著者
高木 静代 小林 康江
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.227-237, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
25
被引用文献数
2

目 的 本研究の目的は,助産師が中期中絶を受ける女性のケアに携わることに対して感じる困難を明らかにし,記述することである。対象と方法 胎児異常を理由とした中期中絶ケアの経験のある2年目以上10年目未満の助産師9名から,半構成的面接によってデータを得た。データを逐語録に起こしデータを理解した上で,困難についての語りの内容を抽出し,コード化を行った。さらに,コード間の類似性と相違性の比較や,データとの比較を行いながらサブカテゴリー,カテゴリーへと抽象化した。結 果 助産師が中期中絶のケアに携わることに対して感じる困難は,4つのカテゴリーから構成されていた。助産師にとって中期中絶は,人工的に命が淘汰されることであり,亡くなりゆく命を目の当たりにするという受け入れがたい体験であり《絶たれる命に対する苦悩》を感じていた。また,助産師は母親がどのようなケアを望んでいるかが分からず,ケアに迷いが生じていた。これは,十分なケアが行えていないもどかしさを感じるが,一方では十分なケアを行えるだけの余裕もなく,《ケアに対する不全感》を招いていた。また,母親への違和感や,母親から感じ取る近づきにくさは,母親と関わることへのためらいとなり,《母親との関係性の築きにくさ》となった。助産師である自分が,子どもの人工的な死に加担することを役割として認めることができず,助産師自身がどう対応するべきかという戸惑いとなり《ケア提供者になりきれない》と感じ,ケア役割を遂行できないと認識していた。結 論 中期中絶のケアに携わる助産師の困難は,人工的に命が絶たれることへの苦悩や,ケアすることに対して感じる不全感,さらには母親へのケアを行うという関係性の築きにくさや,助産師としてケアを行うという役割に徹することができないという4つから構成されていることが明らかとなった。
著者
今関 美喜子 片岡 弥恵子 櫻井 綾香
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.22-34, 2015 (Released:2015-08-29)
参考文献数
19

目 的 女性に対する暴力スクリーニング尺度(VAWS)は,日本で作成されたDVのスクリーニングツールである。より正確で臨床適用性の高いツールを開発するため,本研究は,妊娠期にDVスクリーニングで用いたVAWSの項目について産褥期にインタビュを行い,質問項目への回答と想起された状況を明らかにすることを目的とした。対象と方法 7項目で構成される原版VAWSに,精神的暴力に関する5項目を加え12項目の改訂版VAWS(案)を作成した。研究参加者は,妊娠期にDVスクリーニングを行った褥婦43名であった。産褥入院中に,改訂版VAWS(案)の質問項目から想起された女性とパートナーの状況等について半構成的インタビュを行った。分析は,内容分析の方法を用いた。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承諾を得て実施した。結 果 改訂版VAWS(案)の項目のうち,精神的暴力を問う項目は多様な認識が認められた。「もめごとが起こったとき,話し合いで解決するのは難しいか」という質問項目に関しては2カテゴリ【言い争いになる】【話し合いができない】が抽出され,「話し合い」には,一方的とお互いにという両方の文脈で語られていた。「大きな声で怒鳴ったりすることはあるか」「パートナーとの関係性の中で安心が得られているか」「彼にコントロールされていると感じるか」「あなたの気持ちを無視するか」の精神的暴力を示した項目については,3つ以上のカテゴリが抽出され,開発者の意図とは異なる認識が含まれた。さらにこれらの項目には【選択肢を間違えた】【判断に悩んだ】が含まれているものがあった。一方,精神的暴力を示す「パートナーのやることや言うことを怖いと感じるか」は複数のカテゴリが抽出されたが怖いと感じた状況が語られた点で類似しており,「壁をたたいたり,物を投げたりすることはあるか」および身体的暴力と性的暴力を示す項目は,1つのカテゴリのみ抽出された。結 論 精神的暴力を示す質問項目については,研究参加者によって様々な認識があることがわかった。今後本研究結果に加えて,量的データから正確度を検討し,より臨床適用性の高いDVスクリーニングツールに改訂する必要がある。
著者
今村 美代子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.49-60, 2012 (Released:2012-08-31)
参考文献数
28
被引用文献数
3 2

