著者
小島 德子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.92-102, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
31

目 的産褥早期に直接授乳をしている褥婦への足湯を継続して行い,乳頭形態と乳頭・乳輪の状態に及ぼす影響を定性的に評価し検討する。対象と方法対象は,産褥早期に直接授乳をする褥婦25名で,無作為割り付けによる足湯群14名とコントロール群11名の2群間比較を行った。評価指標は,ピンチテストによる乳頭形態の判別と触診による乳頭・乳輪の状態とした。本研究は,愛知医科大学看護学部倫理委員会の承認を得て実施した。結 果仮性陥没乳頭が正常乳頭に変化した日(中央値(範囲))は,足湯群2.0(2~3)日(n=5),コントロール群4.5(4~5)日(n=4)であり(p<.05),扁平乳頭が正常乳頭に変化した日は,足湯群2.0(2~3)日(n=6),コントロール群4.0(3~4)日(n=5)であった(p<.05)。乳頭「硬」が「軟」に変化した日は,足湯群2.0(2~3)日(n=8),コントロール群4.5(3~5)日(n=6)であり(p<.01),乳輪「硬」が「軟」に変化した日は,足湯群3.0(2~4)日(n=3),コントロール群4.0(4~4)日(n=1)であった。乳輪浮腫の状態が消失した日は,足湯群3.0(3~3)日(n=2),コントロール群4.5(4~5)日(n=2)であった。乳頭形態・乳輪の状態が「問題なし」(n=5),乳頭「軟」(n=11),乳輪「軟」(n=21)の各該当者は,両群ともに産褥5日間その乳頭形態及び乳頭・乳輪の状態に変化はなかった。結 論産褥早期の褥婦への足湯により,仮性陥没乳頭・扁平乳頭は正常乳頭に,乳頭・乳輪は柔らかい状態へとコントロール群よりも早期に変化し,乳輪浮腫は早期に消失した。このことから,産褥早期の足湯は,褥婦の乳頭形態と乳頭・乳輪の状態に良い影響を及ぼすことが示唆された。
著者
盛山 幸子 島田 三惠子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.222-232, 2008
被引用文献数
1

<B>目 的</B><br> 妊娠先行結婚をした夫婦の特性を明らかにし,妊娠先行結婚と,妊娠期における母親の対児感情,母親役割獲得,及び夫婦関係との関連を明らかにする。<br><B>対象と方法</B><br> 調査の同意を得られた妊娠末期の母親198名(有効回答率67.1%)とその夫173名(有効回答率58.6%)を対象とした。妊婦健診に来所した初産婦に調査票を配布し,留置法あるいは郵送法で回収した。調査項目は対象の属性及び背景等,対児感情,母親役割行動,夫婦関係である。<br><B>結 果</B><br> 妊娠先行群の母親は41名(20.7%),そのうち25歳未満は21名であった。妊娠先行群の母親(p<0.001)とその夫(p<0.01)の年齢は結婚後妊娠群よりも若く,学歴は中学卒業・高校中退者が多かった(p<0.01)。妊娠先行群の母親の結婚の契機は7割が「妊娠したため」,5割が「もともと結婚予定だった」。妊娠先行群の母親の児への接近感情は28.3±8.1点で結婚後妊娠群との差は認められなかった。しかし,25歳未満の妊娠先行群では児への愛着的な感情は有意に低かった(p<0.05)。児への回避感情は妊娠先行群の方が低かった(p<0.05)。母親役割行動の合計得点は結婚後妊娠群との差はなかったが,「規則正しい生活」(p<0.05),「母親学級等への積極的な参加」(p<0.05)は妊娠先行群の方が少なかった。25歳未満の妊娠先行群の母親は「児のことを考えると嬉しい」気持ち(p<0.05)や「児に話しかける」(p<0.01)ことが少なかった。妊娠先行群の夫婦の愛情は結婚後妊娠群との差は認められなかった。しかし,25歳未満の妊娠先行群の母親の夫への愛情は52.7±12.0点で結婚後妊娠群の母親よりも低かった(p<0.05)。<br><B>結 論</B><br> 妊娠先行群の母親の児への接近感情や母親役割行動は結婚後妊娠群との差がなかった。妊娠先行群の母親の児への回避感情は結婚後妊娠の母親よりも低かった。妊娠先行群の夫婦の愛情は結婚後妊娠群との差がなかった。しかし,25歳未満の妊娠先行群の母親は児への愛着的感情や夫への愛情が低かった。
著者
関塚 真美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.2_19-2_27, 2005-12-31 (Released:2008-02-29)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

