著者
榎本 知郎 中野 まゆみ 花本 秀子 松林 清明 楠 比呂志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2004 (Released:2005-06-30)

ゴリラの繁殖が難しいことはよく知られているが、その原因の詳細は不明である。そこでわれわれは、ゴリラの精子形成の特性を組織学的に分析してきた。今回は、その続報である。飼育下で死亡したゴリラ10頭から精巣を採取し、通常の組織標本を作製した。これを光学顕微鏡で観察した。前回、10頭のうち4頭でのみ精子形成が認められること、精上皮が薄いこと、退縮した精細管が存在すること、異常巨大細胞が存在すること、の4点で精子形成が不活発であることを報告した。今回は、以下の3点について報告したい。 (1) ゴリラの精上皮サイクルは、6ステージにわけることができた。 (2) 精細胞表面に形成されるアクロゾーム(先体)が非常に小さかった。 (3) チンパンジーやオランウータンに比べて、精上皮からの精子放出の直前のステージ(ステージII)における成熟精子の密度が小さかった。精上皮サイクルは、オナガザル上科のサルでは、12~14ステージに分けられる。これに対し、ヒト、ゴリラ、チンパンジーでは、6ステージにしか分けられない。このステージ分けは、精上皮の細胞構築をていねいに分析することによって得られるもので、オナガザル科のサルの場合、減数分裂直後の精細胞が、アクロゾームシステムの形によって数ステージに分けられるため、ステージ分けも詳細になる。これに対し、ゴリラの場合、アクロゾームがきわめて貧弱で小さいうえに、各細胞におけるその変容が完全に同期しておらず、ステージ分けを難しいものにしている。アクロゾームは、受精の際、卵を取り巻く放線冠を溶かす酵素など、数種の成分を含んでいる。これの少ないことが、ゴリラの繁殖を難しいものにするひとつの要因なのかもしれない。
著者
江見 美子 鵜殿 俊史 小林 久雄 早坂 郁夫
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.131, 2004 (Released:2005-06-30)

【目的】チンパンジーはヒト蟯虫(Enterobius vermicularis)の寄生により、下痢や嘔吐、食欲不振などを起こし、時に肝臓などへの迷入により死に至る場合がある。また蟯虫の雌は産卵時期になると、寄生部位である盲腸から肛門に移動し産卵を行う。この時の掻痒感のため、蟯虫寄生は肛門いじりや各種肛門疾患の原因になると考えられている。しかしチンパンジーにおける蟯虫駆除は 1) 糞便いじりによる再感染率が非常に高い、 2) 投与が容易で蟯虫に対し高い駆除効果が期待できる駆虫薬がない、など非常に難しく、チンパンジー飼育施設にとって長年解決できずにいる問題となっている。そこで、ブタの回虫・鞭虫駆虫薬として既に使用されているフェンベンダゾール (Fenbendazole) のチンパンジーにおける蟯虫駆虫効果について調べ、清浄化を図った。【方法】 (1) 駆虫効果判定の為、蟯虫寄生が確認されたチンパンジー8頭にフェンベンダゾール10mg/kgを2週間隔で2回投与し、排虫の確認と、1、2、4、8、12、16週後に検便を行った。 (2) 蟯虫清浄化を目的として、チンパンジー80頭にフェンベンダゾール10mg/kgを5~11回投与し、2~7カ月おきに検便を行った。【結果】 (1) 8頭とも多数の排虫が確認され、その後12週まで蟯虫は検出されなかった。 (2) 投与前は30.2%だった蟯虫の検便陽性率が、投与開始から9ヶ月後および12カ月後には0%となった。しかし、16カ月後の検便で1頭から蟯虫が検出された。【考察】これらの結果から、フェンベンダゾールはチンパンジーの蟯虫に対し高い駆虫効果を発揮することが確認された。しかし初回投与の16カ月後に1頭から蟯虫が検出されたことから清浄化には至らず、環境中の虫卵から再感染した、あるいは駆虫しきれずに腸管内に残っていたことが考えられた。今後は投与間隔の再検討が必要である。
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2004 (Released:2005-06-30)

これまでの研究から、チンパンジーの交尾パターンには、「高順位オスによる独占的な交尾」、「機会的な交尾」、「コンソートによる交尾」の3つがあるといわれている。ウガンダ・カリンズ森林では、これまで3年にわたって、チンパンジーのメスが高頻度に交尾を行うことが観察されてきた。これまで行った分析によると、オトナオス同士の順位があまり明確でないこと、また、オトナのオスの数が多い(20頭)ということが、このような高頻度交尾の原因になっていると考えられた。本発表では、実際にメスがどのような状況でこのような高頻度交尾を行っているかを明らかにしたい。調査は、2001年から2003年にかけて、ウガンダ共和国カリンズ森林において、Mグループを対象として行った。発情しているメスを終日個体追跡を行った。メスの発情が続いている限りは、連続して追跡を行った。すべての交尾について、その前後のオスとメスとの交渉パターンを記録した。また、5分毎に、対象メスの行動と、周り5m以内にいる個体の行動を記録した。発情メスが見られない日には、非発情メスについて、行動と周りの個体についての記録を行った。発情期間中、メスはあまり採食をせず休息やオスとのグルーミングを行う時間が長かった。発情メスと非発情メスとの行動の違い、1日の中での交尾の頻度や行動の変化、周りにどういう個体がいるか、どういったオスが交尾を行っているのか、という点についても分析を行い、考察する。