著者
久保田 潔 小出 大介 古閑 晃 景山 茂 植田 真一郎 木村 通男 豊田 建 大橋 靖雄 大津 洋 青木 事成 小宮山 靖 庄本 幸司 平河 威 篠田 英範 佐藤 嗣道
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.65-71, 2013-08-31 (Released:2013-10-08)
参考文献数
11

Standardized Structured Medical record Information eXchange(SS-MIX)は 2006 年に厚生労働省標準的医療情報交換推進事業として開始されたプロジェクトである.病院情報システムから HL7 形式で出力される処方,臨床検査の結果,診断,患者情報のデータを受信・蓄積するためのソフトウエアは無償で提供されている.我々は SS-MIX 標準ストレージの市販後調査や臨床研究への利用を推奨する.提言は以下の 7 つから構成される. [1]調査や臨床研究において,SS-MIX 標準ストレージの薬や臨床検査の結果に関する情報は電子的調査票に直接取り込むことができ,研究者は高い精度と粒度の情報を得ることができる. [2]SS-MIX 標準ストレージは地震や突然のネットワーク障害などの災害時において診療に必須の最低限の情報を提供することができ,医療情報の喪失を最小限にとどめるためのツールとして機能しうる.[3]SS-MIX 標準ストレージは,ストレージ内の情報の効率的取得とともに,ある薬を特定期間非使用後に開始した “new users” の特定を可能とし,良質の薬剤疫学研究を実施するために利用することができる.“new users” デザインはバイアスのない結果を得るためにはしばしば必須である. [4]製薬企業が規制にしたがって市販後の調査を実施する際に,SS-MIX 標準ストレージはデータの迅速で効率的な収集を促し,時宜にかなったリスク最小化のための方策を講ずることを可能とする.また,SS-MIX 標準ストレージによって,複数のタイプの研究デザインの利用やデータの質の向上が期待される. [5]SS-MIX 標準ストレージは,リスク最小化計画実施前後の処方パターンや問題となる有害事象の発生を比較することによるリスク最小化計画の評価にも利用可能である. [6]臨床試験の計画にあたって,SS-MIX 標準ストレージは適格患者数の推定に用いることができる.疾患や薬物治療の特徴を知るための断面研究に用いることもできる.さらに,冠動脈造影を実施した患者,薬の新規使用者や稀少疾患患者のコホート特定が可能である.そのようなコホートを用いて,コホート内の症例対照研究,ファーマコゲノミックス研究,治療法の有効性/有用性を比較する研究が可能になる. [7]SS-MIX 標準ストレージは,将来いくつかの条件が満たされれば臨床研究における正規のデータソースとして利用することができる.たとえば,標準化したデータ構造規格(例:Clinical Data Interchange Standards Consortium(CDISC))の利活用,およびコンピュータ化システムバリデーション(Computerized System Validation,CSV)に関する取扱いについて,産官学での合意形成ができること,である.
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.94-100, 2007 (Released:2009-12-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

降圧利尿薬は特にレニン―アンジオテンシン系抑制薬との併用による降圧作用の増強はあきらかで,厳格な降圧にはむしろ必須であり,多くの心血管イベントを抑制するというエビデンスがあり,副作用も適切な用量と併用薬により避けられる可能性が高い.現在安全性に関する臨床試験が進行中であるが,糖尿病合併高血圧患者などでも臨床試験を実施し,心血管リスクを減少させるための適切な使用を推進していく必要がある.
著者
金城 衣良 脇田 夏鈴 植田 真一郎 松下(武藤) 明子
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-P-V-1, 2021

<p>【目的】現在世界中で感染拡大しているCOVID-19は呼吸器症状のみならず、血栓症を合併し臓器障害を引き起こす.血栓の形成には様々な要因が存在するが、COVID-19での血栓の原因の一つに、活性化した白血球が細胞外に自身のDNAを放出する細胞外トラップ生成がある.我々は過剰な細胞外トラップ生成の抑制が、血栓による臓器不全を防止できると考え、白血球活性化を抑制するコルヒチンの白血球細胞外トラップ生成に対する効果を検討した.</p><p>【方法】単球系細胞株THP-1をホルボールエステルによりマクロファージ様細胞(Diff.THP-1)に、またはリンパ球様細胞株HL-60をDMSOで好中球様細胞(Diff.HL-60)に分化させたものを使用した.刺激としてTLR9リガンド作用を有するウイルス由来DNAモチーフ、LPSまたはTNFαを用い、刺激4時間での核酸染色試薬Sytox Greenの蛍光により細胞外トラップ生成を、刺激1時間でのwestern blottingによりNFκB p65リン酸化とIκB-α発現をみることで細胞内炎症シグナルを、コルヒチン前処置(1x10<sup>-8</sup>M, 1x10<sup>-6</sup>M)の有無で評価した.</p><p>【結果】Diff.THP-1においてコルヒチン1x10<sup>-8</sup>M前処置はTLR9リガンド、TNFa刺激による細胞外トラップ生成を抑制する傾向がみられ、TLR9リガンド、LPS刺激による炎症シグナル亢進を抑制した.Diff.HL-60においてTLR9リガンド刺激で同様の結果だった.また、コルヒチン1x10<sup>-6</sup>M前処置にはこれらの抑制効果がなかった.</p><p>【結論】コルヒチンは適切な濃度でNFκB経路活性化および細胞外トラップ生成を抑制する.これはCOVID-19の血栓形成による重症化予防にコルヒチンが有効であることを示唆する.</p>
著者
脇田 夏鈴 金城 衣良 植田 真一郎 松下(武藤) 明子
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-P-V-5, 2021