目的産後うつ傾向を早期に発見することの意義は, 心理的健康障害を阻止できることにある。産後うつ傾向の原因は一般に急激な内分泌変動と考えられているが, 出産満足度が低いと産後うつ傾向が高いことも指摘されている。本研究は産後うつ傾向を出産後ストレス反応と位置づけ, ストレス反応を産後うつ尺度およびストレス関連物質にて評価し, 出産満足度と出産後ストレス反応の関連を明らかにすることを目的とした。対象および方法調査期間は2004年4月から10月であった。対象者は54名で, 妊娠末期と産褥早期に質問紙調査とストレス関連物質の測定を実施した。質問紙では「基本的属性」, 「分娩経過」, 「出産時不安尺度」, 出産満足度として「出産体験の自己評価尺度」, ストレス反応の主観的指標として「産後うつ尺度」を調査し, ストレス関連物質として分泌型免疫グロブリンA (secretory Immunoglobrin A : 以下, s-IgA) を測定した。結果出産満足度の低い群は高い群に比較し, 産後うつ得点が高く (35.1±7.9点), s-IgAが低値 (23.8±13.4μg/ml) であったことから, 満足度の低い群ではストレス反応が高いことが示された。しかし, 産後うつ傾向が高い群はs-IgAが有意に低いということはなく, ストレス反応の評価には関連がなかった。結論出産満足度の低い群は, 高い群に比較し産後うつ傾向が高く免疫能が抑制されていることから, ストレス反応が高いことが示され, 出産満足度を高める意義が示唆された。
著者
加藤 佐知子 竹原 健二 新田 知恵子 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.110-119, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目 的 本研究では電子カルテを用いて,切迫流早産で入院した妊婦を対象に実施されてきた,「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産のリスク低減にもたらす効果を検討することを目的とした。対象と方法 本研究のデザインは電子カルテのデータを用いた後ろ向き研究である。本研究の対象は2011年4月1日から2013年3月31日の時点で,調査協力施設に切迫流早産の診断を受けて入院をしていた妊婦230人のうち,対象基準を満たした208人とした。入院期間中に看護師や助産師が「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」を実施した者を保健指導実施群,実施されなかった者を対照群とした。すべてのデータは電子カルテから収集された。結 果 対象者の基本属性では,平均年齢が34.7歳(標準偏差(SD):5.0),経産婦が103人(49.8%)であった。保健指導が実施された保健指導実施群は150人(72.1%)であった。二変量解析の結果,保健指導の実施の有無は,妊娠34週未満の早産(p=0.077),妊娠37週未満の早産(p=0.875)のいずれとも統計学的に有意な関連は認められなかった。しかし,先行研究の知見をもとに,社会経済的な要因や過去の受診歴などの交絡因子の影響を調整した多変量解析では,保健指導実施群の妊娠34週未満の早産に対するAdjusted Odds Ratio(AOR)は0.15(95% Confidence Interval(CI):0.04-0.57)と妊娠34週未満の早産のリスクを低下させることが示された。妊娠37週未満の早産との関連は示されなかった(AOR:0.67(95%CI: 0.28-1.60))。結 論 衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導が妊娠34週未満の早産のリスクを低下させる可能性が示唆された。本研究は探索的な研究であり,サンプルサイズが小さいことや,対象者の無作為割付をおこなっていないなどの限界がある。今後,無作為化比較試験のような,この保健指導の有効性をより強く証明するような研究の実施が求められる。
著者
加藤 千穂 片岡 弥恵子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.4-14, 2015 (Released:2015-08-29)
参考文献数
25
被引用文献数
2

