著者
村上 明美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.17-26, 1998-08-10
参考文献数
8
被引用文献数
1

自然分娩の骨盤出口部における産道の形態変化を, 力学的に分析したところ, 以下の「命題」が導き出された.<BR>1) 娩出力が陰門の中心に垂直方向に働けば, 娩出力は骨盤誘導線と一致し, 産道は力学的に合理的な形態変化となるため, 会陰裂傷は生じにくい. 骨盤出口部における産道の形態変化を継続的に観察することにより, 娩出力の働く部位と方向が予知でき, 意図的に娩出力の方向を調整することが可能となるため, 会陰裂傷の予防を図ることができる.<BR>2) 児頭娩出時にdrive angleを小さくすると, 娩出力の方向は骨盤誘導線に近づくため, 会陰裂傷は生じにくい. 児頭娩出時には, 大腿を屈曲する, あるいは体幹を前傾するなど, 体位を工夫しdriveangleを小さくすると, おのずと娩出力の方向が調整され, 会陰裂傷が予防される.<BR>3) 骨盤底筋群の抵抗が小さいと, 娩出力は前方に向かい, 反対に, 骨盤底筋群の抵抗が大きいと, 娩出力は後方に向かう. 娩出力が後方に向かうと, 会陰裂傷が生じやすい. 軟産道組織の軟化を促すことは, 骨盤底筋群の抵抗を小さくし, 会陰裂傷の予防につながる.<BR>以上の観点から助産実践を分析したところ, 具体的かつ理論的に行為を意味づけることができた.
著者
篠崎 克子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.39-50, 2014

<b>目 的</b><br> 助産師を対象に多様な分娩体位の実践の促進或いは阻害影響要因を探索し分析する。<br><b>対象と方法</b><br> 研究デザインは,横断的記述デザインである。過去1年間分娩直接介助を行った助産師を対象に質問紙調査を行った。多様な分娩体位の実践助産師の定義は,3種類以上の体位での分娩介助の実践,妊産婦への多様な分娩体位の情報提供,バースプランの活用,という条件全てを満たす者とした。測定用具は,Alternative Labor Position(ALP)尺度と職務満足感を測定するHuman Resource Management チェックリスト(日本労働研究機構,2003)を用いた。分析は共分散構造分析を用いた。<br> 倫理的配慮は,大学及び該当施設の倫理審査委員会の承認を得た。<br><b>結 果</b><br> 回答が得られた387名を分析対象とした。多様な分娩体位の実践助産師は,124名(32.0%),未実践助産師は263名(68.0%)であった。81.1%の助産師が多様な分娩体位の利点と興味深さに肯定的であったが,60.4%が慣例的に砕石位で分娩を行っていた。ここに助産師の意識と実践に乖離があった。普及理論に基づく「革新性」では,イノベーターとアーリー・アダプターを革新派,アーリー・マジョリティ,レイト・マジョリティ,ラガードを保守派に分け,其々の特徴を分析した。その結果,革新派は,産科単科病棟に所属し,ほぼ正常の妊産婦をケアしている者,分娩体位の種類の数及び妊産婦への多様な体位の情報提供が有意に多かった。<br> 共分散構造分析の結果「多様な分娩体位の実践」の阻害要因は,パス係数が高い順に「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。促進要因は,「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。<br><b>結 論</b><br> 「多様な分娩体位の実践」の促進要因は「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。阻害要因は「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。
著者
秋月 百合
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.271-279, 2009
被引用文献数
2