<p>【目的】COVID-19が世界的規模で蔓延している現在、その治療薬や重症化予防法の開発は喫緊の課題である.コロナウイルスを含む病原体の多くはエンドサイトーシス(Edcs)で細胞内に侵入し、感染・増殖する.ヒトコロナウイルスはカベオラEdcsで取り込まれることが報告されているが、COVID-19原因ウイルスSARS-CoV-2に関しての知見は少ない.我々はSARS-CoV-2の細胞内侵入経路と、それに対する微小管阻害薬コルヒチン(Col)の効果について細胞を用い検討したので報告する.</p><p>【方法】ヒト単球系細胞株THP-1をマクロファージ様細胞に分化したものをガラス上に播種し、Col (1x10<sup>-8</sup>M, 1x10<sup>-6</sup>M)または溶媒を一晩処置し、カベオラEdcsを生じるコレラトキシンb (CTb)、またはリコンビナントSARS-CoV-2スパイクエンベロープ(Cv2SE)を1時間暴露後固定し、caveolin-1(cav1)またはゴルジ体マーカー(GM130 or Golgin97)と免疫染色し共焦点顕微鏡にて観察した.</p><p>【結果】[CTb 暴露] 溶媒処置では細胞内でcav1および ゴルジと共局在していたことからカベオラEncsを確認した.Col 1x10<sup>-8</sup>M処置は細胞膜上cav1発現部位にCTbは共局在しゴルジとは重ならずEdcs減少を認めた.Col 1x10<sup>-6</sup>M処置もCTbは主に細胞膜上に分布しcav1と共局在したが、ゴルジの細胞内局在が細胞内全体に分散し劇的に変化しており、高濃度Col処置では様々な細胞内シグナル経路の崩壊が起きていることが示唆された.[Cv2SE 暴露] 溶媒処置でゴルジと共局在を認めEdcsを確認した.Col1x10<sup>-8</sup>M処置は共局在が減少しておりEdcsが抑制されていた.ただしcav1とは局在せず、カベオラ以外でのEdcsが示唆された.</p><p>【結論】 SARS-CoV-2は非カベオラ経由Edcsで細胞内に侵入し、臨床用量ColのEdcs減少作用はCOVID-19感染抑制を期待できる.</p>
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-SPS-3, 2021

<p>非拠点の大学病院では臨床試験に関わる人材の不足、しばしば属人的になる体制、医師、医療従事者の研究可能な時間の不足、研究費とシーズの不足、大学病院全体の疲弊など多くの問題が存在する。このような状況では決現在の臨床中核病院の要件を目指すよりも数は少なくともそれぞれの強みを生かして、質の高い臨床研究をアウトプットすることと、臨床試験を実施できる人材を養成する必要がある。シーズからの医師主導治験実施は現在の臨床研究中核病院の支援が必要であるが、診療科で重要と考える疾患の臨床試験の疫学的研究基盤としてレジストリの構築やコホート研究はデータベース解析では得られない情報が収集され、将来臨床試験で解決すべきQuestionが明らかになる。試験開始後の症例集積にも有利である。しかし実際これらを解析し、解釈すること、そこから臨床試験を組み立て、実施するには相応のトレーニングが必要であり、人材育成プログラムをOJTまたは大学院で実装する必要がある。またこのような形で行われるのはどちらかといえば開発型の研究よりも特定臨床研究としてのpragmatic trialであり、これの実施に関するノウハウを集積することは非拠点のミッションとも言える。本シンポジウムでは琉球大学病院、大学院医学研究科の取り組みを紹介する。</p>
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-S23-4, 2021

<p>臨床試験の目的は診療を良い方向に変えることであり、それは開発型の臨床試験においても同様である。診療は常に疑問に溢れており臨床試験でしか解決しない問題も多い。しかし特に臨床研究法以降臨床的な問題を解決しようとする現実的な医師主導臨床研究(pragmatic trial)は活発に行われているとは言い難く新薬の開発の影で多くの問題は積み残しの状態であると言える。近年はむしろデータベース解析などを用いて臨床試験を避けて因果関係を推定しようとする研究も多いが、例えば診療におけるある介入の有効性は観察研究ではなかなか評価は難しいし、ましてやヒストリカルコントロールでは比較そのものがfairで無くなる。しかしpragmatic trialには症例集積など多くの乗り越えならなければならないハードルがあり、訳のわからない複合エンドポイントで実施に漕ぎ着けたとしても疑問への答えになってなければ意味がない。そこで本講演では研究計画、研究実施体制から品質管理まで薬剤開発型の研究のコピーではなくあくまでpragmatic trialとしての理想的なデザインや実施体制の構築、患者レジストリを基盤とした試験計画(RCT on Registry)、ゲノム情報などを利用したより有効性が推定される患者(サブグループ)での試験の提案、英国などでおこなわているより患者の負担を減らすRemote Decentralised Clinical Trialについて議論したい。</p>
著者
植田 真一郎
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-S11-2, 2021

