著者
沖本 竜義
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.137-157, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
51
被引用文献数
1

経済やファイナンスデータの中には,景気循環や政策の変更などに応じて,挙動が大きく変化しているようなデータが少なくない.本稿では,そのようなデータを分析するための強力なツールのひとつであるマルコフスイッチングモデルを概観する.具体的には,モデルを簡単に紹介した後,マルコフスイッチングモデルの重要な要素であるマルコフ連鎖について述べ,具体例を用いて解釈の仕方を説明する.続いて,マルコフスイッチングモデルの統計的推測問題について触れ,最後に,マクロ経済やファイナンスへの応用例を紹介する.
著者
日野 英逸
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.317-342, 2021-03-05 (Released:2021-03-05)
参考文献数
118

教師あり学習において予測モデルの学習に利用する教師データ(ラベル)の取得に非常にコストがかかる一方,教師なしデータの取得が容易な状況が多く存在する.適応的にラベルを付与するサンプルを選択することで限られたコストで精度の高い予測モデルを得る方法論として,能動学習がある.本稿では能動学習の基本的な問題設定と,最近の研究動向を紹介する.特に,ラベル付けをするサンプルを選択するための獲得関数をデータから学習するアプローチ,能動学習の理論的保証,逐次的なデータ取得の停止基準に関する研究を紹介し,さらに材料開発や物質の計測の効率化への応用事例を紹介する.
著者
青嶋 誠
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.89-111, 2018-09-26 (Released:2019-04-02)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本論文は,高次元統計解析の理論と方法論について,最新の展開を紹介する.最近,Aoshima and Yata (2018a) は,強スパイク固有値(Strongly Spiked Eigenvalue: SSE)モデルというノイズモデルを提唱した.高次元データのノイズは巨大かつ非スパースであり,それゆえデータがもつ潜在的な幾何学的構造は破壊され,統計的推測に精度を保証することが困難になる.理論的には,SSEモデルのもとでは,高次元統計解析の根幹を成す高次元漸近正規性が成立しない.Aoshima and Yata (2018a) は,巨大なノイズ構造を精密に解析し,強スパイクするノイズ空間を避けるようなデータ変換法を開発した.この方法を用いれば,データは弱スパイク固有値(Non-SSE: NSSE)モデルに変換され,潜在空間の幾何学的構造が浮き彫りになり,高精度な高次元統計的推測が可能になる.Aoshima and Yata (2018b) は,この方法論を発展させ,高次元判別分析に新たな理論を展開している.本論文は,高次元統計解析の最新の展開について,適宜文献を紹介しながら解説する.
著者
久保川 達也 江口 真透 竹村 彰通 小西 貞則
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.257-312, 1993 (Released:2009-09-30)
参考文献数
511

統計的推測理論は多方面にわたって発展しているが,ここではこの発展を,決定論的観点からの推定論,微分幾何的アプローチによる漸近理論,検定論,プートストラップ法,の4つのトピックにわけそれぞれのトピックに章をあてて概観する.全体の内容を調整した後,第1章を久保川,第2章を江口,第3章を竹村,第4章を小西がそれぞれ執筆した.トピックごとに文献もかなり明確にわかれるため,参考文献も各章ごとに与えてある.統計的推測理論のような大きな分野の発展を概観する際には,その中で何が重要な発展であるかなどについてさまざまな観点がありえる.ここでの概観も,それぞれの執筆者の観点にある程度引き寄せた概観となっていることをお断りしておきたい.
著者
林 知己夫
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.353-367,266, 1992 (Released:2009-01-22)
参考文献数
39

