著者
橋本 佳奈子 小林 康江
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.103-114, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
30

目 的緊急帝王切開で出産した初産婦の産後4か月までの出産に対する思いを明らかにする。方 法研究デザインはライフストーリー法を参考にした質的記述的研究である。母児ともに妊娠産褥経過が良好な緊急帝王切開で出産した初産婦3名に対し,診療録からデータ収集をした上で,半構成的面接を産後2週・4から6週・4か月の3回に縦断的に実施した。面接は出産体験について,体験したことや思考したことを自由に語ってもらった。結 果本研究では,3名の初産婦の緊急帝王切開に対する思いと,出産体験を意味づけるストーリーが語られた。母乳育児の成功体験により出産への後悔を払拭するA氏のストーリー,育児への自信と子供との絆を高めることで,経膣分娩への気持ちを整理し出産を肯定的に捉えていくB氏のストーリー,体験を語ることや自分がこの子の母親であると思える過程を経て,出産体験を意味づけしようとしているC氏のストーリーであった。緊急帝王切開に対する思いは,出産後育児を行う中で変化していた。結 論緊急帝王切開で出産した女性は,出産への自信や母親としての自信を喪失し,出産を不本意に思う気持ちと児が無事であったことに安心する気持ちの間で揺らいでいた。育児を行い子供や家族との関係を築く中から,産後4か月には緊急帝王切開であっても自分の出産に他ならない体験であると出産への思いは変化し,さらに第3者に思いを語ることで出産体験の受容は促進されていた。
著者
猪目 安里 井上 尚美 吉留 厚子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.81-91, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

目 的分娩施設のない離島に住む母親の妊娠期・産褥期のセルフケア行動の実態を明らかにし,セルフケア行動の特徴に合わせた保健指導を考える資料とする。対象と方法分娩施設のない離島に住む分娩後1年以内の母親9名を対象に,インタビューガイドに基づき,半構造的面接法を用いてフォーカス・グループ・インタビューを行った。結 果分娩施設のない離島に住む母親は,妊娠期は【経験者やインターネットから情報収集】を行い,【家族の協力を得ながら自分の体と胎児の為のセルフケア】を行っていた。また,《妊娠に伴う体調の変化に応じて自ら病院を受診》,《自分で出血を観察しながらの対処行動》という【早めの対処行動と症状の観察】と,《島の昔からの文化にならった食事を摂る》の【島に伝承された食文化にもとづいたセルフケア】という特徴があった。産褥期は【産後の回復に向けたセルフケア】を行っていた。《体調の変化に応じて早期の常備薬の内服,病院受診》,《乳房トラブルに対して情報源にアプローチし,対応》する【異常症状に対して行動・対応】,《産後の針仕事と水仕事はしてはいけない》,《母乳をたくさん出すために魚汁を必ず飲む》という【島の昔からの文化にならったセルフケア】に特徴があった。結 論分娩施設のない離島に住む母親は,分娩施設がなく,産科医・小児科医が常駐ではない環境にあるからこそ異常に移行しないようにしなければならないという強い思いから,異常症状を自身の感覚を通して敏感に察知し,自ら判断・行動していた。分娩施設のない離島における妊産婦が安心・安全に妊娠期・産褥期を過ごすためには,島に伝承されているセルフケア行動も取り入れつつ,母親が身体の変化に敏感になり,感覚を通して変化を察知できるように,医療従事者は正しい情報を与え,担保していくような関わりが必要かもしれない。
著者
新川 治子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.36-47, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