目 的 死産または新生児死亡により子どもを亡くした父親が,妻の妊娠中から現在までにどのような体験をしてきたのかという語りを記述し,それを通して父親をより深く理解し,求められるケアの示唆を得ることである。対象と方法 死産または新生児死亡で子どもを亡くした6名の父親を対象に半構成的面接を行い,現象学的研究方法を参考に質的記述的に分析した。結 果 父親の体験は,以下の7つに分類された。1. 予期せぬ死に衝撃を受ける:子どもを突然に失ったという,驚きや混乱からもたらされた精神的衝撃,そして,その後に引き続く無力感,空虚感であった。2. 自分の悲しみをこらえ妻の心身を案じる:自分の悲しみよりも先に,心も身体も傷つけられたであろう妻の立場を気遣っていた。3. 辛さを隠し父親·夫としての役割を果たす:自分の辛さを押し隠し,子どもを送り出す為の諸々の手続きを引き受け,父親と夫の両方の役割を果たしていた。4. 社会に傷つけられながら生活を続ける:男性の備え持つ特性により,悲しみは内に抱え込まれたまま表出されず,更に子どもの死を嘆き悲しむことを認めない社会に傷つけられていた。5. 子どもの死因を知りたいと望む:子どもの死に対して何らかの意味付けを行い,死を受容してゆくきっかけとしていた。6. 父親として在り続ける:子どもが誕生する以前からその存在を愛しみ,子どもを亡くした後も父親として在ることに変わりなかった。7. 人間的な成長を遂げる:父親達は悲しみを抱えながらも「自分自身の力で乗り越えた」,死生観が変容した,人生観が変容した,自分の体験を他者に生かして「共有」したいと願った。結 論 死産·新生児死亡によって子どもを亡くした父親は,予期せぬ我が子の死に大きな衝撃を受け,悲しみを押し隠しながらも父親と夫の役割を果たしていた。表面化されない悲しみは社会からも見過ごされ,時に父親自身も気付き得ないほどであったが,亡き子どもの存在を忘れることはなく,父親として在り続けることで人間的な成長を遂げていた。
著者
中井 かをり 齋藤 いずみ 寺岡 歩
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2018-0005, (Released:2018-11-30)
参考文献数
18

目 的現在,正常新生児は保険診療報酬の対象外であり,正常新生児への看護人員配置の基準はない。正常新生児への看護の安全性と質を上げるための看護人員配置を検討するための基礎的資料が求められている。本研究の目的は,出生直後から生後4日までの正常新生児に対し,産科の病棟内で実施している看護行為と看護時間を明らかにすることである。方 法産科の病棟を有する3施設において,マンツーマンタイムスタディ法により生後0日は出生直後からの8時間,生後1~4日は午前8:30~16:30までの8時間に看護者が正常新生児に対し実施した看護を111日間調査した。結 果対象は正常新生児64名と看護者122名であった。提供の多い看護行為には生後日数による変動がみられた。平均看護時間は,測定8時間のうち児1人当たりに約2時間を費やし,生後日数間に有意差はなかった。結 論本研究により,正常新生児への看護行為と看護時間が明らかになった。今後,さらに正常新生児への看護に専念できる人材の必要性を検討するためのデータの蓄積が望まれる。
著者
辻 恵子 小黒 道子 土江田 奈留美 中川 有加 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1_7-1_15, 2006 (Released:2008-04-25)
参考文献数
37

目 的エビデンスレベルの高い論文を探索し,批判的に吟味する過程を通じて会陰切開の適用を再考することである。方 法臨床上の疑問を明確化するためのEBNの方法論を用いて,「会陰切開・術」,「会陰裂傷」,「会陰部痛」,「新生児」のキーワードを設定し,エビデンスレベルの高い論文およびガイドラインを探索した。RCTのシステマティック・レビューである2つの論文に着目し,批判的吟味を行った。同時に,会陰裂傷を最小限にする助産ケアの知見について検討した。結 果批判的吟味を行った結果,2つのシステマティック・レビューにおける研究の問いは明確に定義されており,妥当性を確保するための必要項目を満たすものであった。これらのシステマティック・レビューから「慣例的な会陰切開の実施は,制限的な会陰切開に比べ,“会陰(後方)の損傷”のリスクを増大させる。また,“創部治癒過程”における合併症のリスクおよび退院時の“会陰疼痛”のリスクを増大させる。“尿失禁”および“性交疼痛”のリスクを軽減させるというエビデンスはなく,“新生児の健康上の問題”が生じるリスクを減少させるというエビデンスは存在しない」との結果が導かれた。また,これまでの助産ケアの知見を検討した結果,会陰マッサージ,会陰保護,分娩体位の工夫などで会陰裂傷を最小限にする可能性が確認された。結 論女性に優しい助産ケアとして,助産師は,会陰裂傷を最小限に防ぐケアの可能性を追求すると共に,エビデンスに基づいた情報を適切な方法で伝え,女性自身が必要なケアを選択できるよう,女性とのパートナーシップを構築していくことが求められる。
著者
廣瀬 直紀 白石 三恵 春名 めぐみ 松崎 政代 吉田 穂波
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.342-349, 2016 (Released:2017-03-08)
参考文献数
30