<B>目 的</B><br> 本研究の目的は,不妊症夫婦において,夫のどのような側面を支援的・協力的と認識しているのか,不妊女性の視点から明らかにすることである。<br><B>方 法</B><br> 不妊治療を受ける関東圏内在住の女性患者24名を対象に,半構造化面接を実施した。不妊や治療に関連して,支援的・協力的と認識する夫の側面(言動・態度)について尋ね,口述内容を質的に分析した。<br><B>結 果</B><br> 分析の結果,以下の5つのカテゴリーが抽出された。1)治療過程への身体的参加;検査や治療のための精液採取,精液検査の受検,タイミングを合わせた性交,内服の励行など,治療上の不可欠な役割を夫が果たすこと,2)子どもや治療への関心;治療の結果を気にかけたり,気兼ねなく治療について話ができたり,夫が子どもや不妊治療に関心を示すこと,3)自主的な健康行動;生殖機能の向上を意識した行動を自主的にとること,4)精神的な支え;妻のストレスや苦悩を受け止めてくれること,妻の心身を気遣ってくれること,夫婦二人の生活の価値を承認してくれること,治療に対する妻の意向を尊重してくれること,5)家事の協力・身の回りの世話;妻の身体を思い遣って,日常的に家事に参加してくれること,入院中や体調が悪いとき,身の回りの世話をしてくれること等であった。<br><B>結 論</B><br> 不妊女性の視点から,夫の支援的・協力的側面として,5つのカテゴリーが明らかになった。「治療過程への身体的参加」,「子どもや治療への関心」,「自主的な健康行動」は,不妊という課題に対し協同的に取り組むべきパートナーである夫にしか果たせない役割であり,一方「精神的な支え」,「家事の協力・身の回りの世話」は,不妊に付随した問題に対する支援的なかかわりを意味しており,夫のみならず家族や友人にも期待できる役割であることが示唆された。
著者
木村 亜矢
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.312-322, 2016
被引用文献数
2

<b>目 的</b><br> 病院に勤務する熟練助産師が分娩第一期の分娩進行を判断していく一連のプロセスの特徴を明らかにすることである。<br><b>対象と方法</b><br> 本研究では,エキスパートの条件を兼ね備え,妊産婦に卓越した助産を実践している助産師を熟練助産師と定義し,研究では総合病院の産科病棟に勤務する4名の熟練助産師を対象とした。データ収集は分娩介助場面の参加観察と半構成的インタビューにより行った。熟練助産師が行う臨床判断の特徴についてカテゴリー化を目的として,質的帰納的に分析した。<br><b>結 果</b><br> 熟練助産師は,初回面会時に分娩進行に影響する分娩3要素,心理的背景,リスク要因を統合して【産婦の全体像の把握】を行いながら,【個別の分娩進行の見通し】を立てていた。その中から分娩進行を阻害する【阻害要因の見極め】を行い,有効な【ケアの選択】をしていた。さらに,選択したケアを実践しつつ,分娩進行における【ターニングポイントの予測的な察知】,または必要に応じた【ターニングポイントの意図的な生み出し】を行っていた。その後,分娩進行におけるターニングポイントを踏まえ,【分娩進行の見通しの立て直し】および【阻害要因の再度の見極め】【新たなケアの選択】を繰り返し,方針の軌道修正を行っていた。以上の分析から,熟練助産師は分娩第一期の分娩進行を判断していく中で,助産師としての信念,熟練した技術を<b>臨床判断の基盤</b>とし,産婦と<b>ともに産む関係の構築</b>を行い,情報把握の手段として活用していることがわかった。<br><b>結 論</b><br> 熟練助産師が行う一連の臨床判断プロセスの中で,分娩進行の変化をターニングポイントとして予測的に察知または意図的に生み出すことは,分娩進行の異常への逸脱を予防し,母子の安全確保に寄与するものである。このプロセスはハイリスクな分娩に対峙する病院勤務の助産師により特徴的なものであると考えられる。
著者
清水 かおり 片岡 弥恵子 江藤 宏美 浅井 宏美 八重 ゆかり 飯田 眞理子 堀内 成子 櫻井 綾香 田所 由利子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.267-278, 2013 (Released:2014-03-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