目 的妊娠による「マイナートラブル」の有症率と頻度の産後1年間の変化と,産後各期の有症数に関連する因子を明らかにすることである。対象と方法広島県内の4医療機関に妊婦健康診査又は出産準備教育に来院した妊婦を対象にした。調査は自記式質問紙を用い,妊娠期,退院時,産後1か月,4か月,1年の計5回縦断的に行った。内容は妊娠末期のマイナートラブル29症状の有無と頻度,分娩様式,栄養方法,育児負担感,母親の乳児への愛着尺度日本語版(以下,MAI-Jと略す)と日本語版エジンバラ産後うつ病自己評価票(以下,EPDSと略す)である。一元配置分散分析で妊娠期からの有症数の変化,カイ二乗検定で各症状の有症割合,積率相関係数及び対応のないt検定で有症数と各因子との関連を検討した。結 果妊娠期は1566名に配布,回収数681名(回収率43.5%)中,妊娠末期の回答422名(有効回答率62.0%),退院時126名,産後1か月88名,産後4か月79名,産後1年70名を対象とした。マイナートラブル数の平均は分娩後に経過と共に減少していた(F=130.93, p<0.01)。症状別では22症状の有症率が有意に減少し,3症状が産後に増加,4症状が不変であった。退院時及び産後1か月時のマイナートラブル数は,産後1か月から1年までのEPDS得点(r=0.39~0.58, p<0.01),及び育児負担感得点(r=0.30~0.44, p<0.05)と有意に相関した。結 論本調査により妊娠期のマイナートラブル数は産後に影響すること,また産後のマイナートラブル数と産後うつや育児負担感との関連が確認できた。これは快適な育児は産後からではなく,妊娠期からのケアが重要であることを示すものである。妊婦が体験している不快症状を「マイナートラブル」と軽視せず,1つでも症状が改善するよう支援する必要がある。
著者
秋月 百合 藤村 一美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.30-39, 2007
被引用文献数
7

<B>目 的</B><br> 本研究の目的は,わが国における病院勤務助産師のバーンアウトの実態を明らかにすることである。<br><B>対象と方法</B><br> 全国の産科診療を行う72病院に勤務する839人を対象に,自記式質問紙を用いた量的横断的調査を実施した。バーンアウトの測定にはMaslach Burnout Inventry(MBI)尺度を用いた。MBI下位尺度と基本的属性,助産師特性,勤務特性,勤務施設特性,職務満足,仕事継続意向,勤務病棟での働きやすさの認識との関連をみるために,一元配置分散分析,t検定ならびに相関分析を行った。<br><B>結 果</B><br> 回収率は87.2%,有効回答数はn=708であった。対象者の平均年齢は35.2歳であった。各下位尺度の平均得点は,「情緒的消耗感」15.67±4.50,「脱人格化」11.89±4.32,「個人的達成感の後退」20.61±4.30であった。婚姻歴,助産・産科看護経験年数,1日勤務時間,月残業時間ならびに有休消化等と情緒的消耗感ならびに脱人格化との間に有意な関連が見られた。職位ならびに勤務形態と個人的達成感の後退との間に有意な関連が見られた。職務満足と個人的達成感の後退の間に,仕事継続意向と情緒的消耗感ならびに個人的達成感の後退との間に負の相関関係があることが明らかになった。<br><B>結 論</B><br> わが国における病院勤務助産師のバーンアウトは,看護師を対象とした先行研究と比較して情緒的消耗感,脱人格化は同様もしくは低い傾向に,個人的達成感の後退においては低い傾向にある可能性が示唆された。因果関係は明確ではないが,仕事満足ならびに仕事継続意向とバーンアウトとの間に関連があることが示唆された。今後,各医療機関において事業場内産業保健スタッフ等による病院勤務助産師へのサポート体制を整備すること,助産師の配置を拡大すること,新人助産師への卒後教育を充実させることの重要性が示唆された。
著者
田辺 けい子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-47, 2015

