著者
吉田 全宏
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.75-88, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
11

本論文では、在日韓国人僧侶が日本で信者を獲得する過程を巫者との関係から明らかにする。在日韓国人僧侶が日本で活動するためには自身の信者を獲得することが必要不可欠となるが、これは簡単なことではない。金銭的な動機から巫者の執行する儀礼を手伝う来日したての在日韓国人僧侶にとって、もっとも身近な一般信者は、儀礼で接触する巫者の信者である。しかし、巫者との良好な関係を維持するためには、巫者の信者を自らの信者に積極的に取り込むことは控えざるを得ない。だが、在日韓国人僧侶と巫者との金銭的主従関係が変容する過程で、こうした積極的な取り込みが実際に起こっている。こうした事態が示唆していることは、在日韓国人僧侶と巫者との間には「金銭的結合関係」だけでなく、「潜在的対抗関係を含んだ協働関係」が存在しているということである。在日韓国人僧侶の信者獲得過程として、巫者との関係の中で活動資金を得る一方、巫者の信者とも結合関係を構築し、最終的に自身の寺の建立や継承にいたる、そういう図式を描くことが可能である。
著者
津曲 達也
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.89-98, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
10

近年、研究目的で作成されていない会議録のような資料をネットワーク・データとして利用することが注目されている。本稿は集団・組織によって作成されている「会合記録」に着目し、「会合記録」からアフィリエーション・ネットワーク・データを生成する際の実践的な方法を検討した。「記録」には解決すべき問題として、記録者や転記者の文字の記載ミスから生まれる「記載のばらつき」と「同姓同名問題」がある。これらに対し、氏名が1字以内で異なる個々人について、その属性情報を比較しそれが一致すれば同一人物とみなす同定処理手法をここでは用いる。この手法を基礎にして、「会合記録」に含まれる情報(氏名情報、会合情報、ゲスト情報、日時情報)のみによってアフィリエーション・ネットワーク・データを生成する方法を検討する。この方法によって、約半数の紐帯を見逃す危険性がなくなること、また個々人の誤った同一人物判定がゼロであったことが示され、精度の高いアフィリエーション・ネットワーク・データを生成できた。会合記録から生成されるアフィリエーション・ネットワーク・データは個々人の会合への参加という行為を表現したものとなる。
著者
高岡 文章
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.7-19, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
34

観光にはどのような可能性や広がりや自由があるのだろう。観光はどのような意味において狭く暗く不自由だろうか。そして、その自由と不自由はどのようにつながっているのだろう。本稿は観光社会学の視点から観光をめぐる自由と不自由について検討する。その際、ルート概念を導入することにより、「観光すること」をめぐる社会学的探究に新たな視座を提供したい。
著者
二階堂 裕子
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.47-61, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
21
被引用文献数
1

グローバル化と国内の労働力不足を背景に、近年、外国人技能実習制度(以下、本制度)による外国人労働者の受け入れが進んでいる。本制度の趣旨は、技能移転を通した開発途上国の経済発展を担う人材育成にある。しかし、帰国した元技能実習生が、必ずしも日本での就労経験を活用しているわけではないのが現状である。そこで本稿では、ベトナム人技能実習生を事例に、本制度を媒介とした技能移転の現状を検討し、国際貢献に向けた課題について考察する。本研究では、ベトナム社会の状況を鑑みて、農業分野における技能移転の可能性に焦点を当てる。そのうえで、愛媛県内の条件不利地域において、1970年代から有機栽培を主体とした環境保全型農業を実践している地域協同組合X の事例を取り上げる。X は、2000年以降、フィリピン人とベトナム人の技能実習生を受け入れるほか、ベトナム南部の都市に有機農業の拠点センターを開設し、帰国した元技能実習生による有機農業の推進を支援している。X の取り組みに関する分析をふまえて、本稿では、真の国際貢献に向けて、技能実習生の帰国後の再就職に向けた支援体制の整備が急務であることを論じる。
著者
松本 貴文
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.63-74, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
21