目 的 日本助産学会は,「エビデンスに基づく助産ガイドライン―分娩期2012」(以下,助産ガイドライン)をローリスク妊産婦のスタンダードケアの普及のため作成した。本研究の目的は,助産ガイドラインで示された分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所での現状を明らかにすることを目的とした。方 法 研究協力者は,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の分娩を取り扱っている病院,診療所,助産所の管理者とした。質問項目は,分娩第1期に関するケア方針18項目であった。調査期間は,2010年10月~2011年7月であった。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号10-1002)。結 果 研究協力の同意が得られた施設は,255件(回収率37.3%)であり,病院118件(回収率50.2%),診療所66件(20.8%),助産所71件(54.2%)であった。妊娠期から分娩期まで同一医療者による継続ケアの実施は,助産所92.9%,診療所54.7%と高かったが,病院(15.3%)では低かった。分娩誘発方法として卵膜剥離(病院0.8%,診療所3.1%,助産所1.4%)および乳房・乳頭刺激(病院0%,診療所1.5%,助産所5.6%)のルチーンの実施は低かった。入院時の分娩監視装置による胎児心拍の持続モニタリングの実施は,助産所の38%が実施していた。硬膜外麻酔をケースによって行っているのは,病院の31.6%,診療所の31.3%であった。産痛緩和のための分娩第1期の入浴は,助産所では92.7%,病院48.3%,診療所26.7%で可能とされていた。産痛緩和方法として多くの施設で採択されていたのは,体位変換(95%),マッサージ(88%),温罨法(74%),歩行(61%)等であった。陣痛促進を目的とした浣腸をケア方針とする施設は非常に少なかった(病院1.7%,診療所9.1%,助産所1.4%)。人工破膜をルチーンのケア方針としている施設はなかった。結 論 分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所における現状と助産ガイドラインのギャップが明らかになった。本研究の結果を基準として,今後助産ガイドラインの評価を行っていく必要がある。本研究の課題は,回収率が低かったことである。さらに,全国のケア方針の現状を明確化する必要がある。
著者
天谷 まり子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.310-318, 2015 (Released:2016-02-24)
参考文献数
17

目 的 糖尿病をもつ女性の妊娠から出産にいたるまでの過程における体験を見出すこと。対象と方法 研究参加者は糖尿病を基礎疾患にもち,妊娠し生児の出産を体験した女性。研究デザインは質的記述的研究とし,データ収集は半構成的面接,分析方法はグラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析手法を用いた。分析レベルはアクシャルコーディング段階までとし,現象の抽出と現象ごとのカテゴリー関連図による,ストーリーラインの生成を行った。結 果 研究参加者は8名であり,初産婦・経産婦,経膣分娩・帝王切開術,1型糖尿病・2型糖尿病と背景はさまざまであった。8名分のデータからカテゴリー関連図をもとにパラダイムを統合させた。結果,糖尿病をもつ女性の妊娠から出産にいたるまでの体験として,【自らの意思により妊娠を選択する】,【試行錯誤の中で主体的に血糖コントロールに挑む】,【妊娠による食事の変化と格闘する】,【おなかの中の子どもをあるがままに受け入れる】という,4つの現象が見出された。また,各々の現象のプロセスとしてのストーリーが導かれた。結 論 糖尿病をもつ女性の妊娠から出産にいたるまでの体験は,自らの意思で妊娠を選択することによる血糖コントロールへの意識の高まり,迷いながらも妊娠中の血糖コントロールにおいて自分に合った方法を主体的に見つけようとする挑戦,妊娠によって迫られる食事の見直しや調整という格闘,おなかの中の子どもを奇形や疾患の有無に関わらず自分の人生の中に受け入れるというものであった。それは,独力で妊娠と糖尿病の適応調整を行うことであり,そこに葛藤や苦痛が伴う体験であった。そのため,助産師においては,糖尿病をもつ女性の主体性を尊重し,そばに寄り添いながら身体的にも心理的,社会的にも支えていくことにより,妊娠や出産にまつわる体験をwell-beingに導くことが望まれる。
著者
平出 美栄子 宮崎 文子 松崎 政代
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.87-97, 2015 (Released:2015-08-29)
参考文献数
30

