著者
小林 徹也
出版者
物性研究・電子版 編集委員会
雑誌
物性研究・電子版
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, 2017-11

第61回物性若手夏の学校 集中ゼミ一般の物理系と異なり、細胞や個体などの生物集団は、自己の状態を変異させ、また自身の複製を生成することで増殖をすることができる。この変異と増殖のダイナミクスは生命進化を司る基本過程であり、その理解は非生物系と生物系の共通構造および本質的な差異を解明するためにも必須である。また、生物系は積極的に環境の情報を内部に取り込みそれを処理することにより、集団としての適応度(増殖率)を制御することができる。適応度と情報の関係を理解することは、我々の脳のような高度な情報処理機構が進化の過程でどのように選択されてきたのかを明らかにするためにも重要である。この問題に関し、本発表では増殖過程の有する数理構造に着目する。具体的には、増殖ダイナミクスの経路積分表現とそれに伴う遡及的表現を導入することにより、増殖過程に内在する統計物理的構造を明らかにする。この構造を用いることにより、確率熱力学と同様に、増殖集団の適応度などのマクロな諸量に成り立つゆらぎ関係を示す。また、この表現を活用することで、適応度と情報に成り立つ交換関係を、統一的に明らかにする。これらの生物学的な意義を議論するとともに、進化の問題への他の物理的アプローチの可能性についても言及をする。
著者
沙川 貴大
出版者
物性研究・電子版 編集委員会
雑誌
物性研究・電子版
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-16, 2015-02

情報理論と熱力学を融合した理論, 情報熱力学について入門的な解説を行う. とくに, 測定やフィードバックなどの情報処理過程への, 熱力学第二法則や非平衡関係式の一般化について議論する. また, 情報熱力学の一つの帰結として, いわゆるマクスウェルのデーモンのパラドックスがどう解決されるかも議論する
著者
佐々 真一
出版者
物性研究・電子版 編集委員会
雑誌
物性研究・電子版
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-24, 2015-02

自然現象の背後にある単純な法則を見出し体系化するのが物理学である。現在、その体系は相当整備されているように見える。例えば、舞い落ちる銀杏の葉っぱを見てみよう。複雑によろめいているが、流体力学の方程式と境界条件で記述されるのは多分間違いない。あるいは、原子分子の世界でシュレーデンガー方程式の記述、いやいや、クォークの世界でゲージ場による記述…などもきっと正しい。現象の背後にある法則を求める場合、どこまで後ろにまわるのも自由であり、自分が好きなところで法則を書けばよい。こうしてできあがってきた基本法則群を眺めると、フロンティアは常にあるものの、物理学の牙城は万全なように見える。ところで、ある現象に対して、どの基本法則に拠っていいとしても、それらは同じ現象を記述しているはずである。その事実は説明できるのだろうか? そもそも、基本法則と基本法則を結びつける法則はどうなっているのか? 明日の研究にすぐに役立つわけではないが、普段考えないようなことをゆっくり学ぶ機会にしたい。
著者
出口 哲生
出版者
物性研究・電子版 編集委員会
雑誌
物性研究・電子版
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-34, 2015-02

最近、孤立した量子多体系の非平衡ダイナミクスが活発に研究されている。特に、外部変数を急変化させた後の量子系の時間発展を、量子クエンチ (quantumquench) とよぶ。70年代に McCoy 達により可解系で量子クエンチが議論されたが、最近冷却原子系の実験等に刺激され、再び注目されている。孤立量子系のダイナミクスは、量子統計力学の基礎の視点からも興味深い。量子多体系の純粋状態を任意に与えると、ほとんどの場合、その状態に関する物理量の期待値は、平衡値に非常に近い値に近づくことが、最近再発見された。量子状態の典型性 (typicality) の視点である。さらに、与えられた純粋状態のユニタリな時間発展の中で、局所演算子の期待値は平衡状態のアンサンブル平均値に収束する、と予想されている。このときエントロピーは全く変化しないが、しかし、緩和のような振る舞いが見られる。3日間の講義では最初に、可積分量子系の例を紹介し、デルタ関数型ポテンシャルで相互作用する1次元ボース気体に対してベーテ仮設の方法を説明する。次に、ホール励起など典型的な素励起を詳しく解説する。さらに、低励起スペクトルでの系の振る舞いと CFT との対応の概略をスケッチする。量子多体問題の様々な手法が可積分量子系で具体的に実現される点が教育的であると思われる。さらに、代数的べ一テ仮設を説明し、スラブノブ公式など演算子の期待値や形状因子を求めるに役立つ定理を解説する。そして、1次元ボース気体やXXX鎖等での最近の結果を紹介する。
出版者
物性研究・電子版 編集委員会
雑誌
物性研究・電子版
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.[1], 2012-11

開催日時:2012年3月28日-3月30日. 開催場所:関西セミナーハウス(京都修学院).