目 的 震災が妊婦及び児の身体に与える影響は明らかになっていない。本研究の目的は系統的文献レビューを行い,震災が妊婦や児の身体に与える影響を個々の妊娠転帰別,及び対象者の特性別に明らかにすることである。方 法 震災後の妊娠転帰をアウトカムとした論文を集約するため,キーワードを用いて英語及び日本語文献を対象に電子データベース検索(PubMed, CINAHL, CiNii,医中誌)及びハンドサーチを行った。抽出された論文から包含基準,除外基準に基づき論文を選択した後,Risk of Bias Assessment Tool for Nonrandomized Studies(RoBANS)による評価を行い,包含する論文を決定した。全過程は2名の独立したレビュアーにより行われた。結 果 最終的に6編の論文が包含された。アウトカムとされた主たる妊娠転帰は早産,子宮内胎児発育遅延,低出生体重児の3つであった。震災後の妊娠転帰として4編の論文で早産率の増加,1編の論文で子宮内胎児発育遅延率の増加,2編の論文で低出生体重児率の増加が報告されていた。また,対象者の特性別に分析したところ,妊娠初期に被災した群において有意に在胎週数および出生体重が減少,早期早産率および低出生体重児率が増加し,そして児が女児の群において有意に早産率および低出生体重児率が増加するなど,強い妊娠転帰の悪化が報告されていた。結 論 震災が妊婦の早産,低出生体重児の増加につながる可能性が示唆された。また,被災した妊娠週数や児の性別によって震災への脆弱性に差がある可能性が示唆されたことから,こうした要因については今後の災害対応において考慮する必要がある。
著者
高畑 香織
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.251-261, 2015 (Released:2016-02-24)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

目 的 分娩前7日間に妊婦が行った陣痛発来への取り組みの実態と分娩誘発の関連を探索することを目的とした。対象と方法 2013年7月から10月に,病院,診療所,助産所20施設にて,正期産児を分娩し条件を満たした褥婦694名に質問紙調査を行った。有効回答を得られた530名(76.3%)について統計的に分析を行った。結 果1.何らかの陣痛発来への取り組みを実施したのは530名中491名(92.6%)で,その割合は重複回答にて,ウォーキング66%,乳頭刺激55%,スクワット44%,階段昇降42%,鍼灸指圧20%,下剤13%,性交9%であった。2.初産婦ローリスク群において,【ウォーキングを中等度の運動強度で1日最低50分以上7日間合計300分以上実施した】グループでは,分娩誘発を有意に減らしており,オッズ比は0.425(95%CI:0.208-0.866)であった。3.乳頭刺激は自然な陣痛発来を期待できる方法とされているが,研究で推奨されている方法で実行されていなかった。結 論 陣痛発来への取り組みとして運動が上位を占め,特に初産婦ローリスク群ではウォーキングの実施と誘発減少との関連が認められた。
著者
小川 久貴子 安達 久美子 恵美須 文枝
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.2_50-2_63, 2006 (Released:2008-06-30)
参考文献数
53
被引用文献数
2 1

目 的 本研究では,1990年から2005年の10代妊婦に関する国内文献の内容を分析し,今後の課題を明らかにすることである。対象と方法 「医中誌WEB:」及び,「最新看護検索」を用い,キーワードを,『未成年者妊娠,若年初産婦,10代妊娠,思春期妊娠』として検索し,得られた106件の文献内容を分析し,それを分類して検討した。結 果 文献内容を分析した結果,10代妊婦の背景や妊娠から育児に関する実態と今後の課題の合計5項目が明らかになった。その中で,既存文献では,10代妊婦の実態やケア実践への提言は比較的多くなされているが,ケアの効果を実証する研究や10代の年齢による特性の違いを論じる研究は少ないことが明らかになった。さらに,10代女性にとっての妊娠の受容過程や,10代で妊娠することや子育てを経験することが,その社会のなかでその人にどのような意味をもち,健康面にどのように影響するかという心理・社会的状況についても十分には明らかになっていないことが判明した。結 論 今後の10代妊婦の研究では,実践のエビデンスを提供する質の高い研究を目指して,対象者の特性をより明らかにする主観的体験を探求する研究などが重要である。
著者
板谷 裕美 北川 眞理子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.2_58-2_70, 2007 (Released:2008-07-07)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