目 的 本研究の目的は,既存の文献より,産科に従事する医療者に対する産科救急シミュレーションの効果について明らかにすることである。方 法 PubMed,CINAHL Plus With full text,The Cochrane Library,Maternity and Infant Care,医学中央雑誌Ver.5にて検索を行い,Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionsに基づいて,文献の批判的吟味と分析を行った。結 果 RCT 5件を分析対象とし,採用文献のバイアスのリスクは低いと判断した。介入を高忠実度(high-fidelity)シミュレーションとし,対照群はシミュレーションを実施しない,低忠実度(low-fidelity)シミュレーション,レクチャーと設定した。パフォーマンスについては,高忠実度シミュレーションのほうが低忠実度シミュレーション,レクチャーと比較しパフォーマンスが向上した。また,高忠実度と低忠実度の比較では,肩甲難産の管理ついては高忠実度群のほうが,パフォーマンスが向上するが,子癇の管理については有意な差は見られなかった。知識については,高忠実度と低忠実度で差はなく,コミュニケーション技術は,シミュレーターの忠実度による差はない,もしくは低忠実度シミュレーションのほうが,コミュニケーション技術が向上するという結果であった。結 論 子癇,肩甲難産の管理に関する高忠実度シミュレーションは,トレーニングを実施しないことや,レクチャーと比較し,パフォーマンスを向上させる。しかし,シミュレーターの忠実度の違いによる知識,コミュニケーションへの明らかな効果は認められなかった。今後は,子癇,肩甲難産以外のプログラムや,産科合併症など長期的アウトカムの評価が求められる。
著者
宍戸 恵理 八重 ゆかり 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.101-112, 2018-12-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

目 的出産体験における痛みの予測と現実および疲労の予測と現実のギャップについて,ギャップと出産満足度がどのように関連しているか探索し,この関連について無痛分娩者と自然分娩者とを比較することで,分娩方法による違いがあるのか探索する。対象と方法同一対象者を産前・産後の2時点を追跡・比較する質問紙を用いた縦断的量的記述研究であり,都市部の総合周産期医療センター1施設で調査した。2時点のデータを確保できた609名のデータを用いて,統計学的に分析を行った。結 果1. 陣痛のギャップについて,「予測より痛かった」と回答した者が,自然分娩者に多かったが,会陰部痛のギャップは,「予測より痛かった」と回答した者が,無痛分娩者に多かった。2. 産後の疲労感の平均値は,無痛分娩者が60.1(SD=27.2),自然分娩者は52.2(SD=28.0)であり,無痛分娩者の方が有意に高かった(P<0.001)。また,無痛分娩者,自然分娩者ともに痛みと疲労感が「予測より痛かった/予測より疲れている」と回答した者は,「予測より痛くなかった/予測より疲れていない」,「予測通りだった」と回答した者よりも,産後の疲労感の得点が有意に高かった。3. 出産満足度の平均値は,無痛分娩者7.61(SD=1.85),自然分娩者8.65(SD=1.43)であり,自然分娩者の出産満足度は,無痛分娩者よりも有意に高かった(P<0.001)。陣痛のギャップ,分娩転帰と出産満足度について,分散分析した結果,陣痛のギャップと分娩転帰の交互作用は有意ではなかったが,それぞれ主効果は有意であった。また,無痛分娩者では,陣痛のギャップと出産満足度との間に負の関連が認められたが,自然分娩者では関連が認められなかった。結 論無痛分娩,自然分娩のどちらの場合も,痛みや疲労感に関する予想と現実とのギャップを小さくする方策が求められる。出産満足度を改善するためには,ギャップに着目する必要があり,それは無痛分娩でより重要である。
著者
藤井 美穂子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.183-195, 2014 (Released:2015-05-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