ここでは,意識の国際比較の方法論を中心に述べる.これを具体的にするに当たって, 35年間継続している統計的日本人の国民性研究(統計数理研究所国民性調査委員会)の考え方,方法,成果が土台となっているので,この研究にも言及する.意識の国際比較は,異なる文化圏に属する人々の考え方,感じ方の異なっている所と似ている所を明らかにすることがその根幹である.これをどのように統計的に現実化するかがわれわれの研究の中核である.このためには“調査の科学”というフィロソフィーが不可欠であることと,データをどうとり(design of data),どう分析するか(analysis of data)を深めることの重要性を説明する.そして,似た所と違った所を鎖の環のように続けて行く方法論,連鎖的比較調査分析法(CLA)を提起し,その構想を説明する.この方法論を考え出した背景,さらにこの方法を用いて国際比較を行った経緯についても論じる.
著者
杉山 将 山田 誠 ドゥ・プレシ マーティヌス・クリストフェル リウ ソン
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.113-136, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
87

一般的な教師付き学習法では,訓練データとテストデータが同じ確率分布に従うという仮定のもとで学習を行う.しかし実際には,標本の選択バイアスや環境の非定常性などにより,この大前提が満たされないことがある.このような状況では,標準的な教師付き学習法は大きな推定バイアスを持ち,汎化性能が低下してしまう.本論文では,入力変数の確率分布が変化する共変量シフトと呼ばれる状況と,分類問題においてクラス事前確率が変化するクラスバランス変化と呼ばれる状況を考え,重要度重み付けによる半教師付き適応学習法を紹介する.また,確率分布が変化しているかどうかを検知する手法も紹介する.
著者
三浦 翔 井實 康幸 竹川 正浩
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.187-216, 2020-03-30 (Released:2020-12-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1

金融機関における信用リスク管理業務では,法人債務者のデフォルトに対する予兆管理が行われている.この点,債務者が大企業を中心とした上場企業であれば,企業の信用状態をタイムリーに反映しやすい株価などをデフォルトの予兆管理指標として活用できるが,中堅中小企業を中心とした非上場企業には,信用状態を即時に反映する指標が存在しない.また,信用リスク管理業務では,財務情報を用いた信用リスク評価が一般的に行われているが,財務計数には,信頼性及び即時性の面で一定の制約がある.そこで,本稿では,中堅中小企業を中心とした非上場企業にも適用可能で,かつタイムリーなモニタリングを実現するためのデフォルト予測モデルを構築する.具体的には,金融機関の預金口座における入出金情報を用いて,機械学習モデルや統計モデルを用いたデフォルト予測モデルを構築し,モデル精度の検証を行い,そのうえで予兆管理実務への適用可能性について検討する.モデル精度検証の結果,入出金情報を用いた場合において,機械学習モデルの精度は十分に実用可能な水準であることが確認された.また,機械学習モデル対比ではやや精度が落ちるものの,解釈性に優れたロジットモデルについても,実務で十分に活用可能な精度を有することが確認された.
著者
金森 敬文 藤澤 洋徳
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-18, 2017-11-14 (Released:2018-04-06)
参考文献数
23

経験推定可能なダイバージェンスに基づいた統計的推論の研究が盛んになっている.本論文では,経験推定可能性に加えて,相対アフィン不変性を課した場合に,主に焦点を当てている.その二つの性質をみたすダイバージェンスは,ある種の仮定の下ではヘルダー・ダイバージェンスだけであると証明することができる.そして,そのダイバージェンスと良く知られたブレッグマン・ダイバージェンスとの共通部分を考えると,たった二つのパラメータをもつ簡単なダイバージェンスを得ることもできる.また,ヘルダー・ダイバージェンスの上で,拡大された統計モデルを利用したパラメータ推定も考えている.それによって,通常の統計モデルと同時に外れ値の割合をも推定することを可能にしている.加えて,通常の統計モデルのパラメータ推定は,ロバスト統計で有効とされているガンマ・ダイバージェンスに基づいた推定となり,そのダイバージェンスが内在している様々な有効な性質を,そのまま使えることになる.
著者
清 智也
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.75-99, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
37