目 的 人工乳がまだ手に入りにくい,昭和の戦後復興期時代に子育てをした女性の母乳哺育体験が,どのようなものであったのかについて明らかにし,記述すること。対象と方法 第1子を1955年以前に出産し母乳哺育体験をもつ健康な高齢女性13名を対象に,自身の母乳哺育体験に関する半構成的面接法を中心としたデータ収集を行った。インタビューは本人の許可を得て録音し,逐語録作成後エスノグラフィーの手法を参考に質的帰納的に分析した。結 果 13人の女性の母乳哺育体験に関する記述データから,4つのカテゴリー;【良好な乳汁分泌と身体性】,【授乳継続への積極的思考と行動】,【他者による母乳哺育への心理社会的関与】,【母親としての肯定的な自己概念の再形成】と,16のサブカテゴリー;〈良好な乳汁分泌状態の継続〉,〈自然な乳汁分泌促進につながるライフスタイル〉,〈授乳継続と避妊効果〉,〈母乳哺育に関する知識や情報の入手〉,〈自律授乳を当たり前とする授乳慣習〉,〈授乳がもたらす快感情の経験〉,〈離乳時期の延長〉,〈母乳哺育に対するゆるぎない価値信念〉,〈自由な授乳を束縛される苦痛と苦悩〉,〈断乳の他者決定〉,〈実母による強力な支援と信頼〉,〈産婆による差異ある授乳支援〉,〈母乳代替を通じた近隣社会の中での助け合い〉,〈母乳哺育に受け継がれる経験知の伝承と遵守〉,〈母乳哺育スキルのスムーズな獲得と母乳育児への自信〉,〈高い母親役割意識の形成発展〉が抽出された。結 論 人工乳がまだ手に入りにくい戦後復興期時代に子育てをした女性は,自身の良好な乳汁分泌を自覚し,他者による母乳哺育への心理社会的関与を受けつつ,授乳継続への積極的思考と行動をとっていた。そして母乳哺育を通して母親としての肯定的な自己概念の再形成をしていた。当時の女性とその家族には,“子どもを育てるには母乳しかない”という意思や信念が強く存在していたことが示唆された。
著者
乾 つぶら 島田 三恵子 早瀬 麻子 緒方 敏子 時本 秋江 保条 麻紀 新川 治子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.189-197, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

目 的 妊娠末期から産後4ヶ月の母親の睡眠覚醒リズムの特徴と変化を明らかにする。対象と方法 同意を得た妊娠末期の妊婦57名を対象とし,このうち追跡調査できた産後1ヶ月47名,産後4ヶ月34名に縦断調査を行った。睡眠表に一日の睡眠と覚醒を30分毎に連続1週間の記録を依頼し,郵送法で回収した。夜間・昼間・総睡眠時間,最長睡眠時間とその開始時刻及び終了時刻,昼睡眠・総睡眠回数,中途覚醒時間とその回数,及び睡眠覚醒のリズム周期を検討した。結 果 総睡眠時間は妊娠末期7.79時間,産後1ヶ月6.73時間,産後4ヶ月6.91時間であり,夜睡眠時間は各々6.75時間,5.85時間,6.36時間であり,最長睡眠時間は6.39時間,3.46時間,4.13時間であり,いずれも時期による変動があった(p<0.001)。産後,これらの睡眠時間は妊娠末期よりも短縮した(p<0.01~0.001)。夜間の中途覚醒時間は妊娠末期0.42時間,産後1ヶ月1.70時間,産後4ヶ月1.14時間であり,中途覚醒回数は各々0.3回,1.7回,1.5回であり,いずれも時期による変動があった(p<0.001)。産後,中途覚醒は妊娠末期よりも増加した(p<0.001)。妊娠末期から産後4ヶ月は睡眠が分断されても,最長睡眠は0:22から6:50の時間帯にあり,睡眠覚醒のリズム周期は24.04~24.08時間であった。妊娠末期と産後4ヶ月では,最長睡眠時間とその入眠時刻との負の相関(p<0.001~0.05)がみられた。いずれの時期も入眠時刻と夜睡眠時間との負の相関があった(p<0.01~0.001)。結 論 妊娠末期から産後4ヶ月にかけて,総睡眠時間,夜間睡眠時間,および最長睡眠時間が減少し,夜間の中途覚醒が増加しても,最長睡眠時間は夜間にあり,睡眠覚醒のリズム周期は約24時間であることが明らかになった。また,妊娠末期と産後4ヶ月では最長睡眠の入眠時刻が早いほど最長睡眠時間は長いことが明らかにされた。
著者
今野 友美 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.83-93, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
22

