著者
千葉 靖典 伊藤 浩美 佐藤 隆 高橋 佳江 地神 芳文 成松 久
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of applied glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.131-136, 2010-04-20
被引用文献数
1

糖鎖の機能解明や糖鎖構造分析のための標準品を合成するための一つの手段として,糖転移酵素の利用が考えられる.糖転移酵素は基質特異性が明確である一方,酵素自体が不安定で大量に生産することが難しいため,糖転移酵素を利用した糖鎖合成の産業的な利用は難しいと考えられてきた.一方,安価な生産のためには大量生産技術が確立している酵母等の代替宿主を用いることが期待されているが,ヒトの糖転移酵素を多量に発現させた例はあまりない.われわれは動物細胞(HEK293T細胞)とメタノール資化性酵母(<i>Ogataea minuta</i>)を宿主としてヒト糖転移酵素の生産法の開発と応用を検討した.既知の情報ならびに当センターで新規にクローニングした遺伝子を含め,糖鎖合成関連遺伝子をライブラリー化した.糖転移酵素のほとんどはHEK293T細胞で可溶型酵素として発現が可能であった.ビーズ上に固定した糖転移酵素を利用し,さまざまな糖鎖・糖ペプチドの合成を行った.また合成した糖鎖の一部は基板上に固定し,糖鎖チップの生産を行った.今後はさらに糖鎖の種類を増やすことで,糖鎖と結合するタンパク質の特異性をより厳密に決定に利用できると考えている.一方,酵母の発現系については,導入した糖転移酵素の半数程度しか発現が確認されなかったため,種々の条件の最適化等を検討した.その結果,従来の条件では活性がほとんどみられなかった糖転移酵素も活性が確認できるようになり,ある酵素では数百倍の生産性の向上に成功した.次に,天然からは大量調製が困難な<i>N</i>-型多分岐糖鎖の調製を行った.アガラクト型複合型2分岐鎖を出発材料とし,糖転移酵素を逐次作用させることにより,アシアロ型3分岐,4分岐型糖鎖の生産に成功した.今後,酵素法による糖鎖の大量調製が可能となり,糖鎖チップへの応用や糖タンパク質医薬品の原料への活用が期待できる.本研究はNEDO「糖鎖機能活用技術開発」プロジェクトにおいて実施したものである.
著者
峯尾 仁 金澤 匠 森川 奈央 石田 京 近江 沙矢子 町田 絢香 野田 高弘 福島 道広 知地 英征
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of applied glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.203-209, 2008-10-20
被引用文献数
1

小腸と膵臓の消化酵素の適応について,異なる種類のデンプンを摂取させたラットで検討した.オスのSD系ラット(6週齢)に,トウモロコシデンプン,またはリン含量の異なる2種類のバレイショデンプンを含む3種類の飼料を摂取させた.小腸のスクラーゼ,マルターゼおよびラクターゼ活性と,膵臓のアミラーゼ活性の変化を飼料摂取後1,3,5週目に測定した.十二指腸のスクラーゼおよびマルターゼ活性は三つのデンプン群間で有意な差異を生じたが,ラクターゼ活性は差異を生じなかった.空腸と回腸の二糖類分解酵素と膵臓のアミラーゼ活性は,3群間で差異はなかった.以上のように,異なるタイプのデンプンに対する二糖類分解酵素の適応は,十二指腸でのみ局所的に生じ,それより下位の小腸部位では生じなかった.
著者
大櫛 祐一 坂本 正弘 東 順一
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.231-234, 2008 (Released:2009-07-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1 6

前報(Ookushi et al.: J. Appl. Glycosci., 55, 225-229 (2008))に引き続いて抽出方法を検討した結果,ヤマブシタケ子実体に含まれるglucanの92.7%を抽出することに成功した.その内訳は,42.3%がアルカリ抽出,17.7%が酵素処理-マイクロ波照射,10.7%が再度アルカリ抽出によって抽出された(Table 1).残りの22.0%はマイクロ波加熱熱水抽出により抽出される水可溶(1→3;l→6)-β-D-glucanである(Ookushi et al.: J. Appl. Glycosci., 53, 267-272 (2006)).熱水抽出残渣に含まれるglucanの構造をメチル化分析により解析した結果,全て(1→3;1→6)-β-D-glucanに属し,次の三つの異なった存在形態を有していることが明らかとなった.(1)水素結合により強いネットワークを形成している(1→3)結合に富んだタイプ,(2)タンパク質・キチンと複合体を形成している(1→6)結合に富んだタイプ,および(3)タンパク質・キチンと複合体を形成している(1→3)結合に富んだタイプであった.
著者
大櫛 祐一 坂本 正弘 東 順一
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.153-157, 2009 (Released:2010-01-29)
参考文献数
9
被引用文献数
1 6