<b>目 的</b><br> 2014年現在でも決して少なくなく,将来的にも増加が見込まれる子どもを産まない女性たちの生殖観や身体観に着目し,これを明らかにすることによって女性の健康支援の在り様を考察することである。<br><b>対象と方法</b><br> 聞き取り調査に基づく質的研究である。対象は30才から80才代までの女性29名である。ただし生殖年齢にある30才代と40才代の16名は,本研究の主題である子どもを産まない女性たちに特徴的な側面が色濃くでるよう,子をもうけることに消極的あるいは否定的な女性を選定した。質問内容は(1)子や孫の人数とその人数に満足しているか否か,(2)月経歴および初経と閉経に関連する体験,(3)保健医療行動の内容,および,(1)~(3)に関連する経験の内容や態度の理由,周囲の人々との関係性,対象者の生殖観,身体観に反映すると推察される経験や出来事についても可能な限り詳しく聞き取り,医療人類学的考察を行った。<br><b>結 果</b><br> 3つの語りの特徴が確認できた。<br>1.産まないことが自らの身体に付与されている生殖能を疎かにするかのような身体観を作っていること<br>2.月経には益するところがないという考え方<br>3.女性身体の生物学特性ことに身体的リスクに関する情報がないこと<br> これらの結果から,対象者は「生殖から離れている身体」といえるような位相にあることが確認でき「生殖から離れている身体」に内在する4つの課題と2つの強みが明らかになった。<br><b>結 論</b><br> 「生殖から離れている身体」に内在する4つの課題と2つの強みを踏まえた支援があれば「生殖から離れている身体」の健康は一定程度担保しうることが示唆された。<br> 課題とは次の4点である。<br> 1.自らの身体の生殖にかかわる属性の放棄<br> 2.個人の人生の問題としてのみに閉ざされる生殖<br> 3.育まれてこなかった生殖を肯定的にみたり,生殖可能な身体として自らの身体をケアする生活態度<br> 4.無性あるいは中性的な身体に価値を置くこと<br> 強みとは次の2点である。<br> 1.老齢期を健康に過ごさねばならないという十分な動機と欲求<br> 2.女性の身体は自然のバランスによって健康が保たれるといった身体観や健康観
著者
抜田 博子 谷口 千絵 恵美須 文枝
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.208-216, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

目 的 助産師が行う周産期ケアについて,血液・体液および排泄物との接触の多い手指の感染予防策として,手袋着用状況と個人的属性との関連を明らかにする。対象と方法 東京都内の分娩を取り扱う病院に勤務する189名の助産師を対象とし,自記式質問紙調査を行った。調査内容は,年齢や経験年数,院内感染対策への関心等の個人的属性と,血液および体液,排泄物を扱う10項目の周産期ケアにおける手袋着用状況を,「必ず着用する」から「着用しない」までの4段階で回答を求めた。分析は個人的属性,手袋着用状況を各々2群に分類し,ケアごとに個人的属性との関連を,χ2検定により分析した。結 果 177名(回収率93.6%)から回答が得られた。助産師の手袋着用状況は,分娩第II・III期の直接介助では100%,妊産婦の内診,胎盤計測・処理では98%以上が「必ず着用する」と回答していた。一方で,乳房ケアは74.1%,新生児のオムツ交換では64.1%が「着用しない」と回答していた。個人的属性と手袋着用状況との関連においては,ケア毎に関連する要因が異なっており,教育課程や感染に関する研修の有無,スタンダード・プリコーションの認知度で関連が認められるケアがあった。年齢,産科以外での臨床経験の有無は,どのケアにおいても関連が認められなかった。結 論 明らかに血液・体液の接触を避けることができないケアでは,ほとんどの人が手袋を着用しているのに対し,血液ではない母乳や新生児の便については,手袋を着用しない人が多かった。また,血液・体液に直接触れない場合があるケアでは必ずしも手袋を着用していなかった。 看護師,助産師各教育課程や感染に関する研修受講の有無,スタンダード・プリコーションの認知度で着用状況と関連が認められるケア項目があり,感染対策に関する卒前および卒後教育の充実が必要であると考えられた。
著者
五十嵐 ゆかり 小黒 道子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.250-259, 2014
被引用文献数
1