目 的 本研究は,助産所出生数の減少を解明する前提の調査研究とし,病院,診療所,助産所の選択理由の比較について,マーケティングの概念を用いて調査·分析及び考察することを目的とする。対象と方法 調査は,都内の保健センター,助産所,乳幼児教室の利用者などで,母親725名を対象に質問紙調査を実施した。分析対象は389名である(有効回答率53.7%)。調査内容は,属性要因,出産施設の選択理由,選択する際の影響要因に関する内容である。分析では出産した施設別に,大学病院·病院をA群,診療所をB群,助産所·自宅をC群に分類し,属性要因とマーケティング·ミックス4P―Product, Price, Place, Promotion―の内容を3群で比較分析した。医療におけるProductは,ケアや医療サービス,医療行為とした。調査期間は,2013(平成25)年2月から3月末である。結 果 高年初産婦は,A群がB·C群に比べ多かった(p=0.027)。施設を選択する際の影響要因は,A群がB·C群に比べ「35歳以上だから」という回答が多かった(p<0.001)。出産施設の選択におけるProductの内容では,C群の7割が「健診時間が長く丁寧」「自然出産」「フリースタイル出産」「出産まで助産師が付く」「母乳指導」「母児同室」を選択の理由としていたが,A·B群では3割程度であった。また,A群は「毎回医師の健診がある」「規模が大きい」,B群は「毎回医師の健診がある」「個室がある」「豪華な食事」の回答が多かった(p<0.001)。Priceでは,A群は「出産費用が安い」(p<0.001),A·B群は「妊婦健康診査公費補助券が使える」の回答が多かった(p=0.015)。Placeでは3群の半数が「自宅近く」を回答していた。結 論 助産所の出生数減少に影響を与えると考えられるのは,高年初産婦(35歳以上)という理由及び,助産所が提供しているProduct(サービス·ケア)と大学病院·病院群,診療所群の妊産婦が要望しているサービス·ケアに差があることである。
著者
飯田 真理子 新福 洋子 谷本 公重 松永 真由美 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.187-194, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
20

HUG(Help-Understanding-Guidance)Your Baby育児支援プログラム(以下HUGプログラム)は米国,ノースカロライナ州のファミリーナースプラクティショナーであるJan Tedder氏により開発されたプログラムである。このHUGプログラムは,新生児を家族に迎えたばかりの両親に分かりやすく新生児の行動を説明し,育児のスキルを伝え,両親が児の行動を正しく理解し,出産後に肯定的な育児行動を継続することを目標としている。今回HUGプログラムを日本において実施するにあたり,日本語版の教材を作成しプログラムを開発したので,その内容を報告する。作成にあたり,原版開発者との協働で英語版HUGプログラムを日本語へ翻訳した。英語版を研究者らが日本語へ翻訳し,そのバックトランスレーションが行われ,英語のプログラムとの内容妥当性を確認された日本語版HUGプログラムを開発した。翻訳した教材はHUGプログラム内で使用するスライド,2つのスキルを紹介したリーフレット,母乳育児の道のりを示したリーフレット,新生児の行動をまとめたDVDである。HUGプログラムの構成は次の通りである:育児に使える2つのスキル「新生児のゾーン」「新生児の刺激過多の反応」の紹介,新生児が示す刺激過多の反応への対処方法,順調な母乳育児のコツ,2つの睡眠パターンの紹介である。そしてその後はおくるみと赤ちゃん人形を用いたおくるみレッスンと育児経験者から子育ての苦労やヒントを聞く,という構成である。HUGプログラム内で使用している教材は参加者に配布し,自宅で繰り返し活用できるようにしている。現在はプログラムの目標の達成度を測定している。参加者の反応等の分析を経て,日本の子育て文化を考慮した日本語版HUGプログラムの更なる発展と普及に向けて,教育活動を続けていく予定である。
著者
小川 久貴子 安達 久美子 恵美須 文枝
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1_17-1_29, 2007 (Released:2008-07-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1