本稿の目的は、熊本県上益城郡水増集落における、太陽光発電事業の導入を核とした地域再生活動の事例研究を通じて、新たな自然資源利用が地域の持続可能性にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。従来、農山村の持続可能性については、経済的・社会的基盤という観点から議論されてきたが、農山村の暮らしと切り離すことができない自然環境とのかかわりにも目を向ける必要がある。水増集落では、共有地管理への危機感から、集落として太陽光発電事業の導入を進め、集落が誘致した企業とともに、発電・売電事業の枠に収まらない「むらづくり」を進めてきた。その結果、集落では共有地をはじめとする自然環境とのかかわりが増大し、人と自然との関係の再構築が進んだことで、経済的価値のみならず、地域内外の人々の間に社会関係や社会集団の形成を促すなど、社会的価値の創造にもつながっている。そのような成果を通して、事業は住民の地域観にも影響を与えており、集落の持続可能性に対しても、肯定的な効果が生まれつつあることが明らかとなった。
著者
徳野 貞雄
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.43-59, 2018 (Released:2019-05-21)
参考文献数
7
被引用文献数
1

熊本地震発生直後から、半当事者として熊本震災への支援活動とその組織化に取り組んだ筆者の行動記録をベースとした報告である。以下、次のような5つの事象について報告している。1) 熊本震災は「二重の複合型震災」であった。すなわち、4月の地震による震災と6月の集中豪雨による複合震災であり、同時に熊本城や益城町等の「マチ型震災」と県下一円の農山村に広がる「ムラ型震災」の複合震災であった。2) 震災直後の急性期の支援活動は、『震災マージナル理論』とも言える。地域づくり活動を行っていた近接の人々が、自主的に動いて初期の支援活動を始めていた。3) 中間支援団体の形成過程は、5月3日の『熊本・大分新(震)興ネットワーク』(情報プラットホーム)、7月24日に任意団体「熊本復興会議」を結成し、本格的に震災支援活動を初め、2017年4月に一般社団法人化して「ふるさと発・復興志民会議」を立ち上げた。4)【見える震災】 と【見えない震災】を構造的に分類し、その対応主体の相違から復旧・復興の課題を考察している。5) 震災時の「災害ボランティアセンター」に農業支援はなく、制度的不作為を指摘した。また、農家からの農業支援は微弱である。変わって、消費者の農作業ボランティアが活発であることを発見した。
著者
荘 秀美 洪 春旬
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.61-71, 2018 (Released:2019-05-21)
参考文献数
20

台湾では、地域密着型福祉が1990年代初期から導入され、高齢者介護政策に大きく影響した。2016年5月の政権交代で、「長期介護十ヵ年計画2.0」を施行すると宣言した。その中で、「ABC 計画」という施策が提出され、「地域包括ケア」の政策方向を明示した。本論文では、「地域包括ケア」施策として「ABC 計画」のサービス対象、範囲及び推進戦略、政府の役割と機能、民間団体の位置、参入団体間の関係などを明らかにし、その可能性はどうなるのか、その促進要因と阻害要因は何かなどについて分析する。そこで、「地域包括ケア」という「ABC 計画」が追求している目標は明確に定義されておらず、「地域包括(統合型地域介護)」といえば、何を統合するか(対象不明)、どこまで統合するか(範囲不明)、如何に統合するか(推進方法混乱)、統合する条件は何か(財源―コスト、人力などの環境条件)、政府の役割や機能は何か、介護福祉提供者などの民間団体の位置、能力、相互関係などはどうなっているか、など様々な問題が指摘されていた。台湾では、地域包括ケアが導入されたとしても、その限界がどれほど認識されるかは問題である。また、上述した課題のほかに、サービスレベルの地域格差の問題、持続的財源の問題、サービス拠点の拡充など解決しなければならない問題が山積している。いずれにしろ、短期的には、その実現可能性は厳しいと思われる。