目 的 本研究では,生殖補助医療(以下ART)によって双胎妊娠した女性が不妊治療期から出産後6か月頃までに母親となっていくプロセスを明らかにした。方 法 研究デザインは,ライフストーリー法である。研究参加者はARTによって双胎妊娠し,妊娠8か月以降に胎児に先天的な奇形や異常がない。加えて,妊娠8か月の時点で母親に合併症がなく,今後の妊娠・出産経過が順調であると推測できた妊婦4名である。データ収集は,半構成的面接と参加観察法によって行った。面接や参加観察は,①産科外来通院中,②出産後の産褥入院中,③子どもの1か月健診時頃,④子どもの3か月健診時頃⑤子どもの6か月頃の5時点で縦断的に実施した。結 果 本研究では,子どもをもつことで夫と家族になる夢を叶えたAさんのライフストーリー,子どものために強い母親になろうとするBさんのライフストーリー,子どもを失った苦しみから立ち直ろうとするCさんのライフストーリー,母親となったことをなかなか実感できないDさんのライフストーリーが記述された。考 察 本研究の参加者の全員は,妊娠期に母親となることを否認するが,出産後に妊娠期から母親の準備をしていたかのように物語を書き替えることで,妊娠期に胎児と過ごした時間を取り戻していた。また,不妊治療中に自尊心が傷つき辛かった体験を想起して現状を「良かった」と意味づけていた。研究参加者は,未解決な過去を肯定的に意味づけることで過去を受容して母親としての人生を歩もうとする物語を語った。 しかし,その裏で,出産後も拭いとることができない不妊というスティグマによる傷ついた物語が母親となる物語に影を落としていた。ART後に双胎妊娠した女性の母親となっていく物語は,不妊治療期から育児期へと続く語りによって書き直されていくが,その根底には,不妊による傷ついた物語が継続していたと考えられた。不妊治療期から育児期までの女性の体験を理解し,個々の女性の体験に即して継続的に支援する必要性が示唆された。
著者
五味 麻美 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2022-0027, (Released:2023-03-03)
参考文献数
30
被引用文献数
1

目 的ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験を明らかにし,助産ケア向上のための示唆を得ることである。対象と方法日本で妊娠・出産を経験したムスリム外国人女性3名を研究参加者として,質的記述的研究を実施した。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。結 果日本で出産することを決めたムスリム外国人女性たちは,日本人やムスリム仲間の評判を頼りに【安全で安心できる出産施設を選択】していた。そして,産育習俗や言語,医療従事者の対応など様々な場面で【母国との違いに戸惑う】経験を重ね,【試行錯誤しながら宗教上の規範を守(る)】っていた。女性たちは新たな生命を宿した重要な時期に,最善の形で自らの信仰を体現することができない現状に対する葛藤と受容を幾度となく繰り返しながら,自分なりの妥協点を見出して折り合いをつけ,【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】するプロセスを辿っていた。そうしたプロセスを経て,母子共に安全に産みたい,宗教上の規範を守りたいといった【ニーズを満たせたことに感謝】する経験をしていた。結 論本研究により,ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験として【安全で安心できる出産施設を選択】【母国との違いに戸惑う】【試行錯誤しながら宗教上の規範を守る】【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】【ニーズを満たせたことに感謝】の5つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム外国人女性に対する助産ケア向上のためには,専門性を発揮し,エビデンスに基づいた安全で安心できるケアを提供するとともに,ムスリム女性たちが外国人妊産婦に共通する不安や戸惑いに加え,宗教上の葛藤も抱えていることを理解したうえで宗教を含む文化や価値観を尊重し,個別性や多様性に配慮したケアを提供し,肯定的な出産経験に繋げることが必要であるとの示唆を得た。
著者
竹原 健二 須藤 茉衣子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.164-172, 2014 (Released:2015-05-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

