著者
小川 渉 荒木 栄一 石垣 泰 廣田 勇士 前川 聡 山内 敏正 依藤 亨 片桐 秀樹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.561-568, 2021-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
31

本報告ではインスリン抵抗症の新たな疾患分類と診断基準を提唱する.インスリン抵抗症は,インスリン受容体またはその情報伝達に関わる分子の機能障害により高度のインスリン作用低下を呈する疾患と定義し,遺伝子異常によって起こる遺伝的インスリン抵抗症と,インスリン受容体に対する自己抗体によって起こるB型インスリン抵抗症の2型に分類する.遺伝的インスリン抵抗症にはインスリン受容体遺伝子異常によるA型インスリン抵抗症やDonohue/Rabson-Mendenhall症候群,PI3キナーゼ調節サブユニット遺伝子異常によるSHORT症候群,AktやTBC1D4の遺伝子異常などによるものに加え,原因遺伝子が未同定のものも含む.B型インスリン抵抗症は,インスリン受容体に対する自己抗体により高度のインスリン作用低下を呈する疾患と定義され,受容体刺激性抗体によって低血糖のみを示す例はB型インスリン抵抗症には含めない.
著者
長谷川 豊 岡 芳知 片桐 秀樹
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

我々は、streptozotocin(STZ)の投与による急性膵β細胞傷害をきたしたマウスに骨髄移植を行うと、膵β細胞の再生が促され、血糖値はほぼ正常値に復することを報告した(文献2)。骨髄移植により骨髄由来細胞が膵に集積し、膵導管に位置する膵幹細胞や残存する膵β細胞を刺激し、膵β細胞再生を促進するという新しい機序が想定でき、自己の細胞をもとにして、体内での膵β細胞を再生させる方法を目指し研究を進めた。この膵β細胞の再生機序に関わる骨髄細胞のlineageの同定と発現遺伝子を同定でき、近く論文に投稿する予定である。
著者
片桐 秀樹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.103, 2005 (Released:2006-03-24)

肥満・糖尿病患者の増加が注目を集めているが、その治療法としては現在でも食事療法や運動療法が中心である。これらの病態ではインスリン抵抗性やレプチン抵抗性がその発症に関与している。そこで我々は、モデル動物に肥満・糖尿病を発症させた後、エネルギー消費に関わる蛋白を発現させ、これら病態の発症機構や治療効果について検討した。 脱共役蛋白UCP1(uncoupling protein 1)は、褐色脂肪細胞でエネルギーをATPに合成することなく熱として放散させる分子として知られ、またその遺伝子多型と2型糖尿病の関連についても報告されている。そこで、まず、高脂肪食により肥満・糖尿病を発症させたマウスの肝臓にUCP1遺伝子を導入したところ、約13%のエネルギー消費の亢進がもたらされた。肝臓では、AMPKが活性化・SREBP1cの発現抑制による脂肪肝の改善が認められ、さらに、このような肝における局所効果のみならず、内臓脂肪組織の脂肪蓄積の減少やレプチン抵抗性の改善といった多臓器における代謝改善効果が認められた。その結果、肥満・糖尿病・高脂血症の改善といった著明な治療効果が観察された。一方、標準餌にて飼育している非肥満・非糖尿病マウスに対しては、肝臓へのUCP1発現導入にてもエネルギー代謝は亢進せず、そのため体重や血糖値、肝や内臓脂肪組織の脂肪蓄積量にも影響を認めないという結果が得られた。このことから、肝臓内に発現した異所性UCP1は、エネルギーバランスを感知し、余剰カロリーのみを効果的に消費するが、必要カロリーについては影響を受けにくいという機序が示唆された。このことは実際の治療への応用を考えた場合、非常に好ましい結果であると考えられる。 次に、肥満・糖尿病の病態発症後の腹腔内脂肪組織におけるUCP1遺伝子導入を行ったところ、さらに強力な治療効果が認められた。高脂肪食負荷にて肥満・糖尿病を発症させたマウスの副睾丸周囲脂肪組織に組換えアデノウィルスを用いてUCP1の発現導入を試みたところ、その発現は局所的・限定的であり、全身のエネルギー消費量には有意な増加を認めない程度であったにもかかわらず、体重増加は抑制され、血糖値・血中脂質値の有意な低下、血中インスリン値・レプチン値の著明な低下を認めた。また、糖負荷試験・インスリン感受性試験・レプチン感受性試験にて、耐糖能・インスリン抵抗性・レプチン抵抗性の著明な改善が観察された。しかし、興味深いことに、皮下脂肪組織へのUCP1遺伝子導入においては、同様の発現が得られたにもかかわらず、これらの治療効果はほとんど認められなかった。このことから、腹腔内脂肪をターゲットとし、そのキャラクターを改善させる事が、メタボリックシンドロームに対する有効な治療になりうることが示唆された。 以上、本レクチャーでは、肥満・糖尿病において、細胞におけるエネルギー消費を亢進させることによる全身代謝に与える影響や病態への関与と、それを応用した新規治療法開発の可能性ついて論じてみたい。
著者
片桐 秀樹 河口 信夫 外山 勝彦 稲垣 康善
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1998, no.110, pp.63-70, 1998-12-04
被引用文献数
5

我々はこれまでに,ユーザが携帯端末を持ち寄るだけで端末がお互いを認識し自律的にモバイルアドホックネットワークを構築する手法を提案してきた.しかし,従来の手法ではネットワーク構築中のトポロジの変更や通信エラーなどに対する考慮が十分ではなかった.本稿では,頑健なアドホックネットワークを構築する手法を提案する.本手法では,従来の手法に加えて,各端末が隣接ノードを発見する手続きを定期的に行い,ネットワーク構築中の動的なトポロジ変化に対応する.また,様々なイベントに対応することによって,通信エラーからの復帰処理を行う.We have proposed an autonomous communication protocol for an ad-hoc network. But we have supposed no dynamic change of the the network topology while mobile hosts construct a network, and no communication errors. In this paper, we propose a new approach that each mobile hosts autonomously deal with dyanmic changes of network topology by doing periodic discovery while constructing a network. It enables mobile hosts to recover from communication errors.
著者
片桐 秀樹
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.5, pp.1127-1133, 2009-05-10
参考文献数
12

個体全身の代謝を調節するには,臓器間の代謝情報のやり取りが必須であり,肥満や糖尿病は,この臓器間連絡が破綻した状態とも言える.最近我々は,自律神経系,特に求心路がこの臓器間の代謝情報連絡に重要な役割を果たしていることを見出した.まず,脂肪組織からの求心性神経シグナルが,食欲を調節していること,次に,肝からの神経ネットワークが,過栄養時に基礎代謝を亢進させ,肥満を予防する機能を果たしていること,さらに,肝からの別の神経ネットワークが,膵β細胞増殖を惹起することを明らかにした.これらは食欲,エネルギー消費,インスリン分泌といった,エネルギー代謝・糖代謝の中心を制御するものであり,この機構に介入することにより,体重調節や膵β細胞再生といった肥満や糖尿病の治療につながる成果を得ている.またこのことは,末梢組織での代謝状況を,脳が随時把握し,全身の代謝を統御しているという新しい概念を示すものである.<br>