著者
鶏病研究会
出版者
鶏病研究会
雑誌
鶏病研究会報 = Journal of the Japanese Society on Poultry Diseases (ISSN:0285709X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.179-192, 2013

鶏病研究会では,養鶏場の実情に対応した衛生対策として総合ワクチネーションプログラムを策定して,1994年に発表した。その後,発生疾病の多様化や輸入ワクチンの規制緩和等に伴って新たなワクチンが開発あるいは輸入販売されたこと,さらに新たな疾病に対するワクチンや多くの抗原を配合した混合ワクチンが製造販売されたことに対応して,それぞれ1999年および2006年に改訂した。この総合ワクチネーションプログラムは,鶏病研究会の編集による「鳥の病気」にも「鶏のワクチネーションプログラム」として収載されており,2010年5月に発行された「鳥の病気第7版」では2006年の鶏病研究会報第42巻第1号のデータに,新たに2010年1月4日時点で販売されているワクチンのデータを加えた上で若干の改訂を施し収載した。今回の改訂では,「鳥の病気第7版」での改訂も踏まえた上で,現在市販されているものに2012年12月末までに新たに製造販売承認され,2013年に販売予定されているワクチンを加え,総合ワクチネーションプログラムを策定した。それらの中には,マイコプラズマ・シノビエといったこれまでワクチンが適用されていなかった感染症に対するワクチンや,サルモネラ・エンテリティディス抗原やサルモネラ・ティフィムリウム抗原に加えてサルモネラ・インファンティス抗原を含んだ鶏サルモネラ症ワクチンだけではなく,粘膜免疫システムを活性化するアジュバントを用いた粘膜投与型不活化抗原ワクチン,遺伝子欠損弱毒細菌生ワクチンが登場する。また,末尾の鶏用ワクチン一覧に収載するワクチンについても,2012年12月31日現在で承認され2013年以降の販売が予定されているワクチンに再整理した上で,「鶏の病気第7版」と同様に鶏用診断液一覧も収載した。さらに,2008年10月よりワクチン製造用株および製造用ウイルス株を増殖させるための製造用細胞株等についての規格を設定するとともに,その継代に許容制限を設け,GMPに基づく製造および品質管理の下でワクチン製造を行う一連の製造体系であるシードロット(SL)システムが導入された。これにより,SLシステムによって製造されたワクチンの一部については,国家検定の対象から除外されることとなった。(参考文献:日獣会誌,2010,63,234~241)したがって,国家検定の対象外となったワクチンについては,有効期間の起算点が検定合格後から製造後となり,表記が変更されたものもあることから,混乱を避けるために有効期間の記載を削除した上で,それぞれのワクチンの製品名を記載した。また,アジュバントを含む製剤のうち,食鳥処理場へ出荷のため使用してはいけない期間(使用制限期間)が21日以上のものについては,使用制限期間も追加記載した。
著者
伊藤 壽啓
出版者
鶏病研究会
雑誌
鶏病研究会報 = Journal of the Japanese Society on Poultry Diseases (ISSN:0285709X)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.1-6, 2017-09

2016年11月,H5N6亜型のウイルスによる高病原性鳥インフルエンザが青森県下で発生した。本亜型のウイルスによる発生は我が国では初めてであったが,高病原性鳥インフルエンザの国内発生としては,およそ2年ぶりのことであった。その後,本年3月までの約4カ月間に1道8県において合計12事例が報告されたが,いずれの発生においても,早期通報とその後の的確な初動対応がなされ,二次的な流行拡大は一切認められなかった。そのため,2017年6月28日をもって,我が国はOIEの規約に基づき,清浄国への復帰を果たしている。しかしながら,これまでの諸外国の流行状況をみると,来シーズンも我が国への新たなウイルスの侵入リスクは依然として高いと言わざるを得えない。農林水産省は近頃公表した疫学調査チーム報告書の中で,今後の我が国の高病原性鳥インフルエンザ防疫対策の更なる強化に向けた提言をまとめている。
著者
米田 久美子
出版者
鶏病研究会
雑誌
鶏病研究会報 = Journal of the Japanese Society on Poultry Diseases (ISSN:0285709X)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.7-15, 2017-09

