- 著者
-
塩月 亮子
- 出版者
- 跡見学園女子大学
- 雑誌
- 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部紀要 = Atomi Tourism and Community Studies (ISSN:21899673)
- 巻号頁・発行日
- no.3, pp.99-111, 2018-03
本稿では、地域を活性化するうえで地元企業はどのような地域貢献をおこなうことが望ましいかを考察するため、地元の名家が手掛けることの多い造り酒屋に焦点をあて、その歴史と現在の活動を追った。事例には、八ッ場ダム建設の影響で地域の分断や人口減少等が起き、町の再生が急務とされる群馬県長野原町にある浅間酒造株式会社を取りあげ、歴代の社長が長野原町長になるなど政治家として地元のために活躍してきたこと、多角経営をおこない地元に必要な産業を興し、地元の雇用を促進してきたこと、さらに、現在も土産物販売をおこなう浅間酒造観光センターで地元農家の製品を販売することや「酒造納涼祭(夏祭り)」を当センターで地元向けに開催すること、自社田として休耕地を借り、そこを酒田にして保全することなどを通して、地元に貢献している様子を明らかにした。このような浅間酒造の地域貢献を地域貢献活勤の6分野に照らし合わせてみると、浅間酒造は主に①経済の振興に関する活勤②文化・環境に関する活勤③敦育に関する活勤、④雇用に関する活勤の4分野に腐心してきたことがわかった。また、⑤治安・安全・防災に関する活勤や⑥保健・医療・福祉に関する活動も、長野原町長など政治家として、あるいは孤児を養育した櫻井傳三郎や、戦時中に米を地元の人々に分け与えた櫻井かねのように個人として、櫻井家が担ってきたものであったこともわかった。最後に、浅間酒造観光センターは観光客の集まる拠点でもあるので、観光客を活用し、当該地域の伝統文化の保全や再生、創造に寄与するよう、地元の人々が工夫していくことも大切だと指摘した。そして、浅間酒造が今後地元から最も望まれる地域貢献は、地域で貴重な老舗製造業であるという強みを生かし、地域の人々と協力しながら地元にふさわしい、地元の人が誇りとするような地域ブランドを創造・確立していくことであろうと結論づけた。\n