<b>目 的</b><br> 日本に在住する難民女性への支援の向上を目指し,難民女性のリプロダクティブヘルスの現状や課題を明らかにすることである。<br><b>対象と方法</b><br> 日本に在住する難民,難民認定申請者で,成人女性,出産可能年齢(15~49歳)7名とした。研究協力者の母語に堪能な通訳者を介し,半構成的インタビュー法で面接を行い,質的記述的研究方法により分析を行った。<br><b>結 果</b><br> 難民女性は【困難な状況が複合化している存在】であり,【行き(生き)場がない,ここしかない】という社会的,心理的状況であった。そのため【孤独】を感じ,【信仰だけが与える安寧】に依存しながら生活していた。リプロダクティブヘルスの実状としては,難民女性は出身国の情勢や経済的な理由から,そもそも【もともと無いリプロダクティブヘルス・ライツ】といった状況にあった。来日後は【寂しさが誘起する安易な性行動】から知り合ったばかりの人との性行為に至り,結果【シングルマザー】となっている女性が多かった。生活が困窮していても【信仰を基盤とした妊娠継続の意思決定】をし,【心の拠りどころは子ども】となって,強い孤独感の中で喜びを感じていた。しかし,妊娠期を健康的に過ごすための経済基盤の脆弱性や,医療者とのコミュニケーションの難しさから,【母児の困難な健康維持】という状況にあった。難民女性のリプロダクティブヘルス・ライツを向上させるために,まずは【偏見なくひとりひとりと向き合う】,【それぞれの持つ背景を知る】ことが不可欠であり,健康状態が深刻化していても【帰国を勧めない】こと,また【確実な情報提供】をすることも重要であった。<br><b>結 論</b><br> 難民女性は,ひとりという孤独感と難民への関心が薄い社会での疎外感から,壮絶な寂しさの中にいた。心理,経済,教育など複数の課題が混在し,自国においても日本においても難民女性のリプロダクティブヘルス・ライツは脆弱であった。ケアの方略は,まずは医療者が難民女性を理解する努力をすることであり,対象の背景を知ろうとする姿勢を持つ重要性が示唆された。
著者
荒木 奈緒
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.89-98, 2006
被引用文献数
1

目 的<br>羊水検査を受けるか否かを検討する妊婦はどのようなプロセスを辿って意思決定をするのか,その際の意思決定プロセスには一般的な意思決定プロセスとの差異があるのかを知ることにより,どのような援助が意思決定を行う妊婦の支援となるのかを明らかにすることを目的とする。<br>対象と方法<br>対象は,研究参加の同意が得られ,今回の妊娠において羊水検査を受けるか否かを検討した体験を持つ妊婦5名。データ収集には半構造化面接法を用い,妊娠26週~30週の時期の1時点で実施した。得られたデータは面接内容を逐語録としてデータ化した後,内容を質的帰納的に分析した。<br>結 果<br>羊水検査を受けるか否かを決定する際の妊婦の意思決定プロセスを構成するカテゴリーは,≪妊娠の継続を自分に問う≫≪人工妊娠中絶に対する思いを自問する≫≪周囲の意見との照らし合わせ≫≪障害児育児を想像する≫の4つのカテゴリーが抽出された。意思決定プロセスの起点は,≪妊娠の継続を自分に問う≫という形で命に関する自己の価値観を明確化し妊娠の継続を検討することであった。このカテゴリーを起点とし≪人工妊娠中絶に対する思いを自問する≫ことによって自分の人工妊娠中絶に対する考え方を確認し,自分の価値観が周囲の身近な社会で受け入れられるのかを≪周囲の意見との照らし合わせ≫ で十分に観察し,障害という視点から≪障害児育児を想像する≫し,育児の可能性を測った上で,検査を受けるか否かの最終意思決定を行うというプロセスが見出された。<br>このプロセス中で羊水検査を受けた妊婦には,胎児に感じる愛着と五体満足でなければいけないという価値観との間で「揺れ」を感じ,検査結果がでるまで妊娠継続に関する決定を保留とし,検査を受ける決定を行なう過程が存在した。<br>結 論<br>羊水検査を受けるか否かを検討する妊婦は,検査結果による妊娠の継続に関することを最初に問題認識し検査を受けるか否かの検討を行なっていた。このプロセスの中で妊婦は,妊娠の継続から導き出された命の価値観と,胎児に対する感情や障害児育児に対する感情が相反した場合に「揺れ」を感じていた。特に検査結果で異常が指摘された場合に,人工妊娠中絶を受けることを考えている妊婦は,心理的重圧という問題を抱えており細心の配慮が必要である。
著者
平澤 美恵子 新道 幸恵 内藤 洋子 佐々木 和子 熊沢 美奈好 松岡 恵
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-31, 1988