背景 わが国では立ち会い出産に対する認識は広まっている。その一方で,出産に立ち会うことが男性にとって,不安やうつ,トラウマといったメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性も指摘されつつある。パートナーの出産に立ち会った男性が,分娩開始前から産後までにどのような気持ちになり,どのように気持ちが推移していったのか,ということを質的に記述することを本研究の目的とした。方 法 東京都およびその近郊にある2か所の病院において,過去3か月以内に陣痛中から分娩終了までのプロセスに立ち会った男性10人を対象に,半構造化面接を実施した。収集したデータについて,2人の研究者が独立して要約的内容分析をおこなった。結 果 対象者10人のうち7人は,今回の立ち会い出産が初めての経験であった。対象者は皆,分娩第一期から分娩が終了するまで立ち会った。面接調査によって得られた文脈からは,立ち会った男性の気持ち・想いを表す【妻を支えたい】,【未知の世界に対する不安と恐れ】,【共に立ち向かう】,【男女の違いの気づき】,【成長】という5つのカテゴリーと,それを構成する13のサブカテゴリー,立ち会い出産をした男性の気持ちに影響を及ぼした外的要因として,【影響を及ぼした要因】というカテゴリーと,2つのサブカテゴリーが抽出された。【妻を支えたい】は妊娠期の男性の気持ちや行動を表す文脈によって構成されていた。同様に,【想像がつかない世界】や【共に立ち向かう】,【男女の違いの気づき】は分娩時を表す文脈が中心となり,【成長】は分娩直後や産後の男性の気持ちや行動を表す文脈によって構成されていた。結 論 本研究の結果から,立ち会い出産に臨む男性の気持ちは出産前から産後にかけて変化していくことが示された。助産師を中心とした医療スタッフは男性の状態も観察し,適切な声掛けや働きかけをおこなっていくことにより,男性の立ち会い出産の体験をよりよくすることができると考えられた。
著者
堀内 成子 近藤 潤子 大川 章子 石井 ひとみ 大久保 功子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.42-53, 1988-12-25 (Released:2010-11-17)
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

本研究は, 妊娠の進行に伴う睡眠の変化を明らかにするために, 妊婦の睡眠の主観的評価を分析することを目的に行った。調査票は「入眠および睡眠中の関連因子群」,「起床時の関連因子群」,「睡眠全体の満足度」,「睡眠に関する影響因子」を含めて構成し、289例の妊婦から有効回答を得た。その結果, 妊娠の進行に伴う変化では, 初期には非妊期に比べて途中覚醒が多く,「眠い」という睡眠に対する欲求が強く現れていた。中期になると, 初期に比べて睡眠に対する欲求は落ち着きを示していた。末期になると, 寝つきが悪くなる・眠りが浅くなる・時間が不足する・途中覚醒が多くなるという状態から, 睡眠全体に不満感が高まるという関係が示された。初産婦では, 妊娠初期に夜中の途中覚醒に対して「いやだ」という否定的な回答が多く, 妊娠が進行するにつれて, その比率は減少していた。影響因子として, 妊娠に伴う身体変化のほかに, 家庭のサポートが認められた。
著者
箱崎 友美 鳥越 郁代 佐藤 香代
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.140-152, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

目 的帝王切開(帝切)で出産した女性の出産満足度と産後早期のうつ傾向との関連を明らかすること,ならびにその出産満足度に影響を及ぼす要因について検討する。対象と方法A・B県の22の産科施設にて帝切で出産した褥婦362名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施し,回収は留め置き法と郵送法を用いた。質問紙は,母親の基本属性・帝切で出産した母親の出産満足度(日本語版SMMS)・産後のうつ傾向(EPDS)・自尊感情(自尊感情尺度日本語版)・母親の愛着(MAQ)より構成された。SMMS得点とEPDS得点ならびに属性との関連は,t検定・一元配置分散分析を用い,出産満足度に影響を及ぼす要因の検討は,重回帰分析を用い分析した。結 果回収率は83.1%(301名)で,そのうち294名(97.7%)を分析対象とした。帝切の分類は,予定帝切が207名(70.4%),緊急帝切87名(29.6%)で,出産満足群(SMMS得点≥147点)が247名(84.0%)を占めた。また出産満足群は,出産不満足群に比して有意にEPDS得点が低かった(p=0.003)。さらにSMMS得点に対する影響要因として,母親の愛着得点が選択された(p=0.001)。結 論出産満足群・不満足群の2群間において,EPDS得点に有意差が認められたことから,帝切での出産満足度と産後早期のうつ傾向には関連があることが示唆された。また,出産満足度に影響を及ぼす要因として母親の愛着が確認された。以上のことから,助産師は,出産の振り返りを通して,帝切による出産に対する女性の認識を確認し,退院後も継続した支援を提供していくことが重要である。また帝切による出産の場合,遅れがちになる産後の早期母子接触・早期授乳を積極的に実施することが,出産満足度の向上につながると考えられる。
著者
湊谷 経子 片岡 弥恵子 毛利 多恵子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.8-19, 1996-12-10 (Released:2010-11-17)
参考文献数
26
被引用文献数
4 1