目 的 本研究は,10代女性が妊娠を継続するに至った体験がどのような意味をもっていたのかを探求し,その特徴を明らかにすることである。対象と方法 研究協力の承諾が得られた10代で妊娠した女性8名を対象に,半構成的面接を3~4回(1.妊娠30週以降,2.産褥入院中,3.産後1ヶ月)行った。得られたデータの逐語録を,現象学的研究方法を参考にして質的記述的に分析した。結 果 10代女性が妊娠を継続するに至った体験は,Aは「苦労した生い立ちからの早期脱却と,結婚出来なくても母親になりたいという強い願望」,Bは「過去の中絶の後悔から今回は産むという決意の元,両親の祝福も受けた価値ある妊娠」,Cは「出会い系(IT)で知り合った相手との予定外妊娠に対する困惑と共に,実父の承認を得るための学業への前向きな取り組み」,Dは「過去の中絶の後悔から,今回は義母の猛反対や経済的に困難な状況下でも産むという決意」,Eは「彼の家族との繋がりにより新しい家庭を築く喜びと共に,医療者による中絶や母親役割を前提にした関わりへ反発」,Fは「予定外の妊娠による心身の辛さと共に,合格大学を退学したくないため学業との両立を決意」,Gは「困惑した予定外妊娠にもかかわらず周囲の後押しがあり,友人から疎外された中でも新しい家庭へ希望を抱く」,Hは「過去の中絶の後悔から,猛反対の両家を説得する決意と共に,妊娠や母になるための準備に価値を見出す」であった。また,妊娠継続に至る体験の特徴では『中絶体験の後悔』,『新しい家庭を築く憧れ』,『周囲の受け入れ』,『自分の意志を貫く強さ』,『医療従事者の否定的対応』の5点が明らかになった。結 論 予定外妊娠が多い10代女性は妊娠を継続させるために,学業の両立や家族関係の調整など多面的な体験を多くしており,それぞれに固有の意味が存在していた。また,8例の体験の特徴として,5つの事項を取り出すことが出来た。
著者
田中 和子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.279-289, 2013 (Released:2014-03-05)
参考文献数
15

目 的 インドネシアバリ島の現地男性と結婚した日本人女性が,バリ=ヒンドゥー教の思想と子育てとの関係をどのように捉え,子育てをめぐりどのような生活体験をしているのかを明らかにする。対象と方法 研究者はインドネシア,バリ島に約3ヶ月間滞在し,ヒンドゥー教の思想をもつ男性と結婚した日本人女性11名を対象に,バリ=ヒンドゥー教の思想に関連した生活体験がどのように子育てに影響を与えているか,半構造的面接を行い,帰納的に分析し検討した。結 果 分析の結果,12個のカテゴリーと39個のサブカテゴリーが抽出された。 【バリの生活に馴染む努力】を積極的にする女性たちは,【ヒンドゥー教を受容】することが容易であり,【子どもに民間療法を取り入れる】ことも受容的であった。一方,ヒンドゥー教の受容が難しい場合,【子どもに民間療法を取り入れない】傾向があった。女性たちは,【ヒンドゥー教受容の難しさ】を感じながらも,【みんなで子どもを育てる】バリは日本よりも【子育てに適した環境】と捉えていた。また,女性たちは肯定的に【ヒンドゥー教と子どもの健康は関係する】と考えており,【大家族の生活に戸惑い】ながらも,【みんなで子どもを育てる】ことに感謝していた。女性たちは,【男児尊重の思想を否定】し,かつ思想に関して【子どもに選択肢を与えたい】という思いが,【ヒンドゥー教受容の難しさ】の要因として考えられた。ヒンドゥー教の受容の程度はさまざまであったが,女性たちは【バリで子どもを育てる覚悟】があった。結 論 バリ島で現地男性と結婚し,そこで暮らす日本人女性にとって,バリ=ヒンドゥー教の思想が子育てに大きく影響していた。
著者
丸山 菜穂子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-33, 2017-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
47
被引用文献数
4

目 的妊婦の孤独感の程度と背景,社会的関係性から関連要因を探索することおよび,孤独感の母性役割の同一化,マイナートラブルへの影響を探索することを目的とした。孤独感は「社会的関係性における願望が量的,質的に満たされないときに生起する主観的な不快感情」と定義した。対象と方法2015年7月から10月に都内近郊の5周産期医療施設にて,妊娠34週以降の妊婦1,675名を対象に,改訂版UCLA孤独感尺度(得点範囲は20点から80点で高いほど孤独感が高い),ソーシャルサポートの量と満足度,女性に対する暴力スクリーニング尺度(DVスコア),母性役割の同一化,マイナートラブルを含む質問紙調査を行った。有効回答1,310部(78.2%)を統計的に分析した。結 果1. 孤独感得点の平均は33.1点であり,高い妊婦は平均42.3点の先天性胎児異常を指摘されている妊婦,平均38.8点のシングルマザー,平均37.0点の中卒の妊婦であった。2. 重回帰分析の結果,サポートの満足度が低いほど(β=−.331),サポート量が少ないほど(β=−.161),世帯収入600万円以上を基準として300万円以上600万円未満(β=.104),300万円未満(β=.141)と低いほど,精神疾患の既往があり(β=.111),DVスコアが高いほど(β=.069)孤独感は高かった(調整済R2=.21)。3. 孤独感が高い妊婦は母性役割の同一化が低かった(β=−.428, p=.000)が,孤独感とマイナートラブルの発症頻度との関連は認められなかった。結 論孤独感の高い妊婦は胎児異常を指摘されている妊婦と社会的脆弱性をもつ妊婦であった。早期発見のために精神状況とともにサポート・経済状況,DVについて情報収集する必要がある。孤独感の高い妊婦の母親になる過程を支えるために,助産師の継続的個別的支援が必要である。
著者
園田 希 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.72-82, 2012 (Released:2012-08-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2

