著者
田中 伸
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.1-12, 2015-11-30 (Released:2017-06-30)

成熟社会を迎えた現代,社会はさらに複雑化し,日常の現象を一つの見方・考え方で捉えることは困難になりつつある。本論文は現代社会の理解,及びそこで主体的に生きる市民性育成の方略として,コミュニケーション理論に基づく社会科教育論の理論と実際を小学校社会科授業とともに示すものである。コミュニケーション理論に基づく社会科は,子どもたちを理想とする社会へコミットすることを強制する教育論ではなく,現実社会を受け入れ,その社会と折り合いをつけながらしなやかに生きるスキルを身につけることを目標とした教育論である。教育内容は,社会的に構築・承認された社会現象が現実に機能・運用されている実態,及びそれと自身との関係,教育方法は,その運用過程の理解・分析・解釈である。上記の理論を具体化する方略として,本稿では漫画メデイア"ONE PIECE"を用いて自由思想の多様性を分析する学習をデザインした。授業は以下4つの手続きをとる。第1は自己意識の明確化,第2は思想(フレームワーク)の多様化(社会認識の多義性,及びその可変性の認識),第3は複数のフレームワークの折衝,第4は社会における自由思想の相克と受容過程の理解と分析である。この4段階の学習を通して,社会を客観的に捉える授業ではなく,自らを社会の内部に位置付け,社会と折り合いをつける力を育成する社会科授業を開発・実践し,子どもの認識変容を踏まえた実践結果とともに示した。
著者
田本 正一
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.25-36, 2017-03-31 (Released:2019-03-28)

本研究は,知識や技能は個人の内面を超えて形成されるという立場をとる。個人の内面を超えて知識や技能を捉えていくことができれば,他者や学習資源などの外部に目を向けていくことが可能となる。 そうすることで,市民社会への参加の程度を把握していく学習評価を開発することを目的とする。 目的を達成するために,本研究では以下のことについて論じている。第1に,市民社会への参加としての学習評価の原理を明らかにすることである。正統的周辺参加に依拠すると学習は共同体への参加となる。さらに,参加は市民社会において意味や価値を有するように設計する必要がある。 第2は,特定の小学校社会科学習において,ある1人の学習者が形成した知識や思考に関するナラティヴを取り上げ,市民社会への参加の程度を把握していくことである。そのことで,学習者が市民へと変容していることを明らかとしている。 第3は,市民社会への参加に注目した学習評価の原理を明らかにすることである。その原理とは,教師以外の第三者による評価である。そのことで,市民社会において意味や価値を有する社会科学習としていくのである。 第4は, 市民社会への参加に注目した学習評価の意義について確認することである。すなわち, 教師以外の第三者評価を取り入れることで,市民として変容する契機として学習評価を位置づけたことである。 以上のことにより,市民社会への参加の程度を把握する社会科学習評価の意義とその実際を示すことができた。
著者
金 鍾成
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.49-60, 2016-03-31 (Released:2018-05-25)

相互理解は,自己と他者の視点が交わること,すなわち対話を通して互いに理解し合うことを意味する。 自己と他者の相互理解を目指す国際理解教育において,対話は重要な意味を持つ。この観点から韓国を対象とする日本における国際理解教育の取り組みを分析すると「実際の対話が存在しない」という課題が見えてくる。「他者の視点」を認識する必要性は主張されていても,その理解は自己内で完結してしまい,実際の対話までは至っていない。 そこで本研究は,日韓両国における「真正な対話」が生まれる単元を開発・実践し,その効果を検証するアクション・リサーチを行う。日韓の子どもは,日本の小学校6年生の社会科教科書のなかで韓国を扱っている部分を素材とし,「より良い教科書づくり」実践に取り組む。韓国の子どもは,その教科書の内容を「知る」,そのなかの日本という「他者の視点」を「認識」,「分析・批判」し,韓国の意見を日本の子どもに「提案する」。日本の子どもも同じ過程を繰り返すことで提案された教科書に対する意見を韓国の子どもに逆提案する。また,より良い教科書にするために韓国の子どもは日本の意見に対する自分らの意見を日本の子どもに再提案する。 授業後,日韓の子どもは他者を対話の相手として捉え直し,互いに対する否定的な理解を減らす傾向をみせた。相手に対する開かれた姿勢を持つようになり,これからの日韓関係をより良くしていきたいという意思にもつながった。本研究は,「対話型」国際理解教育の可能性を示すとともに,対話の媒体としての教科書の新たな価値,また,国家間の対話ではなく子ども同士の対話である「私たちの」国際理解教育に示唆してくれる。
著者
David Lambert
出版者
Japanese Educational Research Association for the Social Studies
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.1-11, 2014-11-30 (Released:2017-07-01)

This paper argues that curriculum thinking in education has been enormously influential on selecting what is taught and learned in geography classrooms. Although this may appear to be self-evident, we are reminded that in the UK at least the idea of curriculum only really emerged in geography educational thought in the last quarter of the twentieth century. During this time curriculum thinking in schools has managed to cement the importance of 'aims'. This paper argues that although beneficial in many ways, aims-led curriculum planning and development has arguably been somewhat careless with knowledge, and has even undermined the place of knowledge in the classroom. The paper argues for a re-emphasis on knowledge-led curriculum making, as one of the cornerstones of genuine progressive educational practice. It introduces the possibility of a capabilities approach as a heuristic to connect and reconcile aims-led and knowledge-led curriculum thought and action.