この研究は, 分娩経過中パニック状態になった産婦の出産体験の中から, 心理過程に含まれる要素と要因を探るために行われた質的記述研究である. 分娩時にかかわった助産婦がパニック状態になったと査定した褥婦9名を対象として, 出産体験についてのインタビューを行った. 分析の結果, 陣痛, ズレという2項目の要因と, 以下10項目の心理要素が抽出された. 1. 自信・余裕, 2. 驚き・動揺, 3. 自分の存在が脅かされる, 4. 恐怖, 5. 自分の手には負えない, 6. 先が見えないことへの強い不安, 7. とにかく辛い, 8. もういやだ, 9. なんか合わない→混乱, 10. わかっているけどできない=葛藤. また, 1から8の要素は, 陣痛の変化に伴って起こっており, 9と10の要素はズレから生じていることがわかった。
著者
藤井 美穂子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.2_77-2_86, 2007 (Released:2008-07-07)
参考文献数
15
被引用文献数
4 3

目 的 双子を持つ母親の退院後1か月間の育児体験を明らかにする対象および方法 研究対象は,平成17年6月下旬から7月上旬にA病院で双子を出産し,子どもが先天性奇形や疾患を有さず子どもと一緒に退院し,研究参加協力が得られた退院後1か月を経過した母親4名である。 研究方法は,退院から1か月間の双子の育児を振り返ってもらい,印象的だった事象やその時に生じた思いや体験について半構成的面接を行った。得られたデータを逐語録とし,事例ごとに文脈に沿って内容を分析した。結 果 研究参加者である母親は,乳腺炎等の突発的な出来事や2人が同時に泣く,時期をずらして交互に嘔吐する等の双子特有の体験をしていた。経産婦は,前回の出産や育児と比較することで,授乳方法の違いや体の不調を感じながら育児していた。 また,研究参加者である4名の母親から,病院退院後1か月の育児体験を通して肯定的・否定的な育児への思いを反映する言動がみられた。 双子の母親は,2人の成長を実感することやそれに応じて直接母乳ができる体験等を通して肯定的な思いを反映する言動がみられた。また,突発的な出来事など入院中に予測できなかった体験を通して,「心配」「不安」等の思いを抱いていた。本研究の参加者は,2人が同時に泣くことにより,自分の時間を作ることや児に対して十分に相手をすることができないことで「かわいそう」等の思いを抱いていた。里帰り中の母親は,退院後1か月頃になると自宅へ帰った後の生活を考え,イメージできないことで否定的な思いを反映する言動がみられた。結 論 双子の母親が退院後1か月間に,2人の成長に気づき対応できる育児体験をしていることや,予想出来なかった出来事やイメージできない育児に対し不安を抱いていることが明らかになった。家族を含めて具体的な双子の生活がイメージできるような情報提供や助産師による入院中からの継続的な支援の必要性が示唆された。
著者
高島 葉子 塚本 康子 中島 通子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.26-38, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
21