本研究は,正常分娩において人工破膜が実施された状況を振り返ることで,正常分娩における人工破膜の実態を明らかにすること,そして人工破膜と分娩経過,児の娩出方法,児に与える影響を明らかにすることを目的とした。なかでも,児の娩出方法に関しては検証されておらず,明らかになっていない。そのため,これらを明らかにすることは,長年伝統的に行われていた人工破膜を,根拠に基づき実施するための一助となると考える。 調査対象は,助産所,病院で正常妊娠経過を辿った初産婦326名,経産婦435名の計761名とした。過去の診療録や助産録などより情報を収集し,自然破水群,人工破水群に分類した。分娩経過として,分娩第 I 期,第II期,分娩所要時間,促進剤の使用の有無,を比較した。分娩第 I 期,第II期,分娩所要時間,については,Mann-Whitney U検定を,促進剤の使用の有無に関しては,χ2検定を実施した。また,児の娩出方法として,医療介入の有無,新生児の予後について比較した。医療介入の有無,新生児の予後についてはχ2検定を,度数が5以下の場合は,フィッシャーの直接確率検定を採用した。 その結果,破水から児娩出までの所要時間に関して,初産婦においてのみ,自然破水群は中央値74分,人工破膜群では中央値58分で人工破膜群が有意に短かった(p=.029)。 分娩第II期の所要時間は,経産婦でのみ,自然破水群は中央値18分,人工破膜群では中央値16分で,人工破膜群が有意に短かった(p=.002)。 児の娩出方法は,自然破水群の初産婦と比較すると,人工破膜群の初産婦で【圧出分娩】【圧出分娩および器械分娩の併用】が有意に高率であった(χ2=5.420, p=.020, χ2=7.071, p=.001)。 初産婦において,破水から児娩出までの所要時間の平均は,人工破膜群が有意に短かったが,初産婦の人工破膜群において【促進剤の使用】が有意に高率であったこと,促進剤の使用時期は人工破膜後からが最も多かったことが,破水から児娩出までの所要時間の平均が有意に短いという結果をもたらしたと考えられる。 そのため,人工破膜による分娩促進の効果は,初産婦・経産婦とも必ずしも効果があるとは言い難く,分娩促進目的での人工破膜の実施は,頸管開大度から判断するだけでなく,産婦の身体的,精神的状態,産婦の希望を考慮し,慎重に判断していく必要がある。 なかでも,初産婦では,人工破膜後に圧出分娩や促進剤の使用などの医療介入を必要とする可能性が示唆された。そのため,初産婦に対して人工破膜を実施する際には,人工破膜後に生じる可能性のある弊害を考慮し,その必要性を慎重に判断していく必要がある。
著者
佐々木 敦子 武井 とし子 三輪 百合子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-27, 1989-12-25 (Released:2010-11-17)
参考文献数
20

