著者
松嶋 登 吉野 直人
出版者
神戸大学大学院経営学研究科
雑誌
神戸大学経営学研究科 Discussion paper
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012-11

本論文の目的は、技術研究がハードコアとして共有する理論前提の再検討から、技術研究におけるレリバントな研究実践のあり方を問い直すことである。技術研究はこれまで、技術と組織の関係構造を解明すべく、一方で組織の安定性を前提とし、他方で組織の変化の原因として技術固有の特性を求めてきた。しかしながらその議論は、技術固有の物質的特性(materialism)と人々の解釈柔軟性(agency)を巡る「論点ずらし(tilt)」に終始してきた。この問題に終止符を打つべく、アクター・ネットワーク理論は技術を社会制度的要因、物質的要因の異種混合物であると捉えるが、それは技術という人工物に対する科学のあり方を見失うものであった。これに対して本稿は、技術を物象化された異種混合の人工物(制度)と捉えつつも、その異種混合の人工物が形作る実践形成への介入こそが、技術研究としてレリバントな研究実践であることを主張する。
著者
音川 和久 森脇 敏雄
出版者
神戸大学大学院経営学研究科
雑誌
神戸大学経営学研究科 Discussion paper
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014-07

本稿の目的は,TDnetのデータベースを利用して取引時間中に年次決算情報を 開示した企業の決算発表時刻を特定し,その決算発表時刻を基準とする30分間隔 の時間単位に取引時間を分割し,ティック・データと呼ばれる日中取引データを 用いて30分間隔の株価変化を計測し,証券市場の取引時間中に生じうる決算発表 に対する株価反応を時間単位で明らかにすることである。分析の結果,決算発表 時刻を含むその後30分間と決算発表後の昼休みの時間帯において,予想利益のサ プライズと同じ方向の有意な株価反応を析出した。本稿の分析結果は,分析対象期間が2009年の1年間に限定されているとはいえ,インターネットによる企業情報の開示と株式売買におけるHFTが普及する中で,大きな意義を有するものと考えられる。
著者
鈴木 健嗣
出版者
神戸大学大学院経営学研究科
雑誌
神戸大学経営学研究科 Discussion paper
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013-07

近年,第三者割当増資が急増した背景には,さまざまなタイプの投資家の引受けや中小規模企業による発行の増加がある.本稿は,こうした背景に注目し,発表時の株式市場の反応,引受投資家の要求するディスカウント率,発行後の長期パフォーマンス,引受先の売却行動について検証した.本稿の主な結果から,①ディスカウント率は正であるが,経営者や関連企業,銀行が引受ける場合はより低く,ヘッジファンドが引受ける場合にはより高いこと.また,ヘッジファンドの割当比率と逆U字関係にあること.②発表時の株価リターンは正であるが,ヘッジファンド,株式持合い先が引受ける場合は低く,事業関連会社が引受ける場合はより高いこと.また,ヘッジファンドの割当比率とU字関係にあること,③長期パフォーマンスについては,ヘッジファンドが引受先の場合には有意に負であるのに対し,経営者,既存株主,取引先,事業関連企業,株式持合い,銀行が引受ける場合には有意な株価下落はみられないこと,また,ヘッジファンドのパフォーマンスは役員派遣が行われ割当比率が高い時には負の長期パフォーマンスはみられなかった.④割当後の株式売却について,ヘッジファンドが最も多く売却していることがわかった.これらの結果から,ヘッジファンドは,過大評価された株価のときに第三者割当増資を引き受け,高いディスカウントを要求し,発表時の株価リターンの正の反応は弱く,過大な株価のうちに売却するというラストリゾート仮説及び,多くの割当を引受けたのち役員を派遣し企業価値を上げるモニタリング仮説が支持している.また,部分的にではあるが経営陣や事業関連企業,銀行における保証仮説や持合いによるエントレンチメント仮説が支持された.
著者
宮尾 学 原 拓志
出版者
神戸大学大学院経営学研究科
雑誌
神戸大学経営学研究科 Discussion paper
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012-07

交通系ICカードのSuica,ICOCA,PiTaPa,これら交通系ICカードに用いられているFeliCa,および電子マネーのEdyの開発について事例研究を行った。事例の記述にあたっては,技術の社会的形成アプローチを採用し,これら交通系ICカードのサービスに違いが生じた理由を考察した。事例からは,ICカード改札システムを開発したそれぞれの主体に関連する物的存在(例えば,駅務機器)や制度的・構造的要因(例えば,競争環境)が異なっていたこと,これらの影響によって主体によるICカード改札システムに対する意味づけが異なっていたこと,その結果それぞれのICカードのサービスに違いが生じたことが明らかとなった。
著者
門脇一彦
出版者
神戸大学大学院経営学研究科
雑誌
神戸大学経営学研究科 Discussion paper
巻号頁・発行日
vol.2017・16, 2017-06 (Released:2017-07-05)

日本企業の育成過程は、学習者と熟練者が伴に働き優れた能力を伝える、OJTによる技能伝承の考えが定着している。把握困難な能力の移転を目指すが故に、やみくもにOJTを重ね、育成の実感を与えぬままに長い時間が過ぎるのが、多くの製造業の実情ではないだろうか。伝統芸能や単純な道具を巧みに扱う伝統産業は、技能の対象となる技や道具及び素材の変化は激しいとはいえない。一方、企業化した製造業の扱う生産技術や素材は、企業間の激しい生存競争と自然科学の進化によって、絶え間ない変化を続けている。技能を技術を巧みに扱う能力として捉えると、技術が変化するならば技能も変化するとして把握すべきで、育成を技能伝承の概念で捉えるこれまで考えでは、技術人材の育成に課題があるとするのが本研究の出発点である。