著者
奥野 圭子 Okuno Keiko
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.46, pp.45-68, 2013-10

周知の通り、オーストラリアは、アメリカ、カナダと並ぶ移民国家である。移民国家の特徴として挙げられるのは、帰化しなくても自国の国籍を保持したまま永住権を取得し、安定した居住を送られることにある。同国に限っては、二重国籍も認められているため、国籍国の法が許すのであれば二つの国籍を有し、さらなる安定した居住も可能である。このため、いろいろな国の人々が集まり、多文化主義を成功させている国のイメージが保たれている。しかし、現在のオーストラリアでは、高等法院が、永住者をも「外国人」として取り扱い、相当長期にわたって同国で居住していた者まで、退去強制令の対象とするという判決を下したため、一概にそうとも言えなくなってきた。何故、そのようなことになったのか、永住者には、同国に居住する権利はないのか。移民国家へ相当長期または永続的に居住することを目的とする移民は、永住者だけではない。このような者が、居住国を本拠地として選び、安定した居住を保障されることは、基本的人権にかかわることではないのか。本稿の目的は、相当長期ないし永久に居住する者に対する「居住の権利」についての探求にある。この点を明らかにするためには、まず、同国の歴史、法の変遷、判例を分析し、当該権利の性質を明らかにすることが必要不可欠である。従来の考え方において、「居住する権利」ないし「自国に戻る権利」は、国民特有の権利として認識されてきた。しかし、現在の国際化社会に求められることは、国民以外の者に対する当該権利の探求にある。この考え方に特化しているのは、外国人を自国に有益な存在として長期ないし永続的に受け入れることに長けている移民国家であることは間違いなかろう。そこで、本稿では、移民国家のなかでも、かつて「家族再会」の理念の下に移民政策を行ってきた歴史のあるオーストラリア法を明確にし、この先、わが国が考えなければならない外国人受入れに関する法制度の再構築について検討する。研究論文
著者
田中 則仁 Tanaka Norihito
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.52, pp.91-101, 2016-10

2016年8月に、第3次安倍政権の第2次改造内閣が発足した。再登場以来4年半になる安倍政権は、内外の課題に取り組んでいるが、地方創生の分野ではまだ目立つた成果が出ていない。全国各地の地場産業や特産品がある中で、それが世界的なブランドとして定着した例は数少ない。その中でも、愛媛県今治市の地場産業であるタオル製造は、長い歴史の中でいくつもの盛衰を経験して世界的なブランドに成長した事例として、特筆できよう。今治タオルが歩んできた道のりは、他の地域産業の振興にとっても大変参考になる。特に、国際経営の視点から、為替変動による価格競争力の低下、それに連動する安い海外製品の流入と国際市場での競争激化。さらにブランド価値を維持するための商標登録とそれをめぐる外国企業や各国政府の特許政策との訴訟事件など、知的財産権の紛争なども避けられない課題である。日本各地の地場産業振興にとって、参考になる事項が多い。さらの今後の課題を検証し、また企業はどのような視点で新たな局面に対応すべきかを考察していく。研究ノート
著者
宮嶋 俊一 Miyajima Shunichi
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.46, pp.69-80, 2013-10

「水俣」病という名称は一方で水俣という土地に疾患のイメージを付与する「レッテル」となっているが、他方でその地で起こった出来事の本質を捉える役割を果たしてもいる。「水俣」病とは、水俣で病気が発生したというだけでなく、水俣の自然環境すべてが「罹患」したことを表している。そして、水俣病は食という営みを通じて人間が自然環境の一部となっていることを明確に示した。ゆえに、自然環境保護とは人間を守ることであり、また人間を守ることが自然環境保護にも通じることが明らかとなる。ここで言われる自然環境とは、主体としての人間が利用すべき客体としての自然ではない。「水俣病事件」を見つめ直すことによってそのことが見えてくる。そして、それは福島第一原子力発電所爆発事故後の放射能汚染問題について考えていくためのヒントを与えてくれる。放射能汚染問題について、水俣病事件のように健康被害をはっきりと示すことは難しいが、そこで懸念されていることは、人間がその一部であるところの自然環境汚染・破壊とそれによって影響を受ける人間のいのちなのである。研究論文
著者
鮫嶋 優樹 大槻 茂久 後藤 篤志 高妻 容一
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.58, pp.119-131, 2019-12