妊婦体操や分娩時の呼吸法については, 積極的な奨励により広く実施されている。本研究は, 妊娠の過程に伴う呼吸機能を測定し, 分娩時に用いられる呼吸法の指導に関する基礎的資料を得ることを目的とした。対象は正常経過の妊婦8人と非妊婦25人である。妊婦では, 妊娠初期, 中期, 後期の3回測定した。内容は, (1) 肺活量の測定, (2) 呼気ガス分析 (呼吸法実施時, 運動負荷実施時), (3) 心拍数 (運動負荷実施時), (4) 二酸化炭素分圧測定 (呼吸法実施時) である。呼吸法は腹式深呼吸, 胸式深呼吸, 短促呼吸および努責の代わりに息止めを行い, 各呼吸法の間に安静3分間をとって実施した。運動負荷は安静2分間を前後に4METS設定で10分間実施した。結果より腹式深呼吸, 胸式深呼吸では呼吸効率は良いが, 短促呼吸や息止めでは二酸化炭素のwashout効率が悪いため, 十分な深呼吸が必要である。運動負荷による換気量や心拍数は, 妊娠の経過とともに増加した。
著者
中村 幸代 堀内 成子 毛利 多恵子 桃井 雅子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.205-214, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

目 的 ブラジル在住のブラジル人妊婦を対象に,冷え症の自覚がある妊婦の体温及び,妊娠中の随伴症状や日常生活行動の特徴の実態を分析する。対象と方法 妊娠20週以降のブラジル在住ブラジル人妊婦200名を対象とし,体温測定と質問紙調査を行った。調査期間は2007年10月から2008年2月である。結 果 1,冷え症の自覚があった妊婦は114名(57%)であった。前額部深部温と足底部深部温の温度較差の平均は,冷え症の自覚がある妊婦は,2.8℃,冷え症の自覚がない妊婦は2.0℃で,2群間に有意差が認められた(p=0.018)。2.冷え症の自覚と冷え症を判断する基準(寺澤,1987)との比較にて,冷え症の自覚がある妊婦のうち,冷え症を判断する基準(寺澤,1987)でも冷え症である妊婦は70.2%であり,冷え症の自覚がない妊婦のうち,89.5%は冷え症を判断する基準(寺澤,1987)でも冷え症ではないと判断できた。3.妊婦の冷え症と随伴症状・日常生活行動との関連性では,「冷えの認識」と「冷えに関連した妊娠に伴う症状」は相互に因果関係は認められなかった。「不規則な生活」は「冷えに関連した妊娠に伴う症状」に正の影響を与えていた(β=0.41, p=0.049)。さらに「不規則な生活」は「冷えに関連した妊娠に伴う症状」を介して「陰性食品の摂取」に正の影響を与えていた(β=0.38, p=0.021)。結 論 1.冷え症の自覚がある妊婦の,前額部深部温と足底部深部温の温度較差は,冷え症の自覚がない妊婦に比べて有意に大きい。冷え症の自覚は,客観指標となる温度較差を反映している。2.冷え症の自覚がない妊婦と,冷え症を判断する基準(寺澤,1987)の一致率は約8割と高かった。3.ブラジル人妊婦は,「深部温温度較差」や「冷えの認識」と,「冷えに関連した妊娠に伴う症状」や「不規則な生活」や「陰性食品の摂取」との間に因果関係はなく,日常生活行動が冷え症に影響を与えない。
著者
中村 幸代 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.94-99, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
11
被引用文献数
3 6

目 的 冷え症と早産,前期破水,微弱陣痛,遷延分娩,弛緩出血との関連性について分析することである。対象と方法 研究デザインは対照のある探索的記述研究であり,後向きコホート研究である。調査期間は,2009年10月から2010年10月,調査場所は,早産児の収容が可能な首都圏の産科と小児科を要する総合病院6箇所である。 研究の対象者は,入院中の分娩後の日本人女性2810名である。調査方法は,質問紙調査と医療記録からのデータ収集であり,質問紙の回答の提出をもって承認を得たものとした。結 果 2810名を分析の対象とした。冷え症と異常分娩である5因子を観測変数として,構造方程式モデリングを施行し,パス図を作成した。冷え症から早産へのパス係数は0.11(p<0.001),冷え症から前期破水へのパス係数は0.12(p<0.001),冷え症から微弱陣痛へのパス係数は0.15(p<0.001),冷え症から弛緩出血へのパス係数は0.14(p<0.001),冷え症から遷延分娩へのパス係数は0.13(p<0.001)であり,いずれも正の影響を与えていた。また,前期破水から早産へのパス係数は0.05(p=0.013),前期破水から微弱陣痛へのパス係数は0.07(p<0.001),微弱陣痛から弛緩出血へのパス係数は0.08(p<0.001)であった。そして,微弱陣痛と遷延分娩の誤差間のパス係数は,0.24(p<0.001)であり相互に影響を及ぼしあっていた。結 論 冷え症は,早産,前期破水,微弱陣痛,遷延分娩,弛緩出血のすべてに影響を与えている。各異常分娩間の関係では,前期破水は早産に影響を与えており,さらに前期破水は,微弱陣痛に影響を与え,微弱陣痛は弛緩出血に影響を与えている。また,微弱陣痛と遷延分娩は相互に影響し合っていた。
著者
常盤 洋子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.27-38, 2003-12-31 (Released:2010-11-17)
参考文献数
29
被引用文献数
9 16