含水下マイクロ波加熱(140°C, 5分)を利用して抽出したヤマブシタケ子実体に含まれる多糖類の特徴を, 通常の外部加熱を用いた熱水抽出(100°C, 6時間)から得た多糖類の化学構造と比較検討することにより解析した. サイズ排除クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した主な多糖類は, 通常の外部加熱ではfucogalactanと(1→6)結合に富んだ(1→3;1→6)-β-D-glucanであったのに対し, マイクロ波加熱の場合では(1→3)結合に富んだ(1→3;1→6)-β-D-glucanであった. マイクロ波加熱抽出物の低分子画分(M-3 fraction)に含まれるgalactose, fucoseの含量がかなり高くなっていたことから, マイクロ波加熱では, fucogalactanは低分子化していることが示唆された(Table 2). また, メチル化分析の結果(Table 3)から, 通常の外部加熱により得られる(1→3;1→6)-β-D-glucanの(1→6)結合のうち22.5%がマイクロ波加熱中に開裂していることが予想された. 本研究の結果より, ヤマブシタケ子実体から(1→3)結合を多く含むβ-glucanを抽出する上で, 通常の外部加熱を用いた熱水抽出よりも含水下マイクロ波加熱抽出の方が有効であることが示された.
著者
芦田 久 加藤 紀彦 川原 彰人 田中 祐樹 梅川 碧里 山本 憲二
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.137-143, 2009 (Released:2009-10-15)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)は,糖タンパク質のアスパラギン残基に結合したN-グリカンのコア部分に存在するN,N´-ジアセチルキトビオース構造に作用し,糖鎖を遊離させるエンドグリコシダーゼである.われわれは土壌より単離した糸状菌Mucor hiemalisより高い糖鎖転移活性を有するENGaseであるEndo-Mを見出し,種々の糖鎖化合物の酵素合成に応用してきた.Endo-M遺伝子のホモログが線虫Caenorhabditis elegansのゲノム中に見出されたため,われわれは真核多細胞生物における本酵素の機能を明らかにする目的で線虫eng-1遺伝子の解析に着手した.リコンビナントENG-1を大腸菌で発現させ諸性質を調べたところ,高マンノース型糖鎖によく作用し,Endo-Mと同様に糖鎖転移活性を有することが明らかになった.またENG-1はN末端にシグナル配列を持たず,細胞質に局在することが示唆された.主に哺乳動物細胞を用いた他グループの研究から,細胞質にはN-グリカン由来の遊離糖鎖(free oligosaccharide; FOS)が存在し,ENGaseはFOSの代謝に関わっていることがFOSの構造解析結果から推測されてきた.そこでこれを直接的に証明するために,野生株とeng-1変異株の線虫のFOSをピリジルアミノ化してHPLC等で分析した.予想どおり,野生株では還元末端にGlcNAcを1残基有するFOS-GN1が主成分であったが,eng-1変異株ではFOS-GN2が蓄積していた.FOSは主にミスフォールドした糖タンパク質が小胞体関連分解される過程で生成すると考えられている.ミスフォールド糖タンパク質は小胞体内腔から細胞質へ逆輸送され,そこでペプチド:N-グリカナーゼ(PNGase)により糖鎖が切り出される.線虫のPNGase(PNG-1)は哺乳動物や出芽酵母由来の酵素とは異なり,PNGase活性を担うトランスグルタミナーゼドメイン以外にチオレドキシンドメインを有していた.大腸菌で発現させたリコンビナントPNG-1はPNGase活性以外にタンパク質ジスルフィドレダクターゼ活性を示したことから,線虫PNG-1はユニークな多機能酵素であることが明らかになった.野生型線虫のFOSを詳細に調べたところ,主要な分子種はMan5GlcNAc1であったが,哺乳動物細胞で報告されているM5B´異性体とは異なり,M5A´異性体であった.哺乳動物においては細胞質α-マンノシダーゼがM5B´を生成すると考えられているが,線虫には細胞質α-マンノシダーゼのホモログは見出されなかった.線虫特異的なM5A´の生成に関わるマンノシダーゼを特定するためにRNAi法を用いて種々のマンノシダーゼをノックダウンした線虫のFOSを解析した結果,ゴルジ内腔のα-マンノシダーゼIや,小胞体内腔のα-マンノシダーゼ様タンパク質EDEMが,線虫特異的M5A´の生成に関与していることが示唆された.