著者
原田 智仁
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.1-12, 2013-03-31 (Released:2017-07-01)

本研究の目的は,内外の歴史教育で課題とされる大観学習の方法と実践的課題を考察することである。そのための方法として,日本の中学校歴史的分野と英国のKS3の歴史を大観する学習の事例研究を行い,それを手がかりに単元構成のレベルで大観学習の原理と方法を明らかにすることにした。カリキュラム上の位置づけについては日本の学習指導要領と英国のナショナルカリキュラムを,内容構成についてはそれぞれの国の代表的な歴史教科書を,学習展開については分析対象とした歴史教科書に基づく学習事例をそれぞれ分析した。分析の結果,日本の大観学習の特色は時代の要約ないし概括にあり,英国の大観学習の特色は時代を超えた歴史の見方やテーマの理解にあることが判明した。それを踏まえて,歴史を大観する学習のための単元構成の要件を次の4つに整理した。a)歴史の大観を時代の要約・概括に留めず,歴史の見方や考え方へと拡大して捉える。b)大観の時間的枠組みは既成の時代区分に囚われず自由に設定する。大観すべき内容こそが単元をなす。c)大観学習の要点は歴史の大観につながる問いの設定にある。d)大観のための基本的学習過程は,(1)最初の大観的活動と課題意識,(2)問いの発見と仮説形成,(3)大観と関連させた探究,(4)結論を導く作業,となる。以上の要件を踏まえて,「中世の幕開け」と題する単元モデルを開発した。
著者
村井 大介
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
no.81, pp.27-38, 2014-11-30

本研究の目的は,ライフストーリーの聴き取りを通して,地理歴史科を担当する教師の歴史教育観(歴史を教える際の教育観)の特徴とその形成要因を明らかにすることである。本研究では,5名の教師のライフストーリーの事例を分析し,他の教師も参照し得る点として以下のことを明らかにした。第一に,各教師の歴史教育観の特徴をかたちづくる基盤には,(1)社会科教育としての一貫性を重視するか否か,(2)歴史教育観を授業に如何に反映させるか,(3)生徒や社会への働きかけをどこまで意識するか,という3つのことがあることを明らかにした。第二に,歴史教育観の形成要因となる重要な選択肢として,(1)出会った生徒たちの状況に応える歴史教育観を形成しようとするか否か,(2)現在の社会事象を意識した歴史教育観を形成しようとするか否か,(3)修得してきた学問の知見を活かした歴史教育観を形成しようとするか否か,(4)自発的に研究会に参加して知見を得るか,(5)学習指導要領の改訂をどのように捉えるか,という5つのことがあることを明らかにした。
著者
中村 洋樹
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
no.79, pp.49-60, 2013-11-30

本稿の目的は,歴史学習の論理を「歴史実践(Doing History)としての歴史学習」と規定し,その論理と意義を考察することにある。本稿では,米国の歴史教育研究者S.ワインバーグが提唱した「歴史家の様に読む」アプローチの基本的な考え方・教授方略及び授業案を考察した。当該アプローチは,歴史家の読解方略を歴史学習へ応用することを目指している。本稿では第一に,当該アプローチをみていく前提として,ディシプリナリ・リテラシーという概念に焦点を当てた。第二に,「歴史家の様に読む」アプローチを分析した。当該アプローチは,出所を明らかにすること,文脈に位置づけること,丁寧に読むこと,確証あるものにすること,という方略から成る。当該アプローチの教授方略は,学習科学研究における「足場かけ」という概念に焦点が当てられている。本稿では,出所を明らかにすることを重視した授業案と確証あるものにすることを重視した授業案を分析した。その結果,本稿では当該アプローチの意義として次の2点を指摘した。第一に,当該アプローチは,テクストの著者の意図や前提を読解することに焦点を当てている。第二に,通説を支える資料と,それとは異なる立場の資料との間の相違点や矛盾を考察することを重視している。このような形で,当該アプローチは,歴史家の様に対話する(=頭を悩ませる)過程を担保することになっている。
著者
田中 伸
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
no.83, pp.1-12, 2015-11-30