いくつかのモーメント制約が与えられたもとで独立分布に最も近いコピュラのことを最小情報コピュラという.最小情報コピュラはある意味で指数型分布族のコピュラ版と解釈することができ,数理的に興味深い対象である.本論文ではその定義と基本的性質について具体例を交えながら解説する.特にコピュラの離散近似を経て,情報幾何学や行列スケーリング,最適輸送理論との関連性を概観する.またパラメータ推定法についても議論する.
著者
松田 安昌
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.265-280, 2020-03-30 (Released:2020-12-02)
参考文献数
13

本論文は,連続時間自己回帰移動平均(Continuous time Auto-Regressive Moving Average, CARMA)モデルのレビューを行う.まず,離散ARMA時系列モデルの自然な拡張としてCARMAモデルを定義する.次に,CARMAモデルの定常条件,共分散関数や密度関数,分布関数を導き,CARMA過程を離散サンプリングした過程の性質を調べる.最後に,2種の実データ(高頻度金融時系列データ,Brookhaven乱流データ)を使ってCARMAモデルの応用分析例を紹介する.本稿は2019年度統計関連学会連合大会におけるPeter Brockwell教授の講演スライドをもとに作成されている.
著者
永井 恵子
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.23-60, 2019-09-30 (Released:2020-04-02)
参考文献数
29

2019年4月1日から,勤務の終業時刻と翌日の開始時刻の間に一定の休息時間を確保し,過重労働による健康被害を防ぐことを目的として,勤務間インターバル制度の導入が企業の努力義務として課された.そこで,本分析では,社会生活基本調査のミクロデータから,最初に,勤務間インターバルの実態について,労働者の属性などとどのように関連しているかを明らかにする.その分析結果を踏まえて,勤務間インターバルの長さや開始時刻が健康にいかに影響するかについて分析する.全国の世帯を対象とした統計調査のデータに基づいて,勤務間インターバルの長短等の健康状態への影響を分析した初めての分析である.その結果,性別以外に,フレックスタイムなどの勤務形態,学歴,職業が勤務間インターバルに関連があることがわかった.また,勤務間インターバルが短くなるほど,健康状態が悪くなる確率が高くなり,通勤時間を加味するとその傾向は顕著になる.年齢のほか,有給休暇の取得日数,勤務間インターバルの開始時刻も健康状態に影響を及ぼすことがわかった.
著者
江村 剛志
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.41-73, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
82

本稿では,系列相関のある定常時系列データに対して,コピュラに基づくマルコフ連鎖モデルを当てはめるための統計的手法を総説する.本手法の応用例である統計的工程管理の手法を,正規分布のモデルで詳説する.時系列の話題に入る前に,本稿で必要とされる範囲でのコピュラとマルコフ連鎖の一般的定義を与え,コピュラの数理的性質を解説する.その後,系列相関を持つ定常時系列のモデルをコピュラでモデリングし,データから最尤法でパラメトリックモデルを当てはめるための各種統計手法を紹介する.最後にいくつかのデータの実例を通して,各種手法の利用局面を説明する.実例のデータ解析のためのRコードは付録に与える.
著者
鈴木 讓
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.139-167, 2023-09-07 (Released:2023-09-07)
参考文献数
18

モデルが既知ではなく,モデル選択を行ってからパラメータに関する検定や区間推定を行う場合,選択的推論を考慮する必要がある.本稿では,スパース推定という文脈でその問題を検討する.まず,Lee et al. (2016)のLassoに関する選択的推論について述べてからForward Stepwise,LARSなどに適用する場合の多面体,切断分布を示す.最後に,Lockhart et al. (2014)のLassoに対するSignificance TestおよびTibshirani et al. (2016)のLARSに対するSpacing Testについて述べる.本稿は,レビュー論文である.
著者
駒木 文保
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.185-204, 2023-09-07 (Released:2023-09-07)
参考文献数
44