目 的 本研究の目的は,助産事故により深刻な状況になりながらも助産師に対して信頼感を維持している女性の体験の語りから,どのような「分岐」や思いが存在したのか記述し,看護への示唆を得ることである。対象・方法 助産事故後も助産師と信頼関係を維持できていると認識している女性2名を対象としたライフストーリー研究である。データ収集は,助産所出産を希望した経過とともにどのような助産事故があり,その時の思いや考えを過去から現在に進むかたちで自由に語ってもらった。結 果 A氏は子どもに生命危機が生じた時,怖れと後遺症への不安につきまとわれ,混乱の中で周囲の言動から助産事故と認識し,助産師との向き合い方を探った。 しかし,自分が助産院を選択した責任と後悔で助産師だけを責めることはできなかった。そして,事故でのかかわりを通して助産師との関係が再構築される過程で,被害者・加害者という関係の終結と助産院再開を切望し,けじめとしての補償を求めた。A氏は助産事故により生命や健康の大切さを再確認するとともに,新しい生き方を見出していた。 B氏は助産師の態度から胎児が生きている可能性が少ないのではないかと察し,衝撃を受けつつ,同じ医療従事者として助産師を慮っていた。そして,決して逃げない姿勢の助産師を信頼しながら死産を委ねた。グリーフケアで子どもと十分なお別れができたことや,助産師との対話の積み重ねの中で,誰も責められないと心から思うことができた。喪失を乗り越え,新しい生命観と家族を得ていた。結 論 助産事故後も助産師との関係性を維持している女性は,一時的に助産師への信頼感は揺らぐものの,事故発生までに培われた関係性を基盤に誠意を尽くされたと感じることを契機として関係性を維持していた。看護者は,有害事象が発生した場合,信頼関係が崩壊し紛争へと「分岐」するプロセスを認識し,長期的で継続的な視野に立ったケアの提供に努めることが肝要である。
著者
安達 望江 和泉 美枝 眞鍋 えみ子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2021-0033, (Released:2022-10-14)
参考文献数
40

目 的妊娠期における身体活動,体重増加量および非妊時BMIと下肢筋肉量との関連,下肢筋肉量への影響要因を検討する。対象と方法妊婦520名に自記式質問紙による調査と体組成分析装置(InBody270)を用いて体重,下肢筋肉量を測定した。質問紙による調査内容は属性,非妊時体重,身長,身体活動は運動習慣の有無と生活活動量(NEAT質問票)であった。初経産婦別にt検定を行い,下肢筋肉量の影響要因の検討には重回帰分析を行った。結 果分析対象者は484名(18~44歳,初産婦229名,経産婦255名,妊娠5~40週)であり,本対象者の下肢筋肉量の平均は11.53±1.68kgであった。下肢筋肉量は,初経産婦共に生活活動量低群(初産婦10.97±1.70kg,経産婦11.24±1.63kg)より高群(11.76±1.49kg,12.41±1.72kg)の方が有意に多く,非妊時BMIにおいても低群(10.71±1.60kg,11.46±1.85kg)より高群(11.98±1.60kg,12.17±1.56kg)の方が有意に多かった。初産婦では,非妊時BMI,体重増加量,妊娠前の運動習慣が下肢筋肉量に影響し(β=.339, .227, .136),説明率18.8%であった。経産婦では,体重増加量,非妊時BMI,生活活動量が下肢筋肉量に影響し(β=.258, .245, .169),説明率15.6%であった。非妊時標準体格の妊婦では,妊娠16~27週,28~37週において体重増加量4.9kg,8.5kg以上がそれ未満に比べて下肢筋肉量は多かった。結 論妊婦の下肢筋肉量には,非妊時BMIや体重増加量が影響し,さらに初産婦では妊娠前の運動習慣,経産婦では生活活動量が影響することが示された。
著者
中田(中込) かおり 跡上 富美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.66-79, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
41