近年、スポーツ界におけるメンタル面強化がメディアに取り上げられる機会が増加している。特に注目を浴びたのが、2018年9月に全米オープンでの日本人初優勝、続けて全豪オープンでも優勝を飾り、日本人初の世界ランク1位を獲得したプロテニスプレーヤー大坂なおみ選手であった。彼女の実力発揮の裏側には、メンタル面を支えたサーシャ・バインコーチの存在が欠かせなかったことが注目された(内田、2019)5)。このようなスポーツ界の動向からも今後は、2020東京オリンピックに向けて、スポーツ選手に対するメンタル面強化がいっそう注目されることが予想される。 本研究では、メンタル面強化に関する基礎研究として、大学生運動部員に対して、メンタルトレーニングの講習会及び心理的サポートを実施し、その心理的側面の影響を分析することとした。また、専属メンタルトレーニングコーチを帯同させた女子サッカー部のメンタル面強化実施群と講習会だけを受講した女子運動部群を比較することで、心理的側面にどのような影響を及ぼすのか分析を実施し、講習会や心理的サポートによる影響を検証することとした。本研究で、先行研究の少ない大学女子サッカーチームに対する心理的サポートが選手の心理面に与える影響について明らかにすることで、今後の指導の一助となると考え、研究を実施することとした。研究論文
著者
石積 勝 イシヅミ マサル
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.62, pp.149-166, 2021-10

『神島二郎「政治元理表」の世界』(2021年3月神奈川大学国際経営研究所、Project PaperNo.54)の続編。 本研究ノート序章および第一章では、神島が処女作『近代日本の精神構造』(1961年、岩波)執筆にあたり、どのような問題意識で臨んだか、また、その問題意識がどのように「政治元理表」に反映されているかついて論ずる。第二章では、「政治元理表」に結晶している神島の政治学的認識枠組みにも触れながら、神島の時事的評論「転換期を読む」をテキストに、筆者(石積)なりに日本の現状についての考察を行う。研究ノート
著者
奥野 圭子 Okuno Keiko
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.48, pp.157-170, 2014-10

現在、いわゆる世界的な大競争時代であり、世界中の企業が生き残りをかけて基盤、財政力、技術等の国際競争力を拡大しようとしている。これは、わが国の企業も同様であり、市場の低成長下における生き残りをかけた企業戦略の手段としてM&A(Mergers and Acquisitions)も活発化している。 しかし、この活発化にともないインサイダー取引や相場操縦、虚偽記載等のような違反行為も増加した。悪質な場合には、既存の刑事罰で処することができるが、これを科すほどに至らない違反行為が問題となっている。これは、証券市場の公正性と投資者の信頼を著しく害する行為であるにもかかわらず、処分を受けない違反行為者が後をたたないためである。 そこで、国家はこれらの行為を抑止するために、金融商品取引法(以下、金商法)上に行政措置として金銭的な負担を課す課徴金制度を設置し、金融市場、資本市場等の公正性および透明性を確保することとした。これに対し、日本経済団体連合(以下、経団連)等では、課徴金はもともと独占禁止法上で不当利息の剥奪と位置づけられていたため、違反行為抑止を名目に改正毎に厳しくなる当該制度に「かえって萎縮を招く」との批判の声が高まっている。 本件は、金商法の課徴金制度について示された初の司法判断である。このため、本件に関する一連の司法判断を追うことによって、金商法上の課徴金制度の立法目的、目的遂行のための手段等が明確となるであろう。その上で、金商法上の課徴金納付命令の違憲性についての考察を試みる。判例評釈