成熟社会を迎えた現代,社会はさらに複雑化し,日常の現象を一つの見方・考え方で捉えることは困難になりつつある。本論文は現代社会の理解,及びそこで主体的に生きる市民性育成の方略として,コミュニケーション理論に基づく社会科教育論の理論と実際を小学校社会科授業とともに示すものである。コミュニケーション理論に基づく社会科は,子どもたちを理想とする社会へコミットすることを強制する教育論ではなく,現実社会を受け入れ,その社会と折り合いをつけながらしなやかに生きるスキルを身につけることを目標とした教育論である。教育内容は,社会的に構築・承認された社会現象が現実に機能・運用されている実態,及びそれと自身との関係,教育方法は,その運用過程の理解・分析・解釈である。上記の理論を具体化する方略として,本稿では漫画メデイア"ONE PIECE"を用いて自由思想の多様性を分析する学習をデザインした。授業は以下4つの手続きをとる。第1は自己意識の明確化,第2は思想(フレームワーク)の多様化(社会認識の多義性,及びその可変性の認識),第3は複数のフレームワークの折衝,第4は社会における自由思想の相克と受容過程の理解と分析である。この4段階の学習を通して,社会を客観的に捉える授業ではなく,自らを社会の内部に位置付け,社会と折り合いをつける力を育成する社会科授業を開発・実践し,子どもの認識変容を踏まえた実践結果とともに示した。
著者
中村 洋樹
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.1-12, 2017-11-30 (Released:2019-03-28)

本稿の目的は,中等歴史教育において真正の学習を具現化するために,学習者は何を論述すべきか,またそれを教授するためのカリキュラムや単元をいかに構成すべきかを究明することにある。近年の歴史学習論研究においては,真正の学習を具現化するために,学習者による史料読解に焦点が当てられている。しかし真正の学習の趣旨を踏まえるならば,学習者が自らの歴史解釈を表現する論述により焦点を当てなければならない。そこで本稿では,中等歴史教育における論述の教授・学習に関する研究を進めている米国の社会科教育学者C. モンテ・サノの研究とモンテ・サノが中心となって開発した第8学年向けの合衆国史用教材集“Reading,Thinking,and Writing About History”を考察した。 その結果,真正の学習において学習者が論述すべきは歴史的議論であることを明らかにした。その上で,それを教授するためのカリキュラム構成の原理は,認知的徒弟制に基づき,①カリキュラムの前半において歴史的議論の論述方法を教授すること,②カリキュラムの後半において繰り返し自立的に歴史的議論を論述させること,から成り,単元構成の原理は,①歴史的議論を論述するための学習経験として史料読解を位置付けること,②歴史的文脈や同時代の人々の価値観・考え方を吟味した上で自らの議論を構成する過程を組織すること,③自立的に歴史的議論を論述するための学習経験として他者との対話を位置付けること,から成ることを明らかにした。
著者
新谷 和幸
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.57-68, 2014-03-31 (Released:2017-07-01)
被引用文献数
1

本稿の目的は,小学校社会科の概念探究学習として,概念の名辞(カテゴリー)に着目し,科学的概念だけでなく,常識的概念も含めて概念を探究する学習(概念カテゴリー化学習)の必要性と,その授業構成方法を明らかにすることである。小学校段階の児童にとって,概念探究学習における命題を探究する学習は,児童の発達段階や小学校社会科の目標の観点から,児童が学習する上で困難な状況があった。それを改善し得る教育内容・方法として,常識的概念も含めた概念の名辞(カテゴリー)とカテゴリー化を用いた学習方法に着目し検討した。その結果,小学校段階において,概念の名辞を認知機能のカテゴリーとして学ぶ重要性や,それを児童が科学的方法で獲得する上で,(1)類推-同定という思考活動,(2)カテゴリーの階層性を生かした包摂的カテゴリー化,(3)反証事例を用いた批判的学習過程,の必要性について明らかにした。以上,小学校社会科の概念探究学習における概念の名辞(カテゴリー)に着目して探究するという,筆者の提唱する「概念カテゴリー化学習」は,児童の発達段階に適した小学校社会科の目標に迫ることのできる科学的な学習方法論であるとともに,中等教育で命題を探究する学習を行うための基盤形成を担う有効な学習方法論でもある。
著者
豊嶌 啓司 柴田 康弘
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.1-12, 2016-11-30 (Released:2018-05-25)

本小論の目的は,社会科で育成される思考の操作を概念の活用と捉え,新たな事実判断の再構成として他者との関係構築思考を評価する問題の開発とその検証である。概念活用の思考評価では,概念的知識の活用による,他者との関係構築思考が重要である。そのための評価枠組みとして「学習者中心のデザイン」(LCD)の援用が有効であることを,指導と評価を通して実証的に明らかにした。成果は以下の3点である。1点目は,従前の社会科では活用としての思考評価は不十分であることを指摘した。2点目は,再文脈化つまり概念的知識の活用による社会科固有の関係構築思考についての評価問題を作成するための,具体的な11個の「足場かけ方略」及び問作スキルを明らかにした。3点目は,これらをもとに開発した評価問題を中学校社会科で実施し,その成果を検証した。その結果,我々が提案する「足場かけ方略」は,生徒が解答しつつ「新たに学ぶ」段階的な思考方略として,社会科の活用としての思考評価において有効であることを実証的に明らかにした。