療抵抗性で予後不良である。</p><p>本シンポジウムでは、薬剤性肺炎の病態、診断、治療など臨床像を中心に解説する。</p>
著者
石井 明子 斎藤 嘉朗
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-S47-4, 2021

<p>感染症ワクチンの有効性の評価においては,免疫原性(immunogenicity),臨床試験での有効率(efficacy),実社会での有効率(effectiveness)が指標となり得るが,新型コロナウイルスワクチンの評価の考え方(令和2年9月2日PMDAワクチン等審査部)では,原則として臨床試験における発症予防効果を主要評価項目とすべきとの見解が示されている.一方で,海外で発症予防効果を主要評価項目とした大規模な検証的臨床試験が実施される場合には,日本人における免疫原性及び安全性を確認することを目的とした国内臨床試験を実施することで十分な場合がある(新型コロナワクチン審査報告書)とされ,これまでに本邦で特例承認された3種類の新型コロナワクチンでは,免疫原性及び安全性の確認を目的とした国内臨床試験が行われた.さらに,変異株ワクチンの有効性及び安全性評価における考え方が補遺1として示され(令和3年4月5日),既承認のワクチンを改良した変異株ワクチンの有効性については,中和抗体陽転率,及び中和抗体価の幾何平均値を主要評価項目とするとされている. </p><p>新型コロナワクチン国内臨床試験における免疫原性の評価では,Sタンパク質特異的抗体価,及びウイルスあるいはシュードウイルスを用いた中和抗体価が測定された.ここで得られる抗体価は用いる測定系に依存する値であるため,一つの臨床試験の中で群間の比較を行うことは可能であるが,異なる測定系で得られた値を比較することはできない.今後,国内で開発される新型コロナワクチンの臨床試験における有効性評価や,既存ワクチンの2回接種後の追加接種の必要性の検討,実社会における各自の免疫状態の調査等において,抗体価の標準化が重要な課題の一つとなる.2020年12月にWHOが最初の新型コロナウイルス抗体国際標準品を策定し,中和活性に関するIU(International Unit),及び結合活性に関するBAU(Binding Antibody Unit)が定められた.今後は,この国際標準品を基準に標準化が図られると考えられるが,普及は十分でなく標準化は緒についたばかりである.本講演では,新型コロナワクチンの有効性評価に関して,特に抗体測定法と標準化の観点から現状と課題について考察するとともに,令和2年度に実施した,抗体検査キットの一斉性能評価試験の結果を紹介する.</p>
著者
矢田 充男 高橋 香 三木 祐 鵜飼 克明 小林 英嗣 小松 由佳 石田 さやか 平間 麻衣子 一戸 集平 渡辺 真衣 水吉 勝彦 澤田 真樹
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-P-O-6, 2021

<p>【はじめに】新型コロナウイルス感染症は、2019年12月以降、中国湖北省武漢市を中心に発生し、短期間で全世界に広がった。本邦において2021年2月14日に新型コロナウイルスワクチンとして販売名コミナティ筋注(以下「本剤」という)が特例承認となった。国立病院機構においては、投与初期における安全性確認を主たる目的としたコホート調査(以下「調査」という)を兼ね先行接種を行った。当院において、本剤先行接種に際し、医師、薬剤師、看護師、事務職員により構成された新型コロナウイルスワクチン検討チーム(以下「検討チーム」という)を立ち上げ、当院職員に対し本剤接種を安心・安全を第一に接種行うこととした。【目的】当院において2021年1月26日に検討チームの第1回目の打ち合わせを開始し、その後も随時打ち合わせを行いながらの対応となった。2月5日に本剤保管用のディープフリーザーの設置、2月12日より院内において本剤接種および調査の説明会を実施した。当院には2月18日に本剤が搬入となり、翌2月19日より接種を開始した。その後3月26日までの先行接種終了までの流れについて紹介する。【方法】当院職員を対象とした先行接種に1207名を対象に接種希望調査を実施し、1062名の職員が先行接種の希望をされ、うち2021年2月25日までに接種を受けた378名に調査にご協力いただくこととなった。ワクチン接種は院内大講堂を会場に行い、予診票等の事前確認、問診、接種、予診票等の回収という流れで行い、被接種者は接種後に大講堂若しくは職場等で観察を行い、一人で過ごすことがないような環境を整えた。【結果】本剤の接種にあたり、問診等は医師、本剤の管理・調製は薬剤師、接種は看護師、職員の接種スケジュール管理は事務、調査関係は治験管理室とそれぞれの役割を分担したことにより、接種を希望する全職員への接種は大きな問題はなく終えることができた。また調査における日誌の回収、データ入力についても関係各所に協力をいただきながら期限までに入力を終えることができた。しかしながら、各部署の担当者への負担が増加したところは否定できない状況であった。【考察】本剤先行接種に際し、各種情報が日々更新される中で、円滑に接種を終えることができたのは、医師、薬剤師、看護師、事務職員をはじめとした病院の全ての職員が一丸となり、一つのチームとして対応したことが一番の要因であると考える。</p>
著者
國島 広之
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-S29-2, 2021