助産婦の新卒者が助産婦としての能力に習熟する過程と, その過程に影響する要因を明らかにする目的で, 国立および公的助産婦学校3校の卒業生92名を対象に, 妊産婦へのケア能力を中心に, 1年間追跡調査した。<BR>対象の平均年齢は23.5歳, 看護婦歴のあるものは34.7%, その平均職歴は2.6年, 200~999床の病産院に勤務したものが過半数である。対象者の大半が妊産婦ケア能力の到達状況がよくなるのは就後1年時である。新生児の仮死蘇生術やハイリスク新生児の看護は、1年時になっても未経験者が多い。<BR>仕事ぶりに満足という意識をもつ人の割合は経時的に増加し, それとともに, その意識に相関する妊産婦ケア能力の項目が増加している。職場の人間関係に関する意識にも能力の到達状況と相関が認められた。その意識のうち, ケア能力の到達項目の多くと相関がみられたのは, 1か月時には職場の雰囲気がよい, 6か月時には職員の意見交換が多い, である。
著者
田中 利枝 岡 美雪 北園 真希 丸山 菜穂子 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2017-0041, (Released:2018-05-18)
参考文献数
59
被引用文献数
1 3

目 的産科看護者に向けた,早産児の母親の産褥早期の母乳分泌を促す教育プログラムを開発する端緒として,母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアについて探索する。対象と方法PubMed,CINAHL Plus with Full Text,医学中央雑誌Web, Ver.5を用い文献検索を行った。さらにCochrane Libraryに掲載されている搾乳に関するレビューに用いられている文献を追加した。その中からタイトル,抄録,本文を参考に,早産児の母親の母乳分泌量をアウトカムとする文献を抽出し,Cochrane Handbook,RoBANS,GRADE Handbookを用い,文献の質の評価を行った。また,研究目的,方法,結果について整理し,母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアを抽出した。結 果35文献が抽出され,介入研究24件,観察研究11件であった。無作為化,隠蔽化,盲検化に関する記述が不十分で,サンプルサイズが検討されていないなど,ランダム化比較試験の質は低く,交絡変数の検討が不十分なために非ランダム化比較試験の質も低かったが,観察研究から実践に活用可能と考えられるエビデンスが得られた。早産児を出産した母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアでは,分娩後,可能な限り1時間以内に搾乳を開始すること,1日7回以上の搾乳回数,1日100分以上の搾乳時間を確保すること,手搾乳と電動搾乳の両方について十分な説明を行い,乳汁生成II期に入るまで電動搾乳に1日6回以上の手搾乳を追加すること,カンガルーケアを実施することが有用だとわかった。結 論今後は,産科看護者による早産児を出産した母親への搾乳ケアに関する実態把握を行い,母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアが実践できるような教育プログラムを開発していく。
著者
佐藤 珠美 エレーラ C. ルルデス R. 中河 亜希 榊原 愛 大橋 一友
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.63-70, 2017-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

目 的産後女性の手や手首の痛みの有症率,痛みの出現時期,痛みの部位と手や手首の痛みの関連要因を明らかにする。対象と方法産後1年未満の女性876名に無記名自記式質問紙調査を行った。分析対象は産後1か月から8か月の有効回答514部(58.7%)である。調査内容は手や手首の自発痛の有無とその部位,痛みが発症した時期とその後の経過,痛みに影響を与える要因,属性とした。結 果35.2%の女性が産後に手や手首の痛みを保有していた。痛みの出現時期は妊娠期から産後7か月までと長期にわたっているが,産後1か月から2か月に出現した人が多かった。痛みの訴えは両側性が多く,左右の割合の差は少なかった。疼痛部位は橈骨茎状突起,橈骨手根関節,尺骨茎状突起,母指中手指節関節,母指手根中手関節の順に多くみられた。年齢,初産婦,手と手首の痛みの既往が痛みに関連しており,有意差を認めた。一方,母乳育児,産後の月経の再開,モバイル機器の使用時間との関連はなかった。結 論産後女性の3人に1人は手や手首の痛みを経験し,痛みの多くは産後1か月から2か月に出現していた。年齢が高く,初産婦で,手や手首の痛みの既往がある産後の女性では,手や手首の痛みに注意する必要がある。
著者
堀田 久美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.15-24, 2003-06-30
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