目 的 出産後の女性の健康増進を目指す出産後プログラムに参加した母親の参加前後の精神的,身体的健康の変化からプログラムの評価を行った。研究方法 対象はA団体の出産後プログラムに参加する産後2か月~6か月の母親135人である。プログラムの内容は,有酸素運動,コミュニケーションスキル向上のためのワーク,セルフケアであり,週に1回2時間,4週継続して行った。測定用具は精神的健康増進の指標として日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS),主観的幸福感尺度,身体的健康増進の指標として研究者作成の身体的不調,参加動機等である。調査はプログラム初回,プログラム4回目,終了後1か月の3時点で行った。3時点での変化についてはrepeated ANOVAを行った。結 果 プログラム4回目まで進んだ者は112人(有効回答率83.0%),終了後1か月までフォローできた者は90人(回収率80.4%)であった。 身体的不調の総合得点の変化には有意差がみられ(p<.001),プログラム4回目で改善し,その効果は終了後1か月まで持続していた。主観的幸福感の総合得点の変化に有意差がみられ(p=.002),調査時期毎に得点が上昇した。抑うつ度を示すEPDS得点の変化に有意差がみられ(p<.001),プログラム4回目で抑うつ度は軽減し,その状態は終了後1か月まで続いていた。EPDS9点以上の割合は,プログラム初回では23人(20.5%)であったのに対し,プログラム4回目では11人(9.8%)であり,有意に割合は減少していた(p=.025)。結 論 プログラムの参加により,身体の不調は改善し,主観的幸福感は高まり,抑うつ度は軽減されており,それはプログラム終了後1か月でも持続していた。今後の課題として,対照群をおいたプログラムの評価が必要である。
著者
馬場 香里
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.207-218, 2015
被引用文献数
1

<b>目 的</b><br> 児童虐待防止への介入の必要性の判断や介入の評価指標とする児童虐待の本質を捉えた尺度の開発につなげ,さらに将来的な周産期における児童虐待防止への支援の発展と,児童虐待予防活動の基盤づくりへの示唆を得ることを目的とした。<br><b>方 法</b><br> Rodgers(2000)の提唱する概念分析のアプローチ法を用いた。9つのデータベースとして,医中誌Web,CiNii,MEDLINE,CINHAL,PsycINFO,SocINDEX,Minds,National Guideline clearing-house,trip databaseを使用し,検索用語は「児童虐待(child abuse),妊娠(pregnant women),産後(postnatal),育児(child care)」とした。最終的に,英語文献26件,日本語文献32件の計58件と,日本小児科学会の発行している「子ども虐待診療手引き(2014)」を分析対象とした。<br><b>結 果</b><br> 5つの属性【養育者から子どもへの一方的な支配関係】【養育者の自覚の有無に関係しない行為】【子どものwell-beingを害する行為】【子どものwell-beingを保つ行為の欠如】【子どもの状況】,5つの先行要件【養育者の要因】【子どもの要因】【社会環境の要因】【複数要因の重なり】【適切な介入の不足】,5つの帰結【子どもの保護】【養育者の否認と孤独】【サバイバーの健康への影響】【母になったサバイバーの苦悩】【世代間伝播】が抽出された。代用語に「child maltreatment」が抽出され,関連概念に「しつけ」「shaken baby syndrome(揺さぶられっこ症候群)」「Munchhausen Syndrome by proxy(代理ミュンヒハウゼン症候群)」が抽出された。分析の結果,本概念を「養育者から子どもへの一方的な支配関係から成る,養育者の自覚の有無に関係しない行為による子どもの状況を基盤とした,子どものwell-beingを害する行為,及び子どものwell-beingを保つ行為の欠如である」と再定義した。<br><b>結 論</b><br> 本概念分析の結果は,児童虐待の本質を捉えることにつながり,今後の研究において児童虐待を測る尺度を開発する基盤となりうる。また本概念分析により,児童虐待による子どもへの長期的な健康への影響や,次世代への児童虐待の繰り返しの可能性が示され,児童虐待発生前の妊娠期からの予防の必要性,特に周産期で主な支援対象となる母がサバイバーであった場合の母に対する介入の必要性が示唆された。さらに周産期における児童虐待防止への支援については,妊婦のみならず,そのパートナーや子ども,社会環境も含めて支援対象であると認識し,それらの要因に対する適切な介入が必要である。
著者
北川 良子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.345-357, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
31
被引用文献数
4

