著者
朝倉 俊成 清野 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.767-773, 2003-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
8
被引用文献数
2

インスリン製剤は, 凍結することで性状がどのように変化するか, また凍結したことがあるかどうかをどのように鑑別するかを見出す目的で, 凍結し溶解したインスリンを分析した.インスリン製剤を-18℃ で24時間凍結させ, 解凍後に性状変化を観察し, インスリン活性の変化の測定・インスリン関連蛋白分析などを実施した.その結果, 凍結による化学的活性の変化は見られなかったが, 凍結した注入器の多くは故障し注入不能となり, またインスリン結晶の凝集が見られた.このような変化は, 作用時間などに影響がでる可能性が高く, 適正なインスリン療法を行うには凍結解凍後のインスリンを使用しないことが大切である.療養指導では, 製剤が凍結したことがあるかどうかを鑑別する方法として, カートリッジ内の気泡発生の有無や白濁結晶の沈降速度の変化を確認するよう指導し, 注射毎に試し打ちを励行することもあわせた, 患者自身によるセーフティーマネージメントを養うための患者教育を進める必要がある.
著者
朝倉 俊成 影山 美穂 清野 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.877-882, 2007 (Released:2009-05-20)
参考文献数
9
被引用文献数
2

インスリンカートリッジに針を装着したまま保管したときの空気混入,およびインスリン製剤の品質に対する影響を検討した.4種類のインスリンプレフィルド製剤を用いて,注射針を装着したまま19日間20°Cの温度変化を与えて保管した.結果はどの注入器もインスリンカートリッジ内に空気混入が認められ,気泡の大きさは経時的に増加した.さらに懸濁インスリン製剤では,空気混入のほかにインスリン濃度の濃縮化が見られた.したがって,注射後に注射針を装着したままインスリン注入器を保管すると,注入精度の低下などから血糖コントロールに対して悪影響をおよぼす可能性が高いといえる.患者へはセーフティーマネジメントの一環として,注射針は使用後すぐに取りはずすことと注射前にカートリッジ内に混入した気泡を「空打ち(試し打ち)」で抜くよう指導する必要がある.
著者
朝倉 俊成 神田 循吉 影山 美穂 影向 範昭 若林 広行 清野 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.977-981, 2009-12-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2

インスリン製剤(以下,製剤)中のインスリン結晶の存在,ならびに懸濁製剤におけるインスリン結晶の濁度変化を測定し,高温環境下でのインスリン製剤の性状変化について検討を行った.方法は,2種の非懸濁製剤と2種の懸濁製剤を,38, 50, 70°Cの恒温恒湿度器内に3, 6, 12時間放置したときの濁度を吸光度計にて測定し,その変化を求めた.また,生物顕微鏡を用いて,70°C·12時間環境下のインスリン結晶を観察した.結果は,非懸濁製剤はいずれも変化がなかったが,懸濁製剤ではいずれも,38°C以上の保管で濁度が有意に変化した.また,顕微鏡観察では,懸濁製剤で70°C·12時間保管結晶の形状に明らかな変化がみられた.結果から,懸濁製剤は室温以上の環境下に長時間放置しないことが求められ,患者の日常生活におけるインスリン製剤保管時の温度管理について,十分注意する必要があると思われる.
著者
朝倉 俊成 清野 弘明 野崎 征支郎 阿部 隆三
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.423-427, 2001-05-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
9
被引用文献数
1

糖尿病患者が外食時にインスリン自己注射を行うことに関して, 飲食店はどのように捕らえているのかを調べるために太田西ノ内病院から半径約5km以内に位置する飲食店150店舗を対象にアンケート調査を実施した. 回収は89件 (59. 3%) であった. その結果, 料理の提供時間は最短で7. 1±9. 5分 (M±SD), 最長は20. 1±15. 0分であった. インスリン注射を患者自身が行なっていることは68. 5%が知っており, 店内でインスリン注射を見たことがあるとの回答は15.7%であった. 料理の量や提供時間などの客からの要望に対しては80%以上が対応できると答えた. また75. 0%がインスリン注射についての情報を知りたいと答えていた. インスリン療法に関する情報提供などを通じ, 患者のインスリン注射の環境改善に薬剤師が貢献できると考えた
著者
藤沼 宏彰 星野 武彦 吉田 忍 熱海 真希子 山崎 俊朗 清野 弘明 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.821-826, 2000-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
8