<p>重要なClinical Questionを解決し診療を適切な方向へ変えていくことには臨床試験による評価が必須であるが、このような「Practiceを変える」臨床試験をconductできる人材は限られている。臨床研究全体で見ればデータベース解析や疫学研究などを学ぶSchool of Public Healthなどの大学院、或いは統計家を育成するコースは増えているものの、Clinical Trialist育成を主眼に置くカリキュラムはほぼない。これまで日本臨床薬理学会では臨床試験実施推進のためCRC認定事業や臨床薬理専門医、、臨床薬理専門薬剤師の認定を行ってきたが、さらにアカデミアで医師主導治験、先進医療Bを含む特定臨床研究をPIとして実施できるClinical Trialistおよび計画段階から支援できる臨床研究専門職の育成を学会のミッションとして開始する。 本学会ならではの研究計画作成に必要な臨床薬理学、および臨床疫学、規制、研究倫理についての高度な教育プログラムの作成と個々の育成対象者に合わせた提供、会員、育成対象者の研究施設における研究計画作成からプロジェクトマネジメントに至るまでのOJTへの参画を軸とし、臨床研究についてのカリキュラムを有する大学院や他の学会とも必要に応じて連携する予定である。</p>
著者
溝井 令一 植田 真一郎 田中 耕一郎 千葉 浩輝 奈良 和彦 山元 敏正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-7, 2019 (Released:2019-08-26)
参考文献数
34

神経変性疾患の連続74例について気血水スコアを用い気虚,気鬱,気逆,血虚,瘀血,水滞の有無(証の病態6項目)を評価し,同年代のその他神経疾患の連続149例を比較対照として比較検討した。年齢,性別,重症度も共変量とした多変量解析の結果,神経変性疾患ではその他の神経疾患と比較して血虚,水滞,気鬱の順で関連性が高く,調整済みオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ3.02(1.43-6.48),2.37(1.13-5.11),2.33(1.01-5.44)だった。神経変性疾患と最も関連性が高い証は血虚であった。四物湯類(四物湯加減)の処方を考慮することは,患者の苦痛軽減に寄与できる可能性がある。自覚症状に加え脈候,舌候,腹候など東洋医学的な尺度を用いた治療効果の判定が必要である。
著者
溝井 令一 植田 真一郎 田中 耕一郎 千葉 浩輝 奈良 和彦 山元 敏正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-7, 2019

<p>神経変性疾患の連続74例について気血水スコアを用い気虚,気鬱,気逆,血虚,瘀血,水滞の有無(証の病態6項目)を評価し,同年代のその他神経疾患の連続149例を比較対照として比較検討した。年齢,性別,重症度も共変量とした多変量解析の結果,神経変性疾患ではその他の神経疾患と比較して血虚,水滞,気鬱の順で関連性が高く,調整済みオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ3.02(1.43-6.48),2.37(1.13-5.11),2.33(1.01-5.44)だった。神経変性疾患と最も関連性が高い証は血虚であった。四物湯類(四物湯加減)の処方を考慮することは,患者の苦痛軽減に寄与できる可能性がある。自覚症状に加え脈候,舌候,腹候など東洋医学的な尺度を用いた治療効果の判定が必要である。</p>
著者
潮平 英郎 仲松 正司 喜瀬 勇也 比嘉 太 健山 正男 外間 惟夫 国吉 幸男 植田 真一郎 中村 克徳 藤田 次郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.136, no.9, pp.1313-1317, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

Teicoplanin, a glycopeptide antibiotic for methicillin-resistant Staphylococcus aureus, is recommended for therapeutic drug monitoring during treatment. Maintaining a high trough range of teicoplanin is also recommended for severe infectious disease. However, the optimal dose and interval of treatment for severe renal impairment is unknown. We report a 79-year-old man who received long-term teicoplanin treatment for methicillin-resistant Staphylococcus aureus bacteremia due to postoperative sternal osteomyelitis with renal impairment. Plasma teicoplanin trough levels were maintained at a high range (20-30 μg/mL). Although the patient required long-term teicoplanin treatment, a further decline in renal function was not observed, and blood culture remained negative after the start of treatment. Teicoplanin treatment that is maintained at a high trough level by therapeutic drug monitoring might be beneficial for severe methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection accompanied by renal impairment.