目 的 本研究の目的は,病院に勤務する助産師が,妊娠・出産・育児をしながら就業を継続していくために必要な要因について明らかにすることである。対象と方法 産科・産婦人科を標榜している336の病院に勤務する,妊娠中もしくは0歳から小学校卒業までの子どもを養育している助産師1,469名を対象に,郵送法による無記名自記式質問紙を用いた量的横断的記述研究である。調査内容は,属性,対象者の健康状態,家族・家庭環境,子ども・保育環境,職場環境,仕事意欲等である。分析方法は各調査項目と『今までの就業継続状況(就業継続群と一時離職群)』『今後の就業継続予定(継続希望群と退職考慮群)』との関連を検討した。結 果 調査票の回収数は986部(回収率は67.1%)であり,有効回答数は951(有効回答率96.5%)であった。対象者の平均年齢は36.8±5.2歳,子どもの平均人数は1.96人で2人が一番多かった。仕事意欲測定尺度得点の平均値は58.7±8.6であった。『今までの就業継続状況』と実父母・義父母の理解・協力の間に有意差が多く見られた。『今後の就業継続予定』では家族の協力・理解との間に有意差はほとんど認められず,職場環境要因の職場の働きやすさ・仕事と育児の両立しやすさ,上司の理解,モデルとなる助産師の存在において有意差が認められた。結 論 病院に勤務する助産師が,妊娠・出産・育児をしながら就業を継続していくために重要な要因は,助産師本人の高い仕事意欲と家族の理解・協力を前提に,育児と仕事の両立しやすい職場環境と上司の理解が就業継続を決定付ける上で重要な要因であることが示唆された。
著者
中込 さと子 堀内 成子 伊藤 和弘
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.44-62, 2004

目的<BR>本研究は, 遺伝的特質を親から子へ引き継ぐことの意味を探ることを中心に据えて, 遺伝性疾患をもつ女性Fさんにとって子どもを産み育む体験を記述することを目的とした。<BR>対象および方法<BR>1) 協同研究者: 軟骨無形成症をもち, 既婚で, すでに1人以上の子どもを得ており, 現在妊娠していない女性Fさんである。<BR>2) 研究方法: 研究デザインは質的帰納的記述研究とした。研究方法は, Giorgi, A.の提唱した現象学的アプローチとし, Heidegger, M.の存在論を前提立場とした。分析は, 第1に協同研究者の語りから生きられた体験 (lived experience) を統合的に記述し, 第2に記述された体験をHeidegger, M。の存在論に基づき研究者が解釈を加えた。データ収集は, 非構成的面接を2002年8月~11月に行った。<BR>結果<BR>Fさんは新生突然変異で出生し, 他の家族に同じ特質の人がいない環境で育った。Fさんは,「障害」と認めたくない母親から, 何事も同級生たちと同じように取り組むことを期待され努力し続けた。しかし高校卒業時より, 社会での自立に向かう過程でさまざまな障壁があり屈辱的な思いもした。しかし, 身障者の人びととの出会いや身障手帳を取得した以降, 社会的に「正当に」評価されたと感じ精神的に安定した。娘が同じ病気だと知って, 娘に対して, Fさん自身が親から育てられた方針とは逆の,「頑張らなくてよい」というこの身体的特質に対する正当な考え方を教えた。そして娘の身体だけでなく, その時々で感じる辛さも理解し, それに対応できるよう先々に準備をした。<BR>またFさんは, 親の会活動に参加し親や当事者たちを支えた。Fさんは「軟骨無形成症」をもった当事者の声を発信する活動と, 当事者としての自分自身の「個人史」を書き始めた。この活動を通して「骨無形成症者」が社会に広く理解されることを願っている。<BR>Fさんの体験の中心的な意味は,「自分の人生をかけて, 娘とすべての当事者を慈しむ」として理解された。中心的意味を形成する事柄として, 1) 他者評価を超えて, 自己を正当に評価する, 2) 生きてきた体験をもとに, 子どもの人生に関与する, 3) 子育てを通じて, 自己の存在の意味が明確になっていく, 4) ありのままの自分たちを受け入れ, 形のないものを志向する, が確認できた。<BR>結論<BR>子どもに遺伝的特質を引き継いだ体験は, 病の体験を引き継ぐ辛さではあったが, 自分の体験をもとに子どもの人生に関与し, わが子の存在によって自己の存在の意味を明確になっていった。またこの遺伝子がこれからも引き継がれるという観点から, 自分たち親子だけにとどまらず, 地域社会の未来の平和に対する志向の拡がりが確認できた。
著者
林 はるみ 佐山 光子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.83-92, 2009 (Released:2009-08-26)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