中高年層で広く実施されているゴルフ練習の, 糖尿病運動療法としての有効性について検討した. 男性2型糖尿病患者18例を対象に2つの調査を行った (調査1: 9例, 調査2: 9例), 調査1では練習場でのショットを実施して心拍数, 血圧, 血糖変動を測定し, 無酸素性作業閾値に相当する心拍数を強度の指標にした自転車運動と比較した. 調査2は研究室内で回転式の練習機によるショットを実施し, 酸素消費量を測定して自転車運動と比較した、ゴルフ練習中の心拍数は無酸素性作業閾値に相当する心拍数を超える者が多かった. しかし, 予測最大心拍数の74.6%と, 糖尿病運動療法に対する運動強度として適度な範囲にあった. ゴルフ練習直後の血圧は自転車運動中の血圧よりも低い傾向にあった. ゴルフ練習は自転車運動と同様に, 昼食後1時間から1時間30分にかけての血糖上昇を抑制したが, 運動終了30分後のリバウンドは大きい傾向にあった. ゴルフ練習の酸素消費量は, ピッチングショット時には自転車運動より少なかったが, ウッドでのショット時には自転車運動と同様の値を示した, 酸素消費量から推定した総工ネルギー消費量は自転車運動と同様であった.これらのことからゴルフの運動の糖尿病運動療法としての有効性が示唆された.
著者
清野 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.115, 2005 (Released:2006-03-24)

1987年、ホノルルハートプログラムではブドウ糖負荷試験の1時間血糖値が高ければ高い程と冠動脈疾患発症のリスクが高まることが報告されました。2000年には、ヨーロッパ人を対象としたDECODE Studyでブドウ糖負荷試験2時間血糖値と心血管死亡率が有意の正の相関を示すことが報告されました。1996年には、2型糖尿病患者を対象としたGerman Diabetes Intervention Studyの結果では、2型糖尿病患者の食後1時間血糖値は、心血管疾患発症リスクと正の相関を示すことも報告されました。 海外の成績だけではなく、日本からも食後血糖値と心血管疾患発症についての疫学研究が報告されました。山形大学の舟形町研究(1999年)では、境界型という軽度の食後血糖上昇も心血管死亡に関係することが証明されました。また、アジア系人種を対象としたDECODA Study(2004年)の結果も同様に、ブドウ糖負荷2時間後血糖値が総死亡、心血管死亡の予測に重要であることが報告されました。 さらに2003年には、食後血糖改善薬であるアカルボースを用いた境界型から糖尿病発症を抑制できるか否かの研究であるStop-NIDDM trialにて、心血管疾患の発症抑制に関して、プラセボに比較して相対リスクが49%も低下、新規高血圧発症の相対リスクも34%低下したことが報告されました。Stop-NIDDM trialでは、IGTを対象にした研究でしたが、2型糖尿病を対象としたアカルボースとプラセボ群での52週以上追跡した7つの研究の成果を統合したメタ解析の結果では、アカルボースにより心筋梗塞の発症の相対危険度は64%と有意に低下し、全身血管イベント発症の相対危険度は35%低下していることが報告されました。 一方基礎的研究からも、グルコーススパイク(急唆な血糖上昇)が血管内皮細胞のアポトーシスを誘発することが証明され内皮細胞障害を惹起することが解りました。 以上より糖尿病患者の血糖コントロールの目標として、食後高血糖を制御し大血管発症を抑制する治療が必要となります。このためには、HbA1Cだけではなく、血糖値の動揺を示すM値を指標として治療を考えていくことも必要となります。M値を用いたSU薬、グリニド系薬の評価と、食後高血糖制御の治療戦略を考えてみたいと思います。
著者
清野 弘明 平泉美 希子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.93, no.8, pp.1519-1524, 2004-08-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
6
被引用文献数
1

糖尿病に伴う意識障害の鑑別の1つとして,乳酸アシドーシスも念頭に置く必要がある.意識障害を来たした糖尿病患者で乳酸アシドーシスを疑う所見としては,血液ガス分析にてpH7.35以下のアシドーシスを認めること,尿ケトン体が陰性, Anion gap=(Na-CL-HCO3)が25mEq/1以上ある場合,乳酸値,ピルビン酸値を測定する必要がある.特に,メトホルミン使用患者での全身倦怠感や意識障害では,乳酸アシド-シスも考慮することが大切である.
著者
朝倉 俊成 清野 弘明 名取 和幸 江森 敏夫
出版者
一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
雑誌
くすりと糖尿病 (ISSN:21876967)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.63-73, 2014

