著者
小林 哲 松浦 修平
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.25, pp.1-6, 1996-12-20

モクズガニEriocheir japonicaの未成体期(甲幅40mm未満)における鉗脚の相対成長を,飼育条件下で明らかにした.甲幅と鉗脚長節高の関係により,雌雄とも甲幅11mm付近の変曲点により分けられる2つのPhaseの存在が示された.回帰直線には雌雄ともphase間に有意差が認められ,また第1Phaseに有意な雌雄差が無いのに対し第2Phaseでは雌雄差が認められた.さらに,より大型個体での結果を加えることで,モクズガニの全サイズにわたる鉗脚の相対成長様式を推定した.雌雄差の無い1つのPhaseのあとに,雌雄差の拡大するPhaseが,さらに雄では3つ,雌では2つのPhaseに分かれて続くことが明らかになった.
著者
Lemaitre Rafael
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.22, pp.11-20, 1993-11-10

南シナ海からのみ知られているSympagurus sinensis (de Saint Laurent, 1972)は,雌雄とも対の腹肢をもち,前甲,後甲および第1・2腹節の石灰化が明瞭で,尾節と尾肢が相称である.これらの特異な形質によって新属Bivalvopagurusを設立した.本属は今のところ単型属である.Bivalvopagurus sinensisはイソギンチャクをつけた二枚貝の殻(片方)を使う.本種の再記載と進化上の考察も行った.
著者
今福 道夫 中村 幸弘
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.24, pp.19-22, 1995-12-15

巻貝の軟体部が付着したままの貝殻を背負うヤドカリが、新潟県上越市沖の浅海の砂底から見つかった. 3個体はトゲトゲツノヤドカリDiogenes spinifronsで、1個体はトゲツノヤドカリD.edwardsiiであった.そのうちの1個体では、巻貝の蓋にヤドカリの鋏によると思われる傷が多数あったことから、その巻貝は生きている間にヤドカリによって襲われたものと推定される.また、水槽観察から、軟体部がヤドカリによって食べられたようなので、軟体部をもつ殻は、新しい宿と食料の保管という二重の機能をもつものと考えられる.
著者
小西 光一 武岡 英雄 帝釈 元
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.24, pp.69-77, 1995-12-15

テナガオオホモラの抱卵雌からのふ化による第1ゾエアを記載し,その幼生形質を既知種および同じ原始短尾亜区の各科と比較検討した.本種はオオホモラ属内ではParomola cuvieriと良く似ているが,Aikawa(1937)によるオオホモラのそれとは異なっている.しかしながら後者の場合では再検討を要する形質があり,これを除くとホモラ科のゾエアは2つのグループに分けられる.一方幼生の比較が可能な原始短尾亜区の4科の中で,アサヒガニ科の幼生は真正カニ類に似ている.ミズヒキガニ科のゾエアはホモラ科のものに酷似するが,第2顎脚内股の剛毛配列で区別出来る.これら2科はカイカムリ科とアサヒガニ科の中間的な存在である.
著者
Ng Peter K.L. 諸喜田 茂充
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-7, 1995-12-15
被引用文献数
2

腹部や付属肢の特徴から,石垣島・西表島産の陸生サワガニの新属(Ryukyum)がヤエヤマヤマガニNanhaipotamon yaeyamense Minei,1973に対し新設された.新属は腹板の構造,第3顎脚,雄の腹部,雄の第1腹肢・第2腹肢等にNanhaipotamonとの相違が見られる.ヤエヤマヤマガニは山間部の陸域に生息し,放卵期に湿地や水辺に集まる傾向がある.大卵を数少なく産む.
著者
Tavares Marcos de Mendonga Jr. Joel Braga
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.25, pp.151-157, 1996-12-20

西大西洋におけるCharybdis helleriiは,カリブ海(1987,1988) ,北東ヴュネズェラ(1987),およびフロリダ東部(1995)において外来種として発見されている.新たに本種はブラジルの南東部沿岸(リオデジャネイロ)で記録された.また,ブラジルにおける本種の出現ならびに他の海産十脚類の7外来種について論議した.
著者
大森 寛史 和田 哲 五嶋 聖治 中尾 繁
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.24, pp.85-92, 1995-12-15
被引用文献数
7

函館湾葛登支岬の潮間帯転石城において,ホンヤドカリの貝殻利用状況と貝殻資源量について調査を行った.コドラート採集の結果,巻貝の出現頻度に比べクロスジムシロガイとタマキビガイを利用している個体の割合が有意に高いことがわかった.ヤドカリの貝殻の種類に対する選好性実験では,クロスジムシロガイを最も好んでいることから,貝殻の種類に対する選好性が貝殻利用状況に影響を与える1つの要因となっていることが示唆された.採集された個体の貝殻サイズの適合度(SAI)はヤドカリのサイズの増加に伴って減少する傾向が認められた.貝殻の種類別にSAIと貝殻資源量との関係についてみると,貝殻資源量が最も多いと思われるサイズの個体は比較的適した大きさの貝殻(SAI=1)を持っており,それより大きい個体ではSAIは1より小さく,それよりも小さい個体ではSAIは1より大きい値となることが明らかになった.すべての個体についてみると,いずれの種類の貝殻を利用している個体も比較的通した貝殻を利用していた.ヤドカリサイズの増加に伴って利用している貝殻の種類が変化していたことから,貝殻の種類を変えることによって,全体としては比較的高いSAIを維持していることが示唆された.