目的産後うつ傾向は産褥早期に対処されることが期待される. そこで, 出産体験の自己評価と産褥早期における産後うつ傾向の関連を明らかにし, 出産後の心理的援助のあり方を検討する資料を得ることを目的とする。対象および方法研究期間は平成12年4~9月。産後1~7日目の褥婦1,500名を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した (有効回答数932票, 回答率62.1%)。調査内容は, 出産体験の自己評価, 産後うつ傾向, 出産体験の自己評価に影響を及ぼす産科的要因, 心理・社会的要因であった。結果出産体験の自己評価が低い場合, 産後うつ傾向をもたらす可能性が高いことが明らかになった。また, 初産婦, 経産婦ともに「信頼できる医療スタッフへの不満」,「出産年齢が若年」,「出産時の不安が強い」が産後うつ傾向を規定する要因として抽出された。結論出産体験の自己評価に満足が得られない場合には, 初産婦, 経産婦ともに産後うつ傾向が高くなることが示唆された。また, 分娩期における信頼できる医療スタッフの存在, 出産時の不安への対処は, 出産体験の満足度を高め, ひいては, 産後うつ傾向の予防に貢献すると考えられる。
著者
永森 久美子 土江田 奈留美 小林 紀子 中川 有加 堀内 成子 片岡 弥恵子 菱沼 由梨 清水 彩
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-27, 2010 (Released:2010-10-28)
参考文献数
23
被引用文献数
4

目 的 母乳育児中および母乳育児の経験がある母親の体験から,混乱や不安を招き,母親の自信を損なうなどといった効果的でなかった保健医療者のかかわりを探索する。対象と方法 研究協力者は都内の看護系大学の母乳育児相談室を利用した母親35人と,第2子以降の出産をひかえた家族ための出産準備クラスに参加した母親5人の計40人であった。データ収集は研究倫理審査委員会の承認を得て,2007年8月~11月に行った。データ収集方法は半構成インタビュー法で,内容は,「授乳や子どもの栄養に関して困ったこと,不安だったことは何か」,「それらの困ったこと・不安だったことにどのように対処したか」などであった。録音されたインタビュー内容を逐語録にしたものをデータとし,母親が受けた支援で,「混乱を招いた」,「不安になった」などというような医療者のかかわりを抽出した。抽出された内容をコード化しサブカテゴリー,カテゴリーに分類した。結 果 母乳育児をしている母親が混乱や不安を招くような保健医療者のかかわりとして,【意向を無視し押し付ける】,【自立するには中途半端なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期待はずれなアドバイス】,【一貫性に乏しい情報提供】の5つのカテゴリーが抽出された。母親は保健医療者から頻回授乳や人工乳の補足を強いられているように感じ,授乳の辛さや不安を受け止められていないと感じていた。その結果,母親は後悔の残る選択をし,授乳に対して劣等感や失敗感を抱いていることがあった。また,母親が自分で判断・対処できるようなかかわりでなかったために,自宅で授乳や搾乳の対応に困難を抱えたままでいることもあった。結 論 母親は母乳育児への希望を持っていたが,保健医療者のかかわりにより混乱や不安を感じていることがあった。保健医療者には,母親の意向を考慮した母親主体の支援,母親が自立していくための支援,母親の気持ちを支える支援,適切な観察とアセスメント能力,一貫性のある根拠に基づいた情報提供が求められていると考えられた。