著者
柴田 洋昭 今福 道夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.268-276, 2010-03-15

ツマグロヒョウモンArgyreus hyperbiusとミドリヒョウモンArgynnis paphiaの食草外産卵について調べた.母蝶による産卵場所は,食草およびそれ以外のものを含むケージの中で,卵の被食率は野外の自然条件下で調べた.ツマグロヒョウモンは,食草にも食草外にも産卵したが,石や枯れ葉よりは生きた植物に多く卵を生み,また食草近くに多く生む傾向を示した.ミドリヒョウモンは食草から離れたケージの上部に産卵した.ミドリヒョウモンの卵の被食率は地表付近で高かったことから,本種の高所への産卵習性は,地上捕食者から卵を守るために進化したものと思われた.一方,しばしば見られたマグロヒョウモンの食草外産卵については,被食回避や,産卵習性の移行の可能性を検討した.
著者
今福 道夫 大谷 剛 竹内 剛
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-10, 2000-12-20 (Released:2017-08-10)
参考文献数
29

蝶の翅の色彩パターンの理解のためには,雌雄間での行動的相互交渉の観察が重要である.しかし,翅の色彩にしばしば著しい性的二型を示すゼフィルス類については,そのような観察は非常に少ない.そこで,性的二型の種であるミドリシジミNeozephyrus japonicusの行動を兵庫県三田市の「人と自然の博物館」にある縦12m,横8m,高さ4mの金網のケージのなかで1999年6月11日から13日にかけて観察した.ペイントマーカーで個体識別した♂12頭と♀10頭を放したところ,2回の求愛行動と1回の交尾が観察された.交尾に先立ち,♂は♀に側面から触角を広げて接近し,次第に平行に並ぶように向きをかえて,腹端を♀の腹端に近づけた.交尾は容易に成功せず,しばしば上記の行動を繰り返したり,短い飛翔を行ったが,夕方の6時26分に交尾に成功した.交尾時間は約3時間であった.交尾後♀を食草と共に保ったが,産卵は確認できなかった.後にこの♀の腹部を解剖したところ,大きな精胞が1つ見つかった.捕獲下でのゼフィルス類の交尾の誘導の意味について議論した.
著者
今福 道夫 中村 幸弘
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.24, pp.19-22, 1995-12-15

巻貝の軟体部が付着したままの貝殻を背負うヤドカリが、新潟県上越市沖の浅海の砂底から見つかった. 3個体はトゲトゲツノヤドカリDiogenes spinifronsで、1個体はトゲツノヤドカリD.edwardsiiであった.そのうちの1個体では、巻貝の蓋にヤドカリの鋏によると思われる傷が多数あったことから、その巻貝は生きている間にヤドカリによって襲われたものと推定される.また、水槽観察から、軟体部がヤドカリによって食べられたようなので、軟体部をもつ殻は、新しい宿と食料の保管という二重の機能をもつものと考えられる.
著者
清水 勇 今福 道夫
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1)代表者の清水は、約1200世代以上にもわたって飼育されてきた暗黒バエの視物質オプシン遺伝子(NinaE, Rh2)のサブクローニングとシークエンスを試みた。方法としては約30-50匹の個体をまとめて抽出材料とし、発色団のレチナール結合リジン残基を含むExon4部分(約210核酸配列)をRT-PCR法で増幅し、サブクローニングしてシークエンスをみた。その結果、16クローン中の5クローンに変異がみられ、その内3クローンでは推定ペプチドのアミノ酸置換を引き起こす、それぞれ異なる非同義置換の変異がおこっていた。これは昆虫類の既存オプシンの分子進化速度から考えると異常な高頻度といえるものである。一方、対照群のハエで同様の調査(甲南大学で明暗サイクル下で飼育したもの)をすると、24クローン中わずか1クローンに、しかも同義置換がおこっているだけであった。さらにそれぞれの遺伝子の全長について調査し、NinaE〔20,000塩基中25個〕,Rh2とも暗黒飼育バエでは有意にミューテンションが挿入されていることが分かった。ついで一匹づつ頭部のmRNAを抽出するなど、実験をさらにすすめると変異がみられなかった。そこで再度、ハエをまとめてサンプルにして計ると、19クローン中6個の変異がみられた。分析法とバッチの違いによる結果の違いについて今後、さらに検討する必要があるが、なんらかの変異がおきている可能性が示唆された。2)分担者の今福は京都大学大学院理学研究科で暗黒条件下で継続飼育しているショウジョウバエをパールの培地で育てている。その成虫の光走性とkinesisを見るとL系統(明暗飼育)よりDD(暗黒)系統のほうが、それぞれ強い傾向を認めた。