2016年度の野鳥における高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染は全国で218件確認され,検査数に対する感染確認率は8.6%であった。過去に最大であった2010年度の64件,1.1%と比較すると大幅な増加であり,野鳥での感染の広がりは,野鳥への影響および家禽への感染リスク増加の観点から懸念される。また2016年度の発生では給餌下のハクチョウ類の継続的集団発生が複数例確認された。2010年度の感染確認種との比較から,原因ウイルスの野鳥に対する感染性および病原性の変化が推測された。また,2010年度,2014年度,2016年度の感染確認地点から,野鳥によるウイルスの国内での移動経路を考察した。
著者
翁長 友理子 高吉 克典 瀬底 正治
出版者
鶏病研究会
雑誌
鶏病研究会報 = Journal of the Japanese Society on Poultry Diseases (ISSN:0285709X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.223-227, 2013

沖縄県では約148万羽の鶏(ひなを含む)が飼育されており,その98.6%が1,000羽以上飼養のいわゆる一般農家で飼育されている。一方,飼養規模別の戸数割合で見た場合,100羽から1,000羽を飼養する小規模農家と,100羽未満の愛玩的に鶏を飼養する小羽数飼養者が501戸中450戸と実に90%以上を占めている。このような飼養形態の中で,一般農家における146万羽余の鶏が適切な衛生対策の下で飼育されていても,小規模農家や小羽数飼養者が飼養する約20,000羽の鶏において,ニューカッスル病(以下,ND)等のワクチンが接種されていない事例が多いことから,NDの発生リスクが懸念されている。沖縄県内でのひなの流通はほとんどが初生ひなであり,ひな購入後は飼養者が自家育成を行い,採卵鶏として供用する。一般農家においては,その間にNDワクチンを含む各種予防接種が行われるが,小規模農家においては1,000羽単位でのワクチン購入に対するコスト高への懸念があること,小羽数飼養者においては,NDという病気のことすら知らずに飼育する人も多く,最低限必要な衛生対策が何ら講じられていないのが現状であった。さらにその流通実態を調査すると,初生ひなを共同購入していたり,採卵鶏や廃鶏の販売・譲渡を行うなど,ひな導入から廃鶏処理までのいずれのステージにおいても小規模農家から小羽数飼養者への鶏の転売が行われており,その大半はワクチン未接種鶏であることが問題となっていた。その為,ひなを導入している小規模農家においていかにNDワクチンを接種させるかが,結果的に小羽数飼養者への対策にもつながっていくのではないかと考えられた。
著者
喜田 宏
出版者
鶏病研究会
雑誌
鶏病研究会報 = Journal of the Japanese Society on Poultry Diseases (ISSN:0285709X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.7-12, 2015-09

H5およびH7高病原性鳥インフルエンザウイルスが世界各地で家禽と野鳥に感染し,甚大な被害を及ぼしている。少数の国において,鳥インフルエンザの制圧対策が適切に執られていないためである。「感染家禽の早期摘発・淘汰により,被害を家禽に封じ込め,人の健康と食の安全を守る」ことが鳥インフルエンザ対策の要である。H5N1およびH7N9ウイルスがパンデミックインフルエンザを起こすものと想定されている。私は,その可能性は低いと見ている。もしパンデミックインフルエンザが発生,流行したとしても,慌てることはない。新たなHA亜型のウイルスは,人集団に免疫がないので,伝播性は高いが,個々の人に対する病原性は低いからである。パンデミック第二波以後,すなわち,季節性インフルエンザを起こすウイルスの方が人の体内でよく増殖するので,病原性が高い。したがって,季節性インフルエンザ対策の改善・確立こそがパンデミックインフルエンザ対策の要である。