インスリン注入器(注入器)の識別性および同定性を,視覚探索実験から定量的に評価した.対象は,プレフィルド型インスリン注入器ミリオペン<sup>®</sup>(MIR),フレックスタッチ<sup>®</sup>(FLT),ソロスター<sup>®</sup>(SOL)の3機種で,追加インスリン製剤と基礎インスリン製剤に相当する各2製剤(計6製剤)の画像(刺激パターン)とした.被験者は,注入器未使用者で本試験に同意したボランティア(平均68.5歳)とした.探索課題では,2種の製剤注入器を20個ランダムに配置した刺激パターンを提示し,一方の製剤の方を順に触れさせた.また,2種の区別しやすさを評定させた.さらに,各製剤の識別色表示面積比も算出した.結果は,MIRの成績が探索,評定ともに最も劣り,FLTとSOLではそれよりも成績が良く,両者はキャップが付いた状態では照度に関わらず同程度の成績であった.しかし,キャップを外すとFLTの識別色表示面積比が大きくなるため,識別性の成績が大きく上昇した.以上のことから,FLTとSOLのカラーデザインは製剤の識別に有用に働いており,キャップを外すとFLTの識別性がさらに向上することが明らかになった.
著者
朝倉 俊成 野崎 征支郎 清野 弘明 阿部 隆三
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.537-540, 1999-07-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6
被引用文献数
4

外食時のインスリン自己注射には, 心理的な要因等によるコンプライアンスの低下が予想される. そこで, 当院でインスリン自己注射している糖尿病患者716名を対象とし, アンケートにより外食時のインスリン注射の実態を検討した. 回答は501名 (年齢55.9±15.5歳: M±SD, 回収率70.0%) から得られた. 結果は, 「他の客が気になる」が63.1%, 「注射時間が気になる」が65.9%で, いすれも若年層で有意に高かった. 注射することを気にしている患者の56.7%が「注射場所の有無」について考慮していた. 注射場所はトイレが46.9%, 洗面所が32.1%, 食事する席が28.9%であった. 本調査により, 注射場所を具体的に想定したインスリン注射指導を取り入れる必要性があると思われた. さらに, 注射操作法の工夫や簡便な注射器の開発, そして自然に自己注射が行える社会的な環境整備を行うよう働きかける必要があると思われた.
著者
山口 日吉 清野 弘明 三崎 麻子 坂田 芳之 北川 昌之 山崎 俊朗 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.211-215, 2003

Imagawaらは, ケトアシドーシスにて発症し, 発症時のHbA1cが正常かもしくは軽度の上昇にとどまり, 膵β細胞の自己抗体が陰性で発症時にインスリン分泌能の著しく低下している例を非自己免疫性劇症1型糖尿病として疾患概念を提唱した. 当院において, この劇症1型糖尿病のスクリーニング基準を満たす7例の臨床像と6例のインスリン分泌能を経年的にグルカゴン負荷試験にて検討してきた. 発症時にグルカゴン負荷試験を検査しえた6例中5例で, グルカゴン負荷6分後の血清CPRは0.1ng/m<I>l</I>以下であり, 発症時に膵臓β細胞の完全破壊が示唆された. さらに, 発症後約6ヵ月ことにグルカゴン負荷試験を施行し, インスリン分泌能を経年的に最長7年間検討してきたが, 6例全例でグルカゴン負荷6分後の血清CPRは0.1ng/m<I>l</I>以下でありインスリン分泌能の回復を認めた例はいなかった.
著者
清野 弘明 大久保 健太郎 山口 日吉 木村 美奈子 宮口 修一 山崎 俊朗 三崎 麻子 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.333-335, 2003-04-30
参考文献数
8
被引用文献数
3

症例は31歳の男性, 2002年5月12日より口渇感, 全身倦怠感が出現し5月15日に初診した. 初診時血糖値778mgd<SUB>l</SUB>, 尿ケトン体強陽性, 動脈血分析ではpH7.249, HCO<SUB>3</SUB>13.6mmo<I>l</I>, 血中総ケトン体9800μmol<I>l</I>で糖尿病性ケトアシドーシスと診断した. 入院時のHbA<SUB>1c</SUB>は6.1%であった.入院中3回測定した尿中CPRは (3.4, <1.0, <1.0μg/day) でグルカゴン負荷試験でも負荷前・負荷6分後の血清CPRは検出限界の0.2ng/m<I>l</I>以下でβ 細胞の完全破壊が示唆された. 以上より本例は劇症1型糖尿病のスクリーニング基準を満たしたが, 2回測定した抗GAD抗体は, 11.6Um<I>l</I>, 10.2Um<I>l</I>と陽性であった. 本例は劇症1型糖尿病と考えられるが, 抗GAD抗体が陽性であったことより自己免疫の関与が示唆される劇症1型糖尿病であり, 興味ある症例である.