統計的推測の問題を予測の立場からとらえる予測分布の理論について考える.真の分布から予測分布へのKullback–Leiblerダイバージェンスで予測分布の性能を評価すると,多次元正規モデルや多次元Poissonモデルにおいては,Bayes推定の問題がBayes予測の問題の極限として定式化できる.Bayes推定を利用するには事前分布の選択が重要になるため,無情報事前分布あるいは縮小事前分布についての多くの研究がなされている.予測と推定の関係に着目することにより,Bayes推定についての様々な知見をBayes予測に応用すること,Bayes予測の立場からBayes推定について新たな理解をすることが可能になる.このような予測と推定の関係について,特に多次元のPoisson分布を例にとり説明する.
著者
金井 浩 城戸 健一 鈴木 篤 金井 淳
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.255-276, 1990 (Released:2009-01-22)
参考文献数
40

経済指標の時系列信号は,公定歩合の引下げ,戦争の勃発など経済的衝撃による影響を大きく受ける.従って,経済的インパクトに対応するマルチパルス系列が,経済市場という伝達系を駆動し,その応答を観測しているというモデルが構築できる.この時系列モデルに基づく分析を行なう場合,一つの時間窓内に複数の衝撃パルスが存在する場合がある.しかし,従来のBox-Jenkinsモデル等の時系列分析法では,伝達系を駆動する信号は定常白色雑音か単一インパルスに限られるため,マルチパルスによって駆動された伝達系の応答から,各パルスの振幅及び伝達系の特性を決定することができない.本論文では,マルチパルスで駆動された伝達系の応答に,更に雑音が付加された観測信号から,全極型伝達系の特性と駆動パルス系列の振幅を決定する方法を提案する.最後に東京市場の円/ドル為替レートに対して,本分析法を適用した結果を述べる.
著者
加納 隆
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.159-187, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
46

本稿では,動学的確率的一般均衡モデルのマクロ計量経済分析における役割を,Geweke (2010)による強解釈と弱解釈および最小解釈の3分類に従って批判的に略説する.最小解釈の応用例として,Kano and Nason (2014)による消費の習慣形成の金融政策ショック伝播メカニズムとしての役割に関する実証分析を紹介する.最後に将来研究への展望を議論する.
著者
猪狩 良介 星野 崇宏
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.269-293, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
42

マーケティングでは,生存時間解析を用いて消費者の購買タイミングを分析する購買間隔モデルが研究されている.本研究では,観測されない消費者異質性の動的変化を考慮した競合リスクモデルを提案し,複数チャネルにおける購買間隔モデルに応用する.具体的には,競合リスクモデルを用いて,ECサイトとリアル店舗における購買間隔モデルを構築する.さらに,購買間隔の競合リスクモデルにおいて,観測されない異質性の動的変化を状態空間モデルにより捉え,消費者異質性を階層ベイズモデルにより捉えるモデルを提案する.また,購買間隔に加えて購買金額も扱う同時モデルを構築する.提案モデルをECサイトとリアル店舗における購買行動をシングルソースで記録したデータに応用した結果,単一のチャネルのみを扱うモデルや動的変化を考慮しないモデルと比較して提案モデルは優れたパフォーマンスを示すことが明らかになった.加えて,チャネルによるマーケティング変数の効果の違いなども明らかになり,提案モデルの有用性が示された.
著者
古川 恭治
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.131-152, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
23

イベント発生ハザードを区分定数関数とすることで,ポアソン回帰によって生存時間分析を行うことができる.このアプローチは,Cox比例ハザード回帰などと比べて一般的ではないものの,ベースラインハザードの柔軟なパラメトリックモデリング,複数の時間依存共変量やランダム効果を含むモデルへの拡張を一般化線形/非線形モデルの枠組みで行うことができるという利点があり,大規模コホートの長期追跡データ解析ではポアソン回帰に頼らざるを得ない場合も少なくない.本稿はポアソン回帰による生存時間解析手法を定式化し,その特徴と性質について調べることを目的とする.特に,主要時間スケール因子の層別化の影響や時間依存共変量やランダム効果を含む場合の推定性能に焦点を当て,シミュレーションによってCox回帰など他手法との比較を行う.さらに,実データへの適用例を紹介し,ポアソン生存時間回帰が最も効果的とされる状況や今後の拡張について議論する.