目 的 本研究は,生殖補助医療で妊娠した女性が,治療の成功から出産に至るまでどのような感情のプロセスをたどるのかを質的研究によって浮き彫りにすることである。対象と方法 研究の参加者は,生殖補助医療によって妊娠し,初めて出産した産後1~6ヶ月の女性で倫理的手続きを経て研究協力の承諾が得られた8名。半構成的面接を行い,その逐語記録をデータとし,現象学的アプローチによって質的記述的に分析した。本研究における感情とは,外界の刺激に応じて絶えず変化する,快・不快,喜び,怒り,悲しみなどの気持ちと定義する。結 果 妊娠から出産への通時的な流れの中で,主要テーマは,【妊娠したことによる使命感と重圧】,【嫉妬心を避けるための気遣い】,【不安に立ち向かうための知恵】,【母親の自覚】,【孤独感からの解放】,【自信の回復】,【不妊や治療経験の肯定的受容】,【成長した自己の確認】,【妊娠の喜びの実感】の9つに集約された。妊娠が判明すると,妊娠の喜びを感じる一方で,祝福されることによる重圧を感じていた。妊婦として受診する時は,不妊治療をしている人の嫉妬心を避けるために気遣いをしていた。妊娠早期から胎児の母親であることを自覚し,妊娠中の不安に立ち向かっていく中で孤独感から解放され,ひとりではないという感情をもつようになっていた。妊娠5ヶ月を転換期として自信が回復し,不妊や治療経験の肯定的受容と成長した自己の確認がみられた。胎児がいつ生まれてもよい状態になると妊娠の喜びを実感していた。以上のようなダイナミックな感情のプロセスが見出された。結 論 生殖補助医療によって妊娠した女性の感情のプロセスは,9つの主要テーマに集約された。妊娠4ヶ月まではARTによって妊娠した女性特有の感情がみられたが,妊娠5ヶ月が転換期となり,通常の妊婦と大きく変わらない感情をもっていた。
著者
麓 杏奈 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.12-22, 2017-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
29
被引用文献数
1

目 的喜ばしい体験と同時に不測の急変に直面することのある助産師の心的外傷体験の実態を明らかにし,その心的外傷体験後の心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)発症リスクやレジリエンス,外傷後成長(Posttraumatic Growth:PTG)との関連を探索することである。対象と方法全国の周産期関連施設と教育機関から,層別化無作為割り付け法で抽出した308施設1,198名の就業助産師に質問紙を郵送した。有効回答者681名(56.8%)のデータから混合研究法を用いて,量的データは統計学的分析を,質的データは自由記載の内容分析を行い,得られたカテゴリと各変数との関連を検討した。結 果心的外傷体験を記述した者は575名(84.4%)で,その内容は【分娩に関連した母子の不測な状態】【助産師の辛労を引き起こした状況】【対象者の悲しみとその光景】【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環境】の4つに分類された。【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環境】という直接外傷体験をした助産師の,日本語版改訂出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale-Revised:IES-R)平均値が最も高く,またPTG平均値が最も低かった。さらに86名(15.0%)がその心的外傷体験を機に退職を検討していた。また,PTSDと就業継続意思(r=−.229),サポートと就業継続意思(r=−.181),PTSDとサポート得点(r=−.143),PTGとサポート(r=.148),PTGとレジリエンス(r=.314)は有意な関連を認めた(p<.001)。結 論直接外傷体験をした就業助産師はPTSD発症リスクが高かった。心的外傷体験をした助産師が職場内のサポートを得ることは,PTSD発症のリスクの低減,離職予防,さらにその助産師を成長させるポジティブな要素として働くことが示唆された。
著者
東原 亜希子 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.120-130, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
28

目 的 胎児が骨盤位である妊婦が鍼灸治療を受けた際の治療経過を追跡し,特に治療に伴う胎動の変化を把握し,鍼灸治療と胎動との関連を探索した。対象と方法 妊娠28週から37週の鍼灸治療を希望する骨盤位妊婦を対象とし,治療前後の心身の反応,不定愁訴の変化,胎動について分析した。胎動の「数」は胎動記録装置(FMAM)を用い客観的指標として把握した。結 果 初産婦11名,経産婦1名の計12名を分析対象とした。年齢の平均は32.7歳であった。12名全員,治療延べ24回中毎回「手足がぽかぽかと温かくなる」と答え,「リラックスして眠くなった」妊婦は治療24回中22回(91.7%)に生じ副作用は認められなかった。「足のつり」「イライラ感」が治療前に比べ治療後有意に頻度が減少した(「足のつり」z=-2.53, p=.011,「イライラ感」z=-2.00, p=.046,Wilcoxon符号付き順位和検定)。胎位変換した頭位群は8名(66.7%),骨盤位のままだった骨盤位群は4名(33.3%)であった。骨盤位診断から治療開始までの日数は,頭位群平均8.6日,骨盤位群27.3日であり,頭位群の方が有意に短かった(t=-3.7, p=.02)。治療開始時期は,頭位群平均31.5週,骨盤位群34.1週であり,頭位群の方が統計的に有意に早い週数で始めていた(t=-2.4, p=.04)。客観的な胎動数の変化として,初回治療時の平均を,「治療前20分」「治療中」「治療後20分」で比較すると,「治療中」に有意差があり,頭位群173.71回/時,骨盤位群105.63回/時と頭位群の方が有意に多かった(t=2.78, p=.02)。対象毎にみると,頭位群では「治療前20分」に比べて,「治療中」または「治療後20分」に胎動が増加していた。結 論 鍼灸治療は,手足が温まり,リラックスして眠くなることが生じ,副作用は認められなかった。「足のつり」「イライラ感」の頻度が治療後有意に減少した。胎位変換率は66.7%であり,頭位群は診断から平均8.6日以内に治療を始め,平均妊娠31.5週までに開始していた。胎動の変化として,頭位群は「治療中」または「治療後20分」に胎動増加が認められた。
著者
山本 佳奈 田淵 紀子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.93-104, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
15