目的<BR>本研究は, 胎児娩出感をもった女性の分娩体験を明らかにし, 分娩時の女性の理解に向けた示唆を得ることを目的として行った。<BR>方法質的記述的研究方法を選択した。分娩後の女性, 18名に面接を行い, 分娩体験について自由に語ってもらった。面接の内容を逐語記録し, 胎児娩出感と分娩体験についての内容を質的に分析した。<BR>結果<BR>胎児娩出感をもった女性の分娩体験は, 自らの分娩を自己コントロールできたと自覚でき, 胎児との一体感を感じるものであり, 産んだという実感や分娩終了時の満足感および開放感と安堵感を感じさせるものであった。そして, 胎児の存在を自らの身体を通して感じることにより, 胎児の生命力に信頼をもてるとともに, 妊娠中からの連続したつながりの中で新生児に対する親近感をもちえている。また, 陣痛の苦痛を乗り越え分娩した自分に対し, 達成感や充実感をもたらし, 自らに備わっていた産む力を認識させるものでもあった。それは, 分娩を通して自己を受け入れ, 児を受け入れ, 分娩という出来事を確かに味わったという豊かな心情を生み出すものであった。<BR>結論<BR>胎児の娩出を, 自らの五感を通して感じ取っている女性がいた。女性たちにとって胎児娩出感をもつことは, 豊かな心情を生み出す大切なものであった。
著者
中村 幸代 堀内 成子 桃井 雅子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.190-200, 2012 (Released:2013-08-31)
参考文献数
32
被引用文献数
3 2

目 的 日本人女性を対象に,妊娠時に冷え症であることでの,前期破水発生率について,冷え症でない妊婦と比較分析し,冷え症が前期破水の誘因であるかについて,因果効果の推定を行うことである。対象と方法 研究デザインは後向きコホート研究である。データ収集期間は,2009年10月19日から2010年10月8日までの約12カ月である。調査場所は,首都圏の産科と小児科を要する総合病院6箇所である。研究の対象は入院中の産後の女性2810名であり,質問紙調査と医療記録からの情報を抽出した。また,分析方法には,傾向スコア(propensity score)を用いて交絡因子のコントロールを行い,その影響を調整した。結 果 前期破水であった662名(23.6%)のうち,冷え症がある女性の割合は348名(52.6%)であり,冷え症でない女性の割合は314名(47.4%)であった。冷え症でない妊婦に比べ,冷え症である妊婦の前期破水発生率の割合は,1.67倍(共分散分析)もしくは1.69倍(層別解析)であった(p<.001)。結 論 冷え症と前期破水の間の因果効果の推定において,因果効果がある可能性が高いことが示唆された。
著者
内藤 和子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.14-20, 1991

夫の分娩参加が夫婦にもたらす情緒的経験の意味について, その実態を探るために25組の夫婦に対し, 分娩前・後および1か月後に主として半統制型の面接を行い, 以下の結果を得た.1.夫の分娩立ち会いのおもな動機は,「分娩経験の共有」,「誕生の瞬間の共有」であり, 妻の理由は,「安心」,「誕生の瞬間の共有」であった.妻主導の分娩立ち会いが多かった.<BR>2.分娩立ち会いの予想と結果については, 夫・妻ともに予想と結果が一致するか, 予想以上の結果が多かった.施設の助産婦・スタッフのサポートが結果に影響する要因と考える.,<BR>3.分娩立ち会いの評価では, 夫の大部分と妻の全員が満足した.妻のself-esteem (自尊感情) を分娩前後で比較すると, 分娩後に有意な上昇が認められた.<BR>4.夫婦のintimacy (親密性) が分娩後に増加した夫と妻は, 1か月後も続いている傾向があった.
著者
榮 玲子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.49-55, 2004-06-30 (Released:2010-11-17)
参考文献数
19
被引用文献数
4 3
著者
寺岡 歩 齋藤 いずみ 田中 紗綾 佐藤 純子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.82-91, 2019
被引用文献数
1