目 的生殖年齢にある20歳代から30歳代の就労男性を対象とし,妊孕性に関する知識の実態と情報ニーズについて明らかにすることである。方 法20歳以上40歳未満(2019年4月1日現在)の男性で,妻やパートナーが出産を経験していない500名を対象とし,2020年3月にウェブ調査を実施した。質問項目は,対象者の背景,妊孕性の知識と情報ニーズ,健康で気になること,妊娠・出産の情報源とした。妊孕性の知識は20項目で,齊藤の「不妊知識尺度13の質問」(2014)を許可を得て一部改変し,研究者らが作成した7項目を加えて使用した。記述統計量の算出,背景因子による層別解析,尺度の信頼性・妥当性の検討を行った。東邦大学看護学部倫理審査委員会より承認を得て実施した(承認番号:2019010)。結 果分析対象は500名,平均年齢29.8歳(SD=5.5),大学卒業以上60.6%,挙児希望有45.6%,パートナー有21.0%であった。妊孕性知識20項目すべてに「わからない」と回答した98名(19.6%)を分析から除外した結果,正答者割合は,平均42.1%(SD=23.9,最大67.7%,最小19.4%)であった。挙児希望(p=.003),不妊相談経験(p=.01)について有意差があり,年齢・最終学歴・パートナーの有無と関連はなかった。妊孕性知識20項目の信頼性・妥当性は確認された。妊孕性に関する情報ニーズがある人は54.4%で,年齢,食生活,生活習慣のニーズが高かった。健康で気になる項目がある人は42.4%であった。妊娠・出産の情報源は,パートナー,インターネット・SNSであった。結 論生殖年齢にある男性の妊孕性知識は,挙児希望や不妊相談の経験の有無により有意差が認められた。今後は男性の妊孕性知識の実態とニーズを踏まえ,情報提供と知識の普及・啓発をしていくことが課題である。
著者
中窪 優子 三砂 ちづる
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.56-68, 2003-02-10 (Released:2010-11-17)
参考文献数
14

助産所における会陰裂傷の程度や予後などについて明らかにすることを目的に, 会陰裂傷の実態調査を行った。1助産所において正常出産した褥婦71名に対して構成的質問票を用いて面接を行い, 会陰裂傷や分娩体験に関する質問を行った。結果裂傷のあった女性は13名 (18.3%), 裂傷のなかった女性は58名 (81.7%) であった。裂傷のあった者は全例会陰裂傷I度で, 痺痛から回復する必要日数は平均4.8日 (1-10日) であった。また, 自分で「こういう姿勢で産みたい」と自己決定し, その姿勢で分娩した者は裂傷の発生が有意に少なかった。また, 有意差は認められなかったものの会陰の伸展を感じた者は裂傷発生の割合が少なかった。今回, 医療介入されない助産所で発生した裂傷は軽度だった。また, 産婦が分娩体位を自己決定できるような環境の整備や, 産婦自身がからだの変化に気づくことができるようケア提供者が情緒的にサポートすること, さらに内的変化に気づくような援助をすることの重要性が示唆された。
著者
濱田 真由美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.28-39, 2012 (Released:2012-08-31)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

目 的 本研究は,妊娠後期の初妊婦に焦点を当て,授乳への意思に影響する社会規範を明らかにすることを目的とした。対象と方法 初妊婦の授乳への意思に影響する社会規範のバリエーションを明らかにするために質的記述的研究デザインを用いて,東京都内の1総合周産期母子医療センターに通院する妊娠経過が正常な妊娠後期の初妊婦17名に対して1人につき1回の半構造化面接を行い,データを得て質的に分析した。結 果 研究参加者は,全員が母乳で育てる意思を示し,「絶対母乳で育てたい」,「『絶対母乳で育てたい』と『できれば母乳で育てたい』の中間」,「できれば母乳で育てたい」という授乳への意思の違いを示した。そして初妊婦の授乳への意思に影響する社会規範は【「自然」志向】,【望ましい「母親」】,【責任ある「母親」】,【自己防衛する賢い「母親」】,【ミルクと「母親」に関する正当性の主張】,【「母親」がもつべき環境や情報の望ましさ】の6つのテーマから構成されていた。結 論 本研究で示された初妊婦の授乳への意思に影響する社会規範は,母性イデオロギーや子どもの「健康」を守る責任ある望ましい「母親」を規定する社会規範と,それとは反対に母乳育児の失敗や育児ストレスへの危機感に対処したり,「母親」として逸脱していると見なされない為に正当化を行うことに価値をおく社会規範が示された。