著者
佐藤 俊哉
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.493-513, 1993 (Released:2009-01-22)
参考文献数
107
被引用文献数
1

リスク要因と疾病発生との因果関係を調べるための疫学研究で用いる生物統計手法に関するレビューを行う.疫学研究で興味のある,リスク要因への曝露の効果の指標を導入した後,曝露効果を推定するための古典的な研究デザインである,コホート研究,ケース・コントロール研究とそこで用いる生物統計手法を解説する.最近では,生物統計学の発展にともなって,コホート研究,ケース・コントロール研究に代わる新しい研究デザインがいくつか提案されているが,新しいデザインのうち代表的なネステッド・ケース・コントロール研究,ケース・コホート研究, 2段階ケース・コントロール研究の紹介を行う.また,疫学的観察研究から因果推論を行うための最近の研究成果についても報告する.その他の重要な話題である,誤分類の影響, Ecologica bias,経時観察研究,についても簡単ではあるが文献紹介を行う.
著者
清水 邦夫
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-140, 2018-03-30 (Released:2018-10-05)
参考文献数
126

角度のデータは,環境科学・気象学における風向,生態学における動物の運動方向,分子科学における二面角などにおいて現れる.また,イベントの生起時刻を24時間時計上に配置すれば角度データのように扱える.従来,ハート型,von Mises,巻き込みCauchy分布は角度の対称分布として良く知られている.本稿では,角度を含むデータを扱う統計学(方向統計学)において,ハート型,von Mises,巻き込みCauchy分布を含む新しい対称分布,分布の非対称化,球面・トーラス・シリンダー・ディスク上およびそのハイパー型多様体上の分布について,それらの諸科学・技術における応用例を交えて,主に2000年以降の最近の発展を概観する.
著者
鈴木 大慈
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.141-157, 2018-03-30 (Released:2018-10-05)
参考文献数
43

Multiple Kernel Learning (MKL) について正則化法およびベイズ推定法を紹介し,その汎化誤差解析について概説する.正則化法については,ℓ1-正則化およびエラスティックネット型の正則化を考察する.エラスティックネット型の正則化はスパース性を誘導するℓ1-正則化と滑らかさを制御するℓ2-正則化の組み合わせで表される.ベースとなるカーネル関数の数は多くても,真の関数に必要なカーネル関数の数は少ないスパースな状況を考察し,これまで得られていたレートよりも速い収束レートを導出する.さらに,ガウシアンプロセス事前分布を用いたベイズ推定量を考察し,一次独立性の条件を仮定せずとも速い収束レートを達成できることを示す.
著者
足立 浩平
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.363-382, 2015

現行の標準的な因子分析の定式化では,因子負荷量と独自分散は固定したパラメータであり,共通・独自因子は潜在的な確率変数として扱われる.これとは対照的に,共通因子および独自因子もパラメータと見なして,モデル部全てをパラメータ行列で表現する因子分析の定式化が近年になって提示されている.これを行列因子分析と名づけて,その諸性質を論じることが本稿の主題である.論及することには,行列因子分析の解法が,線形代数の定理だけに基づく点で明解であり,低階数近似としての主成分分析とは対照的に,因子分析をデータ行列の高階数近似と見なせる論拠を与えることが含まれる.さらに,行列因子分析の解と標準的な因子分析の解を比較する数値例を提示し,行列因子分析を発展させたスパース因子分析法にも言及する.
著者
辻村 江太郎
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
JOURNAL OF THE JAPAN STATISTICAL SOCIETY (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.317-321,264, 1992

日本は世界でも有数な統計大国である.短期,中期,長期の統計資料が国民の生活全体をカバーしている.この豊富な資料を活用するには,国の経済のあり方についての哲学的判断と経済学的判断が重要である.統計では, 1987年から91年にかけて実質経済成長率が当初の政府見通しより大きくなっており,労働の需給状況についても失業率が政府見通しより小さくなっている.この統計は真実を反映しているが,それを成長率が高すぎると読むか,好ましい成長率の中で労働力が不足していると読むかは哲学的判断による.一方今回の景気上昇の中で,恐れていたインフレ・狂乱物価が統計に現れなかったのは何故か,という疑問が出されていて,経済学者が解答を出せないという局面があった.しかしよく考えてみると,それは地価の上昇が物価指数に含まれていなかったためで,表面下では大変激しい物価上昇が起きていたのである.これは経済学的判断の盲点であった.
著者
各務 和彦
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.59-68, 2015

線形回帰モデルにおける説明変数の被説明変数に対する限界的な効果は対応する回帰パラメータそのものであるため直感的で扱いやすい.しかしながら,空間計量経済モデルにおいては,他地域の影響が入ってくるため線形回帰モデルのように限界的な効果を容易に扱うことができない.本稿ではLeSage and Pace (2009)によって提案された説明変数の被説明変数に対する限界的な効果を自地域における直接効果と他地域からの間接効果に分解する方法を解説し,日本の道路利用についての応用例を示す.
著者
矢野 浩一
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.189-216, 2014

本稿では,粒子フィルタ,粒子平滑化,粒子フィルタによるパラメータ推定を解説する.粒子フィルタは非線形・非ガウス状態空間モデルの状態推定を実行するシミュレーションベースのアルゴリズムであり,1990年代初頭に発表された後,科学・技術の幅広い分野で活用されてきた.しかし,日本国内ではその知識が十分に普及しているとは言いがたいため,本稿では第2節で粒子フィルタとその適用例,第3節で粒子固定ラグ平滑化の基礎,第4節で粒子固定ラグ平滑化へのリサンプル・ムーブ法の適用,第5節で粒子フィルタと自己組織化状態空間モデルによるパラメータ推定,第6節で実物景気循環モデルの基礎と粒子フィルタを用いた状態推定例を解説する.