<p><b>目 的</b></p><p>分娩取扱い病院で約8割を占めている産科混合病棟の,助産師と看護師による分娩期の看護時間と看護行為を明らかにし,助産師と看護師が協働する分娩期看護の安全性の向上に資する示唆を得ることを目的とする。</p><p><b>対象と方法</b></p><p>正期産経腟分娩の事例を対象とした。産婦の入院から分娩後2時間値の測定終了までを分娩期とし,調査員がタイムスタディ法を用いて産婦と新生児に関わった全ての看護者の看護時間と看護行為を測定した。</p><p><b>結 果</b></p><p>調査期間の14日間に10例(初産婦4名,経産婦6名)の分娩があった。</p><p>分娩期の経過時間中央値は467.0分で,1組の母児に対して分娩期に関与した人数の中央値は助産師が6名,看護師は2名,提供した看護時間中央値は助産師が436.5分,看護師が41.0分であった。</p><p>観察された看護行為26項目のうち看護時間の上位3項目は,助産師では「助産診断(産婦の観察)」「看護記録」「直接分娩介助」,看護師では「新生児介助」「間接分娩介助」「(診療,処置の)準備・後片付け」であった。</p><p>助産師と看護師の看護時間および看護行為は,事例の個別性および分娩進行状態に対応して変動がみられた。</p><p>入院から子宮口全開大に至るまでの時間に看護者間の連絡回数が集中しており,情報交換や業務調整が行われていた。</p><p><b>結 論</b></p><p>分娩期に観察された看護行為から,助産師と看護師はそれぞれの専門性に応じた役割分担をしていることが実証された。</p><p>産科混合病棟では分娩第2期までの経過時間に看護者間の連絡を密にして,他科患者への業務調整ならびに分娩準備を行うことが重要である。それにより,分娩第2期・第3期に母児に対し集中して看護することが可能になり,分娩期の安全確保につながることが示唆された。</p>
著者
杉岡 寛子 森 明子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.323-332, 2016 (Released:2017-03-08)
参考文献数
35

目 的 正期産における前期破水の発生に関連する要因を明らかにすることである。方 法 主にローリスク妊産婦を対象とする産科病院(二次医療機関)と助産所の2施設において,正期産に出産した妊産婦の妊娠・分娩記録を用い,前期破水の発生に関わる要因を検証する関連検証型研究である。分析では,各変数の記述統計および各変数と前期破水発生との関連を明らかにし,最終的に2項ロジスティック回帰分析(変数増加法)を行った。検定の有意水準は両側5%とした。なお,本研究は聖路加看護大学(現聖路加国際大学)研究倫理委員会の承認を得て実施した。結 果 2010年8月から2012年10月に出産した610名(産科病院310名,助産所300名)の妊産婦を分析の対象とした。平均年齢31.46歳で,初産婦30%,経産婦70%であった。前期破水は全体の20%に発生していた。 前期破水発生と関連のあった8変数(初経産,BMI,出産回数,出生体重,性感染症,早産期の内診,正期産の内診,調査場所)における欠損値を除去した,474名分のデータで2項ロジスティック回帰分析を行った結果,前期破水発生と関連する因子として統計学的な有意差が認められた変数は,「初産婦(オッズ比=2.145,95%信頼区間:1.308-3.519, p=.003)」であり,「正期産の内診実施(オッズ比=1.837,95%信頼区間:0.998-3.383, p=.050)」は有意水準には満たなかったが比較的強い関連がみられた。初経産婦別に分析すると,経産婦では「性感染症(オッズ比=3.129,95%信頼区間:1.378-7.015, p=.006)」であった。結 論 正期産における前期破水発生の要因として「初産婦」,有意水準は満たさなかったが「正期産の内診実施」,そして経産婦においては「性感染症」が明らかとなった。前期破水の予防・対策に向け,妊婦(特に初産婦)への指導や,性教育など非妊時からの性感染症対策の必要性が改めて示された。正期産の内診については,今後その実態を明らかにしたうえで,その適応やあり方について検討していく必要がある。
著者
吉田 安子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.28-38, 2000

