著者
中田 かおり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.208-221, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
30
被引用文献数
5 11

目 的 妊娠前から出産後2~3年の期間において,母乳育児継続を可能にする要因とアウトカムとしての母乳育児のセルフ・エフィカシーについて探索することを目的とした。対象と方法 2~3歳の子どもがいる母親を対象に質問紙調査を行った。測定用具は,母乳育児継続に関する自作の質問紙,日本語版Breastfeeding Personal Efficacy Beliefs Inventoryおよび一般性セルフ・エフィカシー尺度である。質問紙は1103部郵送し,回収した424名のうち404名を分析対象とした。分析にはSPSS 15.0J for Windows版を用いた(p<.05)。結 果 母乳育児期間は平均1年4か月(±10か月)で,最頻値1年,最大値4年3か月であった。母乳育児の継続には,出産直後と入院中のケアである次の6つとの関連が認められた。(1)母子同室を24時間までに行う(p=.000),(2)糖水・ミルクの補足をしない(p=.000),(3)母乳分泌を保証された経験がある(p=.000),(4)夜間授乳を出産当日に開始する(p=.002),(5)早期接触を20分以上行う(p=.006),(6)初回授乳を出産後30分までに行う(p=.009)。退院後の状況で関連していた要因は(1)母乳不足感がないこと(p=.000),(2)助産師の援助を受けたこと(p=.000)の2つであった。また,「母乳不足感に対する助産師の援助」,「母乳分泌を保証する母親への関わり」は母乳育児期間を有意に延長していた。母乳育児継続期間と母乳育児のセルフ・エフィカシーには正の相関があった(r=.392, p<.01)。母乳育児のセルフ・エフィカシーの影響要因として「成功体験」,「言語的説得」,「生理的・情動的状態」との関連が認められた。結 論 出産直後と入院中のケアは,母乳育児期間を決定づける大きな要因であった。母乳不足感に対する助産師援助,母乳分泌の保証を与えるケアの重要性が示唆された。母乳育児継続期間と母乳育児のセルフ・エフィカシーには関連が認められた。
著者
中田 かおり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.262-271, 2015 (Released:2016-02-24)
参考文献数
23
被引用文献数
2

目 的 「日本語版母乳育児継続の自己効力感尺度(Japanese-Breastfeeding Personal Efficacy Beliefs Inventory; J-BPEBI)」を開発し,信頼性・妥当性を検討した。対象と方法 原版は母乳育児を推進し女性の母乳育児の価値や信念を測定するために開発された22項目のVASである。本研究ではまず,2008年に開発された(旧)日本語版Breastfeeding Personal Efficacy Beliefs Inventoryの日本語の修正と5段階リッカートスケールへの変更を行いJ-BPEBIを作成した。その後,2~3歳の子どもの母親を対象に質問紙調査を行った。質問紙は578部配布し286部を回収,241名を分析対象とした。分析にはSPSSVer. 20を使用した。結 果 母乳育児継続期間は平均1年5か月(SD=9か月)であった。因子分析の結果,J-BPEBIは3因子構造となった。第1因子「母乳育児をより長く継続することをマネジメントする自信」,第2因子「社会的サポートや情報をマネジメントしながら母乳育児を継続する自信」,第3因子「様々な環境や状況をマネジメントしながら母乳育児を継続する自信」と命名した。J-BPEBIと一般性自己効力感との相関はなかったが,母乳育児継続期間との相関が認められた(r=.314, p=.000)。自己効力感に影響する「4つの情報源」のうち「成功体験」と「情動的喚起」との関連が認められた。全項目でのクロンバックα係数は.902であり,下位尺度の信頼性係数は.640~.916であった。結 論 J-BPEBIは22項目3因子構造の尺度であり,構成概念妥当性,併存妥当性が確保された。全項目での信頼性は高く,内部一貫性は確保された。J-BPEBIは母乳育児継続と母乳育児の自己効力感に関する概念を測定する尺度であることが示唆された。
著者
西村 香織 永山 くに子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.229-238, 2014 (Released:2015-05-30)
参考文献数
25

目 的 産褥早期に母乳育児をしている初産婦への母乳外来での参加観察と初産婦と実母のインタビューを通した語りから,産褥2週間以内の初産婦の母乳育児をめぐる実母の関わりの特徴を明らかにすることを目的とした。対象と方法 研究参加者はN病院で出産し母乳外来を受診した初産婦と母乳外来受診時に同行した実母の10組。データ収集期間と方法は2010年2月~7月。初産婦と実母の母乳外来における参加観察,および初産婦と実母との同席によるインタビューで,内容は「退院されてからの日々の育児はどうですか」「授乳に関してはどうですか」「お母様からみて娘さんの様子はどうですか」などであった。参加観察と録音したインタビュー内容の逐語録をデータとした。これらを短文化,解釈し初産婦に対する実母の関わりの特徴と考えたサブパターンを抽出,さらに集約化してパターン名を付けた。結 果 母乳育児中の初産婦に対する実母の関わりには[受容的][支持的][教育的]のサブパターンからなる【個人的関わりパターン】と,[食に関する言い伝え][育児観に関する言い伝え]のサブパターンからなる【世代間伝承的関わりパターン】の2つの特徴的な関わりパターンが抽出された。実母の【個人的関わりパターン】は感じ方,考え方,価値観などを含む実母自身の個人的パターンであり,【世代間伝承的関わりパターン】は実母個人にとどまらない世代を繋ぐ慣習の伝播,母から子への言い伝えであると考えられた。母乳育児をめぐる実母の関わりには個々の関わりに加え,世代間の伝承的な関わりがあると考えられた。また,産褥早期の母乳育児を通して,現代の娘に対して実母が初産婦にどう考え関わっているかには受容,支持など肯定的側面がみられる一方で先行研究の教育的姿勢を呈する関わりも存在していると考えられた。しかし,その教育的背景には,本研究結果の肯定的側面と同様に,かつて自分の時代にはできなかった母乳育児を娘にはさせてあげたいという実母の思いが関与していると考えられた。結 論 母乳育児中の初産婦と実母をめぐる関わりの特徴としては【個人的関わりパターン】と【世代間伝承的関わりパターン】であることが示唆された。