目 的近年,日本において硬膜外麻酔分娩(以下,無痛分娩)は増加傾向を示しており,ニーズの増加が予想される一方,助産師の中には,無痛分娩に対して否定的で,受容しがたいと感じるものがいるとされている。本研究の目的は,無痛分娩に携わる助産師が,どのような思いを抱きケアを行っているかを明らかにすることである。対象と方法研究デザインは質的記述的研究である。無痛分娩に携わった経験のある助産師16名を対象に,半構造化面接を行った。得られたデータから逐語録を作成し,無痛分娩に携わる助産師の思いが語られている部分を抽出し,コード化し,カテゴリに分類した。結 果無痛分娩に携わる助産師の思いは,6のカテゴリに集約された。【無痛分娩にも良さがあるという実感】【無痛分娩を受け入れようとする思い】では,無痛分娩に携わる助産師だからこそ持つ肯定的な意見と,それゆえに無痛分娩の増加に対応していこうとする語りがみられた。一方,助産師は【分娩が安全かつ順調に進行するように支援する難しさ】【無痛分娩に関する知識不足による不安や難しさ】を抱いており,無痛分娩の支援の難しさを感じていた。【無痛分娩に携わることによる自然分娩の良さの再認識】では,無痛分娩と関わる中で生じる自然分娩の良さへの実感が語られていた。以上のカテゴリを背景に,【産婦の希望に沿い無痛分娩の支援をする中で生じる自身の助産師としての思いとの葛藤】がみられた。結 論無痛分娩に携わる助産師は,無痛分娩の良さや支援の難しさを感じ,葛藤していた。その中でも,妊産婦の希望に沿い,安全な無痛分娩となるよう関わっているということが明らかとなった。安全で満足度の高い無痛分娩を提供するためには,助産師が無痛分娩に関する正しい知識を身に付け,また妊産婦の希望や想いに寄り添い,その選択を支える姿勢で関わる事が必要である。
著者
橋爪 由紀子 堀込 和代 行田 智子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.190-201, 2018-12-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
4 4

目 的本研究の目的は,初産の母親が退院から産後4か月までの間に,母乳育児において心配や困難だと感じた出来事を明らかにすることである。対象と方法対象は産後3か月を経過している,母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親11名である。1人につき1回の半構成的面接を行い,得られたデータを質的帰納的に分析した。結 果初産の母親の母乳育児における心配や困難だと感じた出来事として,【母乳育児に順応しない子どもの反応】【うまくいかない授乳方法】【定まらない哺乳パターン】【母乳充足の判断】【順調に増えない母乳分泌量】【乳房・乳頭に発生する苦痛】【母乳育児による日常生活の変調】【母親の意向に沿わない周囲の関わり】の8カテゴリーが抽出された。母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親が,母乳育児についての不安が減り,自分なりの母乳育児ができるようになったと感じた時期は,早い者では産後1か月,遅い者では産後3か月であった。結 論本研究の結果より,助産師は,吸着困難など母乳育児がうまくいっていない母親には,退院後も入院中からの継続した支援を行っていく。また,助産師は母親の抱く母乳不足感に対して,子どもの体重や哺乳量を測定するという,母乳が足りていることを実感させる援助を行う。さらに,助産師は希望する母乳育児ができなかった母親に対して,心理的ケアを行うことが大切である。初産婦は,産後2~3か月まで母乳育児に慣れていないだけではなく,子どもとの生活そのものに慣れていない。そのため助産師は母乳育児支援において,母乳育児の手技や方法だけではなく,母と子2人の生活を考慮して行うことが大切である。