- 著者
-
坪根 由香里
- 出版者
- 国際基督教大学
- 雑誌
- ICU日本語教育研究センター紀要 (ISSN:13447181)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, pp.23-35, 2002-03-31
日本語の文を生成する際,形式名詞の「こと」は,文脈の中である事柄の代用語となったり,前接する文を名詞化する機能として用いられたりと重要な役割を果たす。また,「もの」は「こと」と対立する概念として学習者にとって理解しにくいものである。本稿では韓国語話者のOPI (oral proficiency interview)データを用い,形式名詞「もの」「こと」の各用法について自然発話での使用状況を調査し,その習得について考察し,習得順序を探った。調査の結果,「もの」「こと」共に,初級から中級,上級から超級の段階で使用数,種類が伸び,中級から上級の段階では,用法の広がりは見られないが形式名詞,名詞化の使用数の増加により,複雑な文を多く産出するようになることがわかった。また,各用法の正用者数の伸びから,中級は形式名詞,名詞化の用法等の構文的に必要な機能が習得される段階,超級は「というもの」「ということ」「Nのこと」や様々な文末表現といった特別なニュアンスを示す用法が習得される段階であると言える。各レベルの正用者の割合を基に本稿で提案した習得順序は,(1)たことがある→(2)もの形式名詞,こと形式名詞,こと名詞化→((3)ことができる)→(4)Nのこと→(5)というもの一般化,こと(は)ない,ということ一般化,ということ内容,であった。誤用については,形式名詞の「もの」と「こと」を混同するものが多く見られた。