本研究は, 分娩期に出現する嘔吐と分娩進行との関連に焦点をあて, その実態を調査したものである。目的は, 嘔吐の出現と分娩進行との関連を明らかにすることである。対象者は低リスク初産婦37名, 研究者が分娩中産婦を受け持ち, 観察ガイドに従い観察を行った。その結果, 対象を嘔吐あり群, 嘔吐なし群に分類して比較検討し, 嘔吐あり群の嘔吐出現状況と分娩の進行について分析を行い, 次の点が明らかとなった。<BR>1) 低リスクの初産婦17名 (46%) に嘔吐が出現していた。<BR>2) 嘔吐は分娩各期において子宮収縮が強くなった時に出現し, 食事摂取後3時間以内, 子宮口開大3cmの時に出現する傾向にあった。<BR>3) 子宮頸管熟化の良好な産婦が嘔吐した場合, 分娩進行は初産婦にしては速い経過をたどった。分娩進行が早くなると予測される産婦に対し, 進行状況に関する情報を与え, 産婦自ら身体のコントロール感をもてるようなケアが必要である。<BR>4) 子宮頸管熟化の不良な産婦が嘔吐した場合, エネルギーを喪失し心身共に疲労を来し, 続発性微弱陣痛となり分娩が遷延した。このような産婦に対し, 早期に不安の除去, 食事摂取の配慮, 疲労の緩和を行い, 産婦の生理機能が最大限に生かせるようなケアが必要である。
著者
清水 かおり 片岡 弥恵子 江藤 宏美 浅井 宏美 八重 ゆかり 飯田 眞理子 堀内 成子 櫻井 綾香 田所 由利子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.267-278, 2013
被引用文献数
3

<b>目 的</b><br> 日本助産学会は,「エビデンスに基づく助産ガイドライン―分娩期2012」(以下,助産ガイドライン)をローリスク妊産婦のスタンダードケアの普及のため作成した。本研究の目的は,助産ガイドラインで示された分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所での現状を明らかにすることを目的とした。<br><b>方 法</b><br> 研究協力者は,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の分娩を取り扱っている病院,診療所,助産所の管理者とした。質問項目は,分娩第1期に関するケア方針18項目であった。調査期間は,2010年10月~2011年7月であった。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号10-1002)。<br><b>結 果</b><br> 研究協力の同意が得られた施設は,255件(回収率37.3%)であり,病院118件(回収率50.2%),診療所66件(20.8%),助産所71件(54.2%)であった。妊娠期から分娩期まで同一医療者による継続ケアの実施は,助産所92.9%,診療所54.7%と高かったが,病院(15.3%)では低かった。分娩誘発方法として卵膜剥離(病院0.8%,診療所3.1%,助産所1.4%)および乳房・乳頭刺激(病院0%,診療所1.5%,助産所5.6%)のルチーンの実施は低かった。入院時の分娩監視装置による胎児心拍の持続モニタリングの実施は,助産所の38%が実施していた。硬膜外麻酔をケースによって行っているのは,病院の31.6%,診療所の31.3%であった。産痛緩和のための分娩第1期の入浴は,助産所では92.7%,病院48.3%,診療所26.7%で可能とされていた。産痛緩和方法として多くの施設で採択されていたのは,体位変換(95%),マッサージ(88%),温罨法(74%),歩行(61%)等であった。陣痛促進を目的とした浣腸をケア方針とする施設は非常に少なかった(病院1.7%,診療所9.1%,助産所1.4%)。人工破膜をルチーンのケア方針としている施設はなかった。<br><b>結 論</b><br> 分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所における現状と助産ガイドラインのギャップが明らかになった。本研究の結果を基準として,今後助産ガイドラインの評価を行っていく必要がある。本研究の課題は,回収率が低かったことである。さらに,全国のケア方針の現状を明確化する必要がある。