<p>2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は、交通のグローバル化、ボーダーレス化のなか、日本を含めた国内外でパンデミックとなり、今なお世界中で多くの方が罹患している。わが国では2020年2月には神奈川に寄港した旅客船におけるアウトブレイク、次いで海外からの帰国者を発端とした流行が発生した。当時は、正確な感染性や病原性、感染対策が不明ななか、緊急事態宣言による人流の抑制もあり感染者の低減がみられた。2020年には医療施設や高齢者施設におけるクラスターも多く発生し、高齢者や基礎疾患を有する方に致死的な経過が多く発生した。2021年春には高齢者や医療従事者にmRNAワクチンが接種が行われ、高齢者の死亡例やクラスター事例は減少がみられた。度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置にも関わらず人流の低下がみられず、感染性のより高いα型次いでδ型変異株への置き換わりによって、2021年夏以降は、基礎疾患を有さない若年者に流行が拡大し、重症者や死亡例、後遺症患者がみられている。</p><p>新型コロナウイルス感染症の発生以来、医療と経済、社会における感染対策が大きな争点となっている。今後も若年者におけるワクチン接種のあり方も様々な議論があり、新型コロナウイルス感染症の終息はいまだ先と予想される。今後もおこりうる新たな感染症によるパンデミックのためにも、感染症専門家、医療者、研究者、行政、社会との連携協力の更なる発展が必要不可欠である。</p>
著者
金城 衣良 脇田 夏鈴 植田 真一郎 松下(武藤) 明子
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-P-V-1, 2021

<p>【目的】現在世界中で感染拡大しているCOVID-19は呼吸器症状のみならず、血栓症を合併し臓器障害を引き起こす.血栓の形成には様々な要因が存在するが、COVID-19での血栓の原因の一つに、活性化した白血球が細胞外に自身のDNAを放出する細胞外トラップ生成がある.我々は過剰な細胞外トラップ生成の抑制が、血栓による臓器不全を防止できると考え、白血球活性化を抑制するコルヒチンの白血球細胞外トラップ生成に対する効果を検討した.</p><p>【方法】単球系細胞株THP-1をホルボールエステルによりマクロファージ様細胞(Diff.THP-1)に、またはリンパ球様細胞株HL-60をDMSOで好中球様細胞(Diff.HL-60)に分化させたものを使用した.刺激としてTLR9リガンド作用を有するウイルス由来DNAモチーフ、LPSまたはTNFαを用い、刺激4時間での核酸染色試薬Sytox Greenの蛍光により細胞外トラップ生成を、刺激1時間でのwestern blottingによりNFκB p65リン酸化とIκB-α発現をみることで細胞内炎症シグナルを、コルヒチン前処置(1x10<sup>-8</sup>M, 1x10<sup>-6</sup>M)の有無で評価した.</p><p>【結果】Diff.THP-1においてコルヒチン1x10<sup>-8</sup>M前処置はTLR9リガンド、TNFa刺激による細胞外トラップ生成を抑制する傾向がみられ、TLR9リガンド、LPS刺激による炎症シグナル亢進を抑制した.Diff.HL-60においてTLR9リガンド刺激で同様の結果だった.また、コルヒチン1x10<sup>-6</sup>M前処置にはこれらの抑制効果がなかった.</p><p>【結論】コルヒチンは適切な濃度でNFκB経路活性化および細胞外トラップ生成を抑制する.これはCOVID-19の血栓形成による重症化予防にコルヒチンが有効であることを示唆する.</p>
著者
脇田 夏鈴 金城 衣良 植田 真一郎 松下(武藤) 明子
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-P-V-5, 2021

