著者
高田 三枝子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.48-62, 2008-10-01 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究では日本語の語頭の有声閉鎖音/b,d,g/のVOT(Voice Onset Time)について,全国的に収集された音声資料を分析し,この音響的特徴の全国的な地理的,世代的分布パタンを明らかにするものである。分析の結果,祖父母世代の地理的分布から,北関東を移行地帯として間に挟み,大きく東北と関東以西という東西対立型の分布が見られることを指摘し,さらに関東以西の地域では近畿を中心とした周圏分布が見られることを提案した。すなわち古くは,東北は語頭有声閉鎖音のVOTがプラスの値となる音声すなわち半有声音として発音される地域,関東以西は逆にVOTがマイナスの値となる音声すなわち完全有声音として発音される地域として明確な地域差があったといえる。しかし同時に,世代的分布からこの地理的分布パタンが現在消えつつあることも指摘した。完全有声音が発音されていた地域では,現在全域的にVOTがより大きい値(プラス寄り)の音声に変わりつつあると言える。すなわち日本語の語頭有声閉鎖音は全国的に半有声音に統一される方向の音声変化の過程にあると考えられる。
著者
中俣 尚己
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.1-17, 2017-10-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

この論文では、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用い、接続助詞の前接語品詞の偏りを調査した。結果、B類接続助詞は前接語の動詞の割合が90%前後と高く、C類接続助詞は前接語の動詞の割合が60%前後と低いことがわかった。動詞の中をさらに詳しく調べると、B類の節では「いる」「ある」「見える」「違う」「テイル形」「ナイ形」といった状態を表す表現の割合がC類より少ないこともわかった。このような偏りが起こる原因としては、本研究でB類と分類した節は全て時制の区別を持たず、そのため既定的な命題は出現しえないからだと考えられる。また、「わけ」「はず」などの名詞由来の文末表現の前接語の動詞率はB類と等しく、「かもしれない」「だろう」「よ」などの名詞由来ではない文末表現の前接語の動詞率はC類と等しかった。
著者
大堀 壽夫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.1-17, 2005-07-01 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

文法化の典型例を「自立性をもった語彙項目が付属語となって、文法機能をになうようになるケース」すなわち脱語彙化と規定し、その基準として、意味の抽象性、範列の成立、標示の義務性、形態素の拘束性、文法内での相互作用を挙げる。そして拡大したケースとして、元々自立形式でなくても、使用範囲が広がって機能の多様化が起きる多機能性の発達、および特定の語形に限定されない構文の発達を検討する。とりわけ後者においては、談話機能が重要な役割を果たす。文法化の道筋は多くの言語において共通性が見られる。その動機づけとして、具体的領域から抽象的領域への概念拡張としてのメタファー、および同一領域における焦点化のシフトとしてのメトニミーという二つのメカニズムを考察する。加えて、意味変化における一般的制約についてふれる。
著者
多門 靖容
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.1-17, 2018-04-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
17

古代和歌に、連体歌、序歌、倒置歌の三つの世界を構成し、それぞれの世界の課題と三つの世界の関与を論じた。まず連体歌による事態の時空間飛躍を考察し、萬葉では時空間が飛躍しない歌が多いが、飛躍がある場合の、或るケースに関する「浅田予想」が妥当であることを論じた。また飛躍がある場合の、飛躍の偏りも指摘した。次に序歌について、従来、序歌の典型とされてきたものをAタイプとし、この他にBおよびCタイプがあることを述べ、3タイプを類別する必要を論じた。倒置歌については述部用言の特徴に触れた。三つの世界の繋がりを述べれば、連体歌は本論で提案する序歌Aタイプと類似し、Aタイプは倒置歌と強く関与している。以上の考察はすべて歌の時系展開に沿った享受を前提に意味を持つ。
著者
毛利 正守
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-15, 2011-01-01 (Released:2017-07-28)

筆者は,これまでに字余りをいくつかの視点から眺めてきたが,本稿では,脱落現象という観点を導入して字余りを生じる萬葉集のA群とB群の違いを追究した。その際,唱詠の問題が関わるかも知れない和歌の脱落現象は除外し,あくまで散文等の脱落現象をとり挙げ,それと字余りとを比較するといった立場をとっている。A群もB群も唱詠されたものとみられるが,B群は,散文の脱落現象と同じ形態または近似した形態のみが字余りとなっており,A群は,基本的に脱落現象とは拘わらずいかなる形態も字余りをきたしている。散文における脱落現象というものは,日常言語に基づいた音韻現象の一つである。これらを総合的にとらえて,B群の字余りは,音韻現象の一つであると把握し,A群の字余りは,日常言語のあり方とは離れた一つの型として存する唱詠法によって生まれた現象であると位置づけた。
著者
中本 謙
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.1-14, 2011-10-01 (Released:2017-07-28)

琉球方言のハ行子音p音は,日本語の文献時代以前に遡る古い音であるとの見方がほぽ一般化されている。このp音についてΦ>pによって新たに生じた可能性があるということを現代琉球方言の資料を用いて明らかにする。基本的に五母音の三母音化という母音の体系的推移に伴って,摩擦音Φが北琉球方言ではp,p^?へと変化し,南琉球方言では,p,fへと変化して現在の姿が形成されたと考える。従来の研究に従い,五母音時代を起点にするのであれば,ハ行子音においても起点としてΦを設定しても問題はないと考える。そして,この体系的変化と連動してワ行子音においてもw>b,の変化が起こったとみる。また,ハ行転呼音化現象や語の移入時期という側面からもp音の新しさについて考察する。内的変化としてΦ>pが起こり得る傍証としてkw>Φ>pの変化傾向がみられる語も示した。