<p>【目的】COVID-19が世界的規模で蔓延している現在、その治療薬や重症化予防法の開発は喫緊の課題である.コロナウイルスを含む病原体の多くはエンドサイトーシス(Edcs)で細胞内に侵入し、感染・増殖する.ヒトコロナウイルスはカベオラEdcsで取り込まれることが報告されているが、COVID-19原因ウイルスSARS-CoV-2に関しての知見は少ない.我々はSARS-CoV-2の細胞内侵入経路と、それに対する微小管阻害薬コルヒチン(Col)の効果について細胞を用い検討したので報告する.</p><p>【方法】ヒト単球系細胞株THP-1をマクロファージ様細胞に分化したものをガラス上に播種し、Col (1x10<sup>-8</sup>M, 1x10<sup>-6</sup>M)または溶媒を一晩処置し、カベオラEdcsを生じるコレラトキシンb (CTb)、またはリコンビナントSARS-CoV-2スパイクエンベロープ(Cv2SE)を1時間暴露後固定し、caveolin-1(cav1)またはゴルジ体マーカー(GM130 or Golgin97)と免疫染色し共焦点顕微鏡にて観察した.</p><p>【結果】[CTb 暴露] 溶媒処置では細胞内でcav1および ゴルジと共局在していたことからカベオラEncsを確認した.Col 1x10<sup>-8</sup>M処置は細胞膜上cav1発現部位にCTbは共局在しゴルジとは重ならずEdcs減少を認めた.Col 1x10<sup>-6</sup>M処置もCTbは主に細胞膜上に分布しcav1と共局在したが、ゴルジの細胞内局在が細胞内全体に分散し劇的に変化しており、高濃度Col処置では様々な細胞内シグナル経路の崩壊が起きていることが示唆された.[Cv2SE 暴露] 溶媒処置でゴルジと共局在を認めEdcsを確認した.Col1x10<sup>-8</sup>M処置は共局在が減少しておりEdcsが抑制されていた.ただしcav1とは局在せず、カベオラ以外でのEdcsが示唆された.</p><p>【結論】 SARS-CoV-2は非カベオラ経由Edcsで細胞内に侵入し、臨床用量ColのEdcs減少作用はCOVID-19感染抑制を期待できる.</p>
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-SPS-3, 2021

<p>非拠点の大学病院では臨床試験に関わる人材の不足、しばしば属人的になる体制、医師、医療従事者の研究可能な時間の不足、研究費とシーズの不足、大学病院全体の疲弊など多くの問題が存在する。このような状況では決現在の臨床中核病院の要件を目指すよりも数は少なくともそれぞれの強みを生かして、質の高い臨床研究をアウトプットすることと、臨床試験を実施できる人材を養成する必要がある。シーズからの医師主導治験実施は現在の臨床研究中核病院の支援が必要であるが、診療科で重要と考える疾患の臨床試験の疫学的研究基盤としてレジストリの構築やコホート研究はデータベース解析では得られない情報が収集され、将来臨床試験で解決すべきQuestionが明らかになる。試験開始後の症例集積にも有利である。しかし実際これらを解析し、解釈すること、そこから臨床試験を組み立て、実施するには相応のトレーニングが必要であり、人材育成プログラムをOJTまたは大学院で実装する必要がある。またこのような形で行われるのはどちらかといえば開発型の研究よりも特定臨床研究としてのpragmatic trialであり、これの実施に関するノウハウを集積することは非拠点のミッションとも言える。本シンポジウムでは琉球大学病院、大学院医学研究科の取り組みを紹介する。</p>
著者
池原 由美
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-S20-3, 2021

<p>多くの研究者から「どんどん規制が複雑になって研究がやりにくくなっている」との声を耳にする。国内の臨床研究に関する規制は、臨床研究全体を対象としたものからは始まっておらず、遺伝子組み換え技術等新たな技術がもたらす生命倫理・安全性等の問題に対応するために整備された1994年の遺伝子治療臨床研究に関する指針に始まる。疫学研究に関する倫理指針が制定されたのはそれから9年後の2002年、臨床研究に関する倫理指針が制定されたのは10年後の2003年であった。臨床研究全体を包括する規制の制定が後になったのは、憲法23条が保証する学問の自由によるところが大きく、学問の自由を確保されている研究者は、一方で専門職としての自主規制・行動規範の遵守が求められる。米国の研究公正局は、研究公正をResearch integrity may be defined as active adherence to the ethical principles and professional standards essential for the responsible practice of research.と定義している。日本は前述のように、新たな技術から生命倫理・安全性等の問題に対応するために規制が始まったことから、臨床研究の規制においては倫理の問題であるという研究者の認識が強いのではないだろうか。研究公正は、倫理教育や研究不正の防止教育だけでは十分ではないと考える。なぜなら研究不正と研究過失(honest error)は異なるが、現象としては同一の場合があり、これらの判別は故意によるものか、悪意のない誤りなのかに基づく。しかし、多くの場合にはその判別は困難である。現象が同じである以上、研究不正を重視した狭義の研究公正のみならず、研究成果の信頼性を損なう行為をいかに排除した試験を実施するか、広義の研究公正教育が重要となのではないだろうか。実際のモニタリングや監査の現場で確認されたエラーから、研究公正の現状を共有したい。</p>
著者
東恩納 美樹
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-S20-4, 2021

<p>看護研究は、大学等の研究機関に所属する研究者だけではなく、臨床看護師によっても活発に行われている。看護師の教育背景は、専門学校卒または大学卒がほとんどで、修士・博士課程修了者は少数である。このように多様な教育的背景を持つ看護師の公正な研究活動を支援するため、看護の職能団体である日本看護協会は「看護研究における倫理指針」(2004年)を策定し、一般社団法人日本看護系学会協議会は、「論文投稿ハンドブック」(2021年3月)を作成するなどしている。</p><p>本シンポジウムでは、第52回(2021年度)日本看護学会学術集会にて発表した看護研究論文上の研究公正に関する記載の分析結果(演題名:看護師が主導する研究における研究公正の現状)および一般社団法人日本看護系学会協議会が公表している「学会誌編集における倫理上の課題に関するアンケート報告書」(2021年5月31日)等を基に、看護師の研究公正に関する意識について考察し、看護師を対象とする効果的な研究公正の学習方法について検討する。</p>
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-S23-4, 2021

<p>臨床試験の目的は診療を良い方向に変えることであり、それは開発型の臨床試験においても同様である。診療は常に疑問に溢れており臨床試験でしか解決しない問題も多い。しかし特に臨床研究法以降臨床的な問題を解決しようとする現実的な医師主導臨床研究(pragmatic trial)は活発に行われているとは言い難く新薬の開発の影で多くの問題は積み残しの状態であると言える。近年はむしろデータベース解析などを用いて臨床試験を避けて因果関係を推定しようとする研究も多いが、例えば診療におけるある介入の有効性は観察研究ではなかなか評価は難しいし、ましてやヒストリカルコントロールでは比較そのものがfairで無くなる。しかしpragmatic trialには症例集積など多くの乗り越えならなければならないハードルがあり、訳のわからない複合エンドポイントで実施に漕ぎ着けたとしても疑問への答えになってなければ意味がない。そこで本講演では研究計画、研究実施体制から品質管理まで薬剤開発型の研究のコピーではなくあくまでpragmatic trialとしての理想的なデザインや実施体制の構築、患者レジストリを基盤とした試験計画(RCT on Registry)、ゲノム情報などを利用したより有効性が推定される患者(サブグループ)での試験の提案、英国などでおこなわているより患者の負担を減らすRemote Decentralised Clinical Trialについて議論したい。</p>
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-S11-2, 2021

<p>重要なClinical Questionを解決し診療を適切な方向へ変えていくことには臨床試験による評価が必須であるが、このような「Practiceを変える」臨床試験をconductできる人材は限られている。臨床研究全体で見ればデータベース解析や疫学研究などを学ぶSchool of Public Healthなどの大学院、或いは統計家を育成するコースは増えているものの、Clinical Trialist育成を主眼に置くカリキュラムはほぼない。これまで日本臨床薬理学会では臨床試験実施推進のためCRC認定事業や臨床薬理専門医、、臨床薬理専門薬剤師の認定を行ってきたが、さらにアカデミアで医師主導治験、先進医療Bを含む特定臨床研究をPIとして実施できるClinical Trialistおよび計画段階から支援できる臨床研究専門職の育成を学会のミッションとして開始する。 本学会ならではの研究計画作成に必要な臨床薬理学、および臨床疫学、規制、研究倫理についての高度な教育プログラムの作成と個々の育成対象者に合わせた提供、会員、育成対象者の研究施設における研究計画作成からプロジェクトマネジメントに至るまでのOJTへの参画を軸とし、臨床研究についてのカリキュラムを有する大学院や他の学会とも